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第三章「私の相棒」
「03-011」
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煙に乗じて、外に逃げ出すことができた、とでもヤツは思っているのだろう。悲しきかな、と口の中で呟いてハクは頭を振った。
外に出たということは、この煙による目くらましがないということになる。
そうなれば見つけることは容易いし、見つけてさえしまえば、まだ力に目覚めたばかりのひよっこと、生まれてからこの力と生涯を共にし、体の一部とも言えるほど雷を操れる自分との間にある年季の差で押しきることができる。
しかも、ここは仮想空間とはいえ埃さえも再現するほど、現実に拘ってできた空間。もちろんこの建物だけではなく、外も現実そのままになっている。
そんな状況で窓が破られれば、風が吹き込んで埃を吹き飛ばすという現象が起きるのは必然だった。
『……所詮は小娘か』
浅い戦略を立てた自らの相棒になるかもしれないだろう少女に呆れつつ、ゆっくりと窓まで飛んでいく。どこを走っているのだろうか、と眼をこらそうとすると、鈍い痛みが両目を襲った。
埃が入ったのだろう。
――全く、煩わしい……。
思わず手で眼球をこすった――その瞬間だった。
「ごめんね、小娘で!」
妙に明瞭な明日香の声が、背後から聞こえてきた。
『なっ⁉』
外に逃げているはず、とようやく明らかになった目が捉えたのは、荒野に横たわる長机だった。あれが窓を破って、それを逃げたと勘違いしてしまった。
つまり、今、背後にいるのは――恐る恐る振り返ると、右手だけを突き出した埃まみれの明日香が、満面の笑みで立ち竦んでいた。
「全力で行くよ……ハクちゃん!」
明日香のかけ声を合図に、その突き出された右腕の端々から稲妻が発生した。
先程まで、ビルに侵入したときくらいの距離であれば、攻撃をしようとする目線や思考を読んで回避することができた。しかし今、彼女が放っている稲妻は、自然界で発生した雷に近い存在。
制御ができていなかろうが、経験が全くなかろうが全く関係はない。
近くにいる存在をただただ襲うだけの、言わば原初の雷。
速度にすれば、秒速一〇万キロにもなる。
そんな悪魔のような速度のそれをかわすことが出来るはずもなく。
ハクは、次の瞬間にはもう気を失っていた。
※
「やった!」
全ての力を集中して放った無作為な雷は、見事にハクに的中。白い毛が雷に襲われたことで、独特の焦げ臭さが鼻を突いた。
仮想空間でも痛みは感じることはすでに実証済み。申し訳ないと思いつつ、先程ハクの操る鎚にぺらぺらにされた記憶がフラッシュバックし、お互い様だよね、と自分の心に踏ん切りをつけてから「私の勝ち、だよね?」と声をかけた。
しばらく沈黙が訪れる。喋れないのかな、と思い声を重ねようとした明日香の耳に『……てない』とか細い声が届いた。
聞き取れず明日香は「ん?」と首を傾げる。その様が気に触ったのか、ハクは『負けてない、といったのだ!』と黒焦げになった体を空中に浮かせて叫んだ。
「えっ……え⁉」
『其方、卑怯とは思わんのか⁉ あんな不意打ち、避けられるわけがなかろう!』
「そ、それをいったらあなただって説明もないまま急にそのハンマーで殴ってきたじゃない!」
申し訳ないと一瞬でも思った自分が馬鹿らしくなり、ハクの声量に併せて自分の声も大きくなる。
『それは、これからの厳しさを教えてやろうと思ったが故の……そう! 親心のようなものである。よって不意打ちなどではない!』
「そんなの子供の理屈じゃない! 私はしっかりと勝ったんだから、約束通り力を貸して貰うよ!」
『いーやーじゃ! 納得できん! もう一度正々堂々と――』
話が堂々巡りしそうになったところで「はい、お二人さん。そこまでぃ」と幼い声が割り込んでくる。千枝の声だ、と理解すると同時に「いーや!」と自然と口が動いていた。同時に『外野はだまっとれ!』とハクが声を上げる。
声のした方を向くと、満足げな表情の千枝が佇んでいた。
どこか全て解決したね、といわんばかりにすっきりとした表情をしている千枝に「大事なところなの!」と詰め寄ると『そうじゃそうじゃ! この小娘が素っ頓狂なことを言うものだから――』とハクも追従してくる。
「それはあなたでしょ! 第一、何の説明もなしにいきなり……!」と一歩も退かない姿勢を見せると「それなら妾も似たようなものだ! 其方だけの問題とは――」とハクも負けじと抵抗してくる。いよいよ平行線になりそうだ、というところで「だぁ……もう、うるっさい!」と千枝は両手を空から地面に振り下ろした。
それを合図にしたかのように、なにかが空から降ってきて体を襲う。避けることができず、明日香とハクはなにかに地面へと打ち付けられた。
腰のあたりがガッチリとホールドされて身動きが取れない。首を動かしてハクを見ると、胴体に赤い鳥居で身動きを封じられていた。自分も、同じ状態だろう。
