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第三章「私の相棒」
「03-006」
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「えっ、マジ?」
「大マジさ。彼らに感謝しなくちゃ行けないね」
これまで無差別事件としか言い様がなかった事件が、ようやく進展してくれる。こうしてとっかかりが一つできてくれれば、芋づる式に事件が解決することだってあるはず。そうすれば、毎日毎日、市民の安全を願って眠りにつく毎日から解放されるはず――そんな望みを大翔も持ったのだろう。「もったいぶらずに早く教えてくれよ」と鼻息を荒く鏑木に詰め寄った。
「まあ急かすな」
そう言うと、鏑木は耳元の鉛筆をポキリと折る。すると、明日香の奮闘している映像の横が渚からみて左に移動し充分なスペースを作ると、鏑木のホログラム機器がその空間に映像を出力する。
どんな情報が出てくるのだろう――ワクワクとドキドキに胸を膨らませていた渚だったが、想像とは異なる映像が出てきて思わず「は?」と声を漏らしてしまった。
映し出されたのは、文字群だ。
視界いっぱいに広がる文字に目が回りそうになる。ゲシュタルト崩壊を起こしかけている脳に発破をかけて眼を凝らすと、それが人の名前だということにようやく気づいた。勿体ぶるなって言ったよな、という意味を込めて目配せをした大翔に鏑木は「そう睨むな」と眉をひそめてから、そのリストのファイル名を表示した。
その文字を、読み上げる。
「〝ムクロ予備軍リスト〟……?」
言葉を頭の中で反芻し、ようやく鏑木の言う共通点の正体に気づいた渚は、その場に崩れ落ちるようにして椅子に座り込んだ。
ムクロ予備軍名簿とは、シードを保有している日本国民の中からムクロ化の可能性がある人だけを抽出したもの。
その名簿には、明日香のようにもうすぐ危険衝動に駆られるような重度の人から、向こう数年は問題ないだろうと診断されている人まで様々だ。
件数で言えば、約五千万人。
日本国民の約半数が属しているリストということになる。
これでは、警護するべき対象の人が減るわけでもないし、犯人に結びつく糸口が見つかるわけでもない。ただ漠然と〝ムクロ化しかけている人が狙われる〟ということだけ。
喜ばないのか、と言わんばかりの表情をしている鏑木に掴みかかる元気はなく、力弱く「これじゃ〝全くわからない〟から〝ほとんどわからない〟位の差じゃない……」とため息混じりに呟くのが精一杯だった。
いくら減ったとは言え、日本に住む人間の約半分が対象になっている。それをたった数人で守るなんて芸当は、火を見るよりも明らかだ。
多分、大翔もがっかりしてる……そう予想してちらりと目をやると、大翔は「いや、これでようやく前に進める」と満足げに笑って見せた。
「ハァ? 何言って――」
「絞れるんだよ、これで」
確信を持って呟いた大翔に、渚は「何が?」とぶっきらぼうに問いかける。意にも介さず、大翔はホログラムのリストに近づきそっと手を触れると「犯人が」と言い放った。
「犯人がぁ? どういうことよ」
「パズルのピースをはめていくようなもんなんだよ。まずさ、〝シカバネにされた人〟は〝ムクロの可能性があった人だけ〟だろ? ってことは、このシカバネ事件を主導しているヤツは〝ムクロの存在を知っているやつ〟もしくは〝知ることのできるヤツ〟ってことになる」
ここでようやく渚も理解し「あっ」と声を漏らし、すぐさま「ムクロを知ってる人って……」と呟く。大翔は「その通り。ムクロを知ってる存在は限られてる」と言い、リストを指差すと「しかも、ムクロって存在を知っていても、誰がその予備軍なんてのは、実際にムクロの処理をやってる俺達現場の人間くらいしか知らねーはずだ」と言って見せた。
「ってことは……」
「そう。今回の事実で、〝シカバネ事件の犯人〟は〝政府に関係する人間〟か〝それに準ずるヤツ〟ってやつに絞れる……ってのが俺の予想。どう? 鏑木のおっさん、正解?」
鏑木はにやりと笑い「お見事」と軽い拍手を大翔に向けた。推理が当たり、大翔は「うしっ、ビンゴ!」と指をパチンと鳴らす。嬉々とした表情でやる気満々さが全身から溢れ出している二人に渚は「ちょ、ちょっと待って」と故意に水を差した。
「ん?」
「今の話から踏まえて、整理すると……アタシ達の相手って、政府、というか……国? ってこと?」
「まだ推察だから各章はないが、そう踏まえて行動した方がいいかもしれないね。だからこの情報は、津ノ森くんと姫宮くんの二人を含めたここにいる五人と、今は他の県の応援に行っている埼玉支部のメンバー以外には伝えない予定だね」
「……一応、アタシら公務員だよね?」
「しかも国の直轄部隊みたいなところもあるから、括りとしちゃ一応国家公務員だ」
「……アンタのせいでより深刻さが重くなったわ」
つまりは、国家公務員である自分たちが市民の平和を守るために国には向かう可能性があると言うこと。入署したときからは考えられない危険な道であることを認識した渚は「ますますこの娘には戦力になって貰わなくちゃね」とホログラムの中で奮闘している少女に期待の眼差しを向けた。
※
「やっぱ無理です!」
