上 下
442 / 520
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-17

しおりを挟む
国分尼寺魔導高等学校 2-B教室 終業式―― 

 追試ミッションをクリアし、何とか無事に終業式を迎える事となった静流たち。

「ふう。 何はともあれ、 お疲れ様」
「今回はホントに助かった。 サンキューな! 静流!」バシッ

 そう言って達也は、静流の肩を叩いた。

「つっ! 僕はただ手伝っただけで、 結局はみんなが頑張った結果でしょう?」
「それでもだよ。 いやぁ楽しみだなぁ、 忘年会」
「あんまり期待しない方がイイと思うよ?」

 達也は目をギラギラさせながら、両手を握りしめた。

「なんたって『アノ学園』のプリチーでセクスィーなヒロインたちに、 統合軍のお色気お姉様軍団だろ? こりゃたまらんわぁ……」

 そう言って達也は、握っていた拳をわきゃわきゃさせた。

「達也……軍の方たちはあくまでも『目の保養』程度にしておけよ? あの人たちは戦闘のプロだからな?」
「お? おぅ。 そんなにヤバいのか?」
「そりゃあもう。 ただでさえヤバいのにお酒が入ったら、 ゾンビみたいに襲って来るぞ? 出来るなら僕は関わりたくないな……」
「うぇぇ、 宴会は早めに切り上げた方がイイみたいだな……」

 静流の狼狽え方を見て、達也は背筋に悪寒が走ったのか、ぶるっと身震いした。

「ま、 それ以前に僕は招待する側だから、 あまり楽しめそうにないけどね……」

 静流がどこか寂しそうにそう言ったのを、真琴は見逃さなかった。

「そう言えば達也、子ロディに何を頼んだの?」

 達也たちは、追試を無事突破した報酬として、子ロディに一晩だけ指定した容姿に変身してもらう事になっていた。

「親ロディ様に聞いてないのか?」
「特に報告が無かったから、 想定内で済んだんだろうって思ってた」

 達也は後頭部を搔きながら、照れくさそうに言った。

「監視の目が入ってると思うと、 どうにもブレーキがかかっちまってな……」
「で? アンナに変身させたの?」

 珍しくグイグイ迫る静流に、達也は苦笑いしながら答えた。

「結局、 ナース姿のアンナ様に膝枕で耳掃除してもらってたらそのまま寝ちまった……」 
「ププーッ! 何それ? 達也の事だから、 一緒にお風呂にでも入ったのかと思った」
「……監視さえなきゃな」

 終業式が終わって帰りのHRが終わるなり、真琴は足早に教室を出た。

「静流、 ちょっと用事があるから先に帰ってイイわよ?」
「用事? 何の?」
「イイから! ほれほれとっとと帰った帰った!」

 そう言って真琴は、静流に向かって右手を払った。

「わかったから、 行こうぜ達也」
「おぅ。 本屋で立ち読みでもしてくか?」
「そうだな。 忘年会の段取りは睦美先輩に丸投げしちゃったし」



              ◆ ◆ ◆ ◆



桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――

 真琴はノックしたあと、睦美のオフィスに入った。

 コンコン「どうぞ」
「失礼します」

 部屋に入ると、いつものように睦美が『あのポーズ』で真琴を迎えた。

「やぁ真琴クン。 キミ一人で来るなんて珍しいね?」
「静流は先に帰らせました。 折り入って相談があるのですが」
「何だね? これから忘年会の段取りで如月少佐と打合せをするのだが?」
「正に、 その忘年会の件です!」

