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第三章
3-18「○○○の彗くん(3)」
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問題の原因は、一年一組の文化祭実行委員であり、今日のバンドでボーカルの予定でもあった、宮原香里奈。
文化祭は既に始まっており、他のクラスはすっかりお客で賑わっているのだが、一年一組の主役だったはずの宮原と朝から連絡がつかず。
バンドなどの音楽系は教室ではなく中庭で行われ、各クラスやグループで演奏する時間を申請し、枠を取るという形なのでまだ演奏は始まっていないが、もう自分たちの使用予定まで一時間を切っている。
もう一人の実行委員・賢吾が自宅まで様子を見に行っており、一星に現場の指示が任されてしまったという状況だ。
持ち時間は、一枠一時間半。
そこから入れ替わり立ち替わりとなるのだが、このままではただ演奏をするだけになってしまう。
それでも様にはなるだろうが、やはりカッコが付かない。しかも、今まさに自分たちの前に演奏している三年生のクオリティが凄まじく、レベルの落差で見てくれる人も少なくなることは目に見えている。
「他に歌える人を代役で、とか?」
「でも、この歌結構難しいし……」
「今更曲変えるとか? 簡単なヤツならなんとか」
「そんな無茶な! それならまだ必死に練習したやつをやる方が納得できる」
「他に練習してた人もいないからなぁ」
各々の考えが口から溢れるが、答えは出ず。ついに誰も何も言わなくなってしまいそうになったその時。
ピリリ、と一星の携帯が鳴り響いた。
電話をかけてきたのは、宮原の家に向かった賢吾だ。
まだ家に着くには速いはず。緊急事態か、と通話ボタンを押すなり『なんかやばいことになってるみたい!』と賢吾が電話口から叫んだ。
「や、やばいこと?」
『うん、どうも宮原のやつ、事故起こしちゃったみたいなんだ』
「じ、事故⁉」
『うん。ほら、今日行動規制がどうので開始時間遅れたろ? どうも、彩星の生徒が自転車でおばあさんとぶつかっちゃったらしくて、その生徒って言うのが、宮原らしいんだよ』
「ほ、本当?」
『取りあえず、そっちに一旦戻る。そっちは頼んだよ!』
頼まれたってどうしようもないだろ、と言ってやろうかと思うも一瞬、通話が一方的に切られてしまい宙ぶらりんにされた一星は「どうしようか」と青ざめたクラスメイトに投げかけた。
※
「本当にすみませんでした!」
見慣れた制服の女子生徒・宮原は、開口一番そう叫んで頭を深々と下げた。
沢井菊《さわいきく》は「いいのよ、私も周り見ないで横断歩道渡ろうとしちゃったし」と、気に病まないでと言わんばかりに無理に笑う。
今日は、彩星高校の文化祭。東北に一家で引っ越してしまった孫が埼玉に戻ってきており、その孫と彩星高校の文化祭を回るという予定だった。
早く可愛い孫に会いたいという気持ちが先行してしまい、周りを軽く確認しただけで車道を横断しようとしたとき、突如視界の端に自転車が現れ、衝突寸前。
この自転車に乗っていた宮原は、まだ高校一年生。流石の反射神経でぶつかりはしなかったものの、驚いてしまって転んでしまい、縁石に頭をぶつけてしまったという顛末だった。
「ごめんね、本当に私がびっくりしちゃっただけ。気に病むことはないわ」
「……ありがとうございます」
彼女は歩道ではなく車道を走っていたし、自分は横断歩道でもない場所を渡ろうとしていた。罰が当たるのは当然。
寧ろ、派手に転んで擦り傷を負い、自転車も壊れてしまった宮原への申し訳なさが勝つ。菊は「命があるだけ儲けものってね」といたずらに笑うと、菊は「それよりもあなた、彩星高校の生徒さんね」と話題を無理矢理に変えた。
「あ、はい」
「今日文化祭よね? 私も孫と行く予定だったの。あなた……ここにいて大丈夫なの?」
「……あ!」
全てを忘れてた、と言わんばかりに目を見開く。早く連絡しないと、と学生鞄から携帯を取り出して電源を付けようとした、が。
「電源付かない……壊れてる⁉」
「あっ、あらあら」
「ど、どうしよう……! 取りあえずすぐに戻って、でもまず先に連絡しないと――」
やることが一気に増えたからなのか、当たりをうろうろしながら宮原は「あの、携帯貸していただけませんか⁉」と詰め寄ってきた。
「あ、ごめんなさい。携帯は持ってなくて……」
「そうですか……じゃあ公衆電話!」と再び鞄を探るが「えっ、財布ない……あ、玄関に置きっ放しだ! そもそも電話番号わかんない!」と頭を抱えてしまった。
「あ、あら……」
「どうしよう……」
いよいよ八方塞がり。菊も何か言い解決方法がないかと思案していると「ばあちゃん、大丈夫⁉」と、愛おしい声が勢いよく飛び込んできた。
孫の大哉だ。
「あぁ、大哉ちゃん! 久しぶりねぇ」
「怪我は⁉」
「私は大丈夫よ、ほら、見ての通り」
「そっか、よかったぁ……」
「ごめんねぇ、せっかく文化祭回る予定だったのに。それよりも大哉ちゃん、ちょっとお願いがあるのだけど……」
「お願い?」
「そこの子に、携帯貸してあげて?」
※