明日香はそう叫ぶと、先程生成された建物の影に身を隠した。
「大マジさ。彼らに感謝しなくちゃ行けないね」
これまで無差別事件としか言い様がなかった事件が、ようやく進展してくれる。こうしてとっかかりが一つできてくれれば、芋づる式に事件が解決することだってあるはず。そうすれば、毎日毎日、市民の安全を願って眠りにつく毎日から解放されるはず――そんな望みを大翔も持ったのだろう。「もったいぶらずに早く教えてくれよ」と鼻息を荒く鏑木に詰め寄った。
「まあ急かすな」
そう言うと、鏑木は耳元の鉛筆をポキリと折る。すると、明日香の奮闘している映像の横が渚からみて左に移動し充分なスペースを作ると、鏑木のホログラム機器がその空間に映像を出力する。
どんな情報が出てくるのだろう――ワクワクとドキドキに胸を膨らませていた渚だったが、想像とは異なる映像が出てきて思わず「は?」と声を漏らしてしまった。
映し出されたのは、文字群だ。
視界いっぱいに広がる文字に目が回りそうになる。ゲシュタルト崩壊を起こしかけている脳に発破をかけて眼を凝らすと、それが人の名前だということにようやく気づいた。勿体ぶるなって言ったよな、という意味を込めて目配せをした大翔に鏑木は「そう睨むな」と眉をひそめてから、そのリストのファイル名を表示した。
その文字を、読み上げる。
「〝ムクロ予備軍リスト〟……?」
言葉を頭の中で反芻し、ようやく鏑木の言う共通点の正体に気づいた渚は、その場に崩れ落ちるようにして椅子に座り込んだ。
ムクロ予備軍名簿とは、シードを保有している日本国民の中からムクロ化の可能性がある人だけを抽出したもの。
その名簿には、明日香のようにもうすぐ危険衝動に駆られるような重度の人から、向こう数年は問題ないだろうと診断されている人まで様々だ。
件数で言えば、約五千万人。
日本国民の約半数が属しているリストということになる。
これでは、警護するべき対象の人が減るわけでもないし、犯人に結びつく糸口が見つかるわけでもない。ただ漠然と〝ムクロ化しかけている人が狙われる〟ということだけ。
喜ばないのか、と言わんばかりの表情をしている鏑木に掴みかかる元気はなく、力弱く「これじゃ〝全くわからない〟から〝ほとんどわからない〟位の差じゃない……」とため息混じりに呟くのが精一杯だった。
いくら減ったとは言え、日本に住む人間の約半分が対象になっている。それをたった数人で守るなんて芸当は、火を見るよりも明らかだ。
多分、大翔もがっかりしてる……そう予想してちらりと目をやると、大翔は「いや、これでようやく前に進める」と満足げに笑って見せた。
「ハァ? 何言って――」
「絞れるんだよ、これで」
確信を持って呟いた大翔に、渚は「何が?」とぶっきらぼうに問いかける。意にも介さず、大翔はホログラムのリストに近づきそっと手を触れると「犯人が」と言い放った。
「犯人がぁ? どういうことよ」
「パズルのピースをはめていくようなもんなんだよ。まずさ、〝シカバネにされた人〟は〝ムクロの可能性があった人だけ〟だろ? ってことは、このシカバネ事件を主導しているヤツは〝ムクロの存在を知っているやつ〟もしくは〝知ることのできるヤツ〟ってことになる」
ここでようやく渚も理解し「あっ」と声を漏らし、すぐさま「ムクロを知ってる人って……」と呟く。大翔は「その通り。ムクロを知ってる存在は限られてる」と言い、リストを指差すと「しかも、ムクロって存在を知っていても、誰がその予備軍なんてのは、実際にムクロの処理をやってる俺達現場の人間くらいしか知らねーはずだ」と言って見せた。
「ってことは……」
「そう。今回の事実で、〝シカバネ事件の犯人〟は〝政府に関係する人間〟か〝それに準ずるヤツ〟ってやつに絞れる……ってのが俺の予想。どう? 鏑木のおっさん、正解?」
鏑木はにやりと笑い「お見事」と軽い拍手を大翔に向けた。推理が当たり、大翔は「うしっ、ビンゴ!」と指をパチンと鳴らす。嬉々とした表情でやる気満々さが全身から溢れ出している二人に渚は「ちょ、ちょっと待って」と故意に水を差した。
「ん?」
「今の話から踏まえて、整理すると……アタシ達の相手って、政府、というか……国? ってこと?」
「まだ推察だから各章はないが、そう踏まえて行動した方がいいかもしれないね。だからこの情報は、津ノ森くんと姫宮くんの二人を含めたここにいる五人と、今は他の県の応援に行っている埼玉支部のメンバー以外には伝えない予定だね」
「……一応、アタシら公務員だよね?」
「しかも国の直轄部隊みたいなところもあるから、括りとしちゃ一応国家公務員だ」
「……アンタのせいでより深刻さが重くなったわ」
つまりは、国家公務員である自分たちが市民の平和を守るために国には向かう可能性があると言うこと。入署したときからは考えられない危険な道であることを認識した渚は「ますますこの娘には戦力になって貰わなくちゃね」とホログラムの中で奮闘している少女に期待の眼差しを向けた。
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「やっぱ無理です!」
明日香はそう叫ぶと、先程生成された建物の影に身を隠した。
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