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第3章 失われた時を求めて  転移魔法、完成……か?

エピソード24-7

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五十嵐宅―― 夜

 静流は、久々の家族団らんを味わった。

「あんたが帰ってくるってわかってたら、もっと奮発したのにね?」

「イイよ、こう言う『いつもの』ってのがイイんじゃないか」

「まぁ、生意気な事言って」

「で、どうだったの? 留学」
 美千留は身を乗り出して静流に尋ねた。

「それがさぁ……」
 静流はきわどい表現を極力省いて語った。

「ふーん。部屋は一緒だったんだよね、女の子と」

「そりゃあ、女子として潜入してるんだから、ルームメイトの子はいたよ」

「ナニかあったんじゃないの?」
 美千留はジト目で疑いの眼差しを送った。

「ないない。夜中に酔っぱらったルームメイトの子が間違えて僕の布団に入って来たくらいだよ。朝気付いたんだけど」

「それをね、世間一般には『夜這い』って言うの!」

「いやいや、何もなかったし?」

「ま、まさか、この状況って『朝チュン』ってヤツ……なの?」
 美千留の顔から血の気が引いていく。

「飛躍しすぎてます、美千留さん」

「お風呂はどうしてたの? しず兄」
 尚も食って掛かる美千留。

「しょうがなかったんだ。いろいろ工夫したけど、一人で入るのは無理だったよ」

「ばっちり見てるんだ。エッチ、スケベ、デバガメ」

「美千留だって、いつも僕の裸、見てるじゃんか」

「わたしはイイの。妹なんだから」

「でもまあ、あまり意識しないで入れたよ。美千留のお陰かなぁ」

「何ソレ、私の裸、見飽きたみたいな事言ってるの?」

「そうじゃなくて、『心の準備』みたいなものが出来てたって言うの?」

「チッ、安売りし過ぎたツケか。見てろよ、いつか鼻血出させたるから」
 久々の兄妹漫才を見て、母はにこやかに言った。

「あらあら、昨日までお通夜みたいだったのに、いつもの美千留に戻ったわ」

「お母さん! それ言っちゃダメ!」カァァ

「おい、顔赤いぞ、のぼせたんじゃないか?」

「うるさい! ベー」
 静流はふと思い出した事があった。

「留学期間が終わったあと、軍の施設でいろいろあったんだけどさぁ……」
 静流は以下の事柄を、かいつまんで説明した。

 ・女性軍人の佳乃と共に戦闘ヘリ『ジェロニモ』にてレッドドラゴンと遭遇、これを撃破する。
 ・その際にドロップした『聖遺物』で、【転移】他様々な能力を獲得。
 ・管理者レベル次第で今後の移動手段に革新的な進化をもたらす可能性。

