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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-1

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国分尼寺魔導高等学校 2-B教室――

 柳生家訪問イベントの直後に行われた期末テストの結果が出た。
 二学期の最終イベントである、期末テストの結果が廊下の掲示板に張り出されていた。
 本校では総合得点の上位50位までが張り出される。

「大変だぁ! 大変だぞ静流!」

 教室に血相を変えた達也が飛び込んで来た。
 相変わらず机に突っ伏している静流は、怪訝そうな顔で達也に言った。

「何だよ……これ以上面倒事は御免だぞ?」
「お前、 期末の結果、 自己採点どうだった?」

 達也は息を切らせながらそう言った。

「期末? 別に? 大した事無かったと思うけど?」
「本当に、 大した事無かったのか?」

 達也の顔が尋常では無い事に気付いた静流。

「え? 赤点は無かったはずだよな……うっ! 名前、書き忘れたとか……?」

 達也のを見て、急に不安になる静流。

「ちげぇよ……お前の総合得点、 学年で5位だったぞ?」
「ふーん、 5位か……って、 えぇー!!」

 慌てて飛び起きた静流は、廊下に出て掲示板に急いだ。

「げ。 ホントに5位だった……」
「な? ホントだったろ?」

 二人で掲示板の張り紙を見て、呆然としていた。

「下から数えて50位以内だったら、余裕で入る自信あったんだけど……」
「どんな魔法を使った? 【透視】か? 【時間停止】か?」
「そんなの使ってない! 大体、 試験中は【魔法キャンセラー】が働くんだから無理だろうに!」

 二人の掛け合いに割り込んだ者がいた。

「頑張ったわね。静流」

 横から声をかけてきたのは、真琴だった。

「あたしってば古文の引っ掛けにまんまとやられたのよね……」

 掲示板をもう一度見ると、真琴は7位だった。

「負けちゃった。 テストの成績だけは負けない自信、 あったんだけどな……」

 そう言って真琴は、掲示板をうつろな目で眺めていた。

「違う! これはまぐれだ! シズムのヤマがあたっただけだ!」
「そうだよね……シズムちゃんは完璧だもんね……」

 ちなみにシズムの順位は、3位だった。
 廊下の端っこで、シズムが女子に囲まれていた。

「スゴぉい! タレントの仕事やってるのに、いつ勉強してるの?」
「えっとぉ、 移動中のロケバスとか? わかんない所はマネが親身になって教えてくれるの」
「イイなぁ~。 冬休みはグラビア撮影で南の島に行くんでしょお?」
「うん♪ 楽しみぃ♪」

 そんなシズムを見て、真琴は悔しそうに静流に言った。

「バカな事言わないで! まぐれで総合5位なんて、 取れるワケ無いでしょ!」
「そうか……そうだよなぁ」
「そうよ! これが静流の今の実力なの。 いい加減認めなさいよ?」
「あ、 ありがとう……」
「よろしい。 帰るわよ!」

 そう言ってズンズンと教室に歩いていく真琴。
 静流はふと、3年生の順位表を見た。
 1位は楓花で、2位が睦美だった。

「流石です。 お二人共……」

 そう小さく呟いて、静流は掲示板を後にした。
 教室に戻るまで、静流は好奇な眼差しに晒された。

「見て見て五十嵐クンよぉ、 カワイイ顔して、頭も良かったんだね」
「シズムンにカテキョーしてもらったのかしら? イイわねぇ……」

 教室に戻って来てからも、生きた心地がしなかった静流。
 静流が教室に戻って来るなり、男子たちが静流に詰め寄った。

「おい静流! どうやったら上位に食い込めるんだ?」
「クラス単位じゃトップかも知れねぇな!」
「あわわ……」
「ひるむな静流! どっしり構えてろ!」

 達也の何故か上から目線に戸惑いながら、静流はどう返答するか迷った。

(ココで謙遜すると、真琴の時みたいにみんなを不機嫌にしちゃう……ならば)

