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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-27

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献血カー内 15:20時――

 インベントリでは、これから始まる『プロジェクトS4』の最終調整でバタバタしていた。

「時間が押してる! 総員、全力でかかれ!」

「「「はいっ!」」」

 睦美の指揮で、桃魔の部員たちがあわただしくセッティングしている。

「静流キュンが帰って来る前に、粗方終わらせるぞ!」 

「「「はいっ!」」」

 そんな状況とは違い、真琴やサラ、鳴海は特にやる事が無い為、引き続きVIP区画のソファーでお茶を飲んでいた。

「サラちゃんは、クーポン使わないの? 原作者特権で貰えるでしょう?」
「わ、私は……使える立場ではない……と思うので。真琴さんは?」
「どうも照れくさくて、行っても多分何も出来ないと思うの」
「ですよね……私も多分そうなるかと……」

 真琴たちの会話を聞いて、鳴海が二人に聞いた。

「でしたら、例のカプセルで『夢』だけでも見ていかれたら如何です?」チャ
「ああ、アレですか。前に使った事、あるんですけど……」
「確かに、アレには中毒性がありますね。自分の部屋に置いている忍さんが羨ましい、です」

 忍は睡眠カプセルの有用性をいち早く察知し、ブラムを使って流刑ドームの自分の部屋にカプセルを設置させた経緯がある。
 さらに、前世の記憶でカプセルの使用方法を熟知しており、そのスキルでココナの治療に貢献した。

「そんなにスゴいのですか? アレは」
「そりゃあもう。サキュバスが見せる【淫夢】に匹敵するか、それ以上でしょうね……」
「ええ。脳汁がトロトロになっちゃいますよ? お試しあれ、です」

 鳴海に聞かれ、真琴はその時の感覚を思い出したのか身震いし、サラは顔を真っ赤にして、うっとりと天井付近を見ていた。
 そんな二人を見て、鳴海は提案した。

「それなら尚更です。使わせてもらっては如何でしょうか?」チャ
「夢、くらいは見てもイイでしょうか?」
「勿論です。夢は自由に見てイイものですから」 

 何かを取りに来た忍が、今の会話を聞いていたようだ。

「ん? ヒマしてる?」
「え、ええ。何かお手伝いしましょうか?」

 忍に聞かれ、一応そう答えた真琴。

「あのカプセル、三台じゃ足りないって。アッチに仮眠室作ったの」

 忍が言うには、献血カーに設置してあった三台の睡眠カプセルをインベントリに移設し、不足する分をブラムが『塔』の仮眠室から移設したとの事であった。
 忍がポンと手を打ち、真琴たちに言った。

「丁度イイ。試運転のモニターになって」
「え? イイんですか!? クーポン持って無いんですけど」
「タダでイイ。見たい夢教えて。マネも」
「わわわ、私!? ですか?」

 鳴海は、自分まで声をかけてくれるとは思っていなかったようで、物凄く動揺した。

「アナタにもあるんでしょ? 見たい『夢』が」
「それは……あります……けど」ポォォ

 鳴海は頬を赤くして俯いた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 15:20時――

 団体戦のすべてのプログラムが終わり、献血カーに戻ろうとしていた一行。

「お疲れ。食堂で祝杯でも上げようぜ?」
「そうも行かないんだ。戻ったらイベントの準備が……って、時間押してるじゃんか!?」

 予定時刻を大幅に過ぎている事に気付き、バタバタし始めるユズル。

「そんなに慌てなくても大丈夫だろ? アノ面々なら何とかするっしょ」
「お静、まだ何かやるのか?」
「う、うん。薄い本を買ってくれたユーザーに、ご褒美を上げる? みたい」
「何だよそりゃ? アイドルの握手会みたいなのか?」
「その位で済めばイイんだけどね……」

 そんな事を話していると、後ろから声をかけた者がいた。

「ユズル様っ! お疲れ様でしたっ!」

 声をかけた白黒ミサは、着ぐるみはもう脱いでおり、白と黒のジャージ姿だった。

「白黒ミサ先輩! あ、シロミちゃんとクロミちゃん、でしたっけ?」
「嫌ですよぉ、もう! 照れるじゃないですかぁ」
「で、どうでした? 私たちの司会っぷり!」クイクイ

