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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-22

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宴会場『ダイダロス』の間

 シレーヌに三船兄弟を紹介された静流。
 そこに現れたのは、聖アスモニア修道魔導学園の寮長であり教師でもある、エスメラルダ・ローレンツだった。
 従軍経験があり、退役時の階級は『准将』である。
 故人である三船兄弟の長男である一郎は、かつてエスメラルダとバディを組んでいた。

「りょ、 寮長先生!?」 
「チッチッチ、学園の外では寮長ではないの。 私の事は『エスメ』って呼んで頂戴♡」
 
 エスメラルダはそう言って、静流にウィンクした。
 学園では特に着飾る事は無く、静流には地味目の印象であったエスメラルダは、見違えるほどに綺麗だった。
 普段から派手な容姿のシレーヌと比べても、全く遜色がなかった。

「エスメ姉様、 今日は一段と気合入ってるわよねぇ?」
「当たり前よ♪ 今夜は特別な夜になる予感がするの♡」

 元男と年配の女性二人が話している様は、その口調のせいもあり、違和感が凄まじかった。

「りょ……エスメさん、 とっても綺麗です。 一瞬どなたかわかりませんでしたよ?」

 留学中のエスメラルダしか知らない静流は、お世辞抜きに素直な感想を述べた。
 エスメラルダは以前、リリィ経由で入手した五十嵐家の『霊毛メイクブラシ』によって、体の隅々の細胞が活性化され、みずみずしさを取り戻したのだ。

「あらやだ♡ 嬉しい事言ってくれるわね♡」ベシッ
「げふぅっ!」

 静流の肩をエスメラルダのスナップを効かせた右手が襲った。 
 軽く当たっただけに見えたが、静流は少なからずダメージを受けたようだ。

「アンタたちの顔を見るのは口実で、 本当はシズルがココに来るって情報を耳にしたからなの♡」
「あらら、 アタシたちったらダシに使われちゃったってワケね?」
「そんな事どーでもイイわよ。 さ、 コッチで飲み直しましょ♡」

 まだダメージから回復していない静流を、強引に自分の席の方に連れて行こうとするエスメラルダ。

「つ、連れがいますんで、 僕はソッチに行きたいんですけど……」
「む? 何よ『連れ』って?」

 今まで緩みっぱなしのエスメラルダの顔が、急に引き締まった。

「あそこの席にいる僕の友人といとこですよ……」

 静流の指さす方を見て、エスメラルダは眉をひそめた。

「ふぅむ……オスか。 じゃあ許す♡」

 そう言った瞬間、静流の身体が宙に浮き、一瞬で静流の席に移動した。 

「え? あ、 あれ?」
「コレでイイでしょ? ウフ♡」
 
 静流の隣の席には八郎が座っていた筈たったが、そこにはエスメラルダが座っていた。

「ハチ……お酒」ギロ

 エスメラルダが流し目で見た先にいた八郎は、直立不動で顔に脂汗をかいていた。

「へ、ヘイ! 只今お持ちします!!」スタタタ

 司令クラスの高級将校を顎で使う謎の美女を、薫と達也がいぶかしげに見ていた。

「あ、 こちらエスメラルダさん。 学園でお世話になったんだ」

 はっとした静流が慌ててエスメラルダを紹介すると、エスメラルダはつまらなそうに会釈した。

「どぉうも」

 そんな態度に苦笑いしながら、静流は達也たちをエスメラルダに紹介した。

「コッチがクラスメイトの達也。 でコッチがいとこの薫さんだよ」
「ど、 どうも。 つ、 土屋達也、 です……」
 
 達也は先ほどの八郎とのやり取りを見ているので、起立してカチコチに緊張しながら名乗った。

「五十嵐、 薫だ……」

 薫は達也とは違って、席に着いたままでエスメラルダに鋭い視線を送りながら名乗った。
 暫くの沈黙の中、二人の間に険悪なオーラが漂っていた。
 その時間は数十秒あるかないかで元に戻った。

