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第二章
28、地獄の業火は海底で静かに燃ゆる
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白の女王ファイブの住まう場所は、神殿とは名ばかりで、その実態は世界観がごった煮となった宮殿に近いと、可琳は常々思っていた。
謁見をする際に用いる厳かな祭祀場に、近未来的なデザインと設備の整った診療室。
そして、いま可琳がもたれかかっている扉の向こう側には、大理石で造られた豪奢な湯殿があり、現在ミラが入浴中だった。
結果として、ミラは身籠っていなかった。
遅れて神殿にやってきた可琳はその結果を聞いて、そりゃそうだよなぁと、さして気に留めることもなかった。いまは購入してきたりんご飴に舌鼓を打って、ミラが入浴を終えるのを呑気に待っている。
「あの、可琳さん」
扉一枚隔てたところからミラに声をかけられて、可琳はくるりと翻った。
「おーミラちゃん、さっぱりしたー?」
「はい。あの、それでですね、その、下着なんですけど……」
ミラにはすでに、着替えとして新しいブラウスとインナー一式を渡してある。可琳はミラの身長から体重、スリーサイズまですべて把握している。購入してきた衣類に不備などないはずだが、ミラの声はどことなく不安げだった。
「買ってきていただいておいて、こう言うのはとても心苦しいんですけど……その、この下着、ちょっと派手なんじゃ……」
どうやらミラは、可琳に渡された下着のデザインがお気に召さなかったらしい。
「そんなことないってー! ミラちゃん、女の子のオシャレは下着からだよー? 私が選んできたやつ、絶対ミラちゃんに似合うから! 騙されたと思って着てみんしゃーい」
可琳が知る限り、ミラが普段使いしているインナー類が地味だということはない。しかし、である。ミラは魅惑的な体つきをしているのだから、それを彩る衣類も洗練されたデザインで然るべきだろうと、可琳は今回の出来事を好機とばかりに、大人っぽいデザインのインナーを数点購入してきた。
「うーん……可琳さんがそう仰るなら……」
まだ納得しきっていないようだが、ミラは可琳が選り抜いてきたインナーに肌を通すことを承諾した。扉越しに、布擦れの官能的な音が聞こえてくる。
だが可琳は、ここで扉を開けるような無粋な真似はしない。
(いますぐミラちゃんの下着姿を見るのもいいけど~、お楽しみは取っとかないとね。忍者さんがミラちゃんの服を脱がせるそのときまでっ、うへへへへへへっ)
セルジュがミラの服を脱がすとき。それすなわち、ふたりが深く繋がりあう瞬間だ。その甘美に過ぎる時を夢見て、可琳はりんご飴に涎を垂らす。
しかし無情にも、可琳を陶酔から引き戻す声が、真正面の長い廊下から歩いてやってきた。
「可琳殿、ミラ殿はまだご入浴中ですか?」
白い神父服を静かに揺らすティモテオが、可琳の前で止まった。
「いま着替え中だよー。ミラちゃんのハダカを覗きに来るにはちょーっと遅かったね、ティオさん」
「……私は、そのような低俗な行いをしに来たわけではありません」
気難しいティモテオの顔が、いっそう固くなる。
「ファイブ陛下より、ふたりをお呼びするようにと仰せつかりました。ミラ殿の着替えが終わり次第、祭祀場へ。陛下がお待ちです」
「えー? 今日は女王さまに用事なんてないよー!」
可琳は露骨に拒絶の意を示した。立場上、白の女王ファイブは可琳たちの上司に当たるが、あの高圧的な態度だ。好き好んで顔を合わせたいと願う人物の方が稀だろう。
しかしティモテオは、首を横に振って可琳をいなす。
「ジェバイデッド人の殲滅状況について報告せよ、とのことです」
「そんなのどうにもなってないよぉ。ティオさんから女王さまにそう伝えておいてよー」
殲滅の命令を受けてから日も経っていない上に、そもそも可琳にはジェバイデッド人を──セルジュを亡き者にするつもりがない。だいたい、あの美丈夫セルジュを葬ってしまったら、いったい誰にミラの相手をさせればいいというのか。
そう憤慨しながら、可琳は飴を噛み砕く。
「……陛下が、この神殿から出られない御身なのは、ご存じですね?」
