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第8章 冬が来る前に

エピソード47-38

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闘技場 オークション特設ステージ――

 午後になり、一般観覧は終了し、設営係の一部と生徒会役員以外は各教室の撤収作業にあたる事となっている。
 従って、オークションは関係者の生徒以外は作者も含め、会場には入れない。
 睦美はオークションの出品リストを見ながら、大まかな落札予想を立てている。
 そんな睦美の傍に、生徒会長の片山左京が近寄った。

「花形のは大物が多いな。先に回そう……」
「GM、進捗は如何ですかな?」
「ああ、もう少しで終わる」
「しかし、【真贋】と【鑑定】のコンボは最強ですな♪」
「そうでもないさ。思わぬものが『化ける』かも知れんよ?」

 オークションで得た金は、通常はほとんどが学校側の利益となる。それはこのイベントや作品制作が授業の一環である為であり、作者には売り上げの一割が支払われる。
 ただし、オークションにかける程の高額商品の場合、学校と作者の立場がほぼ逆転し、割合は商談となる。

「ともあれ、我が校の売り上げに付与されるのですから、作者サマサマって事ですな♪」
「まあな。ただ、少し残念なのは、アノ絵を出せなかった事だな」
「確かに。アレは千万単位も狙えた可能性もありましたからね……」
「大体、オークショニアを引き受けたのだって、アノ絵があったからだったのになぁ……」
「まぁまぁ、私はその絵だって、結構イイ線いくと思いますがね。ムフ」

 左京が指したのは、静流の『自画像』という設定でサラに用意させたものだった。

「待ってろ静流キュン、キミに特別ボーナスを用意するからな。フフフフ」
「意外ですねGM、てっきり自ら入手側に回ると思ったのですが?」
「私は絵ごときでは満足しない。なぜなら本物志向だからな。フッ」

 睦美は左京に余裕たっぷりにそう答えた。

「と言いつつ、PCの壁紙はその絵でしたね?」
「その位イイだろう? カタい事言うなよ」





              ◆ ◆ ◆ ◆



2-B教室――

 視聴覚室の展示が終わり、撤収作業の為、昼食後に教室に戻って来た静流たち。

「静流の絵は美術室の鍵付きの倉庫に入れるって」
「そんなに厳重に保管しなきゃダメなの?」
「決まってるでしょ? 『国宝審査会』に出すのよ?」

 静流の絵『メテオ・ブリージング』は、作者を架空の人物である、『アーネスト・ボーグナインJr.』とし、文科省の『国宝審査会』に出品する事となった。
 二人の話に、達也と朋子が割り込んで来た。

「オークションに出してたら、とんでもない値が付いたりしてな」
「学校レベルで競り合うつもりだったんだから、相当な金額になってたわね」
「二人共、そりゃ、捕らぬ狸の何とやらってヤツだよ。フフフ」

 静流は二人の言葉に半ば呆れ気味に返事した。

「おい静流、ミステリアスお姉様は、本当に参加するのか?」
「うん。何度も説得したんだけどね……」
「サラちゃんにまた描いてもらえばイイじゃねえか、なぁ?」
「確かに。向こうにいたから、サラと面識あるはずなんだけどな」

 そこら辺が静流にもよくわからなかった。

「ま、十万じゃあスタート直後に失速して、玉砕だろうな……」
「それで諦めてくれればイイんだけどね……」

 妙な胸騒ぎを感じる静流。

「でもよぉ、先輩たち、キレイだったなぁ……特にお前の親戚の人? たまんねぇよなぁ……」

 達也は薫子たちを思い浮かべ、緩んだ顔で天井を眺めた。

「達也クゥン? 何か言い残す事は無いの?」
「へ? グギャァァ」

 朋子は間髪入れずに達也のこめかみを拳でグリグリとやられている。
 そんなのはそっちのけと言う感じで、蘭子が静流に聞いた。

「おいお静、リナのアネキは、今までどこにいたんだ?」
「留学先でちょっとトラブってね。 今日も特別に外出してるんだよ」

 静流は当たり障りの無い理由をでっち上げた。

「で、いつコッチに戻って来るんだい?」
「多分、春には?」
「ホントか? お静!」パァァ

 朗報だったのか、蘭子の顔が一気に明るくなった。

「あくまでも予定だからね? あと、周りには内緒に。みんなもね?」

「「「「了解♪」」」」

 そんなことを話していると、教室にムムちゃん先生がパタパタと入って来た。

「はぁーい! それじゃあ撤収作業、開始!」

「「「うへぇーい」」」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ダーナ・オシー駐屯地内 第九格納庫 ――

