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第一章
08、ブチギレたぜっっ!!
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いま対峙しているこの男は、これまで地球に害を成そうとしてきた敵たちとは大きく一線を画している。それはルビーも本能的に察した。そうでなければ、怒り心頭に発しておきながら後退などするわけがない。
「……なぜ、お前らのような脆弱な地球人が繁殖しているのか、甚だ理解に苦しむ」
セルジュは忌々しげに吐き捨てる。
「弱き者が淘汰され、強き者が生存し後世に遺伝子を残す。これが自然の摂理だろう。だのに、安寧しか知らぬお前ら地球人がのうのうと生きながらえ、宇宙間の戦争に勝利してきた我々ジェバイデッド人が絶滅の危機に晒されている。実に不愉快だ」
「……あー、なんだっけ。忍者さんトコの星で、女の人が一人残らず死んじゃったんだっけ?」
少し冷静になったルビーが他人事のように──まさしく他人事なのだが──ぽつりと呟く。情事の最中にセルジュがそんなことを言っていたような気がするが、乱れるアクアに夢中で話などほとんど聞き流していた。
「お前ら地球人は繁殖するに値しない。地球に黒の帝国ジェバイデッドを再興する。我々の子を産む女を残し、あとは皆殺しだ。お前も例外ではない、ルビーメダリオン」
堂々たる地球侵略宣言。なんともわかりやすく敵対関係が成立した瞬間だった。
「それで手始めに女の人たちを誘拐してたってことかァ。でも、その女の人たちは私が解放しちゃったんだぜ? カッコつけた割にはツメが甘ぇんじゃねーですかねぇ? どんだけアクアちゃんに夢中だったんですかって話ですよ。まあね、アクアちゃん超可愛いもんね、気持ちはわかるよぉ? ぐへへへへ」
ルビーは鬱憤を晴らすようにセルジュを煽った。渾身のパンチを避けられたのは予想外だったが、セルジュは決して強敵という部類ではない、その気になればいつでも倒せる、そう高をくくって。
しかしそれは、虎の尾を踏む行為に他ならなかった。
「──お前を完膚なきまでに叩き潰したくなった」
抑揚のないセルジュの声で、遊戯場フロアの温度が下がったような錯覚が起きた。あからさまな殺気を隠しもせず、セルジュは足元の影を伸ばして、例の黒い手にアクアを託す。
そうしておいて、ルビーから視線を外すことなく腰を軽く落とし、上体を右に捻った。左腕の肘から上を前方で立てて、顔をガードするように構えている。最後に、右の手のひらを親指を除く四本の指を揃え、腰にぐっと引きつけた。
「自分の女が連れ去られるのを、地に這いつくばって眺めているといい」
セルジュが半歩踏み出してきた、と視認した瞬間、その姿が視界から消失してしまい、ルビーは「えっ」と間の抜けた声を漏らす。
目を何度も瞬き、やっと姿が見えたと思ったときには、すでに鼻と目の先にセルジュが迫ってきていた。
「うわぉぉッッ!?」
某映画の銃弾避けよろしく、ルビーは背を反らせてブリッジの姿勢となる。その上を何かが通り過ぎ、背後にあった柱にぶつかった。
セルジュの指だ。揃えられた四本の指が、分厚いコンクリートの壁に突き刺さっていた。そこからヒビが波紋状に広がり、壁の一部がぽろぽろと崩れ落ちてきて顔にかかる。ハンマーにも匹敵しそうなほどの破壊力を帯びた、ルビーの急所を狙った凄まじい貫手だった。
追撃の肘鉄が腹に落ちてくるのが見えて、ルビーはフロアの床を転がって難を逃れる。間合いを十分に取ったところで素早く起き上がり、セルジュをキッと睨みつけた。
「ペッペッペッ! あっぶねーなァ!! 殺す気かテメー!」
黒頭巾の奥から、鼻で笑う声がした。
「さっきからそう言っているだろう。お前は愛した女を奪われたばかりか、戦闘においても俺に敗れる。雄としての徹底的な敗北を味わいながら息絶えろ」
──ぷちんっっ。
ルビーの中で、何かがキレた。
