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第二章「雷のお姫様」
「02-010」
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眼前には、森の中を駆け回り確かな一歩を進める大翔の姿が映る。シードが解析を始め、全力具合を示すコネクトの値は限界値を超えて測定不能という結果を示している。
特別な連中の中でも更に異端者であるこの少年。
死地をいくつもくぐり抜けてきただろうその背中は、とても四歳下の小僧とは感じられないほどの頼もしさを醸し出している。
ほんの数年前までぬくぬくと暮らしていた自分たち一般人とは違う、歴戦の証なのだろうその背中は「見えた!」と、声を上げた。喜んでいるようにも、焦っているようにも聞こえる声色が、今の状況を表している。
すぐに渚も問題の列車を視界に捉えると「オッケー!」と声を弾ませる。
さあいよいよだと気を張った瞬間、渚の耳朶をピーッ、という着信音が打った。
『姫宮明日香がコネクトを発動、交戦の後シカバネの大多数を引き連れて川に落下した。流れる先をシードに転送するから大翔はそっちに向かって、渚くんは車内に残った敵を殲滅、救護に当たってくれ』
「了解!」
そう言い残して大翔は一目散に川の方へ駆けだした。すぐ崖があるというのに、なんの躊躇いもなく落ちていく。
「ドコまで規格外なんだか……」
呆れながら渚は引き続き目標へ向かって真っ直ぐ進んでいった。
ほんの数秒の内に線路内へ立ち入り、車両付近へとたどり着く。
――ウン、こりゃ酷い。
近寄ってまじまじと観察してみると、列車は先頭から三分の一ほどが引っ繰り返っていて橋からはみ出している。川に落ちていない方が不自然に思えるほど、紙一重な状況だった。
加え、リニアモーターカーの車両には全身を真っ黒に染め上げたシカバネが数体、貼り付いていた。怪我を負った上にシカバネに狙われているとなれば、乗客にとって現状は絶体絶命の他ならない。
それでも尚、現場が静謐に包まれているのは乗客のほとんどが気絶しているからだろうと踏み、渚は右手で背負った矢筒の中から矢を四本取りだした。次いで左手で弓を構えると取り出した全ての矢をまとめて構え、「氷装」と呟く。すると、渚の体から氷が漏れ出し、矢に纏わり付いた。
「発射――!」
まとめて放たれたその矢は、ひゅん、と空中を切り裂き飛んでいく。氷に最低限の意思を持たせて放ったその矢は、誘導ミサイルもビックリのホーミングでシカバネに全弾命中した。
突然の攻撃に慌てふためくシカバネ達。当たったのは渚の予定通り胴体の一部や太ももなどの、致命傷ではない部分。泣き喚くだけで致命傷には至っていない。
しかし、そんな状態のシカバネ達を見て渚はにやりと笑い、「バーン!」と、両手を目一杯に広げて渚は叫んだ。
その言葉を合図にして、矢が刺さった箇所からブクブクと、風船を膨らましているかの如くに膨れあがっていく。その膨らみは一つ、また一つと増えていき、体全体がふくれあがったところで、破裂した。シカバネからは蒸気のような生ぬるい黒煙と共に黒い液体を撒き散らしながら爆散。風が吹き、黒煙を吹き飛ばすと、その現場にはシカバネの基となった人間――〝素体〟が現れた。
動く気配こそないものの命の灯火はまだ消えていない。
「アンタらは後!」
列車に貼り付いていた化け物の制圧を確認してから渚は車両の中に侵入した。
引っ繰り返ったこととシカバネの強襲が重なった結果、車両内は地獄絵図そのもの。呻き声が列車内で駆けずり回り助けてくれとすがる手がこれでもかというくらいに伸びてくる。
渚は手のひらを掲げ、精製された氷を一人一人に付着させていった。
「あんた……何をして……」
氷が触れた乗客が倒れていく。その光景を見た乗客の一人がそう力なく呟いたが、渚は「ダイジョーブ、任しておいて」とその乗客にも矢を突き刺した。
渚が突き刺している氷は、鎮痛と麻酔の二つの効果を併せ持つもの。救助隊が車での時間稼ぎとして現状出来る最高の応急処置だった。
一人一人にその応急処置を施していき、ようやく全ての車両を回りきったところで渚は「ふぅ……」と息を吐き肩の力を抜く。
脳さえ生きていればあとは義手や義足をはじめとした義体で補い社会に復帰することは可能だ。身体の機能は停止してしまった人こそいたものの、幸いにも今回の事件で脳に致命的な損傷を受けている人はいなかった。
大事故だが……取り返しのつかない自然災害ほどではない。
胸をなで下ろした渚は車両の天井へ上がり、シカバネを一箇所に集めて山にすると、その頂上に向かって赤い面を一つ投げた。
大翔から受け取った仮面は、シカバネから人間に戻すためのプログラムがかけられている。たちまちその面は炎となってシカバネたち全体を包み込み、やがてシカバネの基となった人間たち――素体が姿を表した。
――今回もバラバラか。
シカバネの素体となった人間は、シードの測定から、二十代の男が二人、三十代の男が一人、十代の女が二人、六十代の女が一人と表示される。
