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第二部
2-61「vs桜海大葉山(20)」
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「一応、仕事落ち着いてるけど」
「それじゃさ、ちょっとダウン付き合ってくれ」
そう言うと、彗はグローブを音葉に差し出した。
※
五回からリリーフ登板。合間合間でキャッチボールなどを行い、ある程度の肩は出来ているが、つい先程までランナーとして走り回っていた身である。
もちろん、そんな状態で通じるほど甘い相手ではなく。コントロールを乱してフォアボールでランあーを出すと、続く二人目にもヒットを打たれて早々にピンチを招くこととなった。
投げた球数は6、時間にすると三分ほどの出来事に思わず「ま、簡単じゃないか」と新太はスイッチを切り替えるために帽子を被り直す。
――さ、気を取り直して。
チャンスの場面で回ってきたのは二番の右打者。今日は彗からもヒットを打っている好打者だ。
ようやく心も入ってきたし、いよいよ苦手なコースを徹底的について、などと画策していると「すみません、戸口先輩」と一星が話しかけてきた。
「すみませんって……のわっ⁉ お前、今はプレー中だろ」
「タイム取りました」
深刻な表情の一星。先程の守備時にはイキイキとした様子だったが、今はどこか慌てているようだった。
「どうした?」
「いえ、自分のリード、大丈夫かなって」
恐らく、打者二人に対してボールが先行してしまったことが引っかかっているのだろう。自分が投げにくいところに構えているんじゃないのか、何か投げたい変化球があるんじゃないのか。はたまた、このバッターと勝負したくないのか――先程のベンチでのやりとりから察せられる悩みどころはこんなところだな、と笑いながら新太は一星の頭をポンポンと叩くと「気にすんな、良くやってるよ」と声をかける。
「でも……いつもよりもコントロール荒れてるじゃないですか」
「いや、それは面目ない限り。ま、大丈夫。そろそろ慣れるから」と頭を下げた。
「慣れる?」
「あぁ。コーチにちょっと指導して貰ってな」
そこまで言うと、先程ベンチ内で観察眼を主観に置いた話をしていたことに気づき「どこが変わったかわかるか?」とあえて質問を投げかけてみた。
少し悩むのかなと思いきや、「腕が下がっているように思います」と一星は即答してくる。
「ちゃんと見れてんじゃん。キャッチャーがそれだけ冷静でいてくれるとピッチャーとしても助かるよ」
「冷静?」
「人間、焦ると視野が狭くなるもんだ。俺の違いに気づけたってことは、それだけ冷静になってるってことだよ。ほれ、戻った戻った!」
ランナーを出しピンチを招いている中で、これ以上テンポを悪くするわけにはいかない。もっとテンポ良く投げ込まないと、と改めて深く息を吐き出してから、セットポジションに入った。
先程の様子から見るに、初回から続いていた焦りは無くなっている。若干の弱気さは気がかりだが、慎重になるという点ではいい方向へ向かってくれるかもしれない。
新太は、外角低めのストレートいうサインを出した一星に頷くと、素早いクイックでボールを投げ込んだ。
「ようやくしっくりきた」
ボールは、アウトローギリギリ。正に吸い込まれるような軌道で、一星のミットに収まる。ワンテンポ遅れてやってきたパシッという音が気分を高揚させてくれた。
「……やっぱすごいな、あの人」
矢沢のコーチングにより、これまでの真上から投げ込むオーバースローから、少し腕を下げたサイドスロー気味のスリークォーターが、新太のニューピッチングフォーム。
理由は、コントロールが悪いとか球速が出ないとかではなく、腰の使い方がオーバースロー向きではないからという理由だった。
あまり聞かないフォームの理論に懐疑的だったが、実際に動画に撮って自分のフォームを客観的に見てみると、確かにほぼ地面と水平な軸で回転していることを確認し、承諾。
