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第二章
37、触手の昼餐
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顔を覆う仮面。身体から発生する触手。
男の出で立ちに閃くものがあり、アクアはひとつの疑問を口にした。
「あ……あなたはもしかして、ジェバイデッドの……?」
これまで遭遇したジェバイデッド人のセルジュもシリウスも、素顔を隠し、触手のようなものを操っていた。それだけでは彼らと同族であるとは断定できないが、いきなり森が発生した異常事態と合わせて考えてみれば、有り得ないことではないだろう。
そして次に放たれた呪術師の言葉は、疑念を肯定するには十分だった。
「ふーん? ジェバイデッドのこと知ってるんだ。お前、何者? ああ、答えなくていいや。エニグマチップに情報がある……メダリオン? 地球を守る正義の味方で……お前はその一員。ふーん」
やはり呪術師はジェバイデッド人のようで、なにか得心したのか独り言ちてアクアに告げる。
「要するに、僕の敵ってことだ」
森に流れる空気に、湿気が増したような気がした。木製の仮面越しでもありありと伝わってくる敵愾心に、鳥肌が立つ。
セルジュの放つ敵意を仮に純粋な怒りや苛立ちだとするならば、この男の敵意にはまったく正反対の気質が備わっていた。ねっとりと人の肌に絡みつくような、それでいて人の心をじわじわと浸食していくような、底知れない憎悪が多分に含まれている。
アクアの頭の中で警鐘が鳴り響いていた。この呪術師の神経を逆撫ででもしたら、とんでもないことが起きる。そんな気がしてならない。
それでも、確かめなければならないことがある。
「こ……この森は、あなたの仕業ですね? 女王さまの返事を聞くまでは、地球にも地球人にも危害を加えないという約束だったはずです。それなのに、どうしてこんなことを……」
アクアは慎重に言葉を選んで、呪術師を問い質した。
街に森を侵蝕させたのが、この呪術師の手によるものならば。それは明らかな害意の表れだ。これでは交わした取り決めに反する。
だが、呪術師は悪びれる素振りすら見せなかった。
「なにそれ、なんの話だよ。僕は、陛下からいますぐ地球を侵略するよう命令されて地球にきただけだ」
予想だにしていなかった呪術師の返答は、アクアの頭に鈍器で殴られたかのような衝撃をもたらした。
いま耳にしたことは聞き間違いだろうか。いや、聞き間違いであって欲しい。
アクアはそう願いながら、いやにかさつく唇を無理やり動かした。
「そ、んなの嘘、です」
「嘘じゃない。陛下は仰ったんだ、僕の好きなようにしていいって。好きなように暴れて、気に入らないものは壊して殺していいって」
だから街を森で覆って支配した。それのなにが悪い。呪術師の態度からは、そんな言葉まで聞こえてきそうである。
それでもアクアは、突きつけられた現実を受け入れられなかった。
「だって、ジェバイデッドの皇帝は争いを好まない、お優しい人だ、って……」
「たかだか地球の一民族が、陛下のなにを知ってるっていうんだ」
呪術師は、アクアが必死に絞り出した否定をいとも容易く一蹴してしまった。
「そっ……そう、だけど……」
アクアはついに言葉を失った。呪術師のいう陛下、すなわちジェバイデッド皇帝。シリウスは、平和主義者だと言っていたのに。平和的な地球移住を望んでおり、武力行使は最後の手段なのだと、書状にはそう認めてあったのに。
そう、アクアはジェバイデッド皇帝のことを、なにも知らない。ただ、シリウスの口振りと書状の文面から、温厚で柔和な人物像を勝手に作り上げていただけで。
だから、とは言わないが、大丈夫だと思っていた。
白の女王ファイブさえ説得すれば、ジェバイデッドの危急の事態を平和的に解決できると、本気で思っていた。地球への影響は最低限に抑え、ジェバイデッドの人々の住まう場所と血を確保できると。そう、本気で。
