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第8章 冬が来る前に

エピソード42-6

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桃魔術研究会―― 第二部室

 静流と真琴は、桃魔の第二部室の奥にある睦美のオフィスにいた。

「で、誰なんです? その人って?」
「イイかい、聞いて驚けよ? その方はな……」

 睦美が静流たちの反応を面白がりながら、ゆっくりと口を開く。

「とりあえずこの動画を見たまえ!」

 拍子抜けする静流たち。

「そこまで引っ張りますか!?」
「勿体ぶらないで早く教えて下さいよ!」
「とにかく、これを見てくれ……」ポチ

 睦美がマウスをクリックすると、動画が始まった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 関係各位

 最近巷では、某PMCとの技術支援について、上層部の独断専行による談合を経
 た、随意契約と解釈されてもおかしくない案件が報告されている。

 我が軍は、特殊な場合を除き、随意契約は認められない。
 ここに、諜報部が独自に入手した映像をご覧頂きたい。


  
    【閲覧注意】『極秘映像 カメラは見た! 官製談合の実態!』 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


CASE:1 都内 某料亭――

 鹿威しがある日本庭園が目を引く、落ち着いた料亭。 
 その一室に、少数の官僚を連れた高官が、初老の女性将校をもてなしている。
 当然顔にはモザイク処理が施してあり、声も変えてある。

「アタシをこんなところに呼び出して、何のようだい? ●●?」
「もう、わかってはるくせにぃ……そちらさんの□□大尉、お借り出来まへんかいな?」

 高官はもみ手をしながら、女性将校に交渉を持ち込む。

「おい、順序が入れ替わっとるぞ? まずは指名参加願いを寄こせ!」
「それが緊急なんですわ。『特殊随契』とすれば堂々と頼めますよってに」
「アタシと『談合』とは、どう言う了見だい!? そんなもんにウチの可愛い息子たちを貸せないね、出直しな!」
「ちょ、ちょい待って下さい。これだけ出しますさかいに。この金は表向きでんがな。残りはコレで……」
「いくら積まれても、ダメなもんはダメだ! とっとと消えろ!」
「ひぃぃぃ」

 画面がブラックアウトした。




CASE:2 某駐屯地――

 応接室で女性将校がソファーに腰かけている。その前方に、高官らしき者がおもむろに土下座した。
 この映像も、当然顔にはモザイク処理が施してあり、声も変えてある。

「お願いです! □□大尉を我が基地に派遣して頂けないでしょうか?」
「ふむ。ウチの息子たちを貸すんだ、それ相応のもの、用意出来るんだろうね?」
「そ、それが、予算を削られてしまい、今はこの位しか……」
「は? そんなはした金で、ウチの可愛い息子たちを貸すこたぁ出来ないね。お引き取り願おうか?」
「待って下さい! そうおっしゃらずに。お願いします! なにとぞ再考を!」

 高官はなおも食い下がった。

「そうさなぁ、MTモビル・トルーパーを一台都合してもらおうか? 当然、最新型を、な」
「な、無茶です! MT? それも最新型を民間に払い下げるなど、ありえません!」
「それが無理なら、さぁ、とっとと帰んな!」
「ひぃぃぃ」

 画面がブラックアウトした。


 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



   これらの映像から、下記の様なものを遵守することは、言うまでもない。

 ・発注は、いかなる理由でも、公正な入札形式にのっとり行うこと。
 ・業者の選定は、過去の実績等を考慮し、厳選されたい。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ここで一旦動画が終わった。

「モザイクがかかってますけど、あの女性将校って、寮長先生ですよね?」
「そうとも。数々の武勲を上げ、歴代女性軍人では最上級将官まで上り詰めた、エスメラルダ・ローレンツ准将閣下だよ!」
「その人って、アノ学園にいる寮母さんで、退役軍人の?」
「うん、そう。しかし、よくもまぁあの人を担ぎ出せましたね? 何を差し出したんです?」

 静流は溜息をつきながら、睦美に聞いた。

「その辺りの交渉は、如月技術少佐に一任しているので詳細は不明だが、協力してくれている事は間違いないよ」
「でも、こんなものを、軍のお偉いさんに送りつけたんですか?」
「ああ。今頃はオファーを取り消す方向で動いてくれているだろう」
「それならばイイのですがね……」
「この位ダメ押ししておけば、暫くはビビッて、誰も依頼する所は無いだろうな」

 睦美は満足げに頷いた。
 静流がひょいとPCの画面を覗くと、もう一つ動画のデータがあった。

「睦美先輩? この動画は何です?」
「見つかってしまったか。フフ。これはボーナストラックだ。見るかい?」
「ついでですから、見ますよ」
「何か、イヤな予感、するわね……」


