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第三章
3-23「飛行機雲が消えるまで(3)」
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「真奈美かぁ……びっくりさせないでよ」
「ゴメンゴメン」
舌を出しながら頭を下げた真奈美は、どこか頬が赤らんでいた。肩で息もしている。恐らく、一星を探し回っていたのだろう……恐らく、自分と似たような理由で。
こういうところ、妙に似てるんだよな――それほど時間もかからず仲良くなった理由を実感しつつ「ずるい?」と、再び窓の外に視線を移す。
「うん。男の子っていいなって」
「どういうこと?」
「ほら、やっぱりああいうさ……なんていうか、意味わかんないくらいにバカやって、あんな風に笑い合って、ってなんか特別じゃない? 男の子の特権みたいな感じでさ」
確かに、あの輪へ無理矢理に入ることはできるかもしれないが、あんな風に心の底から楽しみ、満面の笑みで笑い合えるか、と問われるととても二つ返事をすることはできない。服が汚れちゃうから、子供っぽくて馬鹿にされそう、なんて気持ちが先行してしまう自分が想像できる。
確かに真奈美の言うとおり、今、彗たちが損得勘定なしに笑い合っている景色は妙に輝いて見えた。
どこかもの悲しくなった音葉は「そうだね」と呟くのが精一杯。そんな音葉を見た真奈美は「ね、じゃあさ、私たちは私たち流で楽しんじゃわない?」と言って窓に肘をかける。
「私たち流? どんなの?」
「えーっと……ほら、甘いものいっぱい食べるとか!」
「甘いものって……男子も普通に食べるんじゃない?」
「いやいや、一つや二つじゃなくて、いっぱいだよ、いっぱい!」
真奈美に言われるがままの景色を想像してみると、確かに魅力的。ラーメンや焼き肉に走りがちな男子ではあまりない選択肢だというところもいい。そんな心に呼応したのか、お腹がぐぅと鳴り響く。
「……体は正直みたい」
「ははっ、じゃあ決定ね!」
「でも、そんないっぱい食べれるところなんてあったっけ?」
「実は、あるんです! じゃじゃーん!」
自信満々に、真奈美は二枚のカラフルな紙をポケットから取り出す。紙には、〝オープン記念! 次回ご利用時に30%OFF〟という文字がカラフルな配色で記されていた。
わぁ、と思うも一瞬。次回ご利用時、という一文が引っかかる。
次回ご利用時、ということは、一度は行っているということ。これは恐らく、下見にいったのだろう。しかも、券をよく見てみると、会計時に一枚だけ利用可能ともある。たまに複数枚のクーポン券を配るところもあるが、「へぇ、こんなとこあったんだ」と言いながら受け取ったその券は、使用期限に差があった。
ということは、やはりわざわざ二回通ったということになる。そして、一星を息が上がるくらい一生懸命に探していたという事実も加味すると――。
「……いいの?」
だいたいそうだろう、と察した音葉は恐る恐る尋ねるが、間髪入れず真奈美は「いいのいいの!」と頭を振った。
「でも……」
「どうせ誘っても、あの様子じゃ、一星たちの晩ご飯はこってり油コースだろうし。私たちも、ね?」
恋もいいが、こういう日もあっていい。音葉は「……うん!」と、真奈美に並んで駆けだした。
※
「なるほど」
大哉がこれまでの身の上話をすると、彗は静かにそう呟いてから汗を拭った。
フォームもコースも力強さも考えない、ただのキャッチボール。ここしばらく――それこそ、一星と分かれる際に行った時以来かもしれない、遊びのそれは、最近味わったことのない爽快感を抱かせてくれた。心地よい疲労感に襲われた大哉は「あー、よかった」と腰を下ろす。
「どういうこと?」
「再認識したんだよ、野球が好きだってさ」
「……そっか」
改めて自分の気持ちを知ったことで、より一生〝野球をやりたい〟という欲が心の底から沸き上がってくる。同時に、この数日、全く動いていなかった時間が勿体なく感じ、大哉は「どうしたもんかね」とため息を溢した。
「何が?」
「部活。やっぱり野球はやりたいけど、今更戻ったって、なんて思ってさ」
いじめがあったとはいえ、端から見れば途中で道を逸れてしまった、不登校児。
しかも、むこうでは相談できる友達もほとんどいなかったし、監督やコーチにも相談していないからいじめの真実を知っているのは当の本人たちだけという状況。部活の連中からは、練習がきつかったから逃げ出した、という感じの〝脱走犯扱い〟にでもなっていることが想像できる。
そんな空間に戻れば、また野球から目を背けたくなり、逃げ出すという選択肢を再び選ぶかもしれない――。
「親父さんたちはなんて?」
「……何も。気を使ってくれてるな、って感じ」
「まあ、まずはそこからだな」
「確か、転勤なんだっけ?」
「そう。会社の都合で、って聞いてるけど……多分、俺の野球留学に合わせて転勤の申請したんだと思う」
「いい親父さんだな」
「……本当、頭が上がらないよ」
「でも、そうなるとより相談はしにくいね」
「そうなんだよなぁ……」
野球留学で入学した大哉は、一般ではなくスポーツの推薦クラスに所属している。試験なりなんなりでスポーツクラスから一般のクラスに編入すること自体はできるだろうが、問題は学力。というのも、仙台翔景は全国的に見ても有数の進学校で、学力だけで言えば彩星高校の上に位置している。