よく知りもしない彼らジェバイデッドの言い分を信じたのは、浅はかだったのだろうか。助けて欲しいと懇願されて手を差し出したことは、ただ徒に地球を危機に晒しただけの、愚かな行為だったのだろうか。
しばし自責の念に囚われていたアクアだったが、意気消沈してる場合ではないと自身を奮い立たせ、身を捩って呪術師を真っ直ぐに見据えた。
「……私には、あの書状の内容が偽りだったなんて信じられません! 私はあなたたちと争いたくない! お願いです、一度引いて、ファイブ陛下の返事を待ってください!」
アクアの悲痛な訴えを聞いて、呪術師はなにを思ったのか、黙して語らず。
森にシン……という、耳に痛い静寂が訪れる。重苦しい沈黙に耐えきれず、アクアが固唾を呑み込むと、その沈黙は突如として打ち破られた。
「お前、馬鹿だろ」
断頭台の刃のように鋭く重い言葉が放たれるのと同時に、呪術師の背中から無数の触手が飛び出した。四方八方、爆ぜるように伸びた触手たちは急激に方向を転換させ、一斉にアクアへと襲い掛かって四肢を絡め取る。
「ひあっ……」
触手たちに縛られたアクアは、四つん這いの姿勢で吊るし上げられてしまった。
「状況わかってる?」
呪術師の面が、宙に浮かぶアクアのすぐ近くにまで迫ってきていた。
触手で造られた玉座、とでも呼べばいいのだろうか。呪術師は、自分の身体から生える無数の触手たちを束ねて椅子の形にし、そこに座っていた。
アクアが月の始めに遭遇したのと同じ、食虫植物型や円錐型の触手もいる。昆虫類のような外皮を纏うものや、タコの足のような吸盤をつけたものもいる。男性の陰茎にも酷似した、傘が大きく開いたものも。それに真珠大のイボが無数についたものまで。
多種多様の触手をぎゅっと一塊にした、世にもおぞましい玉座。その地につく四本の脚が、ひじ掛けが、背もたれが、うごうごと蠢いては脈打っている。
アクアがそのあまりにも異形な佇まいに青褪めていると、呪術師は冷ややかに告げた。
「戦争なのに待ってくれなんて、甘っちょろいこと抜かしやがって。僕、お前みたいな綺麗事ばっかり言う奴、大嫌いだ」
「いっ……」
骨が砕けるのではないかという力で顎を掴まれて、アクアは鈍痛に呻く。
しかし呪術師はそんなこともお構いなしに、アクアの顔を自分の真正面に向けた。
「お前の顔、汚いことなんて知らないって顔だもんな、ムカつく。僕、お前のことは嫌いだけど……」
にたり。
呪術師は、仮面をつけたままなのに。その向こう側で、呪術師がベタっとした粘りつくような笑みを浮かべているのが見えた気がした。
「お前みたいな奴をぐちゃぐちゃにするのは、大好き」
地の底のマグマが煮え滾ったような真っ黒い声に、アクアは震え上がった。そうして痛感する。この呪術師は、セルジュなど比較にもならないほど、話の通じない人物なのだと。
「んんっっ」
突然、触手に胸部を掠められて、アクアは思わず高く鳴いてしまった。
ぞくぞくと肌を粟立たせるような甘い疼きが、ゆっくりと覚醒していく。
眼前には、玉座から伸びてきた数多の触手たちが、体液滴る先端を差し向け迫ってきていた。
「な……なにするの……?」
アクアは震え切った声で、呪術師に問うた。
聞くまでもないのかもしれない。そもそも、触手というものが出現した時点で警戒しておくべきだったのかもしれない。
なにせアクアは、戦いの度にエロチックな展開に見舞われるのが、常なのだから。
「お前の身も心も、粉々になるまでぶっ壊してあげる」
呪術師のその言葉が引き金となったのか、触手たちが一斉に活性化し、アクアの身体に食らいついた。
「いやっっ! あぁっ……んっ、んんんッッ」
人の指に似た触手が、滑らかな金糸の髪を掬い、くるくると巻きついて弄ぶ。ミミズめいた幾本もの細い触手が、耳の穴に侵入し、鼓膜を揺する。舌のような触手が、頬に、唇に、鎖骨に貼りついて舐め回す。
小ぶりな果実を食べるためだけにぽっかりと口を開けた触手が、敏感な乳首にちゅぽちゅぽと吸い付いてきて堪らない。
「あんっ、やあぁ……やめてっ……ふあぁ……っ」
アクアが喘いで身を激しく弾ませても、触手たちは止まらなかった。
