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第8章 冬が来る前に

エピソード47-1

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国分尼寺魔導高校 2-B教室――

 静流たちがダーナ・オシー駐屯地を訪れた頃、国尼では校庭で『国尼祭』の開会式が終わった所であった。
 ちなみに、ココにいる静流は変身したロディで、シズムと二役である。
 教室に戻って来た静流は、登校時から気になっている事を達也に聞いた。

「達也、僕の絵が無いのって、何か知ってる?」
「確かに。昨日まではココにあったじゃない?」
 
 静流と真琴は、二人で首を傾げている。
 すると達也が自慢げに言った。

「お前の絵は、体育館に移すってよ」
「何だって? マジ、ですか?」

 体育館に展示する作品は、出品されたものの中で、特に優秀な作品という事であった。

「マジも大マジ。おい静流、お前の作品、ありゃあ化けるぜ?」
「えっ? まさかぁ?」
「昨日、みんなでお前の絵に値を付けようとしたんだが、結局決まんなかった。『価格応談』だってよ」

 達也は、外人がやるお手上げのポーズをしながらそう言った。

「先輩たちが言ってたぜ? 今年は久しぶりにオークション形式になりそうだってよ」
「は? そんなにあの絵が?」
「ああ、アレはヤバい。ド素人の俺でも、アノ絵のインパクトがスゲェってのはわかったからな」
「う~ん、何がスゴいんだろう……」

 達也は今回、生徒の作品に値を付ける『品評係』になっている。
 実際、静流に扮しているロディにも、静流が描いた絵の良さは解読不明であった。

「静流? お前、アノ絵に魔力を付与したのか?」
「え? 特別そんな事はしてないつもりだけど……」
「何て言うの? 『オーラ』みたいなの、半端ないぜ?」

 達也の指摘に、静流は首を傾げた。

「ちょっと待って? 学園で描いたシズルカ様のデッサンをコッチで仕上げたのよね? その時何か特別な事、してない?」

 達也との会話に、真琴が割り込んで来た。

「変わった事? そう言えば、美千留に筆を借りたんだったな……」
「美千留ちゃんの筆って、まさか?」
「うん。多分『霊毛筆』だと思う」

 五十嵐家では、掃除用のたわしに始まり、書道用の筆や、はたまた化粧筆に至るまでを、五十嵐家全員のありとあらゆる部位から発生する抜け毛や切った髪の毛を使う事がならわしとなっている。
 五十嵐家では、それらを『霊毛○○』と呼んでいる。
 五十嵐家の霊毛には色々と効果があり、一部のマニアの間では、高額で取引される事もあると言う。

「ふむ。アノ筆を使った効果と、題材が女神様だったのが相乗効果を生んだ……と言った所かしら?」
「どうしよう。困ったな……」

 真琴の説得力のある指摘に、静流は困った顔をしている。
 ロディは、目立つ事を極力避けたいという静流的発想で静流を演じている。

「困る事なんか、あるかよ」
「だって、ちょっとコワいよ。アノ絵がいくらで売れるかって……」
「ウダウダすんなって。『果報は寝て待て』ってな」
「他人事だと思って、こいつめぇ……」

 二人のやり取りを見て、真琴はロディに感心していた。

(何よこの感じ、完コピじゃない……)

 教室にムムちゃん先生が入って来た。

「はぁーい!、それでは1-Aから順に、皆さんの作品を見ます! 2-Aに続いて下さいね」

「「「「へーい」」」」

 隣のクラスである2-Aが廊下に出て行き、担任がGOサインをムムに出した。 

「じゃあ、行きましょう」

「「「「ほーい」」」」

 2-Bの生徒たちが、廊下に出て行く。

「静流、行くわよ、ほら」
「わかったから、そう急かすなよ」

 真琴につつかれながら、静流は廊下に出て行った。
 



              ◆ ◆ ◆ ◆




ダーナ・オシー駐屯地内 診療所――

「では、参ります」
「ええ、お願い」 

 『カラミティ・ロージーズ』の副隊長である夏樹が先頭で、隊長である竜崎ココナの病室に向かう。
 道すがら、ケイはシズルーに話し掛けた。

「大尉ぃ。依頼、受けてくれてありがとうございます」
「受けるかどうかは、ボスの気分次第だからな。今回はツイているぞ? ケイ君」
「そっか。神様も味方してくれたのかなぁ?」
「おいおい、まだ何も始まっておらんだろう、そう言う事は、この任務が無事に完了してから言いたまえよ」
「いけね。大尉の顔見たら、もう全部解決しちゃった様な気持ちになっちゃった。フフ」

