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第2章 ミッション・インポッシブル  ミッション系お嬢様校に潜入ミッション!

エピソード11-1

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 6月のある日 学校 2-B教室 昼休み

「また雨か、ジメジメは得意じゃないんだよな」 

「得意な奴なんて、カタツムリとかナメクジか?」

「相変わらずバカなこと言ってるし」

「確かにこう雨ばっかりだと、気が滅入るわよね」
 いつもの四人が他愛のない会話をしていた。すると、

「五十嵐くぅん!大変よぉ」
 担任の日吉ムム先生がパタパタと走ってきた。

「どうしたんですか? ムムちゃん先生?」

「ちゃん付けすな! それよりちょっと職員室に来てちょうだい!」
 先生に職員室まで連れてこられた静流。しかし自分には思い当たる節が無い。


 職員室――

「教頭先生、五十嵐君を連れてきました」
 ムム先生が教頭に静流を預けた。

「いやぁ、五十嵐君!快挙だよ」

「何です? 快挙って」

「女神像だよ。キミがモデルなんだろう?」

「女神像って、あ!あれか」

「この度我が校の姉妹校である『聖アスモニア修道魔導学園』に寄贈することが決まったのだよ。その除幕式に『本人』を是非にと言われてね」

「は、はぁ」

「今回、特別に『短期交換留学』として君には二週間、留学してもらう」

「え? 何ですってぇぇぇ?!」
 静流は人生最大の危機を迎えたかの様に驚愕し、落胆した。

「いつもの厄介事のレベルじゃない!スケールが違いすぎますよ!」

「言いにくい事だが、ちと問題がある」 

「何か問題があるんですか?」

「『聖アスモニア修道魔導学園』はその名の通り、修道院でもある。従って男子禁制なのだよ」

「男子禁制だったらダメじゃないですか! 行きませんよ、絶対に!」

「そこを何とか。実は我が校は学園に『大きな借り』があってね、無下にできないのだよ」

「教頭先生? まさかとは思いますが、僕が女装して学園に潜入しろって事じゃないですよね?」
 静流はこの流れで一番ありえない事を述べた。

「おおむねそれで合っておる」

「校長先生!」
 校長がいきなり出しゃばって来た。

「わしからも頼む。何、全力でサポートさせる。安心せい!」

「そんな強引な! 大体サポートってどんなサポートですか?」

「先ず『偽装』については花形君に全面的に協力してもらう」

「あの部長ですか……」

「そして、日吉ムム先生を同行させる。彼女はあの学園のOGじゃからの」

「は?私も行くのですか?でも……」
 いきなりの抜擢に先生は動揺した。

「コッチの事は心配せんで良い!」

「要件は理解しましたけど、少し考えさせて下さい」
 静流は目まぐるしく変わる情勢に追い付けず、考えを保留した。

「いきなりで済まんかった。無理強いはイカンな。まあ最悪仮病でも使うことも考えとくかのう……」
 校長は次第に元気がなくなっていった。


 生徒会室――

 静流は真っ先に生徒会室へ行った。
「睦美先輩!大変な事になっちゃいました!」

「うむ。先ほどコッチにも情報が入ったよ。全く無茶な話だ。我が校の至宝である静流キュンをあの『女の園』に単騎で挑ませるとは……校長め」

「完全アウェーですよね……一応ムムちゃん先生が一緒に来てくれるんですけど」

「日吉先生か…… せめて木ノ実先生だったらな」
 二人で頭を抱え、くねくねと身をよじっている。

「こんなマンガみたいな事ってあるんでしょうか?」

「待てよ?こ、このシチュエーションはまさか……」
 某いわゆる「エロゲー」に、祖父の遺言で男である孫を男子禁制のお嬢様学園に通わせるものがあったように記憶している。
(ムハァ。四六時中モニタリングしたいな……)

「ん?そうか!その手があったか!」
 睦美はポンッと手を打って何やら策を思いついたようである。

「何か思いついたんですか?」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず。策に乗ってやろうではないか」

「じゃあ、先輩も行けと?」

「キミをあのような学園に行かせるのは癪に障るが、キミにとってもメリットはありそうだ」

「メリット?」
「この機会を逃さず利用してやろうじゃないか」

「何をです?」

「薫子お姉様の件について、探りを入れる」

「そっか、直接現地で情報収集出来ますね」

「不安なのは無理もない。だがキミは一人じゃない」

「ムムちゃん先生ですか?」

「それもある。が、キミに強力な助っ人を用意しようじゃないか!」

「助っ人?ですか?」

「うむ。まあ、私に任せておけ!」


 科学実験室――

 静流は科学実験室に連れてこられた。その中の準備室に用があるようだ。
「おい、いるか?カナメ!」

 準備室の中は書棚に入りきらない本がうず高く積み上がり、少々埃っぽい。
 隅っこでパソコンをいじっている人影があった。

「ん?書記長か?珍しいな。お!キミはかの有名な……ムハァ」
 メガネのズレを直しながら立川カナメは近付いて来た。背はひょろっと高い。わずかなふくらみとスカートで女性なのかと思われる。髪がスカイブルーなのを除くと、ぼさぼさの髪に丸メガネなので、静流は親近感が沸いた。