「『ワタルの塔』? ワタルって『黄昏の君』の事よね?」

「うん。技術少佐が言うには、僕はその末裔の可能性が高いらしいよ」

「あえて否定はしないわ。静流、気を付けるのよ」

「母さんが詳しい事言えないのはわかってるから。無理に暴くなとも言われてる」

「ありがとうね。でも信じ難いわね」

「ちょっと見せようか、ロディ、変身」
 静流はカバンから本を出し、命令する。」すると、本がダークグレーの豹になった。

「お呼びですか、静流様」シュタッ
 豹は静流の前でお座りをしている。

「まあ、イイ声ね」

「またしず兄が良くわからない物、拾って来た」
 と言いながら、美千留はヨシヨシとロディを撫でている。

「エサ代かかりそうね?」

「大丈夫だよ、コイツが『聖遺物』なんだから」

「はい、奥様、私は静流様のしもべです」

「まあ、奥様だって、ムハァ、イイ響き」
 ロディは美千留の方を向いて、変身した。

「よろしくお願いしますね? 美千留ちゃん」

「え? わたしじゃん!? どうなってんの?」
 ロディは、鏡の前にいる様に、美千留の仕草を反転して真似した。

「こいつは【トレース】させれば何にでも変身出来るんだ」

「スゴいじゃん。じゃあ明日から学校行ってきて!」

「そういうズルはいけないよ? 美千留ちゃん」
 チチチと人差し指を立てて、ウインクしながらロディはそう言った。

「『しもべ』って、何でも言う事、聞くんじゃないの?」

「ソイツは僕の言う事しか聞かないから、ダメなの」

「じゃあ、しず兄が命令して!」

「ダ~メ。第一、コイツにはやってもらう事があるの、シズム!」シュン
 シズムと呼ばれたロディは、すぐさまシズムに変身した。

「何ィ? 静流クン」
 ロディは静流の無茶ぶりにも、そつなくこなしている。

「シズムには、明日から僕と一緒に学校に行ってもらうんだ」

「設定はどうなってるの? 静流」

「そこなんだよ、一応『遠い親戚』という事で落ち着いてるんだけど」

「この子、髪の毛は藍色だよ? ハトコくらい離れればイケるかなぁ?」

「遺伝子に詳しい先生に聞いてみるか?ボロが出ないように、ちゃんと設定を詰めとかないと」

「今更だけど、お母さんは五十嵐の血筋なの? 髪の毛からして」

「ええ、私の家は分家よ」

「確か旧姓は、荻原だったね」

「イイじゃない、そんな昔の話。シズムちゃんの件、とりあえずわかったわ。アタシも考えてみる」
 ひと通り説明が終わったところで、美千留は静流に尋ねた。

「で、夏休みはそのダンジョンに潜りっぱなしなの?」

「寝るときとかは戻るけど、当分は合宿みたいになるよな」

「軍の女の子いっぱいいるんだ。年上率高めの」

「確かに全員年上だな。ミオ姉はわかるだろ? 美千留」

「あのお姉さんか……手強いな、一途系は」ブツブツ

「何を言ってるのか、わかんないよ。とにかくそう言う不純なヤツじゃないから。何だったら、美千留、来るか?」

「イイの? わたしも?」

「アマンダさんに相談して、OKだったらね」

「行く行く! 絶対行く!」
 美千留は、参加出来る可能性がある事に喜んだ。

「危険は無いのよね、静流?」

「大丈夫だよ、母さん。塔を発見するまでが大変なんだ」

「そう。ならイイけど」

「そう言えば、そこにいるんだよな、薫子さん」

「何ですって?」

「その塔があるのって、『嘆きの川コキュートス』なんだよ」

「それって、モモたちもいるって事?」

「そうなるね。【ゲート】を構築出来たら、帰って来られるかも」

「そう。帰って来るのね、モモ」

「あんまり嬉しそうじゃないな、仲悪いの?」

「そんなんじゃないわよ。双子の姉妹なんだから」
 そう言った母親は、遠い目をしていた。


          ◆ ◆ ◆ ◆


 部屋に戻り、食虫植物の世話をしている静流。
「うん、コンディションはOKみたいだ。美千留、世話しててくれたんだね? サンキュ!」
 美千留は静流のベッドで寝そべり、マンガを読みながら足をプラプラさせている。

