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第四章「ゴースト」
「04-003」
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いい提案でしょと語る明日香の表情に、大翔は頭を振った。確かにその当時、本人が満た視覚情報があれば詳細は明らかになる可能性は高い。
しかし、それはもう叶わない。提案を却下する言葉を選んでいると「あー……実はね、それは無理なんだ」と先に渚が口を挟んだ。
「え?」
「えっとね、繋魂のサポートなしにコネクトを発動しちゃうと、負荷が重すぎてシードに保存されてたデータが消えちゃうんだ。個人情報とか資産データとか、別の媒体にバックアップがあれば自動で復旧してくれるんだけど、視覚とかの短期保存された情報は復旧できない」
「そうなんですね……」
目論見が外れ、わかりやすくしょげる明日香。ただ、自らの知識を活用して解決策を提案してくる時点でただ話を聞き指示を待っていたような昨日までの姫宮明日香とはまるで別人。同い年として抱くのは違和感があるが、成長しているなということを肌で感じながら大翔は「ま、取りあえず今日はここまでだな」と話を切り上げると共にホログラム機器の電源を切った。えっ、と目を丸くした明日香に向けて、大翔は壁を指差す。その先では、壁に掛けられたアナログ時計が十二時四十分を示していた。
「もうこんな時間……」
「メシ食って取りあえず休んどけ。午後イチで診察の予約入ってたろ、確か」
「そうだね」
明日香はビニール袋を取り出した。恐らく休憩室に入る前に給湯室で電子レンジを使用したのだろう。取り出した使い捨ての容器は蒸気で曇っていて内容はわからないが、刺激的なスパイスの香りがする。
「もう食べたんですか?」
「モチロン! あったり前よ」
自信満々に渚が胸を張るが、彼女が食べていたのは数百グラムのプロテインバー。栄養価は高いが、味的にはとても褒められたものではなく、限られた時間の中で効率よく生きるためのエネルギーを摂取することを目標に作られたもので、とても誇れるようなものではない。当然、満足いくはずのない食事なのだが、それでも充分満足していると語っているのは、遠慮しないで明日香に食事を取って貰いたいという先輩心というやつだろう。見事な演技力もあり「じゃあ、いただきます」と促されるままに容器の蓋を取った。
予想通り、カレーだ。
「いただきます」
手を合わせ、見守られながらカレーを突きはじめる。流石に他人の食事を眺める趣味はなく、渚と同じエネルギー補充のためのプロテインバーで昼食を済ませた大翔は、鼻腔を刺激する香りを振り払うように「視界情報か……」と呟いた。
「ん? どしたのいきなり」
「いや、いい視点だなって思ってさ。俺らって、ムクロやシカバネ関係の事件が起きた時って、自分たちが使うシード以外の情報は省いて考えてるだろ?」
「確かに……シカバネの記憶関係も削除されるしねぇ」
「ふぉうふぁんふぇすか?」
飲み込んでから喋れ、と明日香の額を小突いてから大翔は深く座り直し、腕を組む。
「ほら、そもそもムクロの存在を見えないようになってるって話をしてただろ? それと同じで、シカバネ関連も、あくまで都市伝説みたいな扱いにするために記憶の操作が行われてるんだよ」
カレーと一緒に生唾を飲み込んだ明日香は「えっ、記憶操作?」とたじろいだ。
確かに上辺だけ聴いたら物騒ではあるが、突然降りかかる恐怖は心的外傷後ストレス障害になる可能性があったり、記憶データとして残ることでシードを利用した生活に支障がでる可能性があるため、シカバネ慣例の担当である鏑木をはじめとした対策チームが作った措置だ。それをどう説明した物か、と悩ませていると「あんまり非日常すぎて、精神に影響が出ちゃう可能性があるからね。健康上の配慮ってヤツ」と渚がすかさず補足を入れた。
「操作っていうのは?」
「例えば出先で事件に遭遇した時にさ、該当している事件中の記憶を全部操作しちゃうと、突然外にいることになっちゃったりして不思議に思うでしょ? だから、国の方でシードのデータから視覚情報を編集して、夢って言う形で記憶を上書きするの。もちろん、複数人で不当な操作がないように相互監視した上でね」
「な、なるほど……」
渚の言ったとおり、視覚情報を編集し、眠りについている間に映像を網膜に投影することで夢と誤認させることで、記憶を〝おぼろげなもの〟にすることで上書きをする。もちろん継ぎ接ぎな視覚情報は現実の映像に比べてリアリティに書けるが、睡眠中という無意識な状態であれば、脳は違和感無く〝夢〟として処理をする。夢の中の出来事と現実が混ざっていることである程度の整合性を取ってくれる、という仕組みだ。
改めて仕組みを思い返したときに、一つの仮説を思いついた大翔は「なあ、渚姉ちゃん」と呟いた。
「ん?」
「記憶操作って、シードのバックアップってどうなるんだっけ」
