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「でも、会いに来るのは程々でいいよ。受験生なんだから、勉強して欲しいもの」
「大丈夫。馬車の中で予習復習はしているから。私にとっては、ルミナの方が大切だよ。それに、勉学が疎かな恋人なんて男じゃない。全てにおいて完璧な男になってこそ、真の紳士だと思っているんだ」
「アトラスは十分完璧だよ。顔よし、頭よし、爵位よし、の3拍子揃っているもん」
「嬉しいよ!ルミナにそんな風に思って貰えるなんて私は幸せ者だ。そうだ!ルミナが私の事を認めてくれたこの日を記念日にしよう!」
爽やかに意味のわから無いことを言い出した。
うん。そのウザイ性格以外は完璧だね。
「つまんない冗談言わないでよ」
「冗談?どの辺にあった?私は毎日が記念日にしたいんだよ。その為には些細な事だと思われるかもしれないけど、私にとってさっきの言葉はとても重要な言葉だったよ」
吸い込まれそうなほど純粋に光る青い瞳に見つめられて、思わず顔をしかめたのは仕方がないと思う。
「好きにして」
結局こう答えるしかないのだ。
「ありがとうルミナ。じゃあそろそろ帰るね。また、明日ね」
ぎゅっと私の手を握ってくる。
「はいはい」
「週末は、仕立て屋に行こう。ルミナのドレスはほぼ出来上がっているのだけれど、デザイナーは最終確認の為にルミナの採寸をしたいそうなんだ」
「はいはい」
「その後は、ランレイが薦めてくれたタルトの美味しいお店に行こう」
「タルト?ランレイのお薦め?それは楽しみだわ」
素直に答えると、アトラスは不貞腐れたように口を曲げた。
「私と出かける事よりもランレイの方が気になるのかい?」
「拗ねないで。どっちも楽しみよ。アトラスのセンスの良さは知ってるから、きっと素敵にドレスに仕上がっていると思うし、ランレイは私がタルトを好きなのをしっているから、楽しみなの。それに、デートなんでしょ?2人きりなんでしょ?」
アトラスは、パッと明るい笑顔になった。
単純で扱いやすいと言えばそれまでだが、まぁそこが可愛いところでもある。
「初デートだね。そうだ、この日も記念日に入れておくね」
「はいはい。わかったわ」
ぞんざいな私の返事なのに、とても嬉しそうに私を軽く抱きしめた。
「クリスの事は任せておいて。どうにかする」
事も無げに言うと、私から離れ立ち上がった。
「本当に?」
「大丈夫、約束する。ルミナが悲しむ姿は見たくないからね」
力強い眼差しで宣言されて、少しだけ心が落ち着くのを感じた。
「ありがとう。でも、無理ならいいからね。本当なら自分でどうにかしなくちゃいけないんだから」
「違うよ。ルミナは悪くない。悪いのは人のモノに手を出したゴミ女だ」
見上げると、普段の優しい穏やかな微笑みの中に、真逆の荒々しい空気が、彼の周りに渦巻いているような錯覚すら覚えてしまう雰囲気を纏っていた。
何に対して機嫌悪くなっているのかわかる。
幼い時から家族よりも、更に過保護に私を扱うアトラスは、私に害を成すものに対して、ゴミ、と称した。
「片付けようか?」
言魂を紡ぐかのように静かに呟く。
「冗談でもそんな事言わないでよ。私のために怒ってくれる気持ちだけで十分だから」
「ルミナは本当に優しい子だね。そうだね。所詮ゴミはゴミだ。何もしなくても、勝手にそれ相応の場所に片付けられるよね」
いつもの優しい笑みを浮かべ、頭を撫でてきた。
「どういう意味?勝手に?」
「ともかく、私は何も手は出さないよ。そうだ。教育係の方が今の令嬢を最後まで教育したいと仰っていて、こちらに来られるのがランレイの誕生日パーティーが終わってからになりそうなんだ。ごめんね」
「ううん、そんな事ないよ。その方はとても責任感がある方なのよ。ちなみに誰を教えてるの?」
「レミントン・フィラデル様だよ」
その名を聞いて、私は固まった。
フィラデル公爵家の嫡女で、私の記憶が正しければ隣国の王太子に嫁ぐ予定になっているはずだ。
「そ、そんな凄い人なの!?」
「どうだろう?これも、ランレイが薦めた方だから、間違いはないけど、本当なら必要ないと思うんだ。だってね、ルミナだよ。可愛くて、素晴らしいルミナだよ。
何をしても私は許せるし、何をしても愛おしく感じるのに、型にはまった礼儀作法や知識なんか学んでも無駄だと思うんだ。それじゃあルミナの素直さが半減してしまうよ。そのままの姿がルミナてあって、文句言う輩は私が潰すよ」
爽やかな顔で物騒なことを言い出した。
アトラスの恋人になるにはそれなりにしないといけないから教育係を頼むと言っていたのに、支離滅裂だ。
私の為にランレイが動いてくれたのだろう。
「大袈裟なこと言わなくてもいいよ。ともかく頑張るよ」
「ありがとう。もっと素敵なルミナになるよ。でも、私が1番ルミナの良さを知ってるよ」
「はいはい」
そうだね。
「じゃあそろそろ帰るよ」
「うん、じゃあね」
名残惜しそうに部屋を出ていった。
毎度毎度激甘だわ。
あんなに優しくされたら、私以外なら本気で勘違いしそうになるよ。
私以外の女性。
考えると、胸がつかえるような苦しさを覚え、手で押さえた。
なんだろこれ?
