いくさびと

皆川大輔

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第三章「私の相棒」

「03-008」

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 ハク、と名乗った白イタチが話した内容は半分も理解できなかったが、一つだけ明日香はつっかえていた疑問に納得がいっていた。

 それは、どうして突然あのような力が使えるようになったか。

 戦う姿を見れば、ヒロトは炎を自在に操るし、自分は雷を身に纏って戦っていた。現実では到底考えられない。それこそ、特撮やアニメの中だけにある空想の景色だ。そう言うものだと割り切っていたが、こうして仕組みがわかると自分の不気味さもいくらかは和らいでくれる。

「そうなんだ」と自分の体が自分のものだと認識するように腕をさすりながら呟くと、今度は別の疑問が湧いてきた。ハクの言った〝儀式〟という単語だ。

 単純に考えて、何の苦労も無しに超常の力を手に入れられるなんて都合が良すぎるし、そんな簡単に運用できるのなら兵器としてもっと認知されていてもいいはず。そうでないということは、力を得るにはそれに伴った代償が必要だ、ということ。その伴った代償というのが、ハクの言う儀式なのでは――。

 恐る恐るハクを見つめると『理解したようだな』と言って、口角を上げた。人間のそれと似た表情を見せるハクに恐怖を覚えるも束の間、『正直に言って、妾たちは面倒くさいだけだ』といって鎚を振り下ろしてくる。すんでの所で体を翻し、直撃こそ免れたものの、地面を直撃した鎚の口から、雷がほとばしって明日香に襲いかかった。

「危なっ――」

 幼いころに行っていた野球でショートの守備を任されていた経験が活かされ、咄嗟のバックステップを見せこれも回避する……が、頬をかすめた雷が焦げた臭いが鼻を突いて肝を冷やした。

『ただ働きもいいところでな? 用があるときにだけ呼び出され、無駄に疲れさせられると聞く。対して妾たちが得られるものと言えば、安心して次の日を迎えることができるという時間だけだ。割に合わないとは思わんか?』

 殺しにかかってきているはずだというのに、ケタケタと笑う様はまるで子供が無邪気に虫を殺生しているようだった。頬に走る痛みを消すように親指でぐいっと拭いさると「そっか。それは……可哀想だね」と心からの言葉を投げかけた。

『ほう? 可哀想とな?』

「うん。私も、同じ立場だったら断ってると思う。今のあなたみたいに」

『ふむ。話がわかるところは評価しよう』と言うとハクは鎚を背に乗っけて近づいてきた。交渉ができる、と思ってのことだろう。『ならば――』と案の定想定していた言葉を口にしたハクを遮るように「でも!」と明日香は声を上げた。

『む?』

「でも……私にはあなたの力が必要なの」

 思い出すのは、やはり橋の上でシカバネと戦ったあの景色。無力だった、助けられなかった自分が、力を手に入れたことでシカバネを退けることができて、人々の光となった。その姿は、自分が憧れた大翔と同じような英雄のそれだ。

 あんな姿を目指して、あんな姿になりたくてこの第七感覚特務課という険しいだろう門を叩いた。その願いを叶えるためには、このハクの力が必要なことは明白。

「ごめんなさい。私の都合で、あなたには力を貸して貰う」

 戦う意味がわからず、逃げ惑っていた自分とは違う。しっかりと戦って、納得させて、力を貸して貰う。そのために、この化け物みたいなイタチ……ハクを倒さなければならない。そう考え、決意をもって明日香は「ごめんね! これからよろしく」と言ってから、脳内に突如出てきた言葉を叫んだ。

『コネクト起動! コード……〝ライメイ〟!』

 そう叫ぶと、明日香の目の前に、何か巨大な物体が降ってきた。
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