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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-12

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保養施設内 リラクゼーションルーム


「「「「来たぁぁぁーっ」」」」


 スタッフルームから出て来たシズルーに、夫人たちは絶叫した。

「きゃあ! シズルーさまぁ♡ こっち向いてぇん♡」
「娘に聞いた通りのイケメンだわぁ。 ゾクゾクしちゃう♡」
「どこか似ている……あの方、 ジン様に♡……ああっ、 素敵♡」

 言いたい放題の夫人たちに、シズルーがゆっくりと口を開いた。

「要請により参上した、 シズルー・イガレシアスである。 このような所で仕事をするのは初めてである為、無作法を許して欲しい……」

 シズルーはそう言って、夫人たちに頭を下げた。 

「きゃあ♡ 素敵なお声……はうっ」
「イイ……イイわぁ……許す、 許しますとも!」
「『初めて』ですってよ? ああっ! シズルー様の初めてになれるなんて……光栄だわぁ♡」

 夫人たちが騒いでいる中、顔を手で覆い、目を潤ませている者がいた。

「うわぁ、 上の上、 ガチでSSSランクね。 指名料幾ら掛かるの!?」

 カミラは独自の基準でシズルーを品定めした。
 隣のジョアンヌに目を向けると、ジョアンヌは肩を小刻みに震わせていた。

「ひくっ……」
「ジョアンヌ!? アンタ泣いてるの?」
「間違いない……あの方だ」

 ジョアンヌはそう呟き、シズルーを目で追っている。

「ジョアンヌ、 マジで色恋だったの? まぁ、 あのルックスじゃあイチコロか……」 

 シズルーの容姿を褒めたカミラに、ジョアンヌは即座に反応した。

「そんなんじゃない! あの方は私の生き方を変えてくれた方なの! そりゃあ見た目も素敵だけど……」
「ふぅん。 それは楽しみ♡ お手並み拝見といくか」

 カミラはそう言って、舌なめずりした。

「これより、 我らがシズルー大尉殿による『施術』を行います!」ヌフゥ



              ◆ ◆ ◆ ◆



浴場 男女混浴エリア――

 メルクたちは、撮影スタッフを率いて水着着用で入る『混浴エリア』に来ていた。
 一番広い円形の浴槽にはジャグジーが付いている。
 その周りを、いろんな成分の温泉や紅茶風呂、ジェットバス等もある。

「おいシズム! 次はアレに入るぞ!」
「ええ? もう次ぃ?」

 メルクがシズムの手を引き、色んな風呂を試している。

「イイです! このナチュラルな色気……ナイスです!」

 右京は夢中でシャッターを切っている。

「右京氏ぃ、コッチも撮ってくださいよぉ!」
「私らの存在、 忘れてませんかぁ?」
「はいはい。 忘れてませんよぉー」
「もう! 頼みますよぉ?」

 頬を膨らませた白黒ミサたちが、右京にツッコミを入れた。
 その様子を少し離れた所で見ている鳴海が大きく頷いて言った。

「滑り込みで撮影許可をもらって正解だったわね」

 その奥では、数人の男女が騒いでいた。
 施設の名物である電気風呂がある方角だった。

「おぉ……ジンジン来るぜ」
「あ、アニキ……俺もう我慢出来ないッス」
「だらしねぇな? 男だろ?」
「リナの姐御、 そんな事言ったって、痛い痛い!」
「ダンジョンのトラップはこの数倍痛いわよ? アナタに耐えられるかしら?」
「雪乃お姉様、 ダンジョンに行く予定、 俺無いっす……」

