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今日はチャリティーバザーの日だ。
ティタニアと一緒にいろいろ準備し用意した。
正直売れるかどうかとても不安だったけれど、思った以上の反響があり完売したのだ。
ティタニアが気さくなお陰で、お客に気軽に声をかけてくれたおかげだろう。
「お疲れ様、ティタニア。本当にありがとう」
「いやいや、カレン様のセンスが良かったからですよ」
「お世辞でもそういってくれると嬉しいわ。あなたのしおりも皆様とても気にされていたから良かったわ」
「ですねぇ、これで、がっぽがっぽ儲かりますよ!うっへへへへ」
ティタニアはにこにことご機嫌に笑っているが、正直その笑いは少し、怖い。
「良かったわ。さあ、片付けしましょうか」
「カレン!!」
突然前から、怒りの声で名を呼ばれた
「お兄様、・・・オランヌ様」
そこには、鬼のような形相でこちらを見ているお兄様と、はらはらと涙を流すオランヌ様がいた。
「お前というやつは、最低の女だな!」
「や、やめて・・・デフィ、やめて、いいのよ・・・」
嗚咽を堪えながら、必死に言葉を紡ぐオランヌ様をお兄様とても辛そうに肩に手を置いた。
「何を言っているんだ!?君を踏み台にしたんだぞ!!」
「だって、、だって、この人は自分勝手な身勝手な人だもの言っても無駄よ!」
「カレン!」
「何でしょうか、お兄様」
この状況も、2度目となると自分でもおかしくなるくらいに冷静に応えることができる。
逆に私の態度にお兄様は気を悪くしたようで、真っ赤になった。
「謝罪しろ!!」
怒鳴る声に、考える。
何を謝罪するのだろうか?
私が謝らなければならないことなどない。
なぜ、私が謝らなければならないのか、意味がわからなかった。
前世では、確かに邪魔をしたが、今世では関わりたくないから全くオランヌ様のバザーの場所に近づいていない。
「お兄様、私が何しましたか?」
「しおりを売っただろ!」
意図せぬ言葉に眉をひそめてしまった。
「しおり?それがどうされました?あれはここにいるティタニアが考えてくれた」
「嘘だわ!・・・私が、絵本を売るのを知ってて、わざわざしおりを売ったんでしょ!私と仲がいいように見せたら、自分の株が上がるもの!・・・酷いわ、卑怯者!」
嗚咽を含みながら私の言葉をさえぎり、必死に抗議してきた。
震える肩と、口を抑える姿は誰が見ても、護って差し上げたくなる、可憐なか細さだ。
「しおりは売り物ではありません。それはティタニアが考え、リボンにつけたもので、偶然の出来事です。販売したのは飴玉でございます」
私はティタニアを見た。ティタニアはその通りだ、と言わんばかりに頷いた。
「嘘だ!お前いつもオランヌを虐めているだろ!?オランヌがいつも辛そうに泣いているのは知っているんだぞ!!」
「そんなことしておりません」
「仕方ないだろうが!お前はファルジーヌ様に全く相応しくない我儘な人間なんだ!人間として素晴らしいオランヌがファルジーヌ様に気にいられるのはが気に入らず、虐めるのは止めろ!」
思わず笑ってしまった。
「ほら、バカにしてる!庶民の私が気に入らないからってこんな姑息な手を使えば、もっとファルジーヌ様から嫌われるわよ!」
ザワザワと、野次馬が集まってきた。
なんて、可愛らしく、訴える声なのだろう。
「お兄様、私はオランヌ様を虐めたことなどありませんし、今回のしおりもここにいるティタニアが考えてくれたもので、別にオランヌ様の邪魔をした訳でありません」
「酷・・・い・・・わ・・・カレン様。あくまでシラを切るのね。庶民の人を脅してまで、そんなに周りによく見せたいの!?そうね!私が絵本を出すのを知っていたから、あなたがしおり出せば、庶民の気持ちがわかる人、だと更に株が上がるもの!その人も、何で脅したの!?」
酷いこじつけで、よくまあここまで考えれるものだ。
「おいっ!」
お兄様が、ドン、と私の肩を強く押した。
私はそのままバランスを崩し尻餅をついた。
「本当に酷い女だ!お前はいつも我儘ばかりで庶民の気持ちも考えずに振り回す!!オランヌに謝れ!」
「謝りません。私、何もしておりません」
「このっ!!」
お兄様が拳を振り上げる。
殴られる。そう思った瞬間、オランヌ様がお兄様に抱き着いた。
「やめて!デフィ!」
「オランヌ?」
「・・・私・・・は、大丈夫よ。こんな事で、あなたが手を出すべきじゃないわ」
ふるふると涙を浮かべながら、必死に微笑む姿は、まるで聖女のように見える。
「・・・どうしてだ?君はいつも我慢してるじゃないか!」
それを見つめながら私は立ち上がった。
「いい、のよ。・・・いいわ。許してあげる。あなたが悪いのに、これじゃあデフィが悪者みたいになっちゃうもん。こんな小さな意地悪なんて、平気よ。でもね、ファルジーヌ様は直ぐにあなたの性格の悪さに気づいちゃうよ。そうなったら、困るのはあなたよ」
オランヌ様そう捨て台詞を言うと涙を吹き、お兄様ににっこり微笑んだ。
流れは違うが、この台詞と、この風景、この最後の言葉と仕草は前世と全く同じだ。
私の知っているオランヌ様は、現世のオランヌ様とは似ても似つかない。
いや、これが本物なのだろうか?
