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「それなのに、勝手に忙しいと言って全く付き合ってくれなかっただろう!?」
ファルジーヌ様の声に、はっ、と我に返った。
ずぶずぶと脚元から湧き上がる不安という、人、ならではの感情という底無し沼から引いあげられたような感覚になる。
「・・・勝手に・・・。それは、申し訳ございません」
引きずられていた負の感情のまま、朦朧とする脳の中、どうにか声を出した。
「言葉っ!」
「・・・ご、めん・・・」
不機嫌に言い直す姿に、すぅっ、と身体が軽くなり、まるで、まるで眩しい光で浄化されたようになる。
いじけたような、何かを求めるような、不思議な感情に、きゅううう、と胸が切なくなる。
「・・・本当に忙しいの知っているから、邪魔、したくないの」
「何を言っている。忙しいからカレンが側にいてくれるほうが、癒しになるんだろうが!」
「いや・・・し?私・・・が、ですか?」
思いがけない言葉に、喉が詰まる。
厭う、
ではなく、
癒し?
私が?
「他に誰がいる。はぁ・・・俺があれだけ言い寄ったのに全く気付いていない。癒しを断る、カレンが、俺の邪魔をしているんだ。だから、公務が上手くいかいんだっ!」
言っている意味が全く分からないが、公務、という言葉が脳を働かせ、冷静な自分が戻ってくる。
邪魔したくないと思い、断っていたのに、断った方が、公務の邪魔になった。
公務。
ファルジーヌ様の公務とは、国の中ではく、他国との外交だ。
それは、由々しき問題だ。
ファルジーヌ様の一挙一動が国を左右するのに、私の行動で多少なりともに結果が変わるとなれば、それは一大事だ。
「公務に関わるなんて知らなかったわ。どうして教えてくれなかったの?」
「さっきも言っただろ。カレンが気付かなかったんだろ」
「・・・ごめんなさい。これからは気付くように努力、ぜ」
「また、努力、善処!そう言うだけで態度がなってないっ!」
「た、態度・・・ですか?」
「こういう時は俺の機嫌をとるために、手を握りましょう、とか言うもんだろ!?」
言うと手を真面目な顔で差し出したきた。
ええっ!?
言うのですか!?
本気で驚きました。
この険悪な状況の中、そんな、まるで逆撫でするような事を言うなど、火に油を注ぐようなものです。
手を握る。
すなわち恋人同士、もしくは恋愛で結ばれた夫婦であり、甘い雰囲気の中で行う行為だ、と指南書に書いてありました。
今、ここで、甘い雰囲気など、全くありません。
それどころか、険悪、では無いですか?
それなのに、真顔で、それも嬉しそうにしているのか、全く理解出来ません。
「おいっ!何で、そこではい、と手を出さないんだ!?」
「え・・・と・・・その・・・この流れが、ついていけなくて・・・」
「いいから、手を握るんだっ!」
「は、はいっ!」
訳が分からなかったがあまりの勢いに差し出された手を握った。
途端、不機嫌が、機嫌に直った。
「そうだ。それでいいんだ。カレン、ひとつ覚えただろ。俺の機嫌を直すのは簡単だろ?」
「は・・・い・・・?」
いいえ、さっぱり分かりません。
全く、分かりません。
何故、手を握る行為でそこまで微笑まれるのか、皆目見当もつきません。
いいや、私なら、どうなのだろう。
機嫌が悪い時や、疲れた時、寂しい時、にファルジーヌ様が優しく手を握ってくれたなら、一気に心が晴れやかになる。
それと、同じ、事なの?
想いが、重なっているの?
とくんとくん、と胸が速くなっていく。
頬が熱を持ち暑くなる。
私、期待しても、いいのでしょうか?