「そいつらの面倒は真琴ちゃんがやってくれたよ。やっぱ植物は『森の住人』に任せるのがイイから」

「何だって? 全く美千留は、もう」

 静流は、向かいの部屋に明かりが点いているのを確認し、屋根伝いに真琴の部屋に行った。お互いに鍵は閉めない取り決めになっている。

「真琴、いるんだろ」ガラッ シャー

 静流は真琴の部屋を開け、カーテンを引いた。すると、

「きゃ! ば、バカ、いきなり開けるな!」

 下着姿の真琴は、パジャマに着替えている最中で、ズボンを上げようとしたところで窓を開けられ、足がもつれた。

「わ、わっ」

「危ない!」ガシッ
 すんでのところで入ってきた静流に抱き留められる真琴。

「ふう、危なかったぞ」

「ふぇ? 静流? メガネは?」

「何言ってんの? お前は魔力耐性LV.2……ヤバ」


「きゃうぅぅん!」
 真琴の目に♡マークが浮かんだ。


「静流ぅ、さびじがっだんだぞぅ……責任とれやダボがぁ!」
 おとなしくしていた真琴が、いきなり豹変した。

「ま、真琴さん、どうどう」

「今日こそお前の『初めて』、頂くぞ。往生せいやぁ!」ガバッ
 静流は真琴のベッドに押し倒され、真琴にマウントポジションを取られた。

「ひぃぃ! 真琴、落ち着いて、どうどう」
 静流は何とか【幻滅】を発動し、真琴のオデコに黒い霧をまとった手をかざした。ポウッ

「はひぃぃぃ」しゅぅぅ

 鬼のような形相だった真琴は、【幻滅】を受け、次第に中和されていく。

「え? あ、あたし、何て事を」
 真琴は正気になると、バッと静流の上から退き、みだれたパジャマを直した。
 自由になった静流は、瞬歩で自室に戻り、メガネを装着し、戻って来た。

「ゴメン、うっかりしてた。僕のレベルが上がったから、魔力耐性でも防げなくて、【魅了】を浴びたんだね?」

「そうみたい。久しぶりだったわ。アノ感覚」ポォォ
 真琴は顔を真っ赤に染め、顔を手で覆っている。

「サラセニアたちの面倒、見ててくれてたんだってね、美千留から聞いた」

「だって美千留ちゃん、キモいとか言って近寄りもしないのよ」

「ありがとう、真琴、これ、僕の気持ち」
 静流の手には、真琴の髪色と同じビリジアンの勾玉が付いたペンダントがあった。

「あたしに? わぁ、キレイね」パァ
 ペンダントを見た真琴は、一気に機嫌が良くなった。

「向こうのお土産屋さんで買ったものに、僕の『祈り』を込めてあるんだ」

「祈りって?」

「付与魔法だよ。ちゃんとシズルカに変身して付与したんだぞ。ご利益あるから、期待して?」

「ありがと。大事にする」
 真琴はそう言って、ペンダントを握り締め、うつむいた。

「とりあえずお礼と、それ渡したかったんだ。じゃあ、おやすみ!」シュタッ
 静流は言いたいことを早口で言うと、すぐに自室に帰って行った。心なしか顔が赤かった。

「静流のヤツにしちゃあ、気が利いてるじゃない。あ、静流のニオイだ」クンクン
 真琴は、静流の香り付き布団に入って、いつまでも勾玉を見ていた。


          ◆ ◆ ◆ ◆


 自室に戻った静流を待っていたのは、静流のベッドでタオルケットにくるまって顔だけ出している美千留だった。

「コラ美千留! 自分のベッドで寝なさい」

「イヤ!しず兄と一緒に寝る!」
 美千留は静流のベッドから出ようとしない。

「勘弁してくれよ、久々の自分のベッドを味わいたいんだよ!」

「私だって、久々のしず兄を味わいたいの!」

「わけわからない事、言わないの!」

「フン。スースー」
 美千留は寝たフリを始めた。

「わかったよ。今日は美千留の部屋で寝るから」
 静流はそう言って美千留の部屋に行こうとする。すると、

「ダメ! 絶対ダメ!」
 美千留はガバッと起き上がり、静流の前に立った。 

「じゃあ、自分の部屋で寝る?」

「わかったよ、自分の所で寝る! フンッ」 バタン
 そう言って美千留は、静流の部屋を出て行った。

「ふう、これでやっと寝れるな」

「静流様、私は何に変身しましょうか? 真琴様? もしくはアノ本にあった女性ですか?」
 ロディはとんでもない事を言って来た。

「は? ロディ、何をするつもりだ?」

「勿論、『添い寝』でございます」

「昨日まではそんな事、言ってなかったじゃんか」

「従者は、常に主人の傍におり、欲望のはけ口とならん」

「お前、そういうの、どこで覚えるんだ?」

「主に、薄い本です。黒井様がこれで勉強するように、と」
 ロディが持っていた薄い本は、『サルでもわかる解説 秘奥義・愛の四十八手』であった。

「な、何じゃあこりゃあ! ロディ、こんなもの、見ちゃいけません!」

「もう、スキャンは完了しています」

「削除しなさい! もう、黒ミサ先輩めぇ、とんでもないものをロディに……」
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