男の陰茎を彷彿とさせる触手が、豊満な胸を揉みしだく。アクアがそちらにばかり気を取られていると、触手は柳腰にぴたりと絡んで、柔らかな臀部を撫でながら太もも、ふくらはぎ、足の甲へと絡みついていった。
触手たちによる、触手たちのための、触手たちの暴食。
若い乙女の肉体を貪られながらも、アクアは気力を振り絞ってルビーへ救援信号を送ろうと試みたが──。
「ル……ルビーさっ……んぷっ」
抵抗空しく、アクアの口は呆気なく塞がれてしまった。触手が、その身をアクアの咥内に突っ込んできて。
「妙な真似するなよ」
呪術師の楽しげな声が、やけに響いて聞こえる。
「久しぶりに手に入れた玩具なんだから、なにかの弾みでうっかり殺しちゃ勿体ないだろ? ゆっくり、じっくり、いたぶらせろよ。はははっ」
踊るように蠢く触手が、アクアの戦闘衣の裾を捲り、ショーツを引き裂く。隠されていた乙女の聖域が露になると、触手は陰裂を掻き分け中へと進んでいった。
「んんッッ! んんーッッ!」
肉襞をぐりぐりと抉られて、アクアの腰がぞわりと浮き上がる。アクアが羞恥と快感に身体を熱くしていると、呪術師の仮面から嗤いが漏れてきた。
「ふーん。お前ってこんな清純そうな顔してるのに、ヤることヤってるんだ」
呪術師の声に呼応するかのように、触手は蜜壺で泳ぐのをやめて退出し、アクアの目の前にまでやってきた。
迫ってきた触手を目の当たりにしたアクアは、先ほどにも増して、かあぁっ……と全身を熱くする。
ピンク色の触手の先が、白濁の液で濡れていた。それは触手の形と相成って、射精を終えた直後の陰茎にも見える。
アクアには、触手に付着したこの白濁色の液体に覚えがあった。
(み……美影くんの……!)
そう言われれば、ここに来るほんの少し前まで、清十郎と口に出すのも憚れるようなことをしていたことを、アクアは思い出した。子宮ではまだ、大量の残滓が揺蕩っているのだろう。そう考えるだけで、恥ずかしさで体温が天井知らずに上がっていった。
アクアがあまりの恥ずかしさに悶えている間にも、容赦のない攻め立てが続く。
陰茎めいた触手の次は、幾本もの細い触手が膣の中へと向かっていった。細い触手たちは代わる代わる奥まで入ってきては、せっせと清十郎の精液を掻き出していく。触手に膣の肉襞を、子宮の中を撫でられる度、アクアの手足は壊れたおもちゃのようにびくんびくんと跳ね回っていた。
「ふぅぅっ……んっ、んんっっ……! んあぁっ……! んぐっ、んっ、んん、んんっ……!」
「地球の常識と照らし合わせると……中出しされてるってことは恋人かなんかの精液なんだろうね、これ。あはははっ、可哀想にねぇ。ぜーんぶ掻きだされちゃってさ。それに……」
呪術師は満足げに声を弾ませると、細い触手を引っ込めた。
性感帯への刺激が減り、アクアが安堵したのも束の間、今度は花の蕾のようなものが先端についた触手が数本、伸びてくる。
蕾はクラゲのように薄く透けていて、いずれも膨らんでいる箇所に赤ワイン色の液体が溜まっていた。
そしてその先端には、不気味な光を放つ、鋭く尖った針がついている。
「お前、いまから地球人の男相手じゃ、満足できないような身体になっちゃうしね」
呪術師のその言葉が、合図だった。
つぷり、と。
触手の針が、アクアの戦闘衣を突き抜け、二つの乳首に突き刺さった。蕾は鞴のように潰れては膨らみ、膨らんでは潰れ、赤ワイン色の液体をアクアに注入してくる。
瞬間、アクアの身体ががくんっ、と大きく痙攣した。肉体と皮を残したまま、内臓と骨の位置が著しくズレてしまったような、強烈な衝撃だった。
そしてあろうことか、触手に針が乳首から抜ける、ほんの些細な刺激で──。
「────~~ッッ!!」
アクアは最高速度で絶頂にまで連れて行かれてしまった。
そしてすぐさま、頭蓋骨にヒビが入ったような、脳が蒸発したような錯覚に叩き落される。
(……あ、これ、まず、いっ……)
アクアの美しい虹彩が、瞼の裏に転がらん勢いで上向く。肩が、膝が、脚がびくびくびくびくして、止まらない。
口を塞いでいた触手が抜け落ちても、アクアはもう、ルビーの救援を呼ぶことすらできなかった。
