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第三章「私の相棒」
「03-009」
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降ってきたのは、鳥居だ。一面の荒野と廃墟なビルの他には空と雲しかないこの世界で異様とも思えるほど艶やかな朱色で佇むそれは、どこか荘厳な雰囲気を醸し出している。
古来より、アジアを中心にこの鳥居と似たような建築物がある。各地で様々な伝承が紡がれているが、こと日本において鳥居は〝神の住む世界〟と〝人の住む世界〟の境界という意味合いであり、神社の入り口でよく見かけることがある。
つまり、この鳥居を潜るとその先は〝神の世界〟ということ。もちろんここは仮想世界で、〝神の住む世界〟などといった大層な世界に一変することはないだろうが、それくらいの覚悟でこの道を進めというメッセージだろう。
明日香は、そのメッセージを汲み取った上で、その鳥居を潜った。
潜った瞬間ずしんと体が重くなるも、瞬く間に体から重力が消えたような気がした、同時に、感覚で行っていた〝雷の操り方〟が脳内に入り込んでくる。
これなら――逃げ惑うだけではない、確かな意思を持って「さあ、やろっか」と声をかけると、ハクは『ふん……表情だけは見上げたものだ』とその口角を上げて鎚を構えた。
「私にあるのはそれくらいだから」
『だろうな。これから得よう、そういう気概が感じられる』
「あなたも一緒にね」
『それは、妾に勝てたらの話だ』
「そうだね。じゃあ、始めよっか」
『で、あるな――!』
会話の終わり際、先制攻撃といわんばかりにハクはその鎚を振り上げてきた。
――くる……!
数分前の自分であれば逃げ惑うばかりだったろうが、今は違う。
対抗する術がある。
抵抗する心がある。
明日香は両手重ねて前に突き出し、心の底から沸き上がる闘志をそのまま声に乗せて叫んだ。
「光れ!」
明日香がイメージしたのは、閃光弾。一瞬の隙を作れれば有利に事を運べると思っての作戦だった。
効果は、テキメン。
明日香の手のひらからサッカーボールほどの雷の魂ができたかと思うも一瞬、すぐさまその雷は爆発し、辺り一帯を目映い光が包み込んだ。
『むっ――⁉』
見事作戦は成功。ハクは突然の光に攻撃の手を止め、視界を取り戻そうと目をこする。その隙を見逃さず、明日香は三歩下がりながら「雷装!」と声を上げた。先程流れ込んできた使い方の中で、唯一単語として出てきたそれに呼応するように、どこからともなく雷が発生。瞬く間に明日香の全身を包み込んだ。
雷雲の中にでも突っ込んだかのような騒々しさと、ピリピリと冬にやってくる静電気のような鋭い痛みが全身に襲いかかってくる。
――いっつ……!
明日香は、その不快感を振り払うように両手を横に広げる。すると、雷の中から、装いを変えた明日香が姿を現した。
橋の上では、普段着に胴衣を羽織っただけの簡単な服装だったが、今は全身がまるごと変わっている。
手首に向かうにつれて大きくなっていく広袖、膝上くらいまでの短めな和風のワンピース。装いは〝やんちゃなお姫様〟だが、夜明けの空のような淡い水色が落ち着いた女性であることを演出してくれた。
『やってくれるではないか!』
ようやく視界を取り戻してきたのか、ハクが薄めで睨み付けてきていた。
「さっきのお返しだよ」
『不意打ちは感心せんな』
「お互い様でしょ? さ、今度はこっちからいくよ!」
さんざん逃げ惑わされた分、今度はこちらが攻める番だ。
明日香はある程度の距離を保ちつつ、右手を開いて「きてっ」と呟く。すると、拳ほどの雷の塊が三つ生成された。
今の自分にはハクの持つ鎚や大翔の刀のような武器はない。雷を操ることは出来るようにはなったが、相手は空を飛び素早く動くことのできるイタチ。いくら雷を放っても、回避されるのが関の山だ。それでも、戦いの経験があって予測して攻撃をすることができる歴戦の勇であるというのならば話は別だが、明日香はついさっきこの雷を操る術を覚えたばかり。当てることはほぼ不可能。
「いけっ!」
そのことを証明するためのブラフとして、バチバチと空気が爆ぜる音を轟かせるそれをハク目がけて投げつけた。
元野球少女として鍛え上げた肩の力とコントロールをもって全力で投じた三つの塊は、それなりのスピードで直進した。
止っている的であれば問題なく直撃していただろう。しかし、明日香の予想通りハクは軽々とその一撃を躱して見せた。
『そんな軟派な攻撃では、妾に触れることすら難しいかもしれないの』
仮説を立証した明日香は「そうだろうね」とだけ答える。すぐにやってきたハクの鎚の攻撃を避けながら、明日香はどう倒すべきかを考えた。
遠くにいれば避けるのは簡単だけど、その分当てることも難しい。しかし、迂闊に近づいてハクの攻撃を避けることができなければその時点でゲームオーバー。
つまり、勝つためには、接近して攻撃を当て、一撃で戦闘を終了させなければならない。
――そんなのどうやって……。
悩みながら後退する明日香は「このままじゃ埒が明かない……!」と、廃ビルの壁を突き破ってこの世界唯一な建物の内部に侵入した。
古来より、アジアを中心にこの鳥居と似たような建築物がある。各地で様々な伝承が紡がれているが、こと日本において鳥居は〝神の住む世界〟と〝人の住む世界〟の境界という意味合いであり、神社の入り口でよく見かけることがある。
つまり、この鳥居を潜るとその先は〝神の世界〟ということ。もちろんここは仮想世界で、〝神の住む世界〟などといった大層な世界に一変することはないだろうが、それくらいの覚悟でこの道を進めというメッセージだろう。
明日香は、そのメッセージを汲み取った上で、その鳥居を潜った。
潜った瞬間ずしんと体が重くなるも、瞬く間に体から重力が消えたような気がした、同時に、感覚で行っていた〝雷の操り方〟が脳内に入り込んでくる。
これなら――逃げ惑うだけではない、確かな意思を持って「さあ、やろっか」と声をかけると、ハクは『ふん……表情だけは見上げたものだ』とその口角を上げて鎚を構えた。
「私にあるのはそれくらいだから」
『だろうな。これから得よう、そういう気概が感じられる』
「あなたも一緒にね」
『それは、妾に勝てたらの話だ』
「そうだね。じゃあ、始めよっか」
『で、あるな――!』
会話の終わり際、先制攻撃といわんばかりにハクはその鎚を振り上げてきた。
――くる……!