「どうした?いや、なのか?」
「いいえっ!・・・その・・・嬉しいです。こんな事で癒しになるなら、何時でも・・・言って下さい」
言葉を紡ぐ度に、胸と、頬がますます熱くなり、繋ぐ手に力が入ってしまう。
「これからは、忙しいから邪魔したくありません、というのは聞かないからな」
「・・・もう、言わないわ」
「宜しい。だが、俺の事を考えて、遠慮していたんだろ?」
「そうよ」
「だな。カレンが1番俺の事を見ているんだものな」
「そうよ。誰よりも、知っていると断言出来るわ」
「そうか。そうだな」
目を細めとても幸せそうに言うファルジーヌ様に、私も微笑み返した。
この、瞬間がとても幸せで、初めて、嬉しくて泣きそうになった。
今世では、ファルジーヌ様の邪魔ではなく、癒し、なっている。
「嬉しい、です。凄く嬉しいです」
心の声が、漏れて出てきた。
「何がだ?」
「いいえ。何でもないわ。こうやって人前で手を握る事が恥ずかしいと思っていたけど、やってみるととても落ち着くの。私ファルジーヌ様の癒しになるように、もっと頑張るわ。何したらいいの?どうして欲しいの?」
「ぷっ、何だよ、その変わりようは。本当に、可愛いな、俺のカレンは」
繋いだ手よりも、より、近づき肩と肩と触れ合う。
「どう言う意味よ。私は・・・本気で聞いてるの」
「分かってるよ。何もしなくてもいい。ただ、何時も俺の目の届く所にいて、俺の側にいてくれたらいいんだ」
「そんな事でいいの?」
「カレンも同じだろ?」
「そう、ね。同じだわ。ファルジーヌ様が側にいるだけで、癒しになるわ」
「ほら、な」
「はい」
「ここで、うん、と言ってくれた合格だったのにな」
「頑張るわ」
「ああ。俺のために頑張ってくれよ」
「はい」
「ぷっ。やっぱり真面目なカレンだな」
目を細め楽しく笑うファルジーヌ様を見て、そうでした、うん、でしたわ、と思ったけれど、なんだが今の感じこの雰囲気が、とても穏やかな気持ちになり、私も笑った。
ファルジーヌ様の声に、はっ、と我に返った。
ずぶずぶと脚元から湧き上がる不安という、人、ならではの感情という底無し沼から引いあげられたような感覚になる。
「・・・勝手に・・・。それは、申し訳ございません」
引きずられていた負の感情のまま、朦朧とする脳の中、どうにか声を出した。
「言葉っ!」
「・・・ご、めん・・・」
不機嫌に言い直す姿に、すぅっ、と身体が軽くなり、まるで、まるで眩しい光で浄化されたようになる。
いじけたような、何かを求めるような、不思議な感情に、きゅううう、と胸が切なくなる。
「・・・本当に忙しいの知っているから、邪魔、したくないの」
「何を言っている。忙しいからカレンが側にいてくれるほうが、癒しになるんだろうが!」
「いや・・・し?私・・・が、ですか?」
思いがけない言葉に、喉が詰まる。
厭う、
ではなく、
癒し?
私が?
「他に誰がいる。はぁ・・・俺があれだけ言い寄ったのに全く気付いていない。癒しを断る、カレンが、俺の邪魔をしているんだ。だから、公務が上手くいかいんだっ!」
言っている意味が全く分からないが、公務、という言葉が脳を働かせ、冷静な自分が戻ってくる。
邪魔したくないと思い、断っていたのに、断った方が、公務の邪魔になった。
公務。
ファルジーヌ様の公務とは、国の中ではく、他国との外交だ。
それは、由々しき問題だ。
ファルジーヌ様の一挙一動が国を左右するのに、私の行動で多少なりともに結果が変わるとなれば、それは一大事だ。
「公務に関わるなんて知らなかったわ。どうして教えてくれなかったの?」
「さっきも言っただろ。カレンが気付かなかったんだろ」
「・・・ごめんなさい。これからは気付くように努力、ぜ」
「また、努力、善処!そう言うだけで態度がなってないっ!」
「た、態度・・・ですか?」
「こういう時は俺の機嫌をとるために、手を握りましょう、とか言うもんだろ!?」
言うと手を真面目な顔で差し出したきた。
ええっ!?