「ブチギレたぜっっ!! さっきから大人しく聞いてりゃ、アクアちゃんを手に入れたつもりでペチャクチャペチャクチャ喋りやがって。ちょっと顔が良くてちんこがでかいからって、調子乗ってんじゃねぇぞォ……たったそれっぽっちのスペックでアクアちゃんを自分のものにできると思ったら大間違いだッ! 身の程を弁えろ、精子からやり直してきなァ!!」
もはや本当に正義の味方なのか疑わしくなる、酷い悪態のつき方だった。ルビーは、未だ自分が男と勘違いされていることや正義の味方として馬鹿にされていることよりも、アクアがセルジュの所有物のように扱われていることが許せなかったのである。
激昂に身を焦がしながら、ルビーは自分に付かず離れずの距離を保っていた赤い鳥──パートナーの妖精フェーをがっしりと掴んだ。
「マジで覚悟しろよ、手加減しねェかんなッ! フェーちゃん、武器化だ!」
メダリオンの特殊能力のひとつに、武器化というものがある。読んで字のごとく、パートナーである妖精を強力な武器へと変化させる能力だ。
変化する武器は、メダリオン本人の人格を色濃く反映する。優しい気性の持ち主であれば、殺傷能力の低い武器に。逆に気性の荒い者であれば、一撃で敵を仕留められるような兵器に。
赤い鳥が炎のように揺らめき、見る見るうちに形を変えていく。
ルビーが手にした武器は、短機関銃だった。
「おらぁ!! そのご自慢のイケメン面ァ、ミンチにしてやんよ!!」
間髪も入れず、またなんの躊躇もなく、ルビーは赤いサブマシンガンの引き金を引いた。
途切れることのない銃声の中、セルジュは柱を駆け上がって銃弾の雨を避けていく。そこから壁を伝い天井まで一気に駆け上がると、逆さまになったまま走り出した。穴が開くのはフロアの床や壁ばかりで、一向に命中する気配がない。
フロアの端まで辿り着いたセルジュは、そこから真下に降りた。当然、ルビーはすかさず銃口をそちらに向けるのだが、立てたビリヤード台を遮蔽物にされて、銃弾のことごとくが防がれてしまう。
「ちぃぃいっ、サブマシンガンじゃ貫通力が足りねェ! フェーちゃん、チェンジチェンジ! 狙撃銃だッ! ビリヤード台ごとド頭ブチ抜いてやる!!」
サブマシンガンが、銃身の長いライフルへと変化する。セルジュは銃弾の雨が止んだ僅かな隙を突き、ビリヤード台の影から飛び出した。しかも、手には苦無がいくつか握られている。
「セルジュ、なに勝手なことしてるんだ!!」
その声は、ルビーがスナイパーライフルのスコープを覗き込んだのと、セルジュが苦無を投げるモーションに入るのと、ほぼ同時にフロア内に響き渡った。
「姿が見えないと思ったら、こんなところでお前……はやく戻ってこい、このバカ!」
若い男の声だった。だが、声はすれど姿が見えない。まるでセルジュを叱りつけるようなその声に、すっかり戦意を奪われてしまったルビーはライフルを下げて声の主を捜す。
「邪魔をするな、シリウス! ここで決着をつけねば、男の沽券に関わる!」
セルジュが天井に向かって吼える。その視線に釣られてルビーも上を仰ぐと、そこにゲームセンターの無機質な天井はなかった。
天井に、大きな穴がぽっかりと開いている。しかし、その先に上のフロアの情景はない。
穴一面に、青と紫のマーブルがかった油膜のようなものが張っており、ゆらゆらと揺らめいている。
声は、穴の向こう側から聞こえていた。
「いやいやいや! お前、ぶっちぎりで勅命に背いてる自覚あんの? 今すぐ戻ってこないと、上に報告するぞ!」
謎の声に叱責されて、セルジュは聞こえよがしに舌を打ち、勢いよくルビーに顔を向ける。黒頭巾に隠されていて表情は見えないが、ギリリッと歯噛みする音が聞こえたのは気のせいではないだろう。
「顔を覚えたからな。いずれお前の男根を削ぎ落し、その痕跡を地球の民たちの前で晒してくれる」
「元からついてねーから」
ルビーはツッコミを入れつつ、セルジュが跳ね上がって天井の穴に飛び込んでいくのを見送る。直感的に穴の向こう側がゲームセンターとは全く別の場所に通じていることを察していたが、呆れ返っていてまんまとセルジュを見逃してしまった。
「ああ! アクアが連れてかれるぴょんっっ!」
