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第8章 冬が来る前に

エピソード47-34

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ダーナ・オシー駐屯地 正門――

 アマンダたちは、ココナの朝食後、すぐさまダーナ・オシー駐屯地に向かった。
 メンバーは、静流、アマンダ、郁、ルリ、忍、リナ、ブラムの他、ココナとその部下であった。
 他のカチュア、ジル、ジェニーは、それぞれのホームに戻って行った。
 仕事上、静流はシズルーに変身している。
 【ゲート】を通るまで、ココナは塔の物珍しさや、外の砂嵐を見て驚愕するばかりであった。
 
「さぁ、帰りましょう、姫様」
「お前たち、随分順応してるな」
「二泊三日ですよ? そりゃあ慣れますよ」
「いちいち驚いてたら、身が持ちませんから」
「司令、喜ぶぞぉ♪」

 部下たちに手を引かれ、【ゲート】を通り、一瞬で所属基地に帰還したココナ。
 
「何と! 信じ難い……」
「一応『機密』なので、口外無用でお願いね? ま、あそこであった事など、気軽に話せる内容じゃなかったわね。フフフ」
「わかっています少佐殿。誰が喋りますか!」

 散々自分の夢の中を閲覧されたココナは、顔を赤くして反論した。

「大尉ぃ、コッチですヨ♪」グイ
「そう急かさないで下さいよぉ」
「静流様、口調が素になってます。可愛い」
「おっと、いかんいかん」

 ココナは、自分の少し前でケイと手を繋いで歩いているシズルーを、羨ましそうに眺めていた。

「イイなぁ……」
「姫様、心の声が駄々洩れですよ? ヌフフ」
「はっ! ……放っといてくれ」

 部下に弄られ、思わず両手で口を塞ぐココナ。
 
「大尉殿! よくぞ戻られた!」
「うむ。心配をかけたな」

 守衛が半べそをかきながら最敬礼すると、ココナは敬礼で返した。
 奥の方からツナギを着た整備士らしき者が小走りでやって来た。

「おーい、お疲れーっ!」
「万里! ただいま!」

 MTの整備をやっている大江万里軍曹であった。

「万里、心配をかけたな」
「姫様、お帰りなさいッス!」
「万里、早速だがあの機体の事なのだが……」
「大丈夫ッス、話は聞いていますんで」

 万里は親指を立てた。

「後で顔を出す」
「オッケーッス! 準備しとくッス♪」

 一行は先ず、司令室に向かった。




              ◆ ◆ ◆ ◆




ダーナ・オシー駐屯地 司令室――

「竜崎ココナ、只今帰還致しましたっ!」
「……ココナ、良く帰って来てくれましたね……グス」

 クリス司令は、帰還したココナを見て、うっすら涙を浮かべていた。
 アマンダはこの三日間の作戦内容を、クリスに報告した。

「……概要は以上です。追って報告書を提出致します」

 アマンダはココナの人権を侵害しないよう、細心の注意を払いながら報告した為、クリスはうんうんと頷き、納得したようだ。

「そう。そんな事が。では以前、サイコドクターのユーリ・ゲレロが言った事は、あながち間違いでは無かったのですね……」
「ユーリ!? アイツも絡んでたの?」
「姉さん、知り合い?」
「世間は狭いって事ね。でも、アイツがサジを投げた症例を完治させたって事、悪い気はしないわね」
「あー、はいはい……」