「五十嵐静流キュンだ。よろしく頼むぞ?」

「ど、どうも……」

「いつかキミとメガネ談義をと思うとったんよ」

「堅苦しい挨拶は抜きだ。カナメ、貴様に作ってもらいたいものがある」

「来て早々頼み事か?何か見返りはあるんだろうな?」

「勿論。貴様、『聖アスモニア修道魔導学園』に興味、あったろう?」

「ぬ。あの学園に何かあったんか?おい!」

「この度、この静流キュンが短期留学することとなった。イレギュラーだが我が校の公認ミッションだぞ」

「何ィィィィ!しかし、あそこは『女の園』やねんぞ?男子禁制やぞ?」
 カナメは異常に食い付いて来た。

「当然女に偽装する。その辺は花形が何とかするらしい」

「奴か。確かに偽装に関しては適任やな……しかし」

「そこでだ。我々も静流キュンを影でサポートしようではないか?」
 カナメを巻き込む為、交渉術を使うか迷っていたが、杞憂であった。

「留学か…… オレが留学を希望した年から中止になってしまって……」グスッ

「貴様もそのクチだったよな。私もだ」
 二人とも遠い目をしている。どうやら睦美も留学に興味があったようである。

「ぬ、ぬぅぅぅ……覗きたい」
 カナメはつい本心をさらけ出してしまった。

「そこで提案なのだが……」ごにょごにょ

「ん?それは……そうか、その手があったか!」

「話、まとまりました?」
 静流が二人の雰囲気に呑まれ、おずおずと尋ねた。

「バッチグーや!オレに二日くれ!何とかしたる」

「恩に着る。貴様にしか頼れないんでな」

「水臭いぞ、オレとお前の仲やないか!」
 二人は顔を赤くして興奮している。

「仲イイんですね?お二人は」

「いわゆる幼馴染ってヤツやな。ムッちゃんとは」

「懐かしいな、その呼び方」


 美術室――

 美術室のドアを開ける。ガチャッ
「花形、いるか?」

「あら、書記長殿に静流クン、さてはあの件ね?」

「ご名答。偽装の件だが、進捗はどうだ?」

「ど、どうも」
 背筋に冷たいものが走った。

「ええ、問題ないわ。美術部の総力を結集して、絶対成功させるわ!」

「見上げた心がけだ。して、詳細は?」 

「驚くわよ?ほら!」
 部長は大きな箱から全身タイツのようなものを取り出した。

「この人工皮膚は、あらかじめセットしたものに形状記憶させることが出来るの【復元】ポゥ」
 全身タイツはムクムクと大きくなり、出る所は出て、引っ込むところは引っ込み、全裸の肉体に変わった。若干胸が大きめなのは気になる所だが。

「うわぁ、これを着るんですか?」

「ふむ。この触り心地。局部まで精巧に出来ているんだな?グフッ」
 睦美は興奮ぎみにいやらしい手付きで全身タイツをまさぐっている。

「着た瞬間から静流クンにフィットするようになってるの」

「丁度いいわ。服の上からでいいから着てみなさい、今」

「は、はい」
 静流はおずおずと背中のファスナーを下げ、着ぐるみを着る要領で人工皮膚をまとった。

「はい、背中コッチに向けて。シュル」
 背中のファスナーを上げると、継ぎ目がふさがっていく。

「これはね。防御力向上と毒耐性、それに防弾効果もあるの。当然防水も」

「うわぁ、これはすごい!まるでスーパーマンですね?」

 静流は手を握ったり開いたり、ピョンピョン跳ねてみたりした。その動きに合わせ、大きめの胸がプルンプルンと揺れた。

「ブフゥ。ちと刺激が強すぎるな」
 睦美は顔を斜め上に持って行き、首の後ろに手刀をトントンと入れている。

「でも、唯一の弱点があるの」

「何でしょう?」
 静流の動きがピタッと止まった。

「連続で着れる時間が8時間で、その後1時間は休ませないとダメなの」

「なあに、まめに休ませれば良いのだろう?問題ないさ」

「ここぞという時に着けるんですね?」

「そう。ま、アクシデント対策に【幻影】を付与したペンダントを用意したわ。見た目はこの子になるようになってるの」

「うわ。肝心なこと忘れてた」
 静流は重大な問題を思い出した。

「向こうは、僕を指名してきたんですよね?部長。てことは僕が男ってバレバレなんじゃ……」

「ああ、そのこと?ううん、向こうはあくまでも『女神像』のモデルを指名してきたの」
 確かに教頭はムム先生に『女神像』のモデルを連れて来いと命じたようであった。

「じゃあ、架空の生徒をでっち上げるんですか?」

「もういるじゃない。藍色の髪の乙女『井川シズム』ちゃんよ」

「え?この間『黒ミサ潜入作戦』で作った設定ですか?」

「あの子、結構人気あるのよ?『シズムンを探せ!』とかいう企画を黒ミサたちがやってたし」

「あの人たちですか…… 放置してフェードアウトを狙っていたんですが」

「校長にも許可は取ってるから心配しないの」
 静流は事態が急速にヤバい方向に行っている感が半端ではなかった。

「花形、この調子で仕上げにとりかかってくれ」

「わかったわ。任せといて」

「よし、これであとはアイツに頼んだものが出来れば、駒が全て揃う。フヒヒ」
 睦美は何か良からぬことを企んでいるようだ。
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