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第8章 冬が来る前に

エピソード46-9

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 HRが終わり、担任が教室を出ると、直ぐにルリが飛んできた。

「静流様、一緒に保健室に来て下さい!」ハァハァ
「どうしたの? やっぱり何かあったの?」
「と、とにかく行きましょう」

 ルリに背中を押され、保健室に半ば無理矢理連れて来られた静流。

「先生、静流様を連れてまいりました!」
「ご苦労様」

 保健室には、先生と忍が、静流とルリが来るのを待っていた。
 椅子に腰かけ、足を組んでいる先生に、静流はうつむいた。

「あ、あの、先生? ご気分は如何ですか?」

 静流は目を伏せたまま、顔を赤くしてそう言った。

「問題無いわ。むしろ、最高にリラックスしてる」

 白衣の下からのぞく豊満な双丘に、汗の雫が一本、谷間を流れ落ちた。
 目のやり場に困った静流が視線を窓の外に向けると、ハンガーに黒いレースのパンティが干してあった。

「え? 先生!? あれって、まさか、今……」
「ええ。ノーパンよ♡」

 先生はにこやかにそう言ったのに対し、静流の顔は次第に青ざめていった。
 
「す、すいませんっ、 大変な事をしでかしてしまいました」
「さぁて、どうしよっか、な?」
 
 先生に深々と頭を下げる静流に、先生は不敵な笑みを浮かべた。
 その態度を見て、ルリと忍は黙ってはいられなかった。

「先生!話が違いますっ! 元はと言えば先生が……」
「うん。静流は悪くない。アナタが静流にワイセツな事をしようとした。正当防衛」

 二人の必死な弁護を聞いた静流は、二人に礼を言って、床に座り込んだ。

「二人共ありがとう。もうイイや。先生、煮るなり焼くなり、好きにして下さい」
「うん? 五十嵐クン、 何を勘違いしてるの?」
「え? だって……」

 静流は先生の意図がわからず、困惑した。 

「アノ後なんだけど……すごく調子がイイのよ。ありがとう♡」パァァ
「えっ!?」

 先生の意外な返事に驚いて、思わず先生の顔を見た静流。

「何て言うの? 身体の芯から純度の高い魔素が滾々と湧いて来る……ような感じなの」

 そう言って先生は頬に手をあて、瞬時に足を組み換え、火照った身体をくねらせた。

「魔素の根源は生物の『種の保存』に関わる要素……つまりリビドー、性的欲求、なの」
「先生? そんな事、教科書には載っていませんよ?」
「載って無いわよ。思春期のアナタたちには、そんな知識は要らないほど、純度の高い魔素が溢れているから」

 ルリは先生の言った事を一言にまとめた。

「え? つまり、魔法の発動に必要なのは、いわゆる『スケベ心』ですか?」
「そう言う事。そんなの、教科書に載せられないでしょう?」

 先生は続けた。

「五十嵐クンにイカされた後、体中の毒素? の様なものが霧散した? 感じがして、心身共に絶好調なの。フフ」
「それは、良かったんでしょうか?」
「イイに決まってるじゃないの。んもう」

 先生は静流をつついた。

「どういう事でしょうか? 黒田先輩?」
「わからない。少なくとも静流のアレには、『癒し』の効果がある、という事?」

 ルリと忍は、そう言って腕を組み、首を傾げている。

「それで、五十嵐クン、アナタ、何をやったの?」

 先生は好奇心むき出しの笑みを浮かべ、静流に聞いた。

「何って、ただ僕の魔力を相手に流して、『気持ちよくなーれ』って念じた……だけです」
「へ? それだけ!?」

 先生はキョトンとしている。

「単なる魔力交換だったら、あんな状態にはなりえないわね……」
「それは、家系、だと思います」
「五十嵐クンの家系って、桃髪の?」
「僕の母方には、夢魔の特性が強く出ています。母さんに言われました。『アナタにはインキュバスの要素がある』って」