意識に、視界に薄靄がかかり、それは次第に色濃くなっていく。
アクアの精神は、静かに崩壊し始めていた。
男の出で立ちに閃くものがあり、アクアはひとつの疑問を口にした。
「あ……あなたはもしかして、ジェバイデッドの……?」
これまで遭遇したジェバイデッド人のセルジュもシリウスも、素顔を隠し、触手のようなものを操っていた。それだけでは彼らと同族であるとは断定できないが、いきなり森が発生した異常事態と合わせて考えてみれば、有り得ないことではないだろう。
そして次に放たれた呪術師の言葉は、疑念を肯定するには十分だった。
「ふーん? ジェバイデッドのこと知ってるんだ。お前、何者? ああ、答えなくていいや。エニグマチップに情報がある……メダリオン? 地球を守る正義の味方で……お前はその一員。ふーん」
やはり呪術師はジェバイデッド人のようで、なにか得心したのか独り言ちてアクアに告げる。
「要するに、僕の敵ってことだ」
森に流れる空気に、湿気が増したような気がした。木製の仮面越しでもありありと伝わってくる敵愾心に、鳥肌が立つ。
セルジュの放つ敵意を仮に純粋な怒りや苛立ちだとするならば、この男の敵意にはまったく正反対の気質が備わっていた。ねっとりと人の肌に絡みつくような、それでいて人の心をじわじわと浸食していくような、底知れない憎悪が多分に含まれている。
アクアの頭の中で警鐘が鳴り響いていた。この呪術師の神経を逆撫ででもしたら、とんでもないことが起きる。そんな気がしてならない。
それでも、確かめなければならないことがある。
「こ……この森は、あなたの仕業ですね? 女王さまの返事を聞くまでは、地球にも地球人にも危害を加えないという約束だったはずです。それなのに、どうしてこんなことを……」
アクアは慎重に言葉を選んで、呪術師を問い質した。
街に森を侵蝕させたのが、この呪術師の手によるものならば。それは明らかな害意の表れだ。これでは交わした取り決めに反する。
だが、呪術師は悪びれる素振りすら見せなかった。
「なにそれ、なんの話だよ。僕は、陛下からいますぐ地球を侵略するよう命令されて地球にきただけだ」
予想だにしていなかった呪術師の返答は、アクアの頭に鈍器で殴られたかのような衝撃をもたらした。
いま耳にしたことは聞き間違いだろうか。いや、聞き間違いであって欲しい。
アクアはそう願いながら、いやにかさつく唇を無理やり動かした。
「そ、んなの嘘、です」
「嘘じゃない。陛下は仰ったんだ、僕の好きなようにしていいって。好きなように暴れて、気に入らないものは壊して殺していいって」
だから街を森で覆って支配した。それのなにが悪い。呪術師の態度からは、そんな言葉まで聞こえてきそうである。
それでもアクアは、突きつけられた現実を受け入れられなかった。
「だって、ジェバイデッドの皇帝は争いを好まない、お優しい人だ、って……」
「たかだか地球の一民族が、陛下のなにを知ってるっていうんだ」
呪術師は、アクアが必死に絞り出した否定をいとも容易く一蹴してしまった。
「そっ……そう、だけど……」
アクアはついに言葉を失った。呪術師のいう陛下、すなわちジェバイデッド皇帝。シリウスは、平和主義者だと言っていたのに。平和的な地球移住を望んでおり、武力行使は最後の手段なのだと、書状にはそう認めてあったのに。
そう、アクアはジェバイデッド皇帝のことを、なにも知らない。ただ、シリウスの口振りと書状の文面から、温厚で柔和な人物像を勝手に作り上げていただけで。
だから、とは言わないが、大丈夫だと思っていた。
白の女王ファイブさえ説得すれば、ジェバイデッドの危急の事態を平和的に解決できると、本気で思っていた。地球への影響は最低限に抑え、ジェバイデッドの人々の住まう場所と血を確保できると。そう、本気で。
よく知りもしない彼らジェバイデッドの言い分を信じたのは、浅はかだったのだろうか。助けて欲しいと懇願されて手を差し出したことは、ただ徒に地球を危機に晒しただけの、愚かな行為だったのだろうか。
しばし自責の念に囚われていたアクアだったが、意気消沈してる場合ではないと自身を奮い立たせ、身を捩って呪術師を真っ直ぐに見据えた。