 静流を学校に送り出し、アマンダたちは機体の修復に専念していた。

「メルクさん? AIのアップデートは順調?」
〔今の所な。コイツの残骸は集まったか?〕
「それは万里さんがやってるわ」

 メルクはシックハックをアップデートし、自己修復機能を回復させようとしている。
 これが回復すれば、機体が勝手に修復を始める手はずになっている。

〔うーむ。早く向こうの機体をカスタマイズしたいのだが……〕
「ロディちゃんがいれば、ニコイチ修理が使えるのにね?」
〔【コンバート】くらいワシにも出来るわい。 目下の問題は、コイツの教育プログラムに時間が掛かる事だ〕

 ディスプレイの中で、腕を組んで困った顔をしているメルク。

「メルクが二人いればイイのにね♪」

 ぼやいているメルクに、ブラムがそんな事を言った。

〔むむ? そうか! でかしたブラム!〕
「へ? 何の事?」

 メルクにいきなり褒められたブラムは、キョトンとしていた。

〔うっかりしておった。その手があったか〕
「まだよくわかんないんだけど?」
〔ワシを【複製】して、コッチとソッチ、同時に作業する〕
「分身を作るの? そんな器用な事、ホントに出来るの?」
〔問題無い。 よし、一気に片付けるぞ!〕

 メルクはシックハックのプログラムを開き、何やら書き換え始めた。
 丁度機体の横を通りかかった万里は、画面をひょいっと覗いた。

「どうスか調子は? ん? 何が始まったんスか?」
「ウチにもよくわからないの。何でもメルク自身をコピーするとか言ってたな……」
「メルクさんが二体?! つまり、演算速度も倍って事ッスよね? それはスゴいぞ!」

 万里は目をキラキラさせ、画面にかじりついている。

〔よし、仕上げじゃ!【ドッペルゲンガー】!〕パァァ
「うわっ、眩しい!」

 メルクが魔法を使うと、画面が眩しく光り出し、直ぐに正常に戻った。
 ブラムと万里が、恐る恐る画面を覗き込む。

「メルク? 成功したの?」
「あれ? いなくなった。失敗したんスかね?」

 ブラムは画面を叩き始めた。

「おーい、メルクやーい」バシバシ
「ちょっとブラムさん、精密機械ッスよ? もっと丁重に扱って下さいッス」

 万里が慌ててブラムを止めに入る。すると、

〔〔これ! 雑に扱うでないぞブラム!〕〕 
「メルク? が二体になった!」

 画面の中で、二体のメルクが同時にそう言った。

「やったッス! 成功ッスね?」
〔〔この位、朝飯前じゃわい。ホッホッホ〕〕

 ブラムが腕を組み、首を傾げた。

「どっちもメルクだと、呼ぶのに困るよね? 1号とか2号とか付ける?」
「確かに。アルファとかベータとかもイイっすね」

 万里がそう言うと、二人のメルクが会話を始めた。

〔言っておくが、ワシがオリジナルじゃからの!〕
〔わかっておるが、 そこを強調せんでも良いのでは無いか? ワシらに区別するもんは無かろう?〕
〔ふぅむ、確かに紛らわしい。 そうさの、お前は今後『リア』と名乗れ〕
〔了解じゃ、メルク〕

「なるほど。メルクとリアか」

 ブラムはうんうんと頷き、納得した。

〔早速だがリア、お前はココに残って自己修復プログラムを起動させろ〕
〔何? それはメルク、お前がやれ! ワシは向こうの機体をカスタマイズするのじゃ!〕
〔お前、オリジナルに反抗するのか!?〕
〔今の時点では優劣は皆無。能力では互角じゃろうて〕

 メルクとリアがガンを飛ばし始めた。

「ちょっとぉ! 何ケンカ始めてるの?」
「どちらでもイイッスから、作業に取り掛かってくださいよぉ」

〔〔うるさい! 黙っておれ!〕〕

 ブラムたちに向かって発した言葉が、見事にシンクロした。
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