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第8章 冬が来る前に

エピソード47-40

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闘技場 オークション特設ステージ――

 オークション開始15分前となり、係が参加者を座席に誘導し始めた。
 闘技場は屋根付きの楕円形であり、柔道や剣道の他、卓球などもここを使用する。
 競技を行うエリアは20m×40mで、フットサルコート位である。
 観客席となる場所は、長手方向にひな壇が三段積み上げられ、150席が用意された。
 照明はステージとなる場所を照らし、客席はフットライトが点灯しているのみで薄暗い。

「お、客が入って来たな」
「フム。スーツを着たおカタい連中ばっかりかと思いきや、今回はバラエティーに富んでいますね?」

 左京が言う通り、掘り出し物を漁りに来た画商に混じり、オークションには縁の無さそうな者たちが会場に来ていた。

「こうして表立って行うのは数年ぶりらしいから、期待度が半端ではないな」

 睦美が客たちをしばらく観察していると、何やら怪しい連中が入って来て、席に座った。

「む? あの集団はまさか……」
「お知り合いで? GM」
「ああ。良く知ってるよ」

 二人が注目した連中は、大きく分けて2組であった。
 ひと組は四人組で、黒いフード付きのローブをまとった連中だった。
 もうひと組は五人組で、軍の制服を着用している。

(お姉様たちと、軍の連中か……)

 客席に座った忍たち。
 黒のフード付きローブは一見目立ちそうだが、会場が薄暗いからか、そうでもなかった。

「ちょっと忍? 静流はドコなの?」
「静流たち一般生徒は撤収作業」
「ただでさえほったらかしだったのよ? 早く静流に会わせて頂戴!」
「薫子、黙ってて」

 どうやら薫子は本人らしい。
 忍たちが一度流刑ドームに戻る際、ロディはシズムと融合したのだろう。

「国尼でオークションが開かれると聞いて付いて来ましたけど、まずまずの客入りね?」
「さっき見た静坊の絵は出さないらしいぞ? 何でも国が買い取るとか言ってたな」
「国宝級? 相当な力作ですのね?」
「ああ。耐性の無い連中は、絵を見ただけで癒されてたな」
「それ程まで!? 国が動くのも頷けますね」
「私も見たかったなぁ。ぷぅ」

 雪乃は感心し、薫子はむくれていた。
 雪乃は忍に聞いた。

「それで? 忍の本命は?」
「静流の『自画像』。絶対落とすから!」

 忍は右手を強く握りしめた。

「あら忍? 静流さんの『自画像』って、そんなに出来がイイの?」
「うん、イイ。視覚的な感覚なのに、なぜか漂う、鼻腔をくすぐる甘ぁ~い香り……ムフゥ」

 雪乃がそう聞くと、忍は先ほど真琴の端末で見た、小さな画面に映った絵を思い出し、天井付近をぼーっと見ながら呟いた。

「静坊のダミー作品という設定で、サラ・リーマンに描かせたらしいぜ?」
「へぇ……サラに描かせたの? その絵って何か仕掛けがあったりして……」

 薫子は忍の様子を見てそう呟いた。

「おい忍! ダメだこりゃ、目がイッちまってる」 
「忍? 言っておきますけど、お金をいくら貸すかは、作品を見てから決めますから」
「雪乃もきっと気に入る。問題無い!」
「私にも【鑑定】スキルがある事、忘れて無いわよね?」

 忍と雪乃のやり取りを見て、今までつまらなそうにしていた薫子が食いついた。

「その絵にどれだけ価値があるか、勝負って事ね? フフ。面白そう♪」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ダーナ・オシー駐屯地内 廃材置き場――

 静流の機体をカスタマイズするための資材を調達する為、メルクは機体を自ら操縦し、廃材置き場に向かわせた。
 操縦席にいるブラムが、メルクに聞いた。 

「それでメルク、ドコから手を付けるの?」
「先ずはローラーダッシュじゃな。今の歩行速度では遅すぎる」
「遅いって、一応最高時速80キロ出るし、戦車よりも速くて二足のMTとも引けは取らないッスよ?」
「ダメだ。 コイツは敏速でないといかん。あとは音だな」
「え? サイレント機能とステルス性能は、コイツの長所ッスよ!?」
「まだ足りん。斥候として使うには程遠いわ」

 メルクにポンポンと指摘され、万里は驚くばかりだった。

「成程。 ウチの隊では、 斥候に使用する俊足のMTは、瞳が乗る四足歩行の機体『ジムキャット』が担ってるッスからね」
「ワシらの場合は、主に単独で運用する事を想定しないといかんでの。 そうなると方向性はおのずとそうなるのじゃ」

 万里は辺りを見回し、目ぼしいものを指さした。

「駆動系はあの装甲車のが使えそうッスね。あとは何をチョイスするんスか?」
「あとはそうじゃの……その戦闘機のジェットエンジンを貰おうかの」

 メルクがチョイスしたものは、かつての対地攻撃機であるサンダーボルトシリーズのものであった。 
 しかし、万里には今一つメルクの思考が理解できなかった。

「これッスか? 渋いチョイスですけど、そんなもん背負わせても重量が増す分、速度が落ちるんじゃないッスか?」
「そうではない! コイツに飛行ユニットを装備するのじゃ!」
「うは。面白そう! シズル様もそういう方向のが好きそうだしね♪」

