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「今日はお誘いありがとうございます。遅くなり申し訳ありません」
サロンに案内され、テーブルに座っている3人に挨拶した。
「そんな、こちらこそ来ていただいて嬉しく思っています。さあ、どうぞ」
デアーヌ様がにこやかに微笑むと、召使いが、椅子を引いてくれたのでその場所に座った。
今日はデアーヌ様主催のお茶会です。学園祭前に仲良くなりたいと、お誘いを受け、
図々しいかな、
場違いかな、
と思い悩んでいた。
でも、アトラスに相談すると、
いっておいで。彼女達と仲良くなっておいて損は無いよ。送り迎えは私がしてあげるから、大丈夫だよ。私がついていると言うよりも、見ていてとても楽しそう見えたよ。
私の手を握りながら、薦めてくれた。
ランレイの誕生日パーティーが終わり、ナッジャのお母様が教育係として来て下さるようになった。
ナッジャとは全く似ていない、小柄で丸顔のとても人当たりの良い方だった。先生となるその方にもお茶のお誘いを言うと、良い予行練習になりますよ、
とこちらも薦めてくれたから誘いを受けた。
当日アトラスが送ってくれたのはいいのだけれど、ここは、少し遅刻していく方がいいよ、と私の部屋で寛ぐ始末。
自分よりも上の方から誘われたら、普通は1番に行くのが常識。
あえて遅れていくのは、1番上の人だ。
上の人が先に来たら皆気を遣う。だから、あえて遅刻する。
でも、私は1番下なんだから遅刻したくない!
早く送ってよ、と急かしているのに、出掛けさせてくれなかった。
あいつら程度待たせとけばいいんだ。
いやいや、逆に誰なら遅れず行くのよ!?
と流石に怒って聞いたら、
ルミナだけ、だよ。
とにこやかに言われ、朝から頭を抱える事になった。
「申し訳ありません・・・。こんなに遅刻してしまって」
「よろしいのよ。アトラス様に送って頂いたんですね。では、アトラス様のお考えなのでしょう?」ドレース様。
「お恥ずかしながら、私は早く出たかったのですが・・・。送って貰うのは約束でしたが、アトラスの言う通りにしていたら、遅れてしまって・・・。あ!!いえ、申し訳ありません。言い訳するなどいけませんね!!」
これじゃあアトラスが悪く言われてしまう。
「大丈夫ですよ。誰も咎めたりしませんよ。それよりもそのドレス、アトラス様からでしょう?」デアーナ様。
「はい。そのお・・・皆様上級貴族ですので、相応しい格好で行きなさい、とアトラスがプレゼントしてくれたんです」
先日のドレスのリメイクだ。
「このお土産も、アトラス様からですか?」イヌヤ様。
私が持ってきた手土産がテーブルに広がっている。
「はい。アトラスが用意してくれたんです。私もお勧めですよ。異国の物ですが、とても美味しいチョコレートなんです」
「本当に仲が宜しいですね。こんなお菓子私初めて見ましたよ。やはりあの方は色んな所に精通なさっているのですね」イヌヤ様。
「私も初めて見ました。美味しそうですね。あとアトラス様ね、ランレイ様の誕生日からとても優しくなられたんですよ。皆様驚いておられました」デアーナ様。
「そうなんです。この間なんて、初めてアトラス様から挨拶して頂きました!」 ドレース様。
「私もです!学年が違いますのに、それも、私の顔を見て言って下さったんです。私、はしたないことですが、鼻高々でしたよ!!」イヌヤ様。
「きっと、ルミナ様のお陰ですわ。あんな棘のないアトラス様今まで見た事ありません」
3人が頬を赤らめあんまりにも嬉しそうに言うから、私の方が恥ずかしくなった。
「いや・・・。そんな大袈裟です。と言うよりも、そんなにアトラスは冷たかったのですか?」
「・・・その、内緒ですよ」
「ここだけの話ですよ」
「本当にアトラス様に言ってはいけませんよ」
3人があんまりにも真剣に言うからつい、声を出して笑ってしまったら、3人も笑いながら、アトラスの冷たい態度と、興味のなさの態度を多々教えてくれた。
「意外ですね。確かに怖いと見える時はありましたが、私と一緒にいる時は本当に、大袈裟な程世話をやいてくれるんです」
「そこが私達は、全く思いつかないんです」
イヌヤ様が美味しそうにチョコを口に入れた。
「これ、美味しいです」
可愛らしく頬張りながら最後のそれを口に入れた。
「あ!私も・・・もう少し食べたかったです」
ドレース様が残念そうに口にしたから、イヌヤ様が喉に詰まらせてた。
「大丈夫ですか?」
急いでお茶を渡すと、それを一気に飲み干す。
「はぁ・・・ありがとうございます。ごめんなさい。つい美味しくて・・。」