「ふむ。 悪くない殺気だ。 だが温い」

 エスメラルダは周囲にやっと聞こえる位の小さい声で呟いた。

「エスメ姐さん! お飲み物をお持ちしやしたぁ!」ドンッ

 八郎が色んな酒をお盆に乗せ、エスメラルダの前にどかっと置いた。

「ご苦労。 下がって良し」
「へいっ!」スタタタ

 解放された八郎が、一目散に自分の席に戻っていった。
 さっきまでいた筈の三郎とシレーヌは、知らない内に自分の席に戻っていた。

 ぷつっと緊張の糸が切れると、薫が急にうなだれた。

「……くっ、 只もんじゃねぇ……格が違い過ぎるぜ……」
「ア、アニキ……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



宴会場『プロメテウス』の間

 睦美が合図した瞬間、飛び出したのは二人の薫だった。
 雪乃とリナは、目が飛び出しそうな勢いで驚いているが、何やら嬉しそうだ。

「「お前たち、 これから俺が相手をするから、 覚悟しやがれ!」」

 二人の薫は、リナと雪乃、それぞれを指差し、言い放った。

「「は、 はいぃぃ~♡♡♡」」 

 すると、たちまち両目がハートマークになっているリナと雪乃。 

「それではお姉さま方はあちらで、 ごゆっくりどうぞぉー♪」

 睦美がそう言うと、薫たちはそれぞれの手を引き、いつの間にか用意されていた四人テーブルに誘導していった。

 一連のやりとりを見て暫くフリーズしていた他の者たちが、次第に正気を取り戻した。

「あれは、 静流クンのプレゼントの一つなの?」ざわ…
「って事は、 私たちのプレゼントはもしかして?」ざわ…

 睦美はわざとらしく咳ばらいをしたあと、ドヤ顔で言った。

「コホン、 えー先程のダブル薫氏は、 薫氏が練習で生み出したご自分のレプリカでございます」

「「「「おぉ……」」」」

 静流と同等かそれ以上の魔力を有し、さらに実戦経験が豊富な薫だからこその結果である。

「睦美! 勿体ぶらんでプレゼントとやらを早う持って来んか!」

 若干顔を赤らめたメルクが騒ぎ出した。

「あーはいはい……準備は? OK……」

 睦美はスタッフと確認を取り、一同に向き直った。

「お待たせいたしました! 準備が出来たようです。 お願いしますっ!」パチン

 睦美が指パッチンをすると、二台の台車が運ばれて来た。 
 大人が横になれる程の台車には、金ピカのクロスが掛かっている。


「「「「おぉ……」」」」


 中央の空間に、一台ずつ台車が置かれ、左京と素子がそれぞれの傍に片膝をついていた。

「静流キュンからの私たちへのプレゼント、 それは……」バサッ

 目くばせで左京たちに合図を送ると、二人がクロスを一気に引きはがした。

「現地漁協の協力で仕入れた海の幸をふんだんに使った『男体盛り』でございます!!」


「「「「うっほぉぉぉぉ~♡♡♡」」」」


 一糸まとわぬ男の身体一面に、刺身や海産物がこれでもかと盛り付けてあった。
 顔にも刺身が綺麗に並べられ、顔の輪郭と髪の毛くらいしかわからなかった。

「も、もしかしてこのお方は……」
「夢? 違う! これは現実よ!」

 二体の男体盛りは、それぞれ違ったベースを使っていた。
 暫く見惚れている一同に、睦美が補足した。

「今回の趣旨として、 ヤングチームには『ダッシュ7様バージョン』、 アダルトチームには『七本木ジン様バージョン』を取り揃えました!!」


「「「「きゃっふぅぅぅん♡♡♡」」」」
 

 プロメテウスの間が、興奮で沸き上がった瞬間だった。
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