ツクヨミの絶叫で、ルビーはハッと我に返った。アクアを抱えた黒い腕が、セルジュの後を追って穴に吸い込まれていく。
「させるかァッ!」
スコープの照準が、黒い手を捉えた。
──パアァァァンッッ……
甲高い破裂音が遊戯場フロアに反響する。ルビーの放ったライフル弾は、黒い腕はおろか壁をも貫通していった。
幸いなことに、黒い手にも痛覚というものがちゃんと備わっていたらしい。弾丸で撃ち抜かれた衝撃で、黒い手はパッと指を開いて穴に引っ込んでいった。
アクアが重力に従って落ちてくる。ルビーはその真下に滑り込んだ。
「アクアちゃん!」
無事、アクアを受け止めることに成功したルビーは再び天井を仰ぐ。青紫に揺らめく穴は、その直径をどんどん窄ませ、最後にはきゅっと音を立てて消えてしまった。後に残されたのは、元々そこにあったゲームセンターの無機質な天井と、静けさだけだった。
「アクア! よかったぴょん……連れていかれたらどうしようかと思ったぴょん……」
床にのめり込んでいたツクヨミはようやくそこから這い出て、未だ固く目を閉じたままのアクアを覗きこんだ。だがホッと息を吐いたのも束の間、すぐに真顔になって独り言ちる。
「黒の帝国ジェバイデッド……今度の敵は、なんだかすごいヤバい連中っぽいぴょん」
地球侵略を宣言された上、地球最強と呼び声高いルビーが仕留め損ねたとあっては、ツクヨミが弱音を吐くのも無理はない。
しかし、ルビーは実にあっけらかんとしたものだった。
「そうなー、今回は女王さまに報告しに行った方がいっか。アクアちゃん、ヘンな薬飲まされちゃったし。身体の具合を診てもらわなきゃね!」
「……アクアが変な薬飲まされたのは、ルビーがさっさと助けに入らなかったせいぴょん。これで本当に妊娠してたらどうするぴょん……」
「んー、アクアちゃんとイケメンな忍者さんとの子供だったら、とんでもない美形が生まれるぞォー? 見てみたい気もするなー。なんなら育てたっていいぜ……うへへへへ」
論点がズレにズレまくっているのだが、ツクヨミは口を挟まなかった。下手にルビーの機嫌を損ねて、また床に埋められるのを恐れたらしい。
「そんじゃまーとりあえず、久々に女王さま拝謁といきますかっ」
ルビーはアクアをお姫様抱っこしたまま、意気揚々とゲームセンターを後にした。
「……なぜ、お前らのような脆弱な地球人が繁殖しているのか、甚だ理解に苦しむ」
セルジュは忌々しげに吐き捨てる。
「弱き者が淘汰され、強き者が生存し後世に遺伝子を残す。これが自然の摂理だろう。だのに、安寧しか知らぬお前ら地球人がのうのうと生きながらえ、宇宙間の戦争に勝利してきた我々ジェバイデッド人が絶滅の危機に晒されている。実に不愉快だ」
「……あー、なんだっけ。忍者さんトコの星で、女の人が一人残らず死んじゃったんだっけ?」
少し冷静になったルビーが他人事のように──まさしく他人事なのだが──ぽつりと呟く。情事の最中にセルジュがそんなことを言っていたような気がするが、乱れるアクアに夢中で話などほとんど聞き流していた。
「お前ら地球人は繁殖するに値しない。地球に黒の帝国ジェバイデッドを再興する。我々の子を産む女を残し、あとは皆殺しだ。お前も例外ではない、ルビーメダリオン」
堂々たる地球侵略宣言。なんともわかりやすく敵対関係が成立した瞬間だった。
「それで手始めに女の人たちを誘拐してたってことかァ。でも、その女の人たちは私が解放しちゃったんだぜ? カッコつけた割にはツメが甘ぇんじゃねーですかねぇ? どんだけアクアちゃんに夢中だったんですかって話ですよ。まあね、アクアちゃん超可愛いもんね、気持ちはわかるよぉ? ぐへへへへ」
ルビーは鬱憤を晴らすようにセルジュを煽った。渾身のパンチを避けられたのは予想外だったが、セルジュは決して強敵という部類ではない、その気になればいつでも倒せる、そう高をくくって。
しかしそれは、虎の尾を踏む行為に他ならなかった。
「──お前を完膚なきまでに叩き潰したくなった」
抑揚のないセルジュの声で、遊戯場フロアの温度が下がったような錯覚が起きた。あからさまな殺気を隠しもせず、セルジュは足元の影を伸ばして、例の黒い手にアクアを託す。