数分前の自分であれば逃げ惑うばかりだったろうが、今は違う。
対抗する術がある。
抵抗する心がある。
明日香は両手重ねて前に突き出し、心の底から沸き上がる闘志をそのまま声に乗せて叫んだ。
「光れ!」
明日香がイメージしたのは、閃光弾。一瞬の隙を作れれば有利に事を運べると思っての作戦だった。
効果は、テキメン。
明日香の手のひらからサッカーボールほどの雷の魂ができたかと思うも一瞬、すぐさまその雷は爆発し、辺り一帯を目映い光が包み込んだ。
『むっ――⁉』
見事作戦は成功。ハクは突然の光に攻撃の手を止め、視界を取り戻そうと目をこする。その隙を見逃さず、明日香は三歩下がりながら「雷装!」と声を上げた。先程流れ込んできた使い方の中で、唯一単語として出てきたそれに呼応するように、どこからともなく雷が発生。瞬く間に明日香の全身を包み込んだ。
雷雲の中にでも突っ込んだかのような騒々しさと、ピリピリと冬にやってくる静電気のような鋭い痛みが全身に襲いかかってくる。
――いっつ……!
明日香は、その不快感を振り払うように両手を横に広げる。すると、雷の中から、装いを変えた明日香が姿を現した。
橋の上では、普段着に胴衣を羽織っただけの簡単な服装だったが、今は全身がまるごと変わっている。
手首に向かうにつれて大きくなっていく広袖、膝上くらいまでの短めな和風のワンピース。装いは〝やんちゃなお姫様〟だが、夜明けの空のような淡い水色が落ち着いた女性であることを演出してくれた。
『やってくれるではないか!』
ようやく視界を取り戻してきたのか、ハクが薄めで睨み付けてきていた。
「さっきのお返しだよ」
『不意打ちは感心せんな』
「お互い様でしょ? さ、今度はこっちからいくよ!」
さんざん逃げ惑わされた分、今度はこちらが攻める番だ。
明日香はある程度の距離を保ちつつ、右手を開いて「きてっ」と呟く。すると、拳ほどの雷の塊が三つ生成された。
今の自分にはハクの持つ鎚や大翔の刀のような武器はない。雷を操ることは出来るようにはなったが、相手は空を飛び素早く動くことのできるイタチ。いくら雷を放っても、回避されるのが関の山だ。それでも、戦いの経験があって予測して攻撃をすることができる歴戦の勇であるというのならば話は別だが、明日香はついさっきこの雷を操る術を覚えたばかり。当てることはほぼ不可能。
「いけっ!」
そのことを証明するためのブラフとして、バチバチと空気が爆ぜる音を轟かせるそれをハク目がけて投げつけた。
元野球少女として鍛え上げた肩の力とコントロールをもって全力で投じた三つの塊は、それなりのスピードで直進した。
止っている的であれば問題なく直撃していただろう。しかし、明日香の予想通りハクは軽々とその一撃を躱して見せた。
『そんな軟派な攻撃では、妾に触れることすら難しいかもしれないの』
仮説を立証した明日香は「そうだろうね」とだけ答える。すぐにやってきたハクの鎚の攻撃を避けながら、明日香はどう倒すべきかを考えた。
遠くにいれば避けるのは簡単だけど、その分当てることも難しい。しかし、迂闊に近づいてハクの攻撃を避けることができなければその時点でゲームオーバー。
つまり、勝つためには、接近して攻撃を当て、一撃で戦闘を終了させなければならない。
――そんなのどうやって……。
悩みながら後退する明日香は「このままじゃ埒が明かない……!」と、廃ビルの壁を突き破ってこの世界唯一な建物の内部に侵入した。
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