 静流は親指を立て、自慢げに男子たちに言った。

「そりゃあ死に物狂いで頑張ったからな。 当然の結果さ♪」ビシィ

 ポーズが決まり数秒のフリーズがあったが、空気は重くならなかった。

 
「「「おぉー!!」」」


「恐れ入った。 静流からそんな強気発言が出るとはな。 近年まれに見る凄まじく自信に満ち溢れた言葉だな!」

 男子の一人が、大きく頷きながら感心している。

「容姿端麗、 頭脳明晰。 果ては文武両道か? 憎いねこのぉ!」グリ
「お前って、『やればできる子』だったんだな? 父さん嬉しいぞぉ」バシィン
「う! げふぅ」

 男子たちにもみくちゃにされる静流。 
 その中の一人の男子が、鋭い視線で静流に聞いた。

「そんでもってやっぱアレか? シズムンにみっちり仕込まれたのか?」
「へ? シズム?」

 静流にとっては意外なワードが出た為、咄嗟に聞き返してしまった静流。

「とぼけるな! ネタは上がってる!」
「ネタ? 何だよそれ」

 静流には本当に思い当たる節は無かった。

「おい、 説明してやれ」
「はっ!」

 首を傾げている静流に、男子は一人ずつ流暢に語り出した。

「テスト勉強でうっかりうたた寝をしてしまったシズムンに……」
「はぁ!?」
「朝、寝起きのシズムンのほっぺたをツンツン……」
「はぁー!?」
「寝ぼけて洗面所に行くと、シャワーから出て来たシズムンと……」
「はぁぁー!?」

 意味不明な三段落ちに、静流は絶句した。
 それを見た達也は、男子共に穿き捨てるように言った。

「静流、 バカは相手にするな。 大体そのシチュエーションは『つべ』の『シズムン妄想動画シリーズ』だろうが!」 
「フッ、 バレたかぁ」

 男子共が言っていたシチュエーションは、どうやらシズムの動画チャンネルからの引用だったようだ。
 静流をからかっていた事を白状した男子共は、シズムとの関係をまだ疑っているようだ。

「けどよぉ静流、 ホントのとこ、 どうなんだよ?」
「特に何にも無いよ! 一緒に勉強したってイイじゃないか! なぁ真琴?」

 静流はさりげなく真琴にフォローを求めた。

「この前三人で勉強したろ? 何も無かったよな? な?」

 情けない顔で懸命に同意を求める静流を見て、真琴は薄ら笑いを浮かべた。

「さぁね、 どうだったかしら?」 
「ちょ、 真琴さん!? そこは強く否定してくれなきゃ……」 

 さらに情けない顔になった静流に、追い打ちをかける出来事が。

「マコちゃん、 詳しく聞かせてもらおうかしら?」
「えっ?」
 
 真琴が振り返ると、掲示板から帰って来たシズムとその取り巻きの女子たちが数人いた。
 次の瞬間、音もなく静流の背後に移動した女子が、静流の耳元でささやいた。

「五十嵐クン? まさか、シズムンに手ぇ、出してないよね?」
「ひっ! 何も無いよ、 当たり前でしょ!? 大体シズムは従妹だよ?」

 静流の返答に、首を左右に振る女子。

「フッ、 五十嵐クン、 いとこ同士は法律的には可能なのだよ。 結婚がね!」

 得意げにそう言う女子に、静流はウンザリしながらツッコんだ。

「そんなの知ってるよ。 もう何回も言い寄られてるから……」


「「「なな、何ですとぉぉぉー!?」」」


 それを聞いた女子たちが、目を見開き、振りかぶってシズムを見た。

「わ、私じゃないよぉ。 それは多分、 カオルコお姉ちゃんだよぉ~!」

 シズムはブンブンと手と顔を左右に振り、全力で否定した。

「あぁ! 五十嵐薫子様ね! あの『国尼四羽ガラス』の……」
「そうそう。 お姉ちゃんは静流クンにゾッコンだからね♪」
 
 そんな事を話していると、教室にムムちゃん先生が入って来た。

「はぁーい! 席に着いて下さぁーい!」

 ムムちゃん先生に促され、席に戻っていく生徒たち。
 生徒が席に着いたのを確認し、ムムちゃん先生はニコニコしながら、教壇にこれ見よがしに紙の束をドサっと置いた。

「ムフゥ。 これからお待ちかねのぉ、 期末テストを返しまぁーっす!」


「「「うげぇぇ……」」」
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