これといった解決策が出ず、結局練習したものをそのまま出そうという結末になりかけていた一年一組のクラスに再び、一星の携帯の着信音が鳴り響いた。
文化祭は既に始まっており、他のクラスはすっかりお客で賑わっているのだが、一年一組の主役だったはずの宮原と朝から連絡がつかず。
バンドなどの音楽系は教室ではなく中庭で行われ、各クラスやグループで演奏する時間を申請し、枠を取るという形なのでまだ演奏は始まっていないが、もう自分たちの使用予定まで一時間を切っている。
もう一人の実行委員・賢吾が自宅まで様子を見に行っており、一星に現場の指示が任されてしまったという状況だ。
持ち時間は、一枠一時間半。
そこから入れ替わり立ち替わりとなるのだが、このままではただ演奏をするだけになってしまう。
それでも様にはなるだろうが、やはりカッコが付かない。しかも、今まさに自分たちの前に演奏している三年生のクオリティが凄まじく、レベルの落差で見てくれる人も少なくなることは目に見えている。
「他に歌える人を代役で、とか?」
「でも、この歌結構難しいし……」
「今更曲変えるとか? 簡単なヤツならなんとか」
「そんな無茶な! それならまだ必死に練習したやつをやる方が納得できる」
「他に練習してた人もいないからなぁ」
各々の考えが口から溢れるが、答えは出ず。ついに誰も何も言わなくなってしまいそうになったその時。
ピリリ、と一星の携帯が鳴り響いた。
電話をかけてきたのは、宮原の家に向かった賢吾だ。
まだ家に着くには速いはず。緊急事態か、と通話ボタンを押すなり『なんかやばいことになってるみたい!』と賢吾が電話口から叫んだ。
「や、やばいこと?」
『うん、どうも宮原のやつ、事故起こしちゃったみたいなんだ』
「じ、事故⁉」
『うん。ほら、今日行動規制がどうので開始時間遅れたろ? どうも、彩星の生徒が自転車でおばあさんとぶつかっちゃったらしくて、その生徒って言うのが、宮原らしいんだよ』
「ほ、本当?」
『取りあえず、そっちに一旦戻る。そっちは頼んだよ!』
頼まれたってどうしようもないだろ、と言ってやろうかと思うも一瞬、通話が一方的に切られてしまい宙ぶらりんにされた一星は「どうしようか」と青ざめたクラスメイトに投げかけた。
※
「本当にすみませんでした!」
見慣れた制服の女子生徒・宮原は、開口一番そう叫んで頭を深々と下げた。
沢井菊《さわいきく》は「いいのよ、私も周り見ないで横断歩道渡ろうとしちゃったし」と、気に病まないでと言わんばかりに無理に笑う。
今日は、彩星高校の文化祭。東北に一家で引っ越してしまった孫が埼玉に戻ってきており、その孫と彩星高校の文化祭を回るという予定だった。
早く可愛い孫に会いたいという気持ちが先行してしまい、周りを軽く確認しただけで車道を横断しようとしたとき、突如視界の端に自転車が現れ、衝突寸前。
この自転車に乗っていた宮原は、まだ高校一年生。流石の反射神経でぶつかりはしなかったものの、驚いてしまって転んでしまい、縁石に頭をぶつけてしまったという顛末だった。
「ごめんね、本当に私がびっくりしちゃっただけ。気に病むことはないわ」
「……ありがとうございます」
彼女は歩道ではなく車道を走っていたし、自分は横断歩道でもない場所を渡ろうとしていた。罰が当たるのは当然。
寧ろ、派手に転んで擦り傷を負い、自転車も壊れてしまった宮原への申し訳なさが勝つ。菊は「命があるだけ儲けものってね」といたずらに笑うと、菊は「それよりもあなた、彩星高校の生徒さんね」と話題を無理矢理に変えた。
「あ、はい」
「今日文化祭よね? 私も孫と行く予定だったの。あなた……ここにいて大丈夫なの?」
「……あ!」
全てを忘れてた、と言わんばかりに目を見開く。早く連絡しないと、と学生鞄から携帯を取り出して電源を付けようとした、が。
「電源付かない……壊れてる⁉」
「あっ、あらあら」
「ど、どうしよう……! 取りあえずすぐに戻って、でもまず先に連絡しないと――」
やることが一気に増えたからなのか、当たりをうろうろしながら宮原は「あの、携帯貸していただけませんか⁉」と詰め寄ってきた。
「あ、ごめんなさい。携帯は持ってなくて……」
「そうですか……じゃあ公衆電話!」と再び鞄を探るが「えっ、財布ない……あ、玄関に置きっ放しだ! そもそも電話番号わかんない!」と頭を抱えてしまった。
「あ、あら……」
「どうしよう……」
いよいよ八方塞がり。菊も何か言い解決方法がないかと思案していると「ばあちゃん、大丈夫⁉」と、愛おしい声が勢いよく飛び込んできた。
孫の大哉だ。
「あぁ、大哉ちゃん! 久しぶりねぇ」
「怪我は⁉」
「私は大丈夫よ、ほら、見ての通り」
「そっか、よかったぁ……」
「ごめんねぇ、せっかく文化祭回る予定だったのに。それよりも大哉ちゃん、ちょっとお願いがあるのだけど……」
「お願い?」
「そこの子に、携帯貸してあげて?」
※
これといった解決策が出ず、結局練習したものをそのまま出そうという結末になりかけていた一年一組のクラスに再び、一星の携帯の着信音が鳴り響いた。
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