「……私には、あの書状の内容が偽りだったなんて信じられません! 私はあなたたちと争いたくない! お願いです、一度引いて、ファイブ陛下の返事を待ってください!」
アクアの悲痛な訴えを聞いて、呪術師はなにを思ったのか、黙して語らず。
森にシン……という、耳に痛い静寂が訪れる。重苦しい沈黙に耐えきれず、アクアが固唾を呑み込むと、その沈黙は突如として打ち破られた。
「お前、馬鹿だろ」
断頭台の刃のように鋭く重い言葉が放たれるのと同時に、呪術師の背中から無数の触手が飛び出した。四方八方、爆ぜるように伸びた触手たちは急激に方向を転換させ、一斉にアクアへと襲い掛かって四肢を絡め取る。
「ひあっ……」
触手たちに縛られたアクアは、四つん這いの姿勢で吊るし上げられてしまった。
「状況わかってる?」
呪術師の面が、宙に浮かぶアクアのすぐ近くにまで迫ってきていた。
触手で造られた玉座、とでも呼べばいいのだろうか。呪術師は、自分の身体から生える無数の触手たちを束ねて椅子の形にし、そこに座っていた。
アクアが月の始めに遭遇したのと同じ、食虫植物型や円錐型の触手もいる。昆虫類のような外皮を纏うものや、タコの足のような吸盤をつけたものもいる。男性の陰茎にも酷似した、傘が大きく開いたものも。それに真珠大のイボが無数についたものまで。
多種多様の触手をぎゅっと一塊にした、世にもおぞましい玉座。その地につく四本の脚が、ひじ掛けが、背もたれが、うごうごと蠢いては脈打っている。
アクアがそのあまりにも異形な佇まいに青褪めていると、呪術師は冷ややかに告げた。
「戦争なのに待ってくれなんて、甘っちょろいこと抜かしやがって。僕、お前みたいな綺麗事ばっかり言う奴、大嫌いだ」
「いっ……」
骨が砕けるのではないかという力で顎を掴まれて、アクアは鈍痛に呻く。
しかし呪術師はそんなこともお構いなしに、アクアの顔を自分の真正面に向けた。
「お前の顔、汚いことなんて知らないって顔だもんな、ムカつく。僕、お前のことは嫌いだけど……」
にたり。
呪術師は、仮面をつけたままなのに。その向こう側で、呪術師がベタっとした粘りつくような笑みを浮かべているのが見えた気がした。
「お前みたいな奴をぐちゃぐちゃにするのは、大好き」
地の底のマグマが煮え滾ったような真っ黒い声に、アクアは震え上がった。そうして痛感する。この呪術師は、セルジュなど比較にもならないほど、話の通じない人物なのだと。
「んんっっ」
突然、触手に胸部を掠められて、アクアは思わず高く鳴いてしまった。
ぞくぞくと肌を粟立たせるような甘い疼きが、ゆっくりと覚醒していく。
眼前には、玉座から伸びてきた数多の触手たちが、体液滴る先端を差し向け迫ってきていた。
「な……なにするの……?」
アクアは震え切った声で、呪術師に問うた。
聞くまでもないのかもしれない。そもそも、触手というものが出現した時点で警戒しておくべきだったのかもしれない。
なにせアクアは、戦いの度にエロチックな展開に見舞われるのが、常なのだから。
「お前の身も心も、粉々になるまでぶっ壊してあげる」
呪術師のその言葉が引き金となったのか、触手たちが一斉に活性化し、アクアの身体に食らいついた。
「いやっっ! あぁっ……んっ、んんんッッ」
人の指に似た触手が、滑らかな金糸の髪を掬い、くるくると巻きついて弄ぶ。ミミズめいた幾本もの細い触手が、耳の穴に侵入し、鼓膜を揺する。舌のような触手が、頬に、唇に、鎖骨に貼りついて舐め回す。
小ぶりな果実を食べるためだけにぽっかりと口を開けた触手が、敏感な乳首にちゅぽちゅぽと吸い付いてきて堪らない。
「あんっ、やあぁ……やめてっ……ふあぁ……っ」
アクアが喘いで身を激しく弾ませても、触手たちは止まらなかった。
男の陰茎を彷彿とさせる触手が、豊満な胸を揉みしだく。アクアがそちらにばかり気を取られていると、触手は柳腰にぴたりと絡んで、柔らかな臀部を撫でながら太もも、ふくらはぎ、足の甲へと絡みついていった。
触手たちによる、触手たちのための、触手たちの暴食。
