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「アトラスの好きなようにしていいわ」
「わかった」
それが1番アムルに、アムルのやった事を返せる。
アムルはプリライ伯爵家という権力を振りかざした。
それなら、私はカーヴァン公爵家という権力を振りかざすわ。
「ジック殿。騙されていたとはいえ、私達に婚約者として紹介するつもりで連れてきたのでしょう?だったら、連れて帰って下さい。目障りです。そうなれば此方としては、お付き合いは遠慮させて頂きます。それとも、プリライ伯爵家と縁を切りますか?それならば、変わらずお付き合いをさせて頂きますよ」
「も、勿論プリライ伯爵家と縁を切るに決まっています!こんな卑しい女性を迎えるわけに行きませんからね!」
「それは懸命な判断ですね。では、我々はこれからまだ、模擬店を回る予定になっていますので、またゆっくり話を致しましょうか。ああ、そうだ、そこにいるゴミ女の処理はお願いしますよ。貴方が連れてきたのですからね」
冷ややかで突き放す物言いに、誰もが同調しているのがわかった。
「もち、ろんです。ほら、立てよ。早く!」
アトラスの背中で見えないが、ジック様がアムルを引き摺るように連れて行く様子が耳に入ってきた。

言葉なく呻くような声が聞こえ、少しずつ遠のいて行った。
「よく頑張ったね」
アトラスが私の方を向き、肩に手を置いた。
「ルミナ御義姉様、少し休んでから行きましょうか?」
「・・・ううん。大丈夫。スッキリしたわ」
手に取った悪意ある想いが、綺麗に消えた。
「さあルミナ御義姉様、イヌヤ様の模擬店に参りましょうよ」
「ルミナ様と親しくなっておかなければ、怖い事になりそうだね」
シャイ様が楽しそうにアトラスを見た。
「お兄様も宜しいですわね」
「構わないよ。このまま身動き取れないようにしたいからね。さ、ルミナ、行こうか」
「行くのはいいけど、身動き取れない、というのはどう言う事よ!?それで、シャイ様のお言葉は何だったの!?」
「うーん、そのままかな?」
にっこり微笑むアトラスに、全く分からなかったが、まあいいか、と諦めた。
だって、手を優しく握り、いつものふんわりとした包み込む微笑みを見せてきたから、私の嫌な事はしないな、と思ったからだ。
アトラスが私から動いた直後、アムルと目が合った。
歩けないアムルをジック様が必死に引き摺っているようで、まだ目の届く所にいた。
いつもなら、表情が見えない筈の距離なのに、はっきりとその顔が見て取れた。
涙に濡れ、地獄に落ちたような憔悴しきった表情だったのに、私と目が合うとアムルは縋るように瞳を見開いていた。
いいえ。私は、善人ではないわ。
助けて欲しければ、人を助けるべきだわ。自分の業を棚に上げ、己の利己的な考えが常に通りはしない。
ねえ、アムル。
貴方は権力の使い方を間違えたのよ。
いいえ、間違ってないわね。
だって、自分に全て返ったのですもの。
「行こう、ルミナ」
アムルのそれ以上の姿を隠すかのように皆が立ち塞がり、アトラスが手を引いた。
「そうね」
終わった。
あとはアトラスに任せよう。
アムルが父親に任せ、その後がどうなるかなんて、少しも考えなかったのと同じように。
あなたが、このあとどんな末路を送るなんて、知らないわ。



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