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第三章「私の相棒」
「03-014」
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「あっつ⁉」
モニアのボディは、ちょっとした肉であれば焼けそうなほどに熱くなっていた。
「モ、モニア⁉」
とうとう寿命が来たのか、それともなにかの問題があってショートしてしまったのか。いずれにしても、何かがあったことは確か。簡単な故障であれば、シードのサポートを受けながら修理をすることができる。明日香はこめかみを叩き「修理案内、オン。タイプスキャン」と呟く。
すると、視界に緑色のフィルターがかかり、モニアのボディの情報を取り始めた。カメラやスピーカーのある頭部から始まり、徐々に足先まで黄緑色の輪っかが降下をはじめる。問題なし、問題なし、問題なしと同じ言葉がそれぞれの点検箇所に表示され、ついには全てのスキャンを終えて〝オールクリア〟と表示された。
「問題なし……?」
じゃあ、このボディの熱さはいったい――状態不明なロボットに眉をひそめていると『ふっ、まだまだよの』と妙に気の大きい声が明日香の耳に届いた。籠もっていて鮮明ではないが、聞き覚えのある声。
いやな予感と共に、その声を視線で辿る。
『意外と狭いものだな』
行き着いたのは、モニアの顔面。
そっと触れ、モニアの頬部分にある突起に爪をかけた。
通常、モニアはシードに情報を転送しコミュニケーションを交わす。しかし、シードへの転送機能、あるいはスピーカーなどコミュニケーションを取るために必要なシステムに不具合が出た場合、内蔵されている小型のディスプレイに文字を表示させて情報を伝達する。
声が聞こえたのは、そのディスプレイがあるモニアの頬からだった。
ゆるりと扉を開き、ディスプレイを表に出す。
すると、通常なら文字を映す機能しかないはずのディスプレイに、声の主が――ハクが映し出されていた。
真っ白な空間で、丸く寝そべっている彼女に「ちょ、ハク⁉」と声を上げると、鬱陶しい者でも見るような目で『ようやく気づいたか。其方、鈍いにもほどがあるぞ』と答えてきた。
「な、何してるの⁉」
『今日からここが妾の寝床になるでな』
「……寝床?」
『うむ。普段は其方の頭の中に棲んでいるのだが、睡眠時というのは夢や一日の出来事で脳が荒れ、過ごしにくくての。避難先が必要なのだ』
「そ、そういうもんなんだ……。あ、いいや、それよりも、なんで着いてきて……」
『妾たち繋魂は其方らを基に生まれた。故に、長時間離れていると己が保てなくなるのだ。其方らが定義するところの、背後霊みたいなものだな』
「背後霊って……」
『ま、しばらくよろしく頼む』
そう言うと、ハクは再び体を丸めた。彼女も寝ようとしているのだろうが、まだモニアのボディが発熱した原因が突き止められていない。明日香は「ちょ、ちょっと待って!」とモニアのディスプレイを叩いた。すると、画面内のハクが大きく揺れる。
『なんじゃ』
「あなたが入ってるロボット……モニアって言うんだけど、ものすごい熱くなっちゃってるの。あなた、なにかした?」
明日香の問いかけに『あぁ、何じゃそのことか』とハクは不機嫌さを隠さずに体を起こした。
「そのことかってレベルじゃないの! やけどするかと思うくらいくらい熱いんだけど……もしかして、あなたが原因なの?」
『妾の能力にモニアとやらがついてこれないのだろう』
「……データとか、中身は無事?」
『知らぬ』
「知らぬって……」
『ま、修復が進んでいるようだな。刻が解決してくれるであろう』
「しゅ、修復って壊れちゃってるじゃん⁉」
そこから、疲れている体に鞭を打ち風呂や食事などモニアなしで家事を済ませて時間を空けても、モニアは熱いまま。呼びかけても、反応するのは気怠そうなハクだけ。
――初日からこれで、これから大丈夫なのかな。
