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第8章 冬が来る前に

エピソード47-5

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国分尼寺魔導高校 体育館――

 体育館にて展示されている、優秀作品を観覧している静流たち。
 花形の作った彫刻や、シズムの絵を鑑賞したところであった。

「さぁてお待ち兼ね、静流画伯の各品は……こちらです!」
「そんな大袈裟な! うん? 何だ、あそこは?」

 達也が指した方角を見ると、そこだけテントの様な黒い布が掛かっている。

「コッチコッチ。チイッス、先輩、お疲れっす!」
「あ、土屋クン、お疲れさま……って、五十嵐クン!?」
「あ、ども。お疲れ様です」

 中にいた女生徒が達也に挨拶したあと、入って来た静流を見てぎょっとした。
 そこには20個ほどの椅子が用意してあり、もうぎっしり客が埋まっている。
 中央に設置してある絵には、垂れ幕が掛かっている。

「あ、土屋クン、丁度満席になっちゃったの。次でイイかな?」
「オッケーっす。次だってよ」

 一旦テントの外に出る静流たち。
 静流は複雑な顔で達也に聞いた。

「一体何の騒ぎだよ? たかが絵だろ?」
「それがな、最初、他の作品と同じ様に展示してたんだけどよぉ、大変な騒ぎになってな。それでテントで覆って『入替制』にした、ってワケよ」
「そんなにヤバいのか? アノ絵」
「ああ。ハンパねえな。そうだ、お前、念のため髪の毛の色変えろ。茶髪が無難だろうな」
「え? うん、わかった」シュン

 危険を察知した達也は、静流に髪の色を変える様に指示した。
 やがてテントの中がざわつき始め、すぐに異変が起きた。

「「「「うっぴょーーん!!」」」」

「何か、テントの中が騒がしいわね?」
「多分、今『ご開帳』だったんだろ」

 達也がそう言っている矢先に、女生徒が話しかけて来た。

「すいません、し、静流様の絵は、この中ですか?」フーフー
「そうですよ。はーい、次の観覧希望の方は、こちらに並んで下さぁーい」

 達也がそう言うと、一瞬で列が出来た。
 客のさばき方に感心した静流は、達也にダメ元で頼んでみた。

「達也、お前、案内係を僕と代わってくれない?」 
「悪ぃな。俺はもうお役御免なんでね。コレはサービスだよサービス」
「さいですか、ああ、不安だ……トホホ」

 数分後、テントの一部がめくれ、中から客が出て来た。
 心なしかみんな、顔を赤くして天井の方を遠い目で見ながら、ゾロゾロと列をなして退場していく。
 客はすれ違いざまに、何かつぶやきながら去って行った。