その顔を一つずつスキャンしていくと、どの素体もここ一週間以内に突然シードの反応から消えた、いわゆるデータ上で行方不明となっていた人間だった。
特別な連中の中でも更に異端者であるこの少年。
死地をいくつもくぐり抜けてきただろうその背中は、とても四歳下の小僧とは感じられないほどの頼もしさを醸し出している。
ほんの数年前までぬくぬくと暮らしていた自分たち一般人とは違う、歴戦の証なのだろうその背中は「見えた!」と、声を上げた。喜んでいるようにも、焦っているようにも聞こえる声色が、今の状況を表している。
すぐに渚も問題の列車を視界に捉えると「オッケー!」と声を弾ませる。
さあいよいよだと気を張った瞬間、渚の耳朶をピーッ、という着信音が打った。
『姫宮明日香がコネクトを発動、交戦の後シカバネの大多数を引き連れて川に落下した。流れる先をシードに転送するから大翔はそっちに向かって、渚くんは車内に残った敵を殲滅、救護に当たってくれ』
「了解!」
そう言い残して大翔は一目散に川の方へ駆けだした。すぐ崖があるというのに、なんの躊躇いもなく落ちていく。
「ドコまで規格外なんだか……」
呆れながら渚は引き続き目標へ向かって真っ直ぐ進んでいった。
ほんの数秒の内に線路内へ立ち入り、車両付近へとたどり着く。
――ウン、こりゃ酷い。
近寄ってまじまじと観察してみると、列車は先頭から三分の一ほどが引っ繰り返っていて橋からはみ出している。川に落ちていない方が不自然に思えるほど、紙一重な状況だった。
加え、リニアモーターカーの車両には全身を真っ黒に染め上げたシカバネが数体、貼り付いていた。怪我を負った上にシカバネに狙われているとなれば、乗客にとって現状は絶体絶命の他ならない。
それでも尚、現場が静謐に包まれているのは乗客のほとんどが気絶しているからだろうと踏み、渚は右手で背負った矢筒の中から矢を四本取りだした。次いで左手で弓を構えると取り出した全ての矢をまとめて構え、「氷装」と呟く。すると、渚の体から氷が漏れ出し、矢に纏わり付いた。
「発射――!」
まとめて放たれたその矢は、ひゅん、と空中を切り裂き飛んでいく。氷に最低限の意思を持たせて放ったその矢は、誘導ミサイルもビックリのホーミングでシカバネに全弾命中した。
突然の攻撃に慌てふためくシカバネ達。当たったのは渚の予定通り胴体の一部や太ももなどの、致命傷ではない部分。泣き喚くだけで致命傷には至っていない。
しかし、そんな状態のシカバネ達を見て渚はにやりと笑い、「バーン!」と、両手を目一杯に広げて渚は叫んだ。
その言葉を合図にして、矢が刺さった箇所からブクブクと、風船を膨らましているかの如くに膨れあがっていく。その膨らみは一つ、また一つと増えていき、体全体がふくれあがったところで、破裂した。シカバネからは蒸気のような生ぬるい黒煙と共に黒い液体を撒き散らしながら爆散。風が吹き、黒煙を吹き飛ばすと、その現場にはシカバネの基となった人間――〝素体〟が現れた。
動く気配こそないものの命の灯火はまだ消えていない。
「アンタらは後!」
列車に貼り付いていた化け物の制圧を確認してから渚は車両の中に侵入した。
引っ繰り返ったこととシカバネの強襲が重なった結果、車両内は地獄絵図そのもの。呻き声が列車内で駆けずり回り助けてくれとすがる手がこれでもかというくらいに伸びてくる。
渚は手のひらを掲げ、精製された氷を一人一人に付着させていった。
「あんた……何をして……」
氷が触れた乗客が倒れていく。その光景を見た乗客の一人がそう力なく呟いたが、渚は「ダイジョーブ、任しておいて」とその乗客にも矢を突き刺した。
渚が突き刺している氷は、鎮痛と麻酔の二つの効果を併せ持つもの。救助隊が車での時間稼ぎとして現状出来る最高の応急処置だった。
一人一人にその応急処置を施していき、ようやく全ての車両を回りきったところで渚は「ふぅ……」と息を吐き肩の力を抜く。
脳さえ生きていればあとは義手や義足をはじめとした義体で補い社会に復帰することは可能だ。身体の機能は停止してしまった人こそいたものの、幸いにも今回の事件で脳に致命的な損傷を受けている人はいなかった。
大事故だが……取り返しのつかない自然災害ほどではない。
胸をなで下ろした渚は車両の天井へ上がり、シカバネを一箇所に集めて山にすると、その頂上に向かって赤い面を一つ投げた。
大翔から受け取った仮面は、シカバネから人間に戻すためのプログラムがかけられている。たちまちその面は炎となってシカバネたち全体を包み込み、やがてシカバネの基となった人間たち――素体が姿を表した。
――今回もバラバラか。
シカバネの素体となった人間は、シードの測定から、二十代の男が二人、三十代の男が一人、十代の女が二人、六十代の女が一人と表示される。
その顔を一つずつスキャンしていくと、どの素体もここ一週間以内に突然シードの反応から消えた、いわゆるデータ上で行方不明となっていた人間だった。
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