 睦美は、動画ファイルをクリックした。


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【特典映像】 『天誅! 許すまじ不正!』 


某駐屯地 仮眠室――

 シズルー・イガレシアス大尉は目が覚めると、見覚えの無い薄暗い部屋にいた。 
 この映像は、何故か無修正である。

「はっ! 何処だ、ココは?……」 
「お目覚めの様ね? 大尉殿?」

 上体を起こしたシズルーの前に、いかにもな女性兵士がいた。

「ココは仮眠室。楽にしてて下さいねぇん」

 女性兵士は、シズルーの寝ているベッドに腰かけた。

「失礼、状況を説明してもらえるだろうか?」
「大尉殿が食堂で気を失ったんです。過労でしょうか?」
「そんな筈は無い。私に限って健康管理を怠る等、あってはならない!」

 女性兵士は、胸元を開け、双丘の谷間を強調しながら、ゆっくりとシズルーに近付いた。

「んふぅ、大尉殿ぉ? ここでお会いしたのも何かの御縁。私を……じっくり味わって頂きますわよ♡」
「止めたまえ。貴君は何を企んでいるのだ?」
「いいえ、何も? ただ、お願いがあるのですが……【魅了】」ポぅ

 女性兵士はシズルーの目に自分の目を合わせると、瞳が薄紫に変わる。
 暫く見つめ合うが、何も起こらない。

「んふ。さぁ、私のいう事を……はっ、おかしいわね?」
「フフ。私に色仕掛けは効かんよ。さらに言うと、貴君は残念ながら私の好みではない」
「な、何ですって? 私の【魅了】が効いてないなんて、ありえない!」

 女性兵士は動揺し、胸元を隠してシズルーから離れようとするが、シズルーに腕をしっかり掴まれている。

「大方弱みを握って、安い賃金でこき使おうと企んでおったのだろう? 誰の差し金だ?」
「フッ、そんな事、言うわけ無いじゃない!」
「では、身体に聞いてみよう」

 シズルーは、女性兵士の腕を掴んだまま、お椀型の双丘に顔をうずめた。

「あうっ、か、身体の力が、抜け……る」

 女性兵士はシズルーに胸をまさぐられ、恍惚の表情を浮かべた。
 すると、シズルーは何かを見つけたようだ。

「何かね? この超小型カメラは?」
「ひっ! いつの間に!?」

 女性兵士の顔が次第に青くなり、小刻みに震えている。
 シズルーが女性兵士の首筋に顔をうずめるシーンで、画面が真っ黒になり、音声だけになる。


「あ、ああ、ダメぇ」
「さぁ、答えろ、黒幕は誰だ?」
「くっ、はう……言う、言います。だから、お願ぁい、止めないでぇ~♡」


 画面が元に戻ると、シズルーは少し乱れた服を直している。

「あぐっ……ああ、素敵♡」ガク

 女性兵士は、ベッドで泡を吹いて失神した。

「私も見くびられたものだ。女の趣味ぐらい、事前に調べておくべきであったな」

 シズルーは女性兵士を背負い、部屋を出た。
 辺りを見渡すと、何故かは不明だが、旧日本軍の夜間戦闘機『月光』が駐機していた。

「何故、複座式の『月光』がココに? さてはあの女……」

 シズルーは前の操縦席に乗り込み、計器をチェックする。

「よし、飛べるぞ」

 シズルーはノビた女性兵士を後ろの席に乗せ、エンジンを点火し、プロペラを回す。
 暖機運転が終わり、オイルが隅々まで行き渡ったのを確認し、スロットルを開ける。
 シズルーが操縦する『月光』は、滑走路に着くなりスロットルを全開にし、離陸した。




              ◆ ◆ ◆ ◆


某PMC基地ベース――

「ボス、シズルー大尉からの定期連絡が途絶えました!
「何ィ?」
「また、谷井兵長の姿が見えません!」
「あの子まで? しょうがないねぇ、全く」

 そう言うと初老の女性将校は、おもむろに立ち上がった、

「ボス、どちらに?」
「決まっておろう! 奴らを迎えに行くのさ」

 女性将校が外に出ると、隊員たちが整列していた。

「お前たち! アタシがいない間、ココを頼んだよ?」
「は、お任せください!」
「来な。『カイザーナックル』!!」

 女性将校がそう言うと、両腕に黄金に輝く籠手が装備される。

「ぶっ飛べ!【ギャラクティカ・インフェルノ】!!」グォォォ

 女性将校が炎をまとった拳を空に放つと、炎の塊がグーの形となり、それに飛び乗った。
 
「ボス! 行ってらっしゃいませ!」ザッ

 隊員たちが空の彼方に消えていく女性将校に向け、最敬礼をした。
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