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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード50-4

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桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――

 蘭子が『コミマケ』の催し物である『ポケクリバトル』に出場する為に、静流の持っているメルクリアたちに目を付けた。
 蘭子の本体にコピーする為、立川カナメのラボに相談に来ていた。
 それを聞いた睦美は、蘭子たちをサポートする為、桃魔から助っ人である、早乙女素子を召喚した。

「おお。モトちゃんか。ギャルゲー畑がポケクリか?」
「やあカナちゃん。ポケクリに関しては、ちょっと覚えがあってね」チャ

 いちいちメガネの位置を気にする仕草は、ニニちゃん先生に似ていた。

「で? どんな魔改造をお望みかしらぁ? ヌフフフ」
「早乙女先輩、えと、コイツを……」
「素子、でお願いします、静流様」チャ

 静流の言葉を遮り、素子は冷淡な態度をとる素子。

「素子、先輩?」
「きゃっはー! ふぁーい! 何でしょう♪」

 素直に従う静流に、急に人懐っこく迫る素子。  

「モトちゃん、ちゃっかりしとるな」
「あったり前でしょ? 静流様に近付ける……タナボタよ! 僥倖だわぁ」

 カナメにジト目で見られても、お構いなしの素子。

「コイツを、お蘭さんの本体にコピーしたいんですけど……」

 静流は、自分のブンダースワンを素子に見せた。

〈技術支援の者か? 世話になる〉
「ぴゃ? ポケクリが、話し掛けてきた?」
〈ワシはメルクリア、こいつはオシリス。初対面ではなかろう?〉
〈ハロー♪〉 

 画面にいるメルクは、オシリスを紹介した。

「カナちゃん? ど、どういうシステムなの? 属性は? いわ? じめん? それに、オシリスって静流様の下僕の、モフモフちゃんでしょ?」
〈ちょっとアンタ! 下僕って……少しは言い方に気を遣いなさいよ!〉

 驚愕の表情を浮かべ、素子が画面をガン見し、早口でまくし立てた。
 画面の中ででオシリスが喚いているが、完全に無視している。

「モトちゃんが驚くのも無理は無いわ。なんたってコイツら、生きてるんやから」
「何ですって?」

 カナメが簡単に素子に説明し、一応理解してくれたようだ。

「正直、クリーチャーが実在していた事の方が驚きよね……」
〈うむ。事実じゃ〉
「ふむ。そうするとメルちゃんは属性的には『いわ』と『じめん』だけど、『ドラゴン』の要素もあるかもね」チャ
〈メルちゃん!? ワシの事か?〉
「へ? 『じめん』? 『いわ』だけじゃないんですか? 素子先輩?」
「そうか。静流は引退が早かったからなぁ……」

 素子は静流に、ポケクリの属性が当初のものより増えており、複雑化している事を教えた。
 
「……そうなんですね? って事はオシリスは『ノーマル』か『くさ』か『むし』、だと思ってたけど、『フェアリー』かも?」
「どの属性かは、『ずかん』に登録した際にそのソフトが判定するので、どう振り分けられるかは……運でしょうね?」チャ
〈当然『フェアリー』一択でしょ? 誰が『むし』よ!?〉

 オシリスがまた騒いでいる。
 それを見た静流は、不思議そうに達也に聞いた。

「でも、属性ってそんなに重要かな? 結局レベルとHPのMAX値がどの位あるかでしょ?」
「静流、お前なぁ……」
 
 あっけらかんとそう言った静流に、達也は呆れてため息をついた。すると、

「お静、ポケクリにとって属性は、勝敗を大きく左右するものだ!」
「『相性』はお前もわかるだろう? 『ほのお』は『みず』に弱い、とか」
「その位はわかるよ。一応やってたから」
「静流様、侮ってはなりません。何の属性を連れて行くかが、勝敗を握っていると言っても過言ではありませんよ?」チャ

 ブランクが長かった静流に、三人が寄ってたかって講義を始める始末。

「いやいや、バトルに出るのはお蘭さんでしょ? 僕の事はイイから!」
「何だよお前、出ないのか?」
「無理でしょ? 大体バトルって僕の場合、CPUとしかやった事ないし」