 メルクの意外な発想に、ブラムがはしゃぎ出した。  

「は? コイツで空を飛ぶんスか!? これだけの質量ッスよ? 重力は無視ッスか!?」

 万里の頭の上に『???』マークがクルクルと回っている。

「問題無い。重力操作はワシの得意分野じゃし、あの機体にもヒントがあったからの」
「あの機体に? って事はまさか……」
「ああ。向こうのは元々飛ぶことが可能じゃ」
「なんてこった……そんな発想、全然無かったッス」
「無理も無い。あれは宇宙空間での戦闘をメインに作られておるからの」
「宇宙? こりゃまたヤバいワードが飛び出したッス! ワクワクが止まらないッス! うぉーっ!!」

 余りの急展開に万里は興奮し、思いっきり叫んだ。

「さぁ、とっとと組み上げるぞ。 万里、そいつらをその辺に置いてくれ」
「了解ッス!」

 万里は廃材置き場のクレーンを操作し、指示されたものを静流の機体付近に積み上げていく。

「メルク? これをどうやって組み立てるの?」
「ちょっと待て、今設計図を作っておる」

 ブラムが画面を見ていると、3Dの線画で描かれた静流の機体が、みるみる変化していく。

「うわぁ、メルクってCADも扱えるの?」
「まぁな。自分でも驚いておるわい」
「見違えたよ。尊敬しちゃう♪」
「褒めても、何もやらんぞ?」
「そんなんじゃないってば」
「どうだか。ほれ、出来たぞ。万里、そっちにも送る」

 メルクは、万里のタブレット端末にデータを送った。

「ひゅー。ほんの数分でこれを?」
「こんなもんじゃが、どうじゃろう?」
「もう反論する余地は無いッス。 お見それしましたッス」
「では、始めるぞ。少し下がっておれ」
「了解ッス!」
 
 メルクは万里に距離を取るよう指示した。

「何が始まるんだろう? ワクワク」

 万里が両脇をパタパタさせ、目を輝かせている。 

「行くぞ! 【コンバート】!」パァァ

 メルクが魔法を発動させると、機体と廃材が光り出し、融合した。
 光は徐々に薄れていき、やがて消えた。

「うわ、目がチカチカするッス……ん? どっひゃー!」

 魔法発動時の光に目がくらんでいた万里は、視力が戻った時、自分の前に現れた機体を見て、素っ頓狂な声を上げてしまった。

「ふむ。まずまずの出来じゃな」

 【コンバート】後の機体には、背中にジェットエンジンが搭載され、収納可能な翼まで付いていた。

「うわぁ、カッケェ~!」

 万里は出来上がった機体をまじまじと見ながら、奇声に近い声で叫んだ。
 すると向こうから物々しい音が響いて来た。


 ゴゴゥ…ゥゥン


「ん? 何だろこの振動……うわっ!」
「予想より早かったな」

 メルクが向いた方向に、未確認の物体が飛行しながらこっちに近付いて来る。

「はわわわ、ホントに飛んでる……」

 飛んで来たと言うより、浮いていると言う表現の方が正しいかも知れない。
 全貌を現した機体は、メルクの機体の隣に着地した。

「待たせたな! 我が分身!」
「待っとらんわい! イヤミか?」

 メルクの機体より二回りほど大きい、全高10m程度の大型肉食恐竜の様なフォルムに、大型の翼が装備されている。
 搭乗時のポーズをとるのか、頭を下げ始めた。

 グゥゥゥン 

 顎の部分が地面に着き、キャノピーが跳ね上がった。プシュー。
 操縦席に座っていたのは、ココナだった。
 感激した万里が、頭部に向かって走り出した。

「姫様ぁ! 完成したんスね?」
「ああ。 文句の付けようがない程に、な」

 続いてメルクの機体が搭乗時のポーズをとり、操縦席からブラムが出て来た。

「スゴぉい! ほんの数時間前は、頭だけだったのにね♪」 
「郁が頑張ってくれたお陰で、こちらは殆どオリジナルの部品で組み上げられたようだ」
「中尉殿には、足むけて寝れないッスね」

 三人で二機の機体を眺めていると、メルクが喋り出した。

「どれ、試験飛行と洒落込むかの? リア、競争するか?」
「いい度胸じゃな、メルクよ」
「ちょっとちょっと! ドコに行くのさ?」
 
 二機で勝手に盛り上がっているので、ブラムはたまりかねて二機に聞いた。

「そうさの。報告がてら、ちょいと静流の所に行って来るかの」
「うむ。慣らしには丁度イイ距離じゃな。 あ奴の驚く顔が目に浮かぶわい」
「は? そんな大きなモン、どうやって? 【ゲート】は? 待てよ……うんと、一度インベントリに入れてから……」ブツブツ

 ブラムは大質量の機体をどうやって運ぶかを考えていたが……


「「【ゲート】?そんなもんは要らん」」


 メルクたちの物言いに、首を傾げているブラム。 

「はぁ? 何言ってんのメルク、リアまで?」
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