言うのですか!?
本気で驚きました。
この険悪な状況の中、そんな、まるで逆撫でするような事を言うなど、火に油を注ぐようなものです。
手を握る。
すなわち恋人同士、もしくは恋愛で結ばれた夫婦であり、甘い雰囲気の中で行う行為だ、と指南書に書いてありました。
今、ここで、甘い雰囲気など、全くありません。
それどころか、険悪、では無いですか?
それなのに、真顔で、それも嬉しそうにしているのか、全く理解出来ません。
「おいっ!何で、そこではい、と手を出さないんだ!?」
「え・・・と・・・その・・・この流れが、ついていけなくて・・・」
「いいから、手を握るんだっ!」
「は、はいっ!」
訳が分からなかったがあまりの勢いに差し出された手を握った。
途端、不機嫌が、機嫌に直った。
「そうだ。それでいいんだ。カレン、ひとつ覚えただろ。俺の機嫌を直すのは簡単だろ?」
「は・・・い・・・?」
いいえ、さっぱり分かりません。
全く、分かりません。
何故、手を握る行為でそこまで微笑まれるのか、皆目見当もつきません。
いいや、私なら、どうなのだろう。
機嫌が悪い時や、疲れた時、寂しい時、にファルジーヌ様が優しく手を握ってくれたなら、一気に心が晴れやかになる。
それと、同じ、事なの?
想いが、重なっているの?
とくんとくん、と胸が速くなっていく。
頬が熱を持ち暑くなる。
私、期待しても、いいのでしょうか?
「どうした?いや、なのか?」
「いいえっ!・・・その・・・嬉しいです。こんな事で癒しになるなら、何時でも・・・言って下さい」
言葉を紡ぐ度に、胸と、頬がますます熱くなり、繋ぐ手に力が入ってしまう。
「これからは、忙しいから邪魔したくありません、というのは聞かないからな」
「・・・もう、言わないわ」
「宜しい。だが、俺の事を考えて、遠慮していたんだろ?」
「そうよ」
「だな。カレンが1番俺の事を見ているんだものな」
「そうよ。誰よりも、知っていると断言出来るわ」
「そうか。そうだな」
目を細めとても幸せそうに言うファルジーヌ様に、私も微笑み返した。
この、瞬間がとても幸せで、初めて、嬉しくて泣きそうになった。
今世では、ファルジーヌ様の邪魔ではなく、癒し、なっている。
「嬉しい、です。凄く嬉しいです」
心の声が、漏れて出てきた。
「何がだ?」
「いいえ。何でもないわ。こうやって人前で手を握る事が恥ずかしいと思っていたけど、やってみるととても落ち着くの。私ファルジーヌ様の癒しになるように、もっと頑張るわ。何したらいいの?どうして欲しいの?」
「ぷっ、何だよ、その変わりようは。本当に、可愛いな、俺のカレンは」
繋いだ手よりも、より、近づき肩と肩と触れ合う。
「どう言う意味よ。私は・・・本気で聞いてるの」
「分かってるよ。何もしなくてもいい。ただ、何時も俺の目の届く所にいて、俺の側にいてくれたらいいんだ」
「そんな事でいいの?」
「カレンも同じだろ?」
「そう、ね。同じだわ。ファルジーヌ様が側にいるだけで、癒しになるわ」
「ほら、な」
「はい」
「ここで、うん、と言ってくれた合格だったのにな」
「頑張るわ」
「ああ。俺のために頑張ってくれよ」
「はい」
「ぷっ。やっぱり真面目なカレンだな」
目を細め楽しく笑うファルジーヌ様を見て、そうでした、うん、でしたわ、と思ったけれど、なんだが今の感じこの雰囲気が、とても穏やかな気持ちになり、私も笑った。
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