「えっと……編集に使うためにデータを抜き出して保存してるはず」
「どれくらい残ってるもん?」
「アタシに聞かれてもなぁ」
しかし、それはもう叶わない。提案を却下する言葉を選んでいると「あー……実はね、それは無理なんだ」と先に渚が口を挟んだ。
「え?」
「えっとね、繋魂のサポートなしにコネクトを発動しちゃうと、負荷が重すぎてシードに保存されてたデータが消えちゃうんだ。個人情報とか資産データとか、別の媒体にバックアップがあれば自動で復旧してくれるんだけど、視覚とかの短期保存された情報は復旧できない」
「そうなんですね……」
目論見が外れ、わかりやすくしょげる明日香。ただ、自らの知識を活用して解決策を提案してくる時点でただ話を聞き指示を待っていたような昨日までの姫宮明日香とはまるで別人。同い年として抱くのは違和感があるが、成長しているなということを肌で感じながら大翔は「ま、取りあえず今日はここまでだな」と話を切り上げると共にホログラム機器の電源を切った。えっ、と目を丸くした明日香に向けて、大翔は壁を指差す。その先では、壁に掛けられたアナログ時計が十二時四十分を示していた。
「もうこんな時間……」
「メシ食って取りあえず休んどけ。午後イチで診察の予約入ってたろ、確か」
「そうだね」
明日香はビニール袋を取り出した。恐らく休憩室に入る前に給湯室で電子レンジを使用したのだろう。取り出した使い捨ての容器は蒸気で曇っていて内容はわからないが、刺激的なスパイスの香りがする。
「もう食べたんですか?」
「モチロン! あったり前よ」
自信満々に渚が胸を張るが、彼女が食べていたのは数百グラムのプロテインバー。栄養価は高いが、味的にはとても褒められたものではなく、限られた時間の中で効率よく生きるためのエネルギーを摂取することを目標に作られたもので、とても誇れるようなものではない。当然、満足いくはずのない食事なのだが、それでも充分満足していると語っているのは、遠慮しないで明日香に食事を取って貰いたいという先輩心というやつだろう。見事な演技力もあり「じゃあ、いただきます」と促されるままに容器の蓋を取った。
予想通り、カレーだ。
「いただきます」
手を合わせ、見守られながらカレーを突きはじめる。流石に他人の食事を眺める趣味はなく、渚と同じエネルギー補充のためのプロテインバーで昼食を済ませた大翔は、鼻腔を刺激する香りを振り払うように「視界情報か……」と呟いた。
「ん? どしたのいきなり」
「いや、いい視点だなって思ってさ。俺らって、ムクロやシカバネ関係の事件が起きた時って、自分たちが使うシード以外の情報は省いて考えてるだろ?」
「確かに……シカバネの記憶関係も削除されるしねぇ」
「ふぉうふぁんふぇすか?」
飲み込んでから喋れ、と明日香の額を小突いてから大翔は深く座り直し、腕を組む。
「ほら、そもそもムクロの存在を見えないようになってるって話をしてただろ? それと同じで、シカバネ関連も、あくまで都市伝説みたいな扱いにするために記憶の操作が行われてるんだよ」
カレーと一緒に生唾を飲み込んだ明日香は「えっ、記憶操作?」とたじろいだ。
確かに上辺だけ聴いたら物騒ではあるが、突然降りかかる恐怖は心的外傷後ストレス障害になる可能性があったり、記憶データとして残ることでシードを利用した生活に支障がでる可能性があるため、シカバネ慣例の担当である鏑木をはじめとした対策チームが作った措置だ。それをどう説明した物か、と悩ませていると「あんまり非日常すぎて、精神に影響が出ちゃう可能性があるからね。健康上の配慮ってヤツ」と渚がすかさず補足を入れた。
「操作っていうのは?」
「例えば出先で事件に遭遇した時にさ、該当している事件中の記憶を全部操作しちゃうと、突然外にいることになっちゃったりして不思議に思うでしょ? だから、国の方でシードのデータから視覚情報を編集して、夢って言う形で記憶を上書きするの。もちろん、複数人で不当な操作がないように相互監視した上でね」
「な、なるほど……」
渚の言ったとおり、視覚情報を編集し、眠りについている間に映像を網膜に投影することで夢と誤認させることで、記憶を〝おぼろげなもの〟にすることで上書きをする。もちろん継ぎ接ぎな視覚情報は現実の映像に比べてリアリティに書けるが、睡眠中という無意識な状態であれば、脳は違和感無く〝夢〟として処理をする。夢の中の出来事と現実が混ざっていることである程度の整合性を取ってくれる、という仕組みだ。
改めて仕組みを思い返したときに、一つの仮説を思いついた大翔は「なあ、渚姉ちゃん」と呟いた。
「ん?」
「記憶操作って、シードのバックアップってどうなるんだっけ」
「えっと……編集に使うためにデータを抜き出して保存してるはず」
「どれくらい残ってるもん?」
「アタシに聞かれてもなぁ」
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