 達也の振りに、ブンブンと手を振りながら否定する静流。
 そんな静流に、睦美が口を挟んだ。 

「あー静流キュン、出来ればエントリーしてもらいたいんだケドなぁ……」
「睦美先輩? 本気ですか?」
「ああ本気さ。本の宣伝にもなるし……げふんげふん」

 睦美が言いかけて慌てて誤魔化した。

「出たって、一回戦で敗退だと思いますよ?」
「静流キュンには個人戦ではなく、5×5のチーム戦に出てもらおうと思う」
「チーム? 誰と組むんです?」
「決まってるだろ? ココのメンツだ!」
「ええっ!?」

 静流は周りを見渡し、ひとりひとり数えて言った。

「僕、お蘭さん、達也、素子さん、あと、真琴?」
「ふぇ? あ、あたし? 無理無理!」

 急に話題を振られ、真琴は全力で拒否した。

「しょうがない。とりあえずあと一人は暫定でシズムを入れとくか」
「よくわかんないけど、かしこまりぃ♪」
「シズムちゃんが参加するなら、コスプレでお願いしたいね」
「おいおい、あんまり目立つような恰好させんな、恥ずかしいじゃねぇか!」
「そうそう。あんまり過激なのもダメだぞ? 事務所にも一言入れとかなきゃいけないだろうし……」

 静流たちがわいわいやっている中、睦美はノートPCの画面を見て、難しい顔をしている。

「盛り上がっている所悪いが、蘭子クンのハードでは、エントリー出来ないようだぞ?」 

「「「「えーっ!?」」」」

 睦美がそう言うと、静流たちに混ざって、素子も驚いていた。

「何を驚いている? バトルに出るなら、指定のハードを用意しなけりゃならんのだろう?」

「「んん~!?」」

 睦美が付け加えると、静流たちは蘭子の顔を見た。

「蘭子クン、レギュレーションは読んだのかい?」
「へ? あ、読んで無かった……失敬」

 蘭子は後頭部を搔き、照れながら頭を下げた。

「GM、運営はどんなハードを使えと言って来たんです?」
「それは……これだ」

 睦美はノートPCの画面を、蘭子たちに向けた。

「うげ? 『ジュンテンドースイッチ』……だと?」

 画面を覗き込んだ蘭子の顔が、見る見る内に青くなっていった。

「『スイッチ』って、最新機種じゃないか? 大体、ソフトが対応してないだろ?」
「その下を見てごらんよ」
「えー何々、この度、ユーザー様の熱い要望に応え『ポケットクリーチャー・ギルガメッシュ』の開発を決定いたしました、だとぉ!?」
「つまり、『完全新作』って事?」
「今更感、半端ねぇな……」
「5年ぶりだぜ? 開発元はとっくに倒産してるってのに……何か怪しいぜ?」

 完全新作ともなれば、プラットフォームは最新の機種になるのは当然である。

「続きがある。ついては若者の祭典である『コミック・マーケティング』にて、『デモンストレーション対戦』を行う事となりました、だってよ」
「ソフトは『ギルガメッシュ』のベータ版を無料配布、とありますね……各バージョンのパッチを当てれば、MODを含め全てのポケクリの移動が可能みたい」チャ
「MODだと? そ、それは本当なのか?」

 素子が読み上げた内容に、蘭子は半信半疑だった。

「らしいわよ? 運営が言ってるんだから、間違い無いでしょう?」
「つまり、何でもありの無法地帯か?」
「よっしゃぁ! これでメルクたちを堂々と対戦に使える!」

 蘭子は肝心な事を忘れて、大いにはしゃいだ。

「でもよぉ、大会運営は順天堂じゃないみたいだぞ? 聞いた事ねぇな、『プラセボ・ソフトワークス』なんてよ」 
「GM、『プラセボ』ってまさか……」チャ

 素子の指摘に、睦美は一度頷いた。

「ああ。同人ソフトメーカー、我が社の商売敵だ!」
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