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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-17

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献血カー内 13:10時――

 昼食を終えた面々は、VIP用のソファーやテーブルが置かれた一角に戻っていた。
 大画面モニターの正面にあるソファーは忍・薫子・カナメが座っている。
 両隣に置いてある一人掛けソファーにはリリィとカチュアが座り、コの字型に置いた二人掛けソファーには、右京・左京と、真琴・鳴海がそれぞれ座っている。
 少し離れた所にあるデスクに、社長椅子に座っている睦美がいた。
 モニターで『ニャンニャン動画』の『ポケクリバトル団体戦』の生中継を見ている。

「団体戦、始まったようだね。さぁ蘭子クンたち、お手並み拝見と行こうか?」

 画面に着ぐるみを付けた白黒ミサが、司会進行をやっている所が映った。
 真琴は画面を凝視し、目を疑った。

「ん? あれって、ミサ先輩たちですよね!?」
「ああ。まずまずの進行ぶりだな」

 会場の盛り上がりぶりを見て、真琴は感心した。

「ミサ先輩たち、体張ってますね……」
「デビューしたばかりですから、仕事を選ぶ余裕はないですよ」チャ

 画面をぼんやりと見ていたリリィは、ある事に気付いた。

(そう言えば、レヴィたちは何してるんだろ?)

 真っ先に顔を出しそうなものだが、一向に姿を現さない。
 リリィが献血カーの件で睦美から相談を受け、今に至る事は当然レヴィも知っている。
 リリィは、右京にそれとなく聞いてみた。

「右京氏、レヴィたちの動き、何か知ってる? 別行動とか言ってたけど」
「レヴィ殿ですか? ふむ? 確かにまだ何もアクションは起きていませんね……」
「薄木の連中も姿を見せないし、気味が悪いなぁ……」
「明日に全振りしたのでは? ルリ殿は明日の宗方ドクターのサポートですよね?」
「そうか。でもアイツらは今日も来ると思うよ? 多分ね」

 気になったリリィは、レヴィに念話した。

〈レヴィ、今、何処にいるの?〉
〈リリィ殿!? 今ですか? みんなと『塔』にいますよ?〉
〈今日のイベント、来ない気?〉
〈まさか、行きますよ。絶対!〉
〈『プロジェクトS4』は、15:00時からだよ? クーポンは自力で入手してよね?〉
〈もちろんですとも。して、静流様は?〉
〈今はポケクリバトルに出てる。今のうちにコッチ来なさいよ〉

 リリィがそう言ってから、少し間を置いてレヴィが話し出した。

〈実は……リリィ殿以外には、私たちが行く事を悟られない様にお願いしたいのです〉
〈何でそんな回りクドい事すんのよ?〉
〈それは……気恥ずかしさとか、あと、隠密行動の方も中にはいらっしゃるのです。お察し下さい〉
〈ワケありって事か……わかった。私から話す事はしない。でもどうせバレると思うけどね〉
〈恩に着ます。では、そう言う事で〉ブチ

 念話が終わり、暫く天井を見ていたリリィ。
 その様子を見て、右京が声をかけた。

「リリィ殿? いかがなされた?」
「ああ、レヴィだけど、やっぱ明日に集中する? みたいね?」
「そうでしたか! では、私たちでお先に『夢のひと時』を堪能しますか……ムフゥ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ポケクリバトル会場 13:25時――