イヌヤ様がとても申し訳なさそうに言う姿も可愛いが、残念そうなドレース様も可愛い。
「アトラスに、また準備してもらいます」
それは、申し訳ないわ、と言う割には3人とも嬉しそうだ。
「このクッキーも美味しいですよ」
私が違うお菓子を進め、また他愛のない話しで盛り上がり、楽しかった。
コンコン。
扉を叩く音がし、すぐに控えていた召使いが扉を開け話し、その後デアーヌに耳打ちしていた。
デアーヌが目を大きく開け、私を見た。
「愛されておられますね。遠慮なく頂きましょう」
「はい、お嬢様」
デアーヌ様の召使いは恭しく頭を下げ、扉へと向かうと、扉を全開にした。
瞬間香しい薔薇の香りが部屋に広がった。
そうして、華やかで鮮やかな薔薇が次から次へと運び込まれた。思わず立ち上がると、3人も立ち上がり、あっと言う間にサロンが薔薇の花で埋もれてしまった。そうして、召使いがまた恭しく頭を下げ、出ていくとデアーヌ様が立ち上がり私に深々をお辞儀をした。
「本日は素晴らしいおもてなしをありがとうございます」
「・・・ごめんなさい、この後の片付けが大変ね」
私は薔薇に埋まる部屋を見回しながら呟いた。
「面白い事を仰いますね。茶会でこのように素晴らしいおもてなしを、これまでされた方はいらっしゃいませんでした。薔薇は、散るのが美しさです。それに召使いたちに分けてあげれば喜びますわ。どうぞご心配なく」
「これ、毎週貰ったら、同じように思いますか?」
私が皆様を見回しながらそう言うと、固まった。
「デアーヌ様、とりあえずお座り下さい。確かにね、綺麗ですよ。綺麗なんですが、毎週毎週、花さえ違うけど、この倍以上の貰ったら、流石に片付けが大変なんです。アトラスにいらない、と言っているのにどんどん増えるんです。正直、困ってます」
「ソレなら、これからわたしが頂きに行きますよ」
イヌヤ様がはい、と可愛らしく手を挙げて言った。
「あら、それなら私も欲しいです」デアーヌ様。
「私も欲しいです」ドレース様。
「皆様屋敷の庭園がありますよね?」
「こんなに部屋中を同じ花で花で埋め尽くす量をはありませんよ」
「ドレース様の言う通りです。いや、デアーヌ様の言う通り、愛されてますねぇ」
イヌヤ様が少しからかうように仰った。
「昔からですよ」
「それは、昔から愛されている証拠ですね」
ドレース様が穏やかに言うので、恥ずかしくて下を向いてしまった。
少しすると、またノックが聞こえ、扉が全開になった。今度はワゴンに沢山の菓子を乗せて来た。そしてどんどん運び込まれ、私達のサロンが今度は、一瞬にしてお菓子の国になってしまった。
アトラス、これは、やり過ぎよ。
私は恥ずかしいやら嬉しいやらで何も言えなかった。
自分が背後に居ることを知らしめながら、私が見下されないよう固めてきている。
ただ、そんな私を3人が優しい目で見ていたので、益々恥ずかしくなり下を向いたままだった。
「ルミナ様」
「はい?」
デアーヌ様に急に声をかけられてびっくりした。
「アトラス様が屋敷の外でお待ちのようです」
「アトラスが?」
「はい。どうもルミナ様をお連れした後、ずっとお待ちのようです。過保護というか、大変ですね。でも、愛されて羨ましいです」
「ルミナ様が心配だからですよ。帰った方がいいですよ」
「そうですね。お茶会はまた開けば宜しいですもの」
皆様が口々に言うが、その瞳には、下手にアトラスを刺激したくない、という正直な気持ちが見えた。
それは、そうだろう。
屋敷の外で待機している、という事は、私を送った後帰っていないのだ。
だから、先程の薔薇の花を、お茶会の盛り上がる時間だろう時に、登場させたのだろう。
本当ならまだお話しをしたいが、ここで私が留まれば、皆様が気が利かない、とアトラスになじられそうだし、やきもきしながら馬車で待っているアトラスも、可愛そうだ。
もう、仕方ないなぁ。
「名残惜しいですが、ここで失礼致します。また、誘ってください」
私は、立ち上がり皆様の顔を見渡すと、ここは隠さず皆様がほっとした顔を見せてきた。
「勿論ですよ。アトラス様には屋敷の中に入るよう伝えてあります。もう、下で待っておられるかもしれませんよ」
「ありがとうございます。では、皆様、お花とお菓子の処分お任せ致しますよ」
軽くウインクすると、皆様が笑ってくれた。
私は立ち上がり、礼をして部屋を出ると足早に玄関ホールに向かうと、本当に、アトラスが迎えに来てくれていた。
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