ティモテオが神妙な顔つきで呟くので、可琳もりんご飴を齧るのだけはやめた。
「初めてメダリオンになったとき、そんなこと聞いた気がするね」
理由はとんと忘れたが、ファイブが神殿から出られないというのは知っている。
「あなた方メダリオンは、その陛下の手であり、足であり、目です。外界で起きた出来事を、陛下に正しく伝える責務があります」
ティモテオの口調は、厳しい。
「祭祀場へ。良いですね」
良いか、などと問いながら、ティモテオの言葉には有無を許さぬ迫力があった。それに怖じるような可琳ではないが、ここで抵抗したところで話が平行線を辿るのは目に見えている。ここは大人しく従うしかないだろう。
「……了解デース」
かくして可琳は、着替えを済ませたミラと共に祭祀場へと向かったのだった。
※
真っ白い祭祀場の中は、沈黙に包まれている。可琳とミラが、与えられた使命に対する進捗を、白の女王ファイブに報告し終えてから、ずっと。
それはほんの数十秒だったかもしれないし、数時間にも及ぶ長さにも感じられた。
やがて、両肩を押しつぶすような重い静けさの中に、ファイブの溜め息が響いた。
「ルビー、アクア。なぜジェバイデッド人の駆除に乗り出さないのですか」
相も変わらぬ涼やかな顔、涼やかな声で、ファイブは物騒なことを平気で言い放つ。当初の命令は、“ジェバイデッド人は見つけ次第、排除せよ”だったはずなのに。
とはいえ、可琳もその命令に反しているため、あまり強く反発できない。
「ジェバイデッドは、女王さまの返事を聞くまでは悪さしないって言ってるんですよー? 出てない首は刈れないですよー」
「薄汚いジェバイデッドの者どもが、地球を侵略するために闇で蠢いていないと断言できるとでも? 地球に危害を加えられてからでは、なにもかもが遅いのです。あなた方には、草の根を掻き分けてでもジェバイデッド人を捜し出し、駆除する責務があります。なぜそれしきのことも理解できないのですか」
確かに、ファイブの小言はもっともだ。実際、すでにセルジュが誓約を破って学校に潜伏し、ミラを襲っているのだし。ミラ本人は、襲われたことにすら気づいていないが。
「女王さま、お言葉ですが……やはり、一度ジェバイデッドの方たちと話し合いをしていただけないでしょうか」
すっかり衣服を整えたミラが、毅然とした態度で真っ向からファイブに進言した。ファイブが冷たい顔の裏側に抱き続ける、ジェバイデッドに対する潔癖なまでの敵愾心を知っているはずなのに。ミラのこの言動は、勇気があると称賛すればよいのやら、無謀だと蔑めばよいのやら、微妙なところである。
ところが意外なことに、今日はファイブからお得意のビームが飛んでこない。大理石のように美しく隙のない顔に、ほんの少しだけ憂いの色を滲ませているが、ファイブは冷静そのものだった。
「アクア並びにルビー。あなた方には、白の聖王国ル・イエーがいかにして誕生したか、お教えしたはずですね」
「……ル・イエーが、地球の意志で生まれた、というお話ですか?」
ミラが答えると、ファイブは重々しく頷いた。
「約四億年前。地球を滅ぼさんとする様々な生命が生まれ、また地球外部より侵入してきました。ですが、地球は己を守る術を持ちません。ゆえに、地球は自身を守らせる種族を造り出しました。それが我ら、ル・イエーの民です」
これも、メダリオンとなった当初に聞かされた話だ。それ以後も、ことあるごとにファイブはこの話題を持ち出してくるため、可琳はもう耳を傾けるのを放棄した。
「地球は我らル・イエーを生み出した偉大なる母にして、また庇護すべき幼子。互いが互いに、血よりも濃い絆で繋がれた尊い存在なればこそ、これを守らずしてル・イエーの存在意義はありません」
ファイブは錫杖をゆっくりと傾けて、その先端を可琳をミラに差し向けた。
「そして、我らル・イエーの力を分け与えたあなたたちメダリオンもまた、地球の守護者なのです。あなたたちには、命を賭して地球を守る使命がある。なぜそれがわからないのですか」
「騙し討ちみたいな形で私たちをメダリオンにしておいて、よっく言うー」
しまった、と可琳が口を慌てて塞いだときには、時すでに遅し。
ファイブの白いこめかみに、青筋が走っていく。