そうしておいて、ルビーから視線を外すことなく腰を軽く落とし、上体を右に捻った。左腕の肘から上を前方で立てて、顔をガードするように構えている。最後に、右の手のひらを親指を除く四本の指を揃え、腰にぐっと引きつけた。
「自分の女が連れ去られるのを、地に這いつくばって眺めているといい」
セルジュが半歩踏み出してきた、と視認した瞬間、その姿が視界から消失してしまい、ルビーは「えっ」と間の抜けた声を漏らす。
目を何度も瞬き、やっと姿が見えたと思ったときには、すでに鼻と目の先にセルジュが迫ってきていた。
「うわぉぉッッ!?」
某映画の銃弾避けよろしく、ルビーは背を反らせてブリッジの姿勢となる。その上を何かが通り過ぎ、背後にあった柱にぶつかった。
セルジュの指だ。揃えられた四本の指が、分厚いコンクリートの壁に突き刺さっていた。そこからヒビが波紋状に広がり、壁の一部がぽろぽろと崩れ落ちてきて顔にかかる。ハンマーにも匹敵しそうなほどの破壊力を帯びた、ルビーの急所を狙った凄まじい貫手だった。
追撃の肘鉄が腹に落ちてくるのが見えて、ルビーはフロアの床を転がって難を逃れる。間合いを十分に取ったところで素早く起き上がり、セルジュをキッと睨みつけた。
「ペッペッペッ! あっぶねーなァ!! 殺す気かテメー!」
黒頭巾の奥から、鼻で笑う声がした。
「さっきからそう言っているだろう。お前は愛した女を奪われたばかりか、戦闘においても俺に敗れる。雄としての徹底的な敗北を味わいながら息絶えろ」
──ぷちんっっ。
ルビーの中で、何かがキレた。
「ブチギレたぜっっ!! さっきから大人しく聞いてりゃ、アクアちゃんを手に入れたつもりでペチャクチャペチャクチャ喋りやがって。ちょっと顔が良くてちんこがでかいからって、調子乗ってんじゃねぇぞォ……たったそれっぽっちのスペックでアクアちゃんを自分のものにできると思ったら大間違いだッ! 身の程を弁えろ、精子からやり直してきなァ!!」
もはや本当に正義の味方なのか疑わしくなる、酷い悪態のつき方だった。ルビーは、未だ自分が男と勘違いされていることや正義の味方として馬鹿にされていることよりも、アクアがセルジュの所有物のように扱われていることが許せなかったのである。
激昂に身を焦がしながら、ルビーは自分に付かず離れずの距離を保っていた赤い鳥──パートナーの妖精フェーをがっしりと掴んだ。
「マジで覚悟しろよ、手加減しねェかんなッ! フェーちゃん、武器化だ!」
メダリオンの特殊能力のひとつに、武器化というものがある。読んで字のごとく、パートナーである妖精を強力な武器へと変化させる能力だ。
変化する武器は、メダリオン本人の人格を色濃く反映する。優しい気性の持ち主であれば、殺傷能力の低い武器に。逆に気性の荒い者であれば、一撃で敵を仕留められるような兵器に。
赤い鳥が炎のように揺らめき、見る見るうちに形を変えていく。
ルビーが手にした武器は、短機関銃だった。
「おらぁ!! そのご自慢のイケメン面ァ、ミンチにしてやんよ!!」
間髪も入れず、またなんの躊躇もなく、ルビーは赤いサブマシンガンの引き金を引いた。
途切れることのない銃声の中、セルジュは柱を駆け上がって銃弾の雨を避けていく。そこから壁を伝い天井まで一気に駆け上がると、逆さまになったまま走り出した。穴が開くのはフロアの床や壁ばかりで、一向に命中する気配がない。
フロアの端まで辿り着いたセルジュは、そこから真下に降りた。当然、ルビーはすかさず銃口をそちらに向けるのだが、立てたビリヤード台を遮蔽物にされて、銃弾のことごとくが防がれてしまう。
「ちぃぃいっ、サブマシンガンじゃ貫通力が足りねェ! フェーちゃん、チェンジチェンジ! 狙撃銃だッ! ビリヤード台ごとド頭ブチ抜いてやる!!」
サブマシンガンが、銃身の長いライフルへと変化する。セルジュは銃弾の雨が止んだ僅かな隙を突き、ビリヤード台の影から飛び出した。しかも、手には苦無がいくつか握られている。
「セルジュ、なに勝手なことしてるんだ!!」