若い乙女の肉体を貪られながらも、アクアは気力を振り絞ってルビーへ救援信号を送ろうと試みたが──。
「ル……ルビーさっ……んぷっ」
抵抗空しく、アクアの口は呆気なく塞がれてしまった。触手が、その身をアクアの咥内に突っ込んできて。
「妙な真似するなよ」
呪術師の楽しげな声が、やけに響いて聞こえる。
「久しぶりに手に入れた玩具なんだから、なにかの弾みでうっかり殺しちゃ勿体ないだろ? ゆっくり、じっくり、いたぶらせろよ。はははっ」
踊るように蠢く触手が、アクアの戦闘衣の裾を捲り、ショーツを引き裂く。隠されていた乙女の聖域が露になると、触手は陰裂を掻き分け中へと進んでいった。
「んんッッ! んんーッッ!」
肉襞をぐりぐりと抉られて、アクアの腰がぞわりと浮き上がる。アクアが羞恥と快感に身体を熱くしていると、呪術師の仮面から嗤いが漏れてきた。
「ふーん。お前ってこんな清純そうな顔してるのに、ヤることヤってるんだ」
呪術師の声に呼応するかのように、触手は蜜壺で泳ぐのをやめて退出し、アクアの目の前にまでやってきた。
迫ってきた触手を目の当たりにしたアクアは、先ほどにも増して、かあぁっ……と全身を熱くする。
ピンク色の触手の先が、白濁の液で濡れていた。それは触手の形と相成って、射精を終えた直後の陰茎にも見える。
アクアには、触手に付着したこの白濁色の液体に覚えがあった。
(み……美影くんの……!)
そう言われれば、ここに来るほんの少し前まで、清十郎と口に出すのも憚れるようなことをしていたことを、アクアは思い出した。子宮ではまだ、大量の残滓が揺蕩っているのだろう。そう考えるだけで、恥ずかしさで体温が天井知らずに上がっていった。
アクアがあまりの恥ずかしさに悶えている間にも、容赦のない攻め立てが続く。
陰茎めいた触手の次は、幾本もの細い触手が膣の中へと向かっていった。細い触手たちは代わる代わる奥まで入ってきては、せっせと清十郎の精液を掻き出していく。触手に膣の肉襞を、子宮の中を撫でられる度、アクアの手足は壊れたおもちゃのようにびくんびくんと跳ね回っていた。
「ふぅぅっ……んっ、んんっっ……! んあぁっ……! んぐっ、んっ、んん、んんっ……!」
「地球の常識と照らし合わせると……中出しされてるってことは恋人かなんかの精液なんだろうね、これ。あはははっ、可哀想にねぇ。ぜーんぶ掻きだされちゃってさ。それに……」
呪術師は満足げに声を弾ませると、細い触手を引っ込めた。
性感帯への刺激が減り、アクアが安堵したのも束の間、今度は花の蕾のようなものが先端についた触手が数本、伸びてくる。
蕾はクラゲのように薄く透けていて、いずれも膨らんでいる箇所に赤ワイン色の液体が溜まっていた。
そしてその先端には、不気味な光を放つ、鋭く尖った針がついている。
「お前、いまから地球人の男相手じゃ、満足できないような身体になっちゃうしね」
呪術師のその言葉が、合図だった。
つぷり、と。
触手の針が、アクアの戦闘衣を突き抜け、二つの乳首に突き刺さった。蕾は鞴のように潰れては膨らみ、膨らんでは潰れ、赤ワイン色の液体をアクアに注入してくる。
瞬間、アクアの身体ががくんっ、と大きく痙攣した。肉体と皮を残したまま、内臓と骨の位置が著しくズレてしまったような、強烈な衝撃だった。
そしてあろうことか、触手に針が乳首から抜ける、ほんの些細な刺激で──。
「────~~ッッ!!」
アクアは最高速度で絶頂にまで連れて行かれてしまった。
そしてすぐさま、頭蓋骨にヒビが入ったような、脳が蒸発したような錯覚に叩き落される。
(……あ、これ、まず、いっ……)
アクアの美しい虹彩が、瞼の裏に転がらん勢いで上向く。肩が、膝が、脚がびくびくびくびくして、止まらない。
口を塞いでいた触手が抜け落ちても、アクアはもう、ルビーの救援を呼ぶことすらできなかった。
意識に、視界に薄靄がかかり、それは次第に色濃くなっていく。
アクアの精神は、静かに崩壊し始めていた。
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