「……地球に生まれ落ち、地球に生きる生命体でありながら、なんという不遜。地球の守護者たるメダリオンに選ばれるということ……これはどんな栄誉にも勝ることです。それをまだ理解していないとは、なんと嘆かわしい……!」
わなわなと震えるファイブの手にある錫杖が、激しい光を発し始めた。
「これは厳命です! 必ずやジェバイデッドを見つけ出し、絶対的な死を与えるのです!! 行きなさい、メダリオン!!」
怒号と共に錫杖の先端から閃光が放たれ、可琳とミラは転げ落ちるように祭祀場から退出していった。
廊下の突き当たりまで逃げてきたところで、ようやくビームの眩い光が引いていったので、ふたりは立ち止まって息を整える。
「いっけねー、めぇっちゃ怒らしちゃったー」
そう言うものの、可琳が反省しているのは、つい口が滑ってしまったことだけだった。普段は面倒になるのを避けるため、ファイブの神経を逆なでしないよう注意しているのに、うかつだった、と。
そんな可琳の隣で、ミラは肩を落としていた。
「女王さま、話し合いにすら応じてくれないなんて……」
「まーまー、わかりきってたことじゃん? ジェバイデッドのこと、どうしたらいいか根本的に考え直さないとダメかもねぇ。ま、しょげててもしょーがないよー。ミラちゃん、元気出して? りんご飴、食べる?」
可琳は腹ごしらえのためにと、ミラのインナーと一緒に購入してきた真っ赤な飴を差し出す。するとミラが、なにかを思い出したかのようにあっ、と声を漏らして鞄から財布を取りだした。
「ブラウスと下着の代金、いまお渡ししますね」
こんなときにまで律儀なミラに、可琳は思わず噴き出した。
「んなもん、服をダメにした清十郎くんに請求するから気にしなくていいよー」
「み、美影くんに……?」
ミラの頬が、ぽっと赤く灯った。あんなに激しく抱き合ったあとだ、その相手を思い出して恥ずかしがるのも、無理はない。
そんなミラの反応を見て、可琳は顔がにやけそうになるのを、必死に堪える。
(うんうん。ミラちゃんは別に、忍者さんのことが嫌いなわけじゃないんだもんねぇ。うへへぇ……これからいーっぱい、忍者さんとえっちしてもらおーっと! 最っっっっ高にどエロいシチュエーションを作ってやるんだから)
可琳の闘志は、地獄の業火のように燃え上がった。
謁見をする際に用いる厳かな祭祀場に、近未来的なデザインと設備の整った診療室。
そして、いま可琳がもたれかかっている扉の向こう側には、大理石で造られた豪奢な湯殿があり、現在ミラが入浴中だった。
結果として、ミラは身籠っていなかった。
遅れて神殿にやってきた可琳はその結果を聞いて、そりゃそうだよなぁと、さして気に留めることもなかった。いまは購入してきたりんご飴に舌鼓を打って、ミラが入浴を終えるのを呑気に待っている。
「あの、可琳さん」
扉一枚隔てたところからミラに声をかけられて、可琳はくるりと翻った。
「おーミラちゃん、さっぱりしたー?」
「はい。あの、それでですね、その、下着なんですけど……」
ミラにはすでに、着替えとして新しいブラウスとインナー一式を渡してある。可琳はミラの身長から体重、スリーサイズまですべて把握している。購入してきた衣類に不備などないはずだが、ミラの声はどことなく不安げだった。
「買ってきていただいておいて、こう言うのはとても心苦しいんですけど……その、この下着、ちょっと派手なんじゃ……」
どうやらミラは、可琳に渡された下着のデザインがお気に召さなかったらしい。
「そんなことないってー! ミラちゃん、女の子のオシャレは下着からだよー? 私が選んできたやつ、絶対ミラちゃんに似合うから! 騙されたと思って着てみんしゃーい」
可琳が知る限り、ミラが普段使いしているインナー類が地味だということはない。しかし、である。ミラは魅惑的な体つきをしているのだから、それを彩る衣類も洗練されたデザインで然るべきだろうと、可琳は今回の出来事を好機とばかりに、大人っぽいデザインのインナーを数点購入してきた。
「うーん……可琳さんがそう仰るなら……」
まだ納得しきっていないようだが、ミラは可琳が選り抜いてきたインナーに肌を通すことを承諾した。扉越しに、布擦れの官能的な音が聞こえてくる。