 それを聞いた先生と女生徒たちは、顔を見合わせた。

「すいません、引きますよね……少し間違えば性犯罪者扱いですもん」

 静流の顔がまた青ざめてきた。
 しかし、先生たちの反応は、予想をはるかに裏切ったものだった。

「夢魔……素敵ね♡」
「人々に夢を与えられる特性……素晴らしいです!」
「いろいろと合点がいった。納得」

 三人はおおむね、静流の特性を良い方にとらえていた。

「気持ち悪くないですか?」
「ううん。要は『使い方』でしょう?」

 先生は指導者の顔になり、優しく静流に微笑みかけた。

「よぉし、この力を完全に制御できるよう、私が専属コーチになりますっ!」フーフー
「はぁい! 実験台なら私が!」ハァハァ
「同じく、モルモット志望」フン
「え!? えぇ~っ!?」
 
 三人の宣言に、オドオドと対処不能になっている静流。

「各自、替えパンツは多めに用意しておくようにっ!」
「「はいっ!」」

 場面がホワイトアウトしていく。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 二階 仮眠室――

「ピピピピピ」

 いきなり電子音が鳴った。

  ブゥゥーン

 睡眠カプセルの蓋が開き、角度がゆっくり鋭角になっていく。

「う、うう~ん」

 目が覚めた静流の目に入った者は、ブラムだった。

「おはようシズル様。気分はどぉ?」
「……ブラム? 頼んでたプログラムと違ってたぞ?」
「あれぇ? おっかしいなぁ?」ペロ

 そう言って舌を出したブラムに、静流は溜息をついた。

「大方誰かに頼まれたんでしょ? お菓子につられて」
「へへ。でも、興味深いデータが取れたよ?」
「何だい? そりゃ」
「ここ、この波形。外部から干渉されてるね」

 ブラムが睡眠時のある部分の波形を指さした。

「妨害とか、浸食とかじゃないから、防壁を超えたんだろうね」
「え? やっぱり朔也さんの魔法だったのか……」ブツブツ

 静流は顎に手をやり、ブツブツ言っている。
 するとそこに、目が覚めたみんなが静流の元に集まって来た。

「あ、おはようございます、皆さん」

「おす!静流!」
「おはよう、静流」
「おはようございます、静流様」ポォォ

 郁、忍、ルリが挨拶した所で、ジェニーが小走りで静流に抱き付いた。

「おはよう、静流クゥン」パフゥ
「「「はぁぁ!?」」」

「お、おはようございます、ジェニーさん!?」
「ヌフゥン、静流クンの匂いだ……ハァ」

 これほど積極的なジェニーは、見た事が無かった。

「これ、ドクター、寝ボケるのもいい加減にしとけ!」
「ちょっと、恥ずかしい、かな?」
「え? あ……ごめんなさぁい」カァァァ

 急に我に返ったのか、真っ赤な顔で静流から距離を取るジェニー。

「一体どんな夢を見たんだ? ドクター?」
「……5秒で昇天? させられる……夢」ポォォ

 そう言うと頬に手をあて、クネクネと腰をひねるジェニー。
 それを見て、ルリはジト目でジェニーに言った。

「ドクター? 隠れ爆乳なんですから、ノーブラでその動きは反則ですよ?」
「きゃ、お見苦しい所、すいましぇん。おフロ、行ってきまぁーすっ」

 そう言うとジェニーは、着替えを瞬時に取り、そそくさと風呂場に走って行った。

「どうしたんでしょう、ジェニーさん。顔真っ赤っかでしたよ?」
「静流、武士の情けだ、放っといてやれ」
「うん? どういう事? イク姉」
「わからんならスルーしとけって事だ」
「ふぅん。よくわからないけど、わかった」

 静流は郁に言われるままに、スルーする事にした。 

「ルリ、どう思う? ドクターの態度」
「ふむ。確かに挙動不審、ですね。ただ」
「ただ、何?」

 ルリの思わせぶりな言動に、忍が聞き返す。 

「間違いなく言える事は、今ドクターは『濡れている』という事ですかね」
「フッ、そんなの、見てればわかる」
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