 カチュアはドヤ顔でそう言ったが、周りの者は呆れ顔で、ほとんど静流の手柄であった事をツッコむ事はなかった。

「長らく、御心配をお掛け致しました」
「イイのよ。アナタが無事なら。本当に良かった。皆さん、ありがとう!」

 クリスは、アマンダたちに頭を下げた。

「私らもこうして予定通り竜崎大尉を救済出来て、胸をなで下ろしています」

 アマンダは最高責任者らしく、そう言った。

「皆さん、この後のご予定は?」
「そちらで開発中のMTの件で、技術支援をする予定です」
「まぁ素敵。それは願ったりかなったりですわぁ♪」 

 クリス司令の目がキラキラと輝いている。

「魔導研究所の技術少佐殿にご協力頂けるなんて、超ラッキーです♪」

 クリス司令はクルクルと回り、喜びを表現した。
 そんなクリスに、ココナは耳打ちした。

「司令、ひと段落したら、ご相談があります」
「なぁに? 何でも言って頂戴♪」
「今後の事、です」




              ◆ ◆ ◆ ◆




国分尼寺魔導高校 2-B教室――

「ふぅ。今日で『国尼祭』もやっと終わるなぁ……」
「ああ……アンナ様ぁ……」

 静流と達也は、天井を見上げ、それぞれ違う事を思い浮かべていた。

「た・つ・やぁ~!?」
「いててて、妄想くらいイイじゃねぇかよケチ!」
「開き直るか!? こいつめぇ」
「グギギギ、静流ぅ、助けてくれー!

 朋子にこめかみをグーでグリグリやられている達也。静流に声をかけるが、全く相手にされていない。

(静流様、早く戻って来て下さい……)

 ロディは『塔』で静流の唇を奪った事を想い出し、頬を染めた。

「……ずる? 静流!?」
「へ?……どうしたの? 真琴?」
「何ぼーっとしてるの? アナタらしくない」

 真琴の言葉にはトゲがあった。自分の目の前でそんな事があったのだから、無理も無いが。
 ロディは真琴に注意され、自分の顔を両手でパンッとはたいた。

(いけない。私がしっかりしないと)

 廊下からパタパタと足音が聞こえ、ムムちゃん先生があわただしく教室に入って来た。

「どうしたのムムちゃん? そんなに慌てて」
「校庭でツチノコでも見つかったの?」

「「「ハハハハ!」」」
「違います! そんなんじゃありません!」ハァハァ

 生徒に茶化されているムムちゃん先生は、呼吸を整え、口を開いた。

「皆さんに、ご報告があります!」

 クラスの面々が顔を見合わせ、首を傾げている。

「五十嵐クンの絵ですが、文科省で行う『国宝審査会』にかける事になりました!」

「「「ええ~!!!」」」

 クラス全員が一斉に静流を見た。

「従って、五十嵐クンの作品は、オークションにはかけられない事になりました」
「え~!? 幾らの値が付くか、楽しみだったのにぃ~」ざわ…
「おいおい『国宝』って、相当ヤバくないか?」ざわ…

 周りのみんなが言いたい放題言っている中、一人の生徒がメモ帳を片手にマイクを持つ仕草で静流に迫った。

「五十嵐クン、今の心境は?」
「新聞部の梨元さん? いきなりそんな事言われても、ピンと来ないよ……」
「ふむふむ。なるほどね」
 
 取材を始めようとする梨元に、真琴が言い放った。

「ちょっとまひる? 取材なら、1stマネージャーの私を通してくれないとね?」
「マコちゃん、そうカタい事言わずにぃ」
「静流もいきなりで困ってるの。落ち着いたら単独で取材させてあげるから」
「約束だからね? 頼むよ?」

 梨元はあっさりと引き下がった。

「先輩が言ってた方向に向かいつつあるみたいね」
「うん。参ったなぁ……」

 静流は困惑の表情を浮かべた。
 ムムちゃん先生はそんな静流をチラリと見たあと、咳払いをして自分に注目を集めた。

「コホン。皆さん! だからと言って、今回のオークションはタダじゃ終わりません!」

 そう言ってムムちゃん先生は、静流に下手なウィンクを投げた。

「何かやらかすんですか? 目玉商品は出品出来なくなったのに?」
「それは、秘密、でーっす♪」
「「「どわぁ~!」」」

 生徒たちは拍子抜けして机に突っ伏した。

「一体なんなんです先生? 勿体ぶらないで教えて下さいよぉ」 
「内緒。さぁ皆さん、もうひと踏ん張りですよぉ~♪」

 『国尼祭』三日目は、午前中は一般観覧にあてられ、午後は撤収作業を生徒たちで一斉に行う。
 同時に、闘技場に開設された特設会場にてオークションが行われる。
 ムムちゃん先生は、静流に向けて親指を立てた。

(五十嵐クン、午後からのオークション、楽しみにしててね♪)

「何だろう? イヤな予感しかしない……」
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