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第1章 ハイスクールララバイ  静流の日常

エピソード6

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 睦美は深い眠りについている。

「んっうん……ん?ここは?学校に行く途中……か」
 登校中の夢を見ているようだ。

「私が1年の時か。あ、薫子お姉様だ。お姉様ぁ~」タタタッ
 ちょっと遠くに居る四人組の一人、桃髪の女生徒が振り向いた。

「睦美ィ!おはよう。今朝も元気ね」

「朝は強い方ですから!」

「羨ましいぜ、柳生ちゃん。アタイなんて全然寝らんなかったし」

「それはあなたがいつもいつもだらしないからでしょ?リナ?」

「何ィ!ズラ、もっぺん言ってみろやコラ」

「……うるさい。黙って」

「あ、お姉様方、おはようございます!」

「オス」

「ごきげんよう」

「……おはよ」

(私、この感じ好きだったなぁ……) 
 視界がブラックアウトした。 


              ◆ ◆ ◆ ◆

 
 場面が切り替わる。

「薫子お姉様ぁ~」 
 薫子が大勢の下級生に囲まれている。

「これは旅立たれた時の記憶……」
 薫子たち四人組が姉妹校に留学してしまう時。

「1年なんて、あっという間よ。また会えるわ」

「ぐわぁ~ん!お姉様ぁ~!」
 その時の感情を思い出し、泣いていた。


「また会いましょう、睦美」


 また視界がブラックアウトした。 



              ◆ ◆ ◆ ◆


 また場面が切り替わる。
 
「ん?また登校中……かしら」
 歩道を歩いている。ちょっと先に乗用車が見えた。かなりスピードを出している。睦美の目の前でいきなりスピンした


 ギャギギギギーッ!

「きゃぁぁぁぁーっ!」

 足がすくみ、動けない。必死に手でガードするも、間に合わなそうだ。

「クッ!!」



 シュパァァァン!



 結構大きな衝突音。

 身構える。しかし衝撃は来なかった。

「え?え?」
 ぺたんと道端に尻もちをついてしまう。


「大丈夫か?アンタ」

 
事故車の前に学生服を着た桃髪の男子学生が立っていた。

「剣?車を斬ったの!?」
 よく見ると事故車は真っ二つに分かれていた。

「あわわわわっ」

 運転席から中年のおじさんが慌てて出てきた。

「爆発すんぞ?兄貴ィ」

「問題無い、エンジンは停めた」
 無口な男子学生が的確に処置したらしい。

「薫、また派手にやらかしたな?」

「何だよズラ、兄貴はこのお嬢ちゃんを守った。それだけだ!」
 桃髪の男子学生が、剣のようなものを鞘にしまい、くるっと睦美の方に向いた。

「あ、ありがとう、ございました」

「どれどれ、あちゃぁ、すりむいてんなぁ。【ヒール】これでよしっと」

 桃髪の男子学生が回復魔法を掛けた。

「立てるか?」

「ええ、多分」
 男子学生が睦美を引っ張り上げた。


「しかし、アンタも災難だったな……うん、惚れた!(ニパァ)」


「は?はいぃぃ!?(ドキドキドキ)」


 睦美はこのシチュエーションがかつて味わったものに非常に近かったことを思い出した。
(デジャブー……なのかしら?でもこのプレッシャーは……似ている)

 とヤンキー調の男子学生がしゃべり出した。
「済まねえな!勘違いすんなヨ。ありゃぁ兄貴の癖だ」

「え?あ、はぁ」

「見てみな。」
 ヤンキーがアゴで指した方向を見る。

「あ、ミニパトのお姉さんたち、こっちこっち」

「ご協力、感謝します(ビシッ!)」

「いいのいいの、仕事だし?つうか、お姉さんたちイイね。うん、惚れた!」

「「きゃるるぅぅぅん」」クラッ

「な?そ-ゆーこった。悪いことは言わねえ、忘れろ」

「凄まじいひとね。嵐のような……ひと」

「なかなか的を射てる感想だね?イイよ、キミ」
 ヤンキーに「ヅラ」呼ばわりされていた優男が言った。

「薫は、嵐」
 口数が少ない人がつぶやいた。

「ま、型破りなお方ってコトだな?兄貴はよ」

 ちょっと先で犬を連れた御婦人と話している。
「可愛いワンコだな。よし、惚れた!」

「ふぁぅぅぅん」

 御夫人がよろめいた。

「何てひとなの?このひと」


「聞いて驚け!このお方は、『五十嵐 薫』様だっ!」


「え?五十嵐って、はっ」
 確かに桃髪であった。

 また視界がブラックアウトした。

 

              ◆ ◆ ◆ ◆


「ピピピピピ」
 アラームが鳴っている。

「んっ。何だったの?あの夢……」
 メガネを掛け、起き上がり、洗面所に行き、メガネを外し、顔を洗う。その後、メガネを掛ける。

「はっきりと思い出せる。誰かに『ビジョン』を送られた……か?」
 最後に見た夢が、やけに鮮明に覚えている。

「登場人物が何かリアルすぎて、気持ち悪いくらいね」

「雪乃お姉様は葛城だから『ヅラ』って呼ばれてたわね?あとあのヤンキーってリナお姉様に似ていた……」

「何より、薫と呼ばれていたあの方、薫子お姉様に、似てはいない……か」
 あの男子学生を思い出すと、心臓がはねた。

「あんなに荒々しいケダモノとは似ても似つかないわね」
 結局その日一日、この夢から解放されることは無かった。


「これっていわゆる、『夢オチ』ってヤツよね……」
 正真正銘「夢オチ」である。
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