ようやく布団に入った明日香は、これからの不安をぬぐい去れないまま眠りについた。
モニアのボディは、ちょっとした肉であれば焼けそうなほどに熱くなっていた。
「モ、モニア⁉」
とうとう寿命が来たのか、それともなにかの問題があってショートしてしまったのか。いずれにしても、何かがあったことは確か。簡単な故障であれば、シードのサポートを受けながら修理をすることができる。明日香はこめかみを叩き「修理案内、オン。タイプスキャン」と呟く。
すると、視界に緑色のフィルターがかかり、モニアのボディの情報を取り始めた。カメラやスピーカーのある頭部から始まり、徐々に足先まで黄緑色の輪っかが降下をはじめる。問題なし、問題なし、問題なしと同じ言葉がそれぞれの点検箇所に表示され、ついには全てのスキャンを終えて〝オールクリア〟と表示された。
「問題なし……?」
じゃあ、このボディの熱さはいったい――状態不明なロボットに眉をひそめていると『ふっ、まだまだよの』と妙に気の大きい声が明日香の耳に届いた。籠もっていて鮮明ではないが、聞き覚えのある声。
いやな予感と共に、その声を視線で辿る。
『意外と狭いものだな』
行き着いたのは、モニアの顔面。
そっと触れ、モニアの頬部分にある突起に爪をかけた。
通常、モニアはシードに情報を転送しコミュニケーションを交わす。しかし、シードへの転送機能、あるいはスピーカーなどコミュニケーションを取るために必要なシステムに不具合が出た場合、内蔵されている小型のディスプレイに文字を表示させて情報を伝達する。
声が聞こえたのは、そのディスプレイがあるモニアの頬からだった。
ゆるりと扉を開き、ディスプレイを表に出す。
すると、通常なら文字を映す機能しかないはずのディスプレイに、声の主が――ハクが映し出されていた。
真っ白な空間で、丸く寝そべっている彼女に「ちょ、ハク⁉」と声を上げると、鬱陶しい者でも見るような目で『ようやく気づいたか。其方、鈍いにもほどがあるぞ』と答えてきた。
「な、何してるの⁉」
『今日からここが妾の寝床になるでな』
「……寝床?」
『うむ。普段は其方の頭の中に棲んでいるのだが、睡眠時というのは夢や一日の出来事で脳が荒れ、過ごしにくくての。避難先が必要なのだ』
「そ、そういうもんなんだ……。あ、いいや、それよりも、なんで着いてきて……」
『妾たち繋魂は其方らを基に生まれた。故に、長時間離れていると己が保てなくなるのだ。其方らが定義するところの、背後霊みたいなものだな』
「背後霊って……」
『ま、しばらくよろしく頼む』
そう言うと、ハクは再び体を丸めた。彼女も寝ようとしているのだろうが、まだモニアのボディが発熱した原因が突き止められていない。明日香は「ちょ、ちょっと待って!」とモニアのディスプレイを叩いた。すると、画面内のハクが大きく揺れる。
『なんじゃ』
「あなたが入ってるロボット……モニアって言うんだけど、ものすごい熱くなっちゃってるの。あなた、なにかした?」
明日香の問いかけに『あぁ、何じゃそのことか』とハクは不機嫌さを隠さずに体を起こした。
「そのことかってレベルじゃないの! やけどするかと思うくらいくらい熱いんだけど……もしかして、あなたが原因なの?」
『妾の能力にモニアとやらがついてこれないのだろう』
「……データとか、中身は無事?」
『知らぬ』
「知らぬって……」
『ま、修復が進んでいるようだな。刻が解決してくれるであろう』
「しゅ、修復って壊れちゃってるじゃん⁉」
そこから、疲れている体に鞭を打ち風呂や食事などモニアなしで家事を済ませて時間を空けても、モニアは熱いまま。呼びかけても、反応するのは気怠そうなハクだけ。
――初日からこれで、これから大丈夫なのかな。
ようやく布団に入った明日香は、これからの不安をぬぐい去れないまま眠りについた。
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