 ケイはそう言うと、舌をぺろっと出して、にこっと笑った。
 そんなやり取りを、後ろから付いて来ているカチュアとルリが、いぶかしげに見ていた。

「何なの? あのチビ助は? 同じチビ助でも、アイツとは違う、何故か危険な雰囲気が漂っているわね……」
「ドクターにもわかりますか? 無邪気を装っていますが、実際の所はわかりませんよ?」
「ターゲットにグイグイいってるじゃない、それに、固定武器も装備してるし……」
「推定DまたはE。脱いだ時の破壊力は、はかり知れませんね……」

 ルリとカチュアが、前を歩いている二人を見ながら、鼻息を荒くしている。

「ケイちゃんの無防備過ぎるアプローチ、言わば『ノーガード戦法』に近いですね」フー、フー
「嫌味が微塵も無いのが、かえって不安感を抱かせるわね」フー、フー

 そんな二人に、ケイの先輩である瞳が聞いた。

「藤堂少尉、ケイの奴、急に色気付いたと言いますか、あか抜けたと言いますか……太刀川で何かありました?」
「それはね、植木伍長、ケイちゃんは『恋』をしているのでしょうね」
「まさか、シズルー様に、ですか?」
「ええ。ガチ恋、ですね」

 そんな話をしていると、先頭の夏樹が、ある病室の前で足を止めた。
 夏樹は振り返り、一同を見渡す。

「では、入ります」コンコン、「村上、入ります!」カチャ

 夏樹はそう言うとドアを開け、先に中に入った。

「どうぞ、中に……」

 夏樹に促され、シズルーは病室に入った。

「こ、これは一体……?」

 シズルーが絶句したのは、ベッドで寝ているココナには、両手両足に拘束具が装着してあり、身動きが制限されている為であった。

「今は薬で眠っていますが、目が覚めた時に『奴』が憑依している場合、逃走の可能性があり、このような処置をしています」
「奴って、誰よ?」
「わかりませんが、私共はそう呼んでおります」

 カチュアは前に出て、ココナの状態を診る。

「フムフム。右足がカルテにあった義足ね?」
「ええ。姫、コホン隊長が勤務中の事故で右足を失い、その後の泥岩竜『メルクリア』討伐の際に、その骨を義足にしたのです」
「そんな事が……ココナったら、何も言ってくれないんだもん」
「竜の骨……か」

 シズルーが義足を見た。外観はごく普通の義足の様だった。

「フレームにメルクリアのすねの骨を使用しています」
「何でまた、竜の骨なんぞを義足に?」

 カチュアは首をひねり、理解不能になっていた。

「ロマン、ですよ」
「ロマン?」
「前に聞いたんですが、隊長が好んで読んでいた童話に、海賊船の船長が自分の仕留めたクジラの骨を使って義足を作る話があったようで……」
「要するに、自満……か。『魚拓』のような物よね?」
「ええ。隊長は形から入るお方ですので……」
 
 シズルーが義足を観察していると、不意にがしっと手を掴まれた。

「くっ!!」
「ククク。ついに、ついにこの時が……」

 覚醒し上体を起こしたココナは、シズルーを不敵な笑みを浮かべながら、そう言った。 

「姫様!? 薬で眠っている筈なのに、おかしいです」
「奴だ! 憑依されている!」
「姫様ぁ、止めて下さい! 大尉が困ってるよぉ」

 部下たちが、ココナの形相を見て、驚愕の表情を浮かべていた。

「何と物凄い力だ!」

 シズルーはココナの手を振りほどこうとするが、しっかり掴まれている。

「やっと捕まえた! む、このオーラ、確かに記憶しておるぞ?」 
「何を言っているのかわからんが、話を聞いてやる。その前に手を離せ!」
 
 シズルーがそう言うと、ココナは意外にも従順に手を離し、少しの沈黙の後、しゃべり始めた。

「そなたは、ドラゴンスレイヤー殿か?」
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