「ゴメンゴメン」
舌を出しながら頭を下げた真奈美は、どこか頬が赤らんでいた。肩で息もしている。恐らく、一星を探し回っていたのだろう……恐らく、自分と似たような理由で。
こういうところ、妙に似てるんだよな――それほど時間もかからず仲良くなった理由を実感しつつ「ずるい?」と、再び窓の外に視線を移す。
「うん。男の子っていいなって」
「どういうこと?」
「ほら、やっぱりああいうさ……なんていうか、意味わかんないくらいにバカやって、あんな風に笑い合って、ってなんか特別じゃない? 男の子の特権みたいな感じでさ」
確かに、あの輪へ無理矢理に入ることはできるかもしれないが、あんな風に心の底から楽しみ、満面の笑みで笑い合えるか、と問われるととても二つ返事をすることはできない。服が汚れちゃうから、子供っぽくて馬鹿にされそう、なんて気持ちが先行してしまう自分が想像できる。
確かに真奈美の言うとおり、今、彗たちが損得勘定なしに笑い合っている景色は妙に輝いて見えた。
どこかもの悲しくなった音葉は「そうだね」と呟くのが精一杯。そんな音葉を見た真奈美は「ね、じゃあさ、私たちは私たち流で楽しんじゃわない?」と言って窓に肘をかける。
「私たち流? どんなの?」
「えーっと……ほら、甘いものいっぱい食べるとか!」
「甘いものって……男子も普通に食べるんじゃない?」
「いやいや、一つや二つじゃなくて、いっぱいだよ、いっぱい!」
真奈美に言われるがままの景色を想像してみると、確かに魅力的。ラーメンや焼き肉に走りがちな男子ではあまりない選択肢だというところもいい。そんな心に呼応したのか、お腹がぐぅと鳴り響く。
「……体は正直みたい」
「ははっ、じゃあ決定ね!」
「でも、そんないっぱい食べれるところなんてあったっけ?」
「実は、あるんです! じゃじゃーん!」
自信満々に、真奈美は二枚のカラフルな紙をポケットから取り出す。紙には、〝オープン記念! 次回ご利用時に30%OFF〟という文字がカラフルな配色で記されていた。
わぁ、と思うも一瞬。次回ご利用時、という一文が引っかかる。
次回ご利用時、ということは、一度は行っているということ。これは恐らく、下見にいったのだろう。しかも、券をよく見てみると、会計時に一枚だけ利用可能ともある。たまに複数枚のクーポン券を配るところもあるが、「へぇ、こんなとこあったんだ」と言いながら受け取ったその券は、使用期限に差があった。
ということは、やはりわざわざ二回通ったということになる。そして、一星を息が上がるくらい一生懸命に探していたという事実も加味すると――。
「……いいの?」
だいたいそうだろう、と察した音葉は恐る恐る尋ねるが、間髪入れず真奈美は「いいのいいの!」と頭を振った。
「でも……」
「どうせ誘っても、あの様子じゃ、一星たちの晩ご飯はこってり油コースだろうし。私たちも、ね?」
恋もいいが、こういう日もあっていい。音葉は「……うん!」と、真奈美に並んで駆けだした。
※
「なるほど」
大哉がこれまでの身の上話をすると、彗は静かにそう呟いてから汗を拭った。
フォームもコースも力強さも考えない、ただのキャッチボール。ここしばらく――それこそ、一星と分かれる際に行った時以来かもしれない、遊びのそれは、最近味わったことのない爽快感を抱かせてくれた。心地よい疲労感に襲われた大哉は「あー、よかった」と腰を下ろす。
「どういうこと?」
「再認識したんだよ、野球が好きだってさ」
「……そっか」
改めて自分の気持ちを知ったことで、より一生〝野球をやりたい〟という欲が心の底から沸き上がってくる。同時に、この数日、全く動いていなかった時間が勿体なく感じ、大哉は「どうしたもんかね」とため息を溢した。
「何が?」
「部活。やっぱり野球はやりたいけど、今更戻ったって、なんて思ってさ」
いじめがあったとはいえ、端から見れば途中で道を逸れてしまった、不登校児。
しかも、むこうでは相談できる友達もほとんどいなかったし、監督やコーチにも相談していないからいじめの真実を知っているのは当の本人たちだけという状況。部活の連中からは、練習がきつかったから逃げ出した、という感じの〝脱走犯扱い〟にでもなっていることが想像できる。
そんな空間に戻れば、また野球から目を背けたくなり、逃げ出すという選択肢を再び選ぶかもしれない――。
「親父さんたちはなんて?」
「……何も。気を使ってくれてるな、って感じ」
「まあ、まずはそこからだな」
「確か、転勤なんだっけ?」
「そう。会社の都合で、って聞いてるけど……多分、俺の野球留学に合わせて転勤の申請したんだと思う」
「いい親父さんだな」
「……本当、頭が上がらないよ」
「でも、そうなるとより相談はしにくいね」
「そうなんだよなぁ……」
野球留学で入学した大哉は、一般ではなくスポーツの推薦クラスに所属している。試験なりなんなりでスポーツクラスから一般のクラスに編入すること自体はできるだろうが、問題は学力。というのも、仙台翔景は全国的に見ても有数の進学校で、学力だけで言えば彩星高校の上に位置している。
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