 真琴は睦美に、静流にとって忘年会が重荷になっている事を説明した。

「成程な。 殆ど女所帯でしかも年上ばかりを相手にしなくてはならない状況は、 確かに心身共にリラックス出来るワケがないな……」

 説明を聞いた睦美は、少し考えたあとゆっくりと真琴に語り始めた。

「実はな、私も悩んでいたのだよ。 主に宴会時の『殿方』の扱いについてな……」

 状況的に9:1で女性の方が多い状況下で、静流を含めた男性客は肩身が狭くなる事必至である。

「と言うわけで、 何度も保養施設を利用されている少佐に相談に乗ってもらうつもりだ」

 睦美はPCのビデオ通話ソフトを立ち上げ、アスガルド駐屯地のアマンダに繋いだ。
 アスガルドは日本と6時間程度時差がある為、向こうは早朝のはずである。

〔ん、ふぅ……なぁに? こんな朝早くぅ……〕

 モニターには黒いレースの下着がスケスケのベビードール姿のアマンダが、後頭部を掻きながらPCの前に座った。

「おや? この時間で合っていますよね? 柳生睦美ですが」
〔あぁ……そうだったわね。 昨夜ちょっと飲み過ぎてね……〕

 アマンダは横にあったミネラルウォーターの飲みかけを一気にあおった。

〔ふぅ……で、 アノ件でしょ? 保養施設の忘年会〕
「そうです。 予定参加人数はメールした通りです」
〔リスト見たけど結構な大所帯よね? ま、 ハコは無駄にデカいから問題ないケド〕

 睦美は早速本題に入った。

「目下の所、 問題は宴会時の男どもの処遇なのですが。 現在男女比が9:1で女が多く、 これではお互いに楽しめないと思うのです……」
〔フム。 私たちは特に気にしないケドね。 どうせ酒が入ったらムチャクチャになるだろうし……〕
 
 アマンダは少し考えたあと、何かを思いついた。

〔そうだわ! この手を利用するか……〕
「何かイイ案があるのですか?」

 睦美がそう聞くと、アマンダは悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた。

〔実はね、クリストマス・イヴの当日、ウチらの他にもう一組団体が入ってるの〕
「はぁ。 むしろ一組で済んでいるのが不思議な位ですがね。 書き入れ時でしょうに……」 
〔その団体ってのがミソなの。 司令官クラスのお偉いさんたちが大集合なのよ〕
「それは豪勢ですね。 して、 その団体をどう利用するのですか?」
 
 完全に目が覚めたアマンダは、ドヤ顔で続けた。

〔高級将校どもは基本夫婦で参加していて、宴会時は夫婦別行動なの。 旦那どもは奥様が用意したコンパニオンをあてがわれてデレデレしてる間に、奥様達は例の『施術』を受ける手はずになってるわ〕
「『施術』とは、 静流キュンの?」
〔そう。 VIPカード発行時の約束でね。 お陰で宿泊代諸々がタダで泊まれるの〕

 ここまでの説明でも、アマンダの意図が読めない睦美。

「フム。 あるいはと思うのですが、 ウチの男どもをその高級将校の宴会に参加させる……とか?」
〔正解! 厄介払いが出来る上に、 将校クラスの宴会に参加出来るなら御の字でしょう?〕
「確かにそうでしょうが、 それでは静流キュンが楽しめないと思うんですが……」
〔大丈夫♪ 彼、 使えるんでしょう? 【複製】だったかしら?〕

 アマンダは先ほど思いついた策を睦美に説明した。

〔ね? この作戦なら静流クンも心置きなく聖夜を満喫出来るでしょう?〕
「成程。 確かにその案ならイケますね」

 そこで、今まで黙って見ていた真琴が、画面に向かって話しかけた。

「でも、 それって結局、 やっぱり静流の負担が大きいですよね?」
「うむ。 確かに真琴クンの言う通りだが、 この状況ではある程度は仕方ないだろう?」

 二人が言い争っているのをモニターで見ながら、アマンダは呟いた。

〔その問題もあるケド、 もう一つあるのよね……不安要素〕

 その呟きに、二人が食いついた。

「まだ何か問題が?」
「え? どう言う事?」

 次にアマンダは言った。

〔その日はね、 あの『三船兄弟』が勢ぞろいするのよ。 しかも『あの方』も呼ばれてるとか……何も起こらなければイイけど〕
「三船兄弟だって!? と言う事は校長もか……」

 三船兄弟とは、軍や警察、はたまた芸能プロダクションと、多岐にわたって第一線で活躍している兄弟である。

「すいません、『あの方』ってどなたです?」

 真琴は首を傾げ、アマンダに聞いた。

「聞いた事無い? 今はあの学園で寮長をやってる元准将閣下、『エスメラルダ・ローレンツ様』よ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

クジを引いたら幼馴染と異世界に来て能力身につけた

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:61

斎王君は亡命中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:2

愚者の狂想曲☆

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:311

召喚勇者の餌として転生させられました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,462pt お気に入り:2,248

イートターンセックス 食事と性的な事が入れ替わった世界

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:47

さようなら旦那様

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:47,874pt お気に入り:449

処理中です...