 電気風呂には達也と薫、それにリナと雪乃が入っていた。
 苦痛に顔を歪めている達也。
 達也以外は、涼しい顔で肩まで湯船に浸かっている。

「も、もう出ますぅ」
「ダメ。我慢なさい」
「うう、もう我慢出来ない!」バシャ
「おい! 気を付けろよ! 顔にかかったぞ?」
「す、すいません姐御」

 たまらず電気風呂から飛び出た達也。
 となりの緑茶風呂には美千留とカナ子がいて、今のやり取りを冷ややかに見ていた。

「ツッチー、 しず兄以下。 ダサ過ぎ」
「今のやりとり、音声だけ聞くと卑猥だよね……」

 そのまた隣の濁り湯に浸かっていたのは、真琴、朋子と蘭子、ヤス子だった。

「しかし蘭の字、リナ姉が無事で良かったな?」
「ああ。 そうだなヤス……」
「あとで聞かせてもらおうぜ? 『冒険談』」

 ヤス子はそう言ってウィンクした。

「真琴ぉ、 お肌スベスベだね ん?」

 朋子がふと真琴を見ると、真琴は天井の方をぼんやりと見ていた。

「真琴? のぼせた?」
「ううん。 アイツ、 今何やってるのかなぁーって……」

 カナ子が美千留に聞いた。

「そう言えば美千留ちゃん、 静流お兄様は?」
「オバサン相手に、 仕事してる」

 美千留は頬を膨らませて、不満げに言った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



保養施設内 リラクゼーションルーム

 シズルーの『施術』が始まろうとしていた。

「ついに始まるのね? 『施術』が♡」
「うはぁ、 たまらないわぁ♡」

 シズルーが皆の前で語り始めた。

「私はかつて女神の加護を受けた。 その際の恩恵により、 少しの間だけ女神と【同調】し、 権能の一部を発動する事が可能である」

 ここで言葉を切り、真剣なまなざしで夫人たちを見る。

「これより、皆に女神の『祝福』を与える! 心して受けよ!」


「「「「「きゃはぁ~ん♡」」」」」


 シズルーは目を閉じ、精神統一している。

「何が始まるんだろ? ワクワク」
「しぃっ! 静かにして!」

 ゆっくり目を開いたシズルーは、おもむろにサーベル軍刀を抜いた。そして、


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」


 シズルーは縦横にサーベルを振り、いわゆる九字を切った。
 そしてサーベルを横に持ち、操作パネルをいじる。

  
「セタッープ」パァァァ!


 シズルーがそう唱えると、全身が桃色のオーラに包まれる。
 オーラが次第に薄くなり、中からビキニアーマーを装着した、桃色の髪の女神が現れる。

「女神……様?」
「シズルカ様よ! ネットで見たのと同じ!」
「ああ、なんと言う幸せ……」

 夫人たちは驚くほど自然に、ほぼ同時にマッサージ椅子に正座した。
 シズルカはサーベルを空に向け、四角形を描き、少女のようなカワイイ声で叫んだ。

「受けるがいい! 【エリア・弱キュア・ヒール】!!」ファァァァ

 空に描いた四角形から、桃色のオーラが降り、一同を包み込む。


「「「「「ぱぱ、ぱっひゅうぅぅぅーん♡♡♡」」」」」


 桃色のオーラを浴び、夫人たちが悶え始めた。

「ああん、 か、 身体が……熱い」
「体の中から、 何かが出ていくぅん」

 しばらく桃色のオーラに包まれていた一同。やがてオーラが消える。

「解除!」シュン

 そう言って操作パネルをいじり、シズルーに戻る。 
 暫しの静寂があり、一人の夫人が口を開いた。 

「お肌のキメが……整ってる?」

 他の者たちも、施術の効果が出始めた。

「肩が……軽くなった?」
「足のむくみが……ひいた?」
「あら奥様、目の下のクマが消えてますわよ?」
「奥様こそ、ほうれい線が綺麗に消えてますわ?」
「吸いつくような張りのある瑞々しいお肌……潤ってるぅん」
「肌年齢、 100歳は若返ったわぁ♡」

 それぞれが自分に起きた『奇跡』を実感して、狂喜乱舞している。

「さっき、おっぱいが熱くなったのよね……ん?」

 カミラは浴衣をはだけ、自分の胸をチラ見した。

「噓でしょ!? 黒ずんでたビーチクが……鮮やかなピンク色になってる!」

 カミラは興奮気味にジョアンヌに言った。

「それが『施術』の効果よ。 でも、それだけじゃないの。見て?」 

 ジョアンヌは浴衣の裾をめくって、カミラに太ももを見せた。
 それを見たカミラは、驚愕の表情を浮かべた。

「え? 嘘? 何で『アレ』が消えてるの?」
「自分のも見て見なさいよ。 驚くわよ?」

 カミラは慌てて、自分の浴衣の裾をめくり、恐る恐る覗き込んだ。

「え? こんな事って……信じられない」

 ジョアンヌは穏やかな顔で、カミラに言った。

「これが、あの方の起こす『奇跡』よ」
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