前世と現世ではオランヌ様は全く違うが、同じだ。
何か、何か、違和感がある。
この違和感が、私の中で渦巻く。
私は前世のオランヌ様の事を知っている。
けれど、潤んだ瞳に隠れた優越感に満ちた煌めきは、知らない。
「お前は選ばれない!お前はファルジーヌ様のそばにいる価値などないんだよ!」
「ありがとう、デフィ。もういいよ。デフィのその気持ちだけで充分。言ってもムダ、なんだよ。行きましょう」
涙を拭き、前向きに微笑む姿はとても眩しいほどに、輝いていた。
オランヌ様はお兄様の手を優しく引き、その場を後にした。
お兄様は、とても納得している様子ではなかったが、オランヌ様の様子に渋々頷きその場を離れたが、私を睨む事は忘れていなかった。
「何故言わなかったのですか?殿下がしおりの事を知っている、と言えば、カレン様があのような愚弄される事もなかったのですよ」
いつの間にかメアリが立ち、苛立ちの声で責めるように言いいながら、私を起こしてくれた。
服に着いた汚れを丁寧に叩いてくれた。
「ありがとう。・・・そうね、そうすれば良かったのだろうけどあまりに急すぎて思いつかななかったの。でもこれはこれで収穫があったわ」
「収穫?」
「ええ。あなたに頼みがあるの。お願いできるかしら?」
「それは、殿下に不都合はありませんか?」
眉を上げ、射抜く瞳で見るメアリに忠誠心に私は満足した。
「当然よ。ファルジーヌには、全く損はないわ。逆にいい流れを掴むかもしれない」
私はメアリに耳元で囁いた。
「それは意味がありますか?」
「あるわ」
「分かりました」
「ありがとう。それで、ここにはどのような用件できたの?」
常にファルジーヌの側にいるばすが、1人だ。
「殿下が様子を見て来い、と言われましたので来たのです。ようは、寂しがっているのですよ」
「あら、嬉しいわ。私の方は完売したわ」
「みたいですね。では、宜しければ殿下の手伝いをお願い出来ますか?カレン様が側にいないと、グチグチと煩く相手をするのが疲れるのです」
肩をすくめるメアリに、先程の嫌な気持ちが軽くなった。
「勿論よ。ねえ、ティタニア」
横にいるティタニアに声をかけると、憮然とした顔で私を見た。
「ティタニア?」
「オランヌ、と言う娘はあんな奴だったんですね。庶民の希望の星!?あんな奴がファルジーヌ様に相応しくないわ!ふっふふふ、任せといてくださいよ、カレン様!」
びしり、と2人が去っていった場所を指した。
「ど、どうしたの、ティタニア顔が怖いですよ」
「私、顔が広いんです!」
「そ、そうね?」
顔が広い?どういう意味かしら?
「見返してやります!」
ティタニアは闘志を燃やしているが、あえて、一体何をするつもりなのか質問はしなかった。
何だか楽しい気持ちにさせるその様子に、ワクワクした。
「行きましょう、メアリ」
「はい」
私達はファルジーヌのもとへと向かった。
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