だが可琳は、ここで扉を開けるような無粋な真似はしない。
(いますぐミラちゃんの下着姿を見るのもいいけど~、お楽しみは取っとかないとね。忍者さんがミラちゃんの服を脱がせるそのときまでっ、うへへへへへへっ)
セルジュがミラの服を脱がすとき。それすなわち、ふたりが深く繋がりあう瞬間だ。その甘美に過ぎる時を夢見て、可琳はりんご飴に涎を垂らす。
しかし無情にも、可琳を陶酔から引き戻す声が、真正面の長い廊下から歩いてやってきた。
「可琳殿、ミラ殿はまだご入浴中ですか?」
白い神父服を静かに揺らすティモテオが、可琳の前で止まった。
「いま着替え中だよー。ミラちゃんのハダカを覗きに来るにはちょーっと遅かったね、ティオさん」
「……私は、そのような低俗な行いをしに来たわけではありません」
気難しいティモテオの顔が、いっそう固くなる。
「ファイブ陛下より、ふたりをお呼びするようにと仰せつかりました。ミラ殿の着替えが終わり次第、祭祀場へ。陛下がお待ちです」
「えー? 今日は女王さまに用事なんてないよー!」
可琳は露骨に拒絶の意を示した。立場上、白の女王ファイブは可琳たちの上司に当たるが、あの高圧的な態度だ。好き好んで顔を合わせたいと願う人物の方が稀だろう。
しかしティモテオは、首を横に振って可琳をいなす。
「ジェバイデッド人の殲滅状況について報告せよ、とのことです」
「そんなのどうにもなってないよぉ。ティオさんから女王さまにそう伝えておいてよー」
殲滅の命令を受けてから日も経っていない上に、そもそも可琳にはジェバイデッド人を──セルジュを亡き者にするつもりがない。だいたい、あの美丈夫セルジュを葬ってしまったら、いったい誰にミラの相手をさせればいいというのか。
そう憤慨しながら、可琳は飴を噛み砕く。
「……陛下が、この神殿から出られない御身なのは、ご存じですね?」
ティモテオが神妙な顔つきで呟くので、可琳もりんご飴を齧るのだけはやめた。
「初めてメダリオンになったとき、そんなこと聞いた気がするね」
理由はとんと忘れたが、ファイブが神殿から出られないというのは知っている。
「あなた方メダリオンは、その陛下の手であり、足であり、目です。外界で起きた出来事を、陛下に正しく伝える責務があります」
ティモテオの口調は、厳しい。
「祭祀場へ。良いですね」
良いか、などと問いながら、ティモテオの言葉には有無を許さぬ迫力があった。それに怖じるような可琳ではないが、ここで抵抗したところで話が平行線を辿るのは目に見えている。ここは大人しく従うしかないだろう。
「……了解デース」
かくして可琳は、着替えを済ませたミラと共に祭祀場へと向かったのだった。
※
真っ白い祭祀場の中は、沈黙に包まれている。可琳とミラが、与えられた使命に対する進捗を、白の女王ファイブに報告し終えてから、ずっと。
それはほんの数十秒だったかもしれないし、数時間にも及ぶ長さにも感じられた。
やがて、両肩を押しつぶすような重い静けさの中に、ファイブの溜め息が響いた。
「ルビー、アクア。なぜジェバイデッド人の駆除に乗り出さないのですか」
相も変わらぬ涼やかな顔、涼やかな声で、ファイブは物騒なことを平気で言い放つ。当初の命令は、“ジェバイデッド人は見つけ次第、排除せよ”だったはずなのに。
とはいえ、可琳もその命令に反しているため、あまり強く反発できない。
「ジェバイデッドは、女王さまの返事を聞くまでは悪さしないって言ってるんですよー? 出てない首は刈れないですよー」
「薄汚いジェバイデッドの者どもが、地球を侵略するために闇で蠢いていないと断言できるとでも? 地球に危害を加えられてからでは、なにもかもが遅いのです。あなた方には、草の根を掻き分けてでもジェバイデッド人を捜し出し、駆除する責務があります。なぜそれしきのことも理解できないのですか」
確かに、ファイブの小言はもっともだ。実際、すでにセルジュが誓約を破って学校に潜伏し、ミラを襲っているのだし。ミラ本人は、襲われたことにすら気づいていないが。
「女王さま、お言葉ですが……やはり、一度ジェバイデッドの方たちと話し合いをしていただけないでしょうか」