「ふぁうっ、女神様……素敵、でした」ポォォ
「はぁ、コレで五回目……はうっ、目の保養でした」ポォォ

 意外な事に、男子も少ないが混ざっていた。

「うぅ、たまんねぇ……」
「夢に出てきたら、俺、漏らしちまうかも……」

 そうこうしている内に、静流たちの順番が回って来た。

「次の方ぁ、どうぞぉーっ」
「おし、行くぞ」
「何か、緊張するな……」
「あとがつかえてる、さっさと入れ」

 静流たちは前の列に座る。
 20席があっという間に埋まった。
 達也は予想以上の状況に、驚きを隠せなかった。
 
「おいおい、大盛況じゃねえか? 別に会場を用意した方がイイんじゃねえの?」

 ここで初めて蘭子が口を開き、首元をパタパタとあおいだ。

「うへぇ、なんかこの中、暑くねぇか?」

 もうすぐ冬だと言うのに、テントの中は温度及び湿度が高めであった。
 蘭子は後ろの席から、生暖かい空気が流れて来るのを感じ、後ろを振り返った。 

「ひいっ、何だ!? オメーたちは!」
「来ます、来ますよぉ、フー、フー」
「感激です、至高です、僥倖です! ハァハァ」

 蘭子の後ろには、先ほど彫刻に群がっていた女子たちが陣取っていた。

「蘭ちゃん、そっとしといてあげて」
「そのモードに入ってる子たちは、ある意味『狂戦士状態』だから、見なかった事にしてあげて」
「なんなんだよ、こいつら……」

 朋子と真琴にそう言われ、しぶしぶ口をつぐんだ蘭子。すると、

「むむ? この方、静流様にそっくり……ですねぇ」ジュル
「確かに。髪の色こそ違えど、ほとんど静流様ですねぇ……」ジュルル

 少女たちが静流に気付き、生温い自然を送って来た。

「ひいっ」
「こいつら、お静に何ていやらしい目つきを……」
「蘭ちゃん、落ち着いて、どうどう」
「わぁったよ。何もしねぇよ……」

 プルプルと小刻みに震え、握りこぶしを作った蘭子を、真琴は必死で止めた。
 そんな事は眼中無しに、女子たちは静流を見続けている。

「でも、静流様のアノ甘美な香りが……しないわ」
「身にまとっているオーラも、なんだか淡泊よね……」

 女子たちは、目の前にいる少年を静流とは認識しなかったようだ。

「ぐるる、言わせておけば……」
「蘭ちゃん、どうどう」
「ちいっ わあってるよ」

 そうこうしている間に、先ほどの女生徒が絵の前に立った。
 絵の下にあるプレートには、『メテオ・ブリージング』『作:五十嵐静流』と読める。

「はーい。お待たせしました。2-Bの五十嵐静流クンの作品は、こちらでーすっ!」バッ

 そう言って女生徒がは、絵に掛かっていた垂れ幕を一気にまくった。パァァ


「「「「「あっぴょーーん!!」」」」」


 現れた絵は桃色のまばゆい光を放ち、見ている者を魅了した。
 目が慣れてくると、絵の全貌が明らかになった、
 その絵は、中央に立っている女神シズルカが、両手を前に突き出し、親指と人差し指を合わせた『気功波』を放っている様なポーズを取っている。
 シズルカの周りは、桃色を基調に絶妙なグラデーションが施されていた。

「絵から、物凄いエナジーを感じるわ」
「何だろう……え? 私、泣いてる!?」

 見ている者たちが、次々に感想を述べていく。
 この中で、何も異常をきたしていないのは、静流とシズムだけであった。

「みんなには、どんな感じに見えてるの?」
「どんなって、桃色の気功波を浴びて、【浄化】されている感じ?」
「見ているだけで、身体の芯が熱を帯びた様な……」

 静流の問いに、真琴と朋子はそう答えた。
 絵の横にいる女生徒が、時計を確認するなり、絵に垂れ幕を掛けた。ファサッ

「はーい、3分経ちましたので、退場お願いしまぁーす!」

「う、うう。ここは、ドコ?」
「もう、終わってしまったのですね……」
「はーい、再度観覧の方は、一旦出て最後尾にお並びくださぁい!」

 絵が隠されると、客たちがすくっと立ち上がり、先ほど同様ゾロゾロと列をなして退場していく。
 静流たちもそれに追随して、テントから出た。

「な? ハンパねぇだろ? お蘭」
「おい、まだ目がチカチカしてんぞ?」

 達也と蘭子が話しているのを見て、静流であるロディは思考を巡らせていた。

(絵にそんな力を宿すなど、あるのだろうか……? 静流様の未知なる力が開花しようとしている?)

「静流? 大丈夫?」
「う、うん……」

 真剣な顔で考え込んでいる静流を見て、真琴は心配そうに静流の顔をのぞきこんだ。 

(静流様の苦手な、大ごとに発展しなければ良いのだが……)

 ロディの願いも空しく、静流の絵の評判は、加速度的に広まっていった。

「お静、大丈夫か?」
「う、うん、何とか」
「おい土屋! こんなんで明日の一般公開になったら、お静が大変な事になっちまうんじゃなねぇか?」
「確かに……生徒会とかも巻き込んで、明日以降の対策を練ってもらわなねぇとな」

 今までの静流の態度がよほど弱々しく見えたのか、蘭子は興奮気味に静流の肩をばしっと叩いた。

「安心しな、お静はアタイが守る! フン」
「お? お蘭のアネゴ、やけに気合入ってんじゃねえかよ?」
「ま、なぁな。明日はアタイも案内係だ」
「ん? 蘭ちゃん、誰かに係代わってもらったの?」
「良き理解者がいたからなっ」
「どうせ力づくだろ?」
「う、うるせぇ! とにかく、アタイが居るからには、お静には指一本触れさせねぇ!」

 蘭子はそう言って右手を握り締めた。

「お蘭さん……ありがとう! 頼りにしてるよ?」パァァ

「きゃ、きゃぅぅん」

 蘭子はロディの『偽ニパ』に、あっけなく撃沈した。

「蘭子ちゃん、もう少し静流に耐性つけようね……」
(チョロすぎるよ蘭ちゃん。本物はコレの10倍は下らないよ……)

 真琴はヘロヘロになっている蘭子を見て、ため息をついた。
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