「それではグループ予選、開始です!!」


「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」


 シロミから試合開始の合図があり、各グループのメンバーが自分の連れて行くポケクリをチョイスしている。

「みんな! 打合せ通りの属性を選ぶんだ!」

「「「「了解!」」」」

 相手の属性を想定し、対処可能なポケクリを打合せで決めていた。
 内訳は、

 蘭子  ほのお
 達也  みず
 ユズル いわ
 素子  くさ
 シズム でんき 

 であった。
 最後のメンバーの設定が終了すると、『準備完了!』の表示が出て、すぐにカウントダウンが始まった。

「3・2・1 READY GO!」

 バトルが始まり5人は散開した。


「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」


 画面上中央に表示されている残り時間が、5分を切った。

「さぁ、4グループ同時に予選の前半戦、始まりました!」
「先ずはどんなポケクリで試合に臨んでいるか……おっとC-2! いきなりレジェンド級を繰り出した!」

「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」 

 4分割の内の一画面に、レジェンド級と呼ばれるポケクリが、バトルフィールドに堂々たる勇姿を現した。

「ブルーアイズ・レッドドラゴン! 予選から惜しげもなく使ってきました!」
「なんと無謀な!? 切り札は最後に取っておくべきなのでは?」

 シロミたちの実況は、グループCに偏っている様にも見えなくもないが、それほど衝撃が強かったのだろう。

「対するC-3のメンバーは? ふむ。格闘系が三体とノーマル二体です!」

 敵がチョイスしたポケクリは、主に通常攻撃に特化したものだった。

「おっとグループC! 相手の格闘系三体がブルーアイズに攻撃を集中しています!」
「まぁ、レジェンド級ともなれば、当然ヘイトが集中しますよね……」

 シロミがディレクターに指示を送ると、Cグループの画面が大きく映し出された。

「「「「わぁぁぁぁー!!」」」」

 画面の中では、蘭子が三人を相手に苦戦していた。

〔ぐわっ!? いきなり先制食らっちまった!〕
〔三体同時かよ!待ってろ! 今行く!〕
〔コッチは大丈夫だ! 他の二体を頼む!〕

 援護を申し出た達也を拒んだ蘭子。
 ブルーアイズに、三体の敵が上手く連携をとって確実に攻撃を当てている。
 ジリジリと削られて行くHP。それに反比例して技ゲージが上がっていく。

「さぁ、どうするブルーアイズ! 相手の策にはまったか?」
「いえ、技ゲージを見て下さい。なるべく引き付けて技を放つつもりの様です」

 クロミの指摘通り、蘭子は時が来るのを待っていた。

〔もう少しだ……よし! 出力最大!【ブラストファイヤー】!!〕パァァァ!

 ブルーアイズの技が発動し、口から扇形に熱線が放射され、三体の敵は瞬時に蒸発した。

「スゴい! 流石はレジェンド! 一瞬で三体の相手が溶けました! 効果は抜群です!!」

 観客の興奮度はMAXに達していた。

 
「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」


 一気に優勢に転じた蘭子たち。
 あとは残りの二体を始末するだけだった。
 程なく観客がざわつき始めた。

「おい、何だよあの動き……」ざわ…
「何ぃぃ!? 一撃だと!?」ざわ…

 ブルーアイズのいる所から少し離れた所に、一体の敵を瞬時に撃破した電気系ポケクリがいた。
 シズムが操る電気系ポケクリは、最後の敵をなぶる様にHPを削っていく。

〔アニキ、とどめ!〕
〔オッケー!〕

 相手のHPがミリになった所で、シズムはユズルに託した。

〔行くぞ!【岩落とし】!!〕

 ユズルの操る岩系ポケクリは、岩系の技では『中』程度の技を繰り出し、敵を倒した。


 ピピィ~!


 相手の残機がゼロになり、対戦が終わった。
 結果は蘭子率いる『ギャラクティカ・ソルジャーズ』の圧勝だった。
 リザルトが表示されると、興味深い事になっていた。

「もう、決着が着いたのか?」
「Cが早すぎるんだ! 二分で全滅って、圧倒的じゃないか!?」

 テントではユズルたちが勝利の余韻に浸っていた。

「みんなお疲れ様。私は殆ど何もしなかったけどね」
「……ふぅ。 お蘭! 無茶しやがって。ちょっとヒヤッとしたんだぞ?」
「悪りぃ、被弾コンボから抜け出せなかった」
「スゴいね。二分で決着が着いちゃった。サンキュー、シズム」
「へへへ。褒められちゃったぁ♪」

 ユズルに頭を撫でられ、とろけそうになっているシズム。

「どうかな? 初陣は華麗に決まったんだろうか、先輩?」

 蘭子は素子に聞いてみた。

「ええ。結果は上々です。ですが……」

 素子は途中で言葉を切った。

「もしブルーアイズを連投するとなると、次から敵は対策を講じて来ますよ?」
「わかってる。次の策はもう頭の中に浮かんでる」

 画面が4分割に戻ると、他のグループはまだ対戦が続いていた。


 ピピィ~!

 
 制限時間となり、全ての勝敗が出そろった。

「試合終了! 見事予選決勝に進んだのは……A-1! B-4! C-2! 最後にD-3です!」

 
「「「「うぉぉぉぉぉー!!」」」」

 
 観客から歓声が上がった。

「いいぞ! ツンギレ! やっちまえ!」ざわ…
「自サバ女、次も要チェックだ!」ざわ…

 思いがけない声援が飛んでいた。

「アタイたちが、注目されてる!?」 
「そりゃあ、あんなバトル見せられたら、何か期待させちまうだろうよ?」

 そんなこんなで、蘭子率いる『ギャラクティカ・ソルジャーズ』は、初陣を圧倒的勝利で飾った。
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