すっかり衣服を整えたミラが、毅然とした態度で真っ向からファイブに進言した。ファイブが冷たい顔の裏側に抱き続ける、ジェバイデッドに対する潔癖なまでの敵愾心を知っているはずなのに。ミラのこの言動は、勇気があると称賛すればよいのやら、無謀だと蔑めばよいのやら、微妙なところである。
ところが意外なことに、今日はファイブからお得意のビームが飛んでこない。大理石のように美しく隙のない顔に、ほんの少しだけ憂いの色を滲ませているが、ファイブは冷静そのものだった。
「アクア並びにルビー。あなた方には、白の聖王国ル・イエーがいかにして誕生したか、お教えしたはずですね」
「……ル・イエーが、地球の意志で生まれた、というお話ですか?」
ミラが答えると、ファイブは重々しく頷いた。
「約四億年前。地球を滅ぼさんとする様々な生命が生まれ、また地球外部より侵入してきました。ですが、地球は己を守る術を持ちません。ゆえに、地球は自身を守らせる種族を造り出しました。それが我ら、ル・イエーの民です」
これも、メダリオンとなった当初に聞かされた話だ。それ以後も、ことあるごとにファイブはこの話題を持ち出してくるため、可琳はもう耳を傾けるのを放棄した。
「地球は我らル・イエーを生み出した偉大なる母にして、また庇護すべき幼子。互いが互いに、血よりも濃い絆で繋がれた尊い存在なればこそ、これを守らずしてル・イエーの存在意義はありません」
ファイブは錫杖をゆっくりと傾けて、その先端を可琳をミラに差し向けた。
「そして、我らル・イエーの力を分け与えたあなたたちメダリオンもまた、地球の守護者なのです。あなたたちには、命を賭して地球を守る使命がある。なぜそれがわからないのですか」
「騙し討ちみたいな形で私たちをメダリオンにしておいて、よっく言うー」
しまった、と可琳が口を慌てて塞いだときには、時すでに遅し。
ファイブの白いこめかみに、青筋が走っていく。
「……地球に生まれ落ち、地球に生きる生命体でありながら、なんという不遜。地球の守護者たるメダリオンに選ばれるということ……これはどんな栄誉にも勝ることです。それをまだ理解していないとは、なんと嘆かわしい……!」
わなわなと震えるファイブの手にある錫杖が、激しい光を発し始めた。
「これは厳命です! 必ずやジェバイデッドを見つけ出し、絶対的な死を与えるのです!! 行きなさい、メダリオン!!」
怒号と共に錫杖の先端から閃光が放たれ、可琳とミラは転げ落ちるように祭祀場から退出していった。
廊下の突き当たりまで逃げてきたところで、ようやくビームの眩い光が引いていったので、ふたりは立ち止まって息を整える。
「いっけねー、めぇっちゃ怒らしちゃったー」
そう言うものの、可琳が反省しているのは、つい口が滑ってしまったことだけだった。普段は面倒になるのを避けるため、ファイブの神経を逆なでしないよう注意しているのに、うかつだった、と。
そんな可琳の隣で、ミラは肩を落としていた。
「女王さま、話し合いにすら応じてくれないなんて……」
「まーまー、わかりきってたことじゃん? ジェバイデッドのこと、どうしたらいいか根本的に考え直さないとダメかもねぇ。ま、しょげててもしょーがないよー。ミラちゃん、元気出して? りんご飴、食べる?」
可琳は腹ごしらえのためにと、ミラのインナーと一緒に購入してきた真っ赤な飴を差し出す。するとミラが、なにかを思い出したかのようにあっ、と声を漏らして鞄から財布を取りだした。
「ブラウスと下着の代金、いまお渡ししますね」
こんなときにまで律儀なミラに、可琳は思わず噴き出した。
「んなもん、服をダメにした清十郎くんに請求するから気にしなくていいよー」
「み、美影くんに……?」
ミラの頬が、ぽっと赤く灯った。あんなに激しく抱き合ったあとだ、その相手を思い出して恥ずかしがるのも、無理はない。
そんなミラの反応を見て、可琳は顔がにやけそうになるのを、必死に堪える。
(うんうん。ミラちゃんは別に、忍者さんのことが嫌いなわけじゃないんだもんねぇ。うへへぇ……これからいーっぱい、忍者さんとえっちしてもらおーっと! 最っっっっ高にどエロいシチュエーションを作ってやるんだから)
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