 白黒ミサは、室内犬の様に『撫でて、撫でて』と言わんばかりにユズルにまとわりついた。

「すっごく良かったです。お見逸れしました」パァァァ


「「きゃっふぅぅん♡」」


 ユズルのニパを浴びた白黒ミサは、『待ってました!』とばかりに悶えた。

「ちょっとちょっと、早く紹介してくれないかな?」

 と、後ろから声をかけられた。黒いスーツ姿の、メガネを掛けた青年だった。

「おっと、これは失礼。こちら、『プラセボ・ソフトワークス』のポケクリ開発担当でいらっしゃる、尾崎レオナルドさんです」
「始めまして。尾崎です」

 尾崎は名刺をユズルたちに渡した。

「プ、プラセボ……ですって?」

 素子は名刺を見て小刻みに震えていた。
 尾崎は素子と面識があるようだ。

「早乙女さん、『黒魔』は今回、ゲーム部門は出品されないのですか? 楽しみにしていたので残念です……」
「くっ、開発に手間取りましてね……それと、今は『桃魔』ですので」

 素子は心底悔しがっていた。

「そう邪険にされると……私は元『カップル・コンピューター』の人間です。倒産して拾われたクチですので」
「あの、『カップコン』の? って事はポケクリの?」
「はい。初期開発メンバー、です」

 場の空気が重くなり始めたので、白ミサが話題を変えた。

「そうそう! 尾崎さんはグループAのプレイヤーだったんですよ!」
「ちなみに、コードネームは『バッシュ』でした」
「ん? するってぇと、アンタがブラッカラムを!?」
「はい。私がブラッカラムを召喚しました」

 蘭子は眉間にしわを寄せ、尾崎に軽くガンを飛ばした。
 また険悪なムードになりそうだったので、白ミサがここまでの経緯をユズルたちに説明した。

「……で、是非共お会いしたいって仰るんで、お連れしたの」
「成程な。で、アタイらに用って何だよ?」
「私どもに、新種『メルクリア・ノヴァ』の情報を提供して頂きたいのです」

 尾崎は蘭子たちに深々と頭を下げた。

「……つまり、メルクのデータを渡せ、と?」
「ご提供頂ければ、開発中である『ギルガメッシュ』のラインナップに加えたいと思いまして……」

 そこでクロミが口を挟んだ。

「開発に協力すればクレジットにも載るし、幾らか報酬もある。 悪くない提案だと思うよ?」

 複雑な顔の蘭子が、ユズルに聞いた。

「どう思うよユズル、アタイ的には是非ともお願いしたい所なんだけどよ?」
「そうだな。一応メルクに聞いてみるか?」

 ユズルはカバンからブンダースワンを出し、電源を入れた。

「おいメルク、コッチに来てくれ」
〈ん?なんじゃ? ワシに用か?〉
「ポケクリの開発者に、お前を公式に迎えたいって言われて」

 ブンダースワンの画面で会話しているユズルに、尾崎は恐る恐る声をかけた。

「すいません、ひょっとしてこの子、生きてるんですか?」
「あ、そうでした。この子がメルクリア。元ドラゴンです」

 尾崎はそれを聞いて少し驚いてはいたが、やけに落ち着いていた。

「やっぱり。『アノ方』と同じだ……」
「『アノ方』とは?」
「ポケクリの初期開発メンバーなら知っています。『ガイアーク様』の存在を……」

 尾崎が発した言葉に、メルクが反応した。

〈ガイアーク……三つ首竜、か?〉
「ご存じでしたか! 素晴らしい!」
〈知ってるも何も……ワシらの後輩じゃ〉
「そうでしたか! ならば話が早い!」

 それからは尾崎とメルクが専門用語を混ぜながら会話しているので、見ている他の者はポカーンと見ているだけだった。

〈それで良い。これから世話になる〉ペコリ
「はい! 今後とも御贔屓に」

 何だかんだで交渉は終わったようだ。

「それでメルク、どうなったの?」
〈ワシも新作に入れてもらう事になった。ココには昔の知り合いもいるらしい〉

 知り合いと言う事は、メルクの様に肉体を失ったクリーチャーが、ネット環境に棲んでいるのであろうか?

「へぇ。そうなんだ。僕も会ってみたいなぁ」
「海外のサーバーで、しかもセキュリティが厳重なので、準備が整い次第、会合の席を用意致します」
「うわぁ。それは楽しみだ」パァァ

「くっ、ま、眩しい……早乙女さん、この方はまさか……」

 ユズルのニパを食らった尾崎は、素子に確認した。
 素子は『聞いて驚け!』とばかりにドヤ顔で尾崎に言い放った。

「ええ。そのまさか。この方がオリジナルの『静流様』ですっ!」
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