アトラスの事を考えて、こんな気分になるなんて初めてだ。
なんだがイライラしてきた。きっと、アトラスの激甘に精神的に疲れたからだわ。
そうよ。
そう言い聞かせながらも、週末アトラスとのデートが楽しみだった。
「大丈夫。馬車の中で予習復習はしているから。私にとっては、ルミナの方が大切だよ。それに、勉学が疎かな恋人なんて男じゃない。全てにおいて完璧な男になってこそ、真の紳士だと思っているんだ」
「アトラスは十分完璧だよ。顔よし、頭よし、爵位よし、の3拍子揃っているもん」
「嬉しいよ!ルミナにそんな風に思って貰えるなんて私は幸せ者だ。そうだ!ルミナが私の事を認めてくれたこの日を記念日にしよう!」
爽やかに意味のわから無いことを言い出した。
うん。そのウザイ性格以外は完璧だね。
「つまんない冗談言わないでよ」
「冗談?どの辺にあった?私は毎日が記念日にしたいんだよ。その為には些細な事だと思われるかもしれないけど、私にとってさっきの言葉はとても重要な言葉だったよ」
吸い込まれそうなほど純粋に光る青い瞳に見つめられて、思わず顔をしかめたのは仕方がないと思う。
「好きにして」
結局こう答えるしかないのだ。
「ありがとうルミナ。じゃあそろそろ帰るね。また、明日ね」
ぎゅっと私の手を握ってくる。
「はいはい」
「週末は、仕立て屋に行こう。ルミナのドレスはほぼ出来上がっているのだけれど、デザイナーは最終確認の為にルミナの採寸をしたいそうなんだ」
「はいはい」
「その後は、ランレイが薦めてくれたタルトの美味しいお店に行こう」
「タルト?ランレイのお薦め?それは楽しみだわ」
素直に答えると、アトラスは不貞腐れたように口を曲げた。
「私と出かける事よりもランレイの方が気になるのかい?」
「拗ねないで。どっちも楽しみよ。アトラスのセンスの良さは知ってるから、きっと素敵にドレスに仕上がっていると思うし、ランレイは私がタルトを好きなのをしっているから、楽しみなの。それに、デートなんでしょ?2人きりなんでしょ?」
アトラスは、パッと明るい笑顔になった。
単純で扱いやすいと言えばそれまでだが、まぁそこが可愛いところでもある。
「初デートだね。そうだ、この日も記念日に入れておくね」
「はいはい。わかったわ」
ぞんざいな私の返事なのに、とても嬉しそうに私を軽く抱きしめた。
「クリスの事は任せておいて。どうにかする」
事も無げに言うと、私から離れ立ち上がった。
「本当に?」
「大丈夫、約束する。ルミナが悲しむ姿は見たくないからね」
力強い眼差しで宣言されて、少しだけ心が落ち着くのを感じた。
「ありがとう。でも、無理ならいいからね。本当なら自分でどうにかしなくちゃいけないんだから」
「違うよ。ルミナは悪くない。悪いのは人のモノに手を出したゴミ女だ」
見上げると、普段の優しい穏やかな微笑みの中に、真逆の荒々しい空気が、彼の周りに渦巻いているような錯覚すら覚えてしまう雰囲気を纏っていた。
何に対して機嫌悪くなっているのかわかる。
幼い時から家族よりも、更に過保護に私を扱うアトラスは、私に害を成すものに対して、ゴミ、と称した。
「片付けようか?」
言魂を紡ぐかのように静かに呟く。
「冗談でもそんな事言わないでよ。私のために怒ってくれる気持ちだけで十分だから」
「ルミナは本当に優しい子だね。そうだね。所詮ゴミはゴミだ。何もしなくても、勝手にそれ相応の場所に片付けられるよね」
いつもの優しい笑みを浮かべ、頭を撫でてきた。
「どういう意味?勝手に?」
「ともかく、私は何も手は出さないよ。そうだ。教育係の方が今の令嬢を最後まで教育したいと仰っていて、こちらに来られるのがランレイの誕生日パーティーが終わってからになりそうなんだ。ごめんね」
「ううん、そんな事ないよ。その方はとても責任感がある方なのよ。ちなみに誰を教えてるの?」
「レミントン・フィラデル様だよ」
その名を聞いて、私は固まった。
フィラデル公爵家の嫡女で、私の記憶が正しければ隣国の王太子に嫁ぐ予定になっているはずだ。
「そ、そんな凄い人なの!?」
「どうだろう?これも、ランレイが薦めた方だから、間違いはないけど、本当なら必要ないと思うんだ。だってね、ルミナだよ。可愛くて、素晴らしいルミナだよ。
何をしても私は許せるし、何をしても愛おしく感じるのに、型にはまった礼儀作法や知識なんか学んでも無駄だと思うんだ。それじゃあルミナの素直さが半減してしまうよ。そのままの姿がルミナてあって、文句言う輩は私が潰すよ」
爽やかな顔で物騒なことを言い出した。
アトラスの恋人になるにはそれなりにしないといけないから教育係を頼むと言っていたのに、支離滅裂だ。
私の為にランレイが動いてくれたのだろう。
「大袈裟なこと言わなくてもいいよ。ともかく頑張るよ」
「ありがとう。もっと素敵なルミナになるよ。でも、私が1番ルミナの良さを知ってるよ」
「はいはい」
そうだね。
「じゃあそろそろ帰るよ」
「うん、じゃあね」
名残惜しそうに部屋を出ていった。
毎度毎度激甘だわ。
あんなに優しくされたら、私以外なら本気で勘違いしそうになるよ。
私以外の女性。
考えると、胸がつかえるような苦しさを覚え、手で押さえた。
なんだろこれ?
アトラスの事を考えて、こんな気分になるなんて初めてだ。
なんだがイライラしてきた。きっと、アトラスの激甘に精神的に疲れたからだわ。
そうよ。
そう言い聞かせながらも、週末アトラスとのデートが楽しみだった。
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