その声は、ルビーがスナイパーライフルのスコープを覗き込んだのと、セルジュが苦無を投げるモーションに入るのと、ほぼ同時にフロア内に響き渡った。
「姿が見えないと思ったら、こんなところでお前……はやく戻ってこい、このバカ!」
若い男の声だった。だが、声はすれど姿が見えない。まるでセルジュを叱りつけるようなその声に、すっかり戦意を奪われてしまったルビーはライフルを下げて声の主を捜す。
「邪魔をするな、シリウス! ここで決着をつけねば、男の沽券に関わる!」
セルジュが天井に向かって吼える。その視線に釣られてルビーも上を仰ぐと、そこにゲームセンターの無機質な天井はなかった。
天井に、大きな穴がぽっかりと開いている。しかし、その先に上のフロアの情景はない。
穴一面に、青と紫のマーブルがかった油膜のようなものが張っており、ゆらゆらと揺らめいている。
声は、穴の向こう側から聞こえていた。
「いやいやいや! お前、ぶっちぎりで勅命に背いてる自覚あんの? 今すぐ戻ってこないと、上に報告するぞ!」
謎の声に叱責されて、セルジュは聞こえよがしに舌を打ち、勢いよくルビーに顔を向ける。黒頭巾に隠されていて表情は見えないが、ギリリッと歯噛みする音が聞こえたのは気のせいではないだろう。
「顔を覚えたからな。いずれお前の男根を削ぎ落し、その痕跡を地球の民たちの前で晒してくれる」
「元からついてねーから」
ルビーはツッコミを入れつつ、セルジュが跳ね上がって天井の穴に飛び込んでいくのを見送る。直感的に穴の向こう側がゲームセンターとは全く別の場所に通じていることを察していたが、呆れ返っていてまんまとセルジュを見逃してしまった。
「ああ! アクアが連れてかれるぴょんっっ!」
ツクヨミの絶叫で、ルビーはハッと我に返った。アクアを抱えた黒い腕が、セルジュの後を追って穴に吸い込まれていく。
「させるかァッ!」
スコープの照準が、黒い手を捉えた。
──パアァァァンッッ……
甲高い破裂音が遊戯場フロアに反響する。ルビーの放ったライフル弾は、黒い腕はおろか壁をも貫通していった。
幸いなことに、黒い手にも痛覚というものがちゃんと備わっていたらしい。弾丸で撃ち抜かれた衝撃で、黒い手はパッと指を開いて穴に引っ込んでいった。
アクアが重力に従って落ちてくる。ルビーはその真下に滑り込んだ。
「アクアちゃん!」
無事、アクアを受け止めることに成功したルビーは再び天井を仰ぐ。青紫に揺らめく穴は、その直径をどんどん窄ませ、最後にはきゅっと音を立てて消えてしまった。後に残されたのは、元々そこにあったゲームセンターの無機質な天井と、静けさだけだった。
「アクア! よかったぴょん……連れていかれたらどうしようかと思ったぴょん……」
床にのめり込んでいたツクヨミはようやくそこから這い出て、未だ固く目を閉じたままのアクアを覗きこんだ。だがホッと息を吐いたのも束の間、すぐに真顔になって独り言ちる。
「黒の帝国ジェバイデッド……今度の敵は、なんだかすごいヤバい連中っぽいぴょん」
地球侵略を宣言された上、地球最強と呼び声高いルビーが仕留め損ねたとあっては、ツクヨミが弱音を吐くのも無理はない。
しかし、ルビーは実にあっけらかんとしたものだった。
「そうなー、今回は女王さまに報告しに行った方がいっか。アクアちゃん、ヘンな薬飲まされちゃったし。身体の具合を診てもらわなきゃね!」
「……アクアが変な薬飲まされたのは、ルビーがさっさと助けに入らなかったせいぴょん。これで本当に妊娠してたらどうするぴょん……」
「んー、アクアちゃんとイケメンな忍者さんとの子供だったら、とんでもない美形が生まれるぞォー? 見てみたい気もするなー。なんなら育てたっていいぜ……うへへへへ」
論点がズレにズレまくっているのだが、ツクヨミは口を挟まなかった。下手にルビーの機嫌を損ねて、また床に埋められるのを恐れたらしい。
「そんじゃまーとりあえず、久々に女王さま拝謁といきますかっ」
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