「全く……似たもの同士というか、何というか」
呆れた様子で、千枝はその場に座り込むと「決着はついた、でしょ?」と明日香とハクに凄んだ。
外に出たということは、この煙による目くらましがないということになる。
そうなれば見つけることは容易いし、見つけてさえしまえば、まだ力に目覚めたばかりのひよっこと、生まれてからこの力と生涯を共にし、体の一部とも言えるほど雷を操れる自分との間にある年季の差で押しきることができる。
しかも、ここは仮想空間とはいえ埃さえも再現するほど、現実に拘ってできた空間。もちろんこの建物だけではなく、外も現実そのままになっている。
そんな状況で窓が破られれば、風が吹き込んで埃を吹き飛ばすという現象が起きるのは必然だった。
『……所詮は小娘か』
浅い戦略を立てた自らの相棒になるかもしれないだろう少女に呆れつつ、ゆっくりと窓まで飛んでいく。どこを走っているのだろうか、と眼をこらそうとすると、鈍い痛みが両目を襲った。
埃が入ったのだろう。
――全く、煩わしい……。
思わず手で眼球をこすった――その瞬間だった。
「ごめんね、小娘で!」
妙に明瞭な明日香の声が、背後から聞こえてきた。
『なっ⁉』
外に逃げているはず、とようやく明らかになった目が捉えたのは、荒野に横たわる長机だった。あれが窓を破って、それを逃げたと勘違いしてしまった。
つまり、今、背後にいるのは――恐る恐る振り返ると、右手だけを突き出した埃まみれの明日香が、満面の笑みで立ち竦んでいた。
「全力で行くよ……ハクちゃん!」
明日香のかけ声を合図に、その突き出された右腕の端々から稲妻が発生した。
先程まで、ビルに侵入したときくらいの距離であれば、攻撃をしようとする目線や思考を読んで回避することができた。しかし今、彼女が放っている稲妻は、自然界で発生した雷に近い存在。
制御ができていなかろうが、経験が全くなかろうが全く関係はない。
近くにいる存在をただただ襲うだけの、言わば原初の雷。
速度にすれば、秒速一〇万キロにもなる。
そんな悪魔のような速度のそれをかわすことが出来るはずもなく。
ハクは、次の瞬間にはもう気を失っていた。
※
「やった!」
全ての力を集中して放った無作為な雷は、見事にハクに的中。白い毛が雷に襲われたことで、独特の焦げ臭さが鼻を突いた。
仮想空間でも痛みは感じることはすでに実証済み。申し訳ないと思いつつ、先程ハクの操る鎚にぺらぺらにされた記憶がフラッシュバックし、お互い様だよね、と自分の心に踏ん切りをつけてから「私の勝ち、だよね?」と声をかけた。
しばらく沈黙が訪れる。喋れないのかな、と思い声を重ねようとした明日香の耳に『……てない』とか細い声が届いた。
聞き取れず明日香は「ん?」と首を傾げる。その様が気に触ったのか、ハクは『負けてない、といったのだ!』と黒焦げになった体を空中に浮かせて叫んだ。
「えっ……え⁉」
『其方、卑怯とは思わんのか⁉ あんな不意打ち、避けられるわけがなかろう!』
「そ、それをいったらあなただって説明もないまま急にそのハンマーで殴ってきたじゃない!」
申し訳ないと一瞬でも思った自分が馬鹿らしくなり、ハクの声量に併せて自分の声も大きくなる。
『それは、これからの厳しさを教えてやろうと思ったが故の……そう! 親心のようなものである。よって不意打ちなどではない!』
「そんなの子供の理屈じゃない! 私はしっかりと勝ったんだから、約束通り力を貸して貰うよ!」
『いーやーじゃ! 納得できん! もう一度正々堂々と――』
話が堂々巡りしそうになったところで「はい、お二人さん。そこまでぃ」と幼い声が割り込んでくる。千枝の声だ、と理解すると同時に「いーや!」と自然と口が動いていた。同時に『外野はだまっとれ!』とハクが声を上げる。
声のした方を向くと、満足げな表情の千枝が佇んでいた。
どこか全て解決したね、といわんばかりにすっきりとした表情をしている千枝に「大事なところなの!」と詰め寄ると『そうじゃそうじゃ! この小娘が素っ頓狂なことを言うものだから――』とハクも追従してくる。
「それはあなたでしょ! 第一、何の説明もなしにいきなり……!」と一歩も退かない姿勢を見せると「それなら妾も似たようなものだ! 其方だけの問題とは――」とハクも負けじと抵抗してくる。いよいよ平行線になりそうだ、というところで「だぁ……もう、うるっさい!」と千枝は両手を空から地面に振り下ろした。
それを合図にしたかのように、なにかが空から降ってきて体を襲う。避けることができず、明日香とハクはなにかに地面へと打ち付けられた。
腰のあたりがガッチリとホールドされて身動きが取れない。首を動かしてハクを見ると、胴体に赤い鳥居で身動きを封じられていた。自分も、同じ状態だろう。
「全く……似たもの同士というか、何というか」
呆れた様子で、千枝はその場に座り込むと「決着はついた、でしょ?」と明日香とハクに凄んだ。
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