はじめは、これまで小学生の頃から続けていたフォームを大幅に変更するということで、違和感があったが、投げ込む度に指に上手くボールが引っかかったり、コントロールも球速も上がったように感じ、しっくりとき始めていた。
だからこそ、早く実戦で試したかったという中での練習試合。
――結果は二の次でいいから、まずは納得がいくボールを投げる。
そんな意識で新太は二球目を投げ込む。
「ほいっ!」
二球目、今度はインコースギリギリのストレート。腰を引くが、糸を引いたような水都レートに球審・祐介の右手は上がりストライク。
ボールを受け取り。一星のサインに頷き、セットポジションに入る。この間僅か五秒。打者に考える隙を与えず、リズムも生まれる。いいね、と呟きながらすぐに三球目を投げ込んだ。
一球目と同じアウトローにスライダー。腰の引けたバッターは遭わせることに精一杯で、ピッチャーゴロとなる。
「オーライ!」
打球をグラブに収めると、体をくるっと反転させて二塁へ転送しフォースアウト。更に二塁に入っていた文哉が一塁に転送し、ゲッツーが完成した。
「よっし!」
新太はマウンドでガッツポーズを無意識のうちに披露していた。
彗からヒットを打った選手を打ち取ったことと、競合相手に新しいフォームが通用することを確信したことが重なったのだろう。
試合中であるにも拘わらず、満面の笑みを浮かべる。
「それじゃさ、ちょっとダウン付き合ってくれ」
そう言うと、彗はグローブを音葉に差し出した。
※
五回からリリーフ登板。合間合間でキャッチボールなどを行い、ある程度の肩は出来ているが、つい先程までランナーとして走り回っていた身である。
もちろん、そんな状態で通じるほど甘い相手ではなく。コントロールを乱してフォアボールでランあーを出すと、続く二人目にもヒットを打たれて早々にピンチを招くこととなった。
投げた球数は6、時間にすると三分ほどの出来事に思わず「ま、簡単じゃないか」と新太はスイッチを切り替えるために帽子を被り直す。
――さ、気を取り直して。
チャンスの場面で回ってきたのは二番の右打者。今日は彗からもヒットを打っている好打者だ。
ようやく心も入ってきたし、いよいよ苦手なコースを徹底的について、などと画策していると「すみません、戸口先輩」と一星が話しかけてきた。
「すみませんって……のわっ⁉ お前、今はプレー中だろ」
「タイム取りました」
深刻な表情の一星。先程の守備時にはイキイキとした様子だったが、今はどこか慌てているようだった。
「どうした?」
「いえ、自分のリード、大丈夫かなって」
恐らく、打者二人に対してボールが先行してしまったことが引っかかっているのだろう。自分が投げにくいところに構えているんじゃないのか、何か投げたい変化球があるんじゃないのか。はたまた、このバッターと勝負したくないのか――先程のベンチでのやりとりから察せられる悩みどころはこんなところだな、と笑いながら新太は一星の頭をポンポンと叩くと「気にすんな、良くやってるよ」と声をかける。
「でも……いつもよりもコントロール荒れてるじゃないですか」
「いや、それは面目ない限り。ま、大丈夫。そろそろ慣れるから」と頭を下げた。
「慣れる?」
「あぁ。コーチにちょっと指導して貰ってな」
そこまで言うと、先程ベンチ内で観察眼を主観に置いた話をしていたことに気づき「どこが変わったかわかるか?」とあえて質問を投げかけてみた。
少し悩むのかなと思いきや、「腕が下がっているように思います」と一星は即答してくる。
「ちゃんと見れてんじゃん。キャッチャーがそれだけ冷静でいてくれるとピッチャーとしても助かるよ」
「冷静?」
「人間、焦ると視野が狭くなるもんだ。俺の違いに気づけたってことは、それだけ冷静になってるってことだよ。ほれ、戻った戻った!」
ランナーを出しピンチを招いている中で、これ以上テンポを悪くするわけにはいかない。もっとテンポ良く投げ込まないと、と改めて深く息を吐き出してから、セットポジションに入った。
先程の様子から見るに、初回から続いていた焦りは無くなっている。若干の弱気さは気がかりだが、慎重になるという点ではいい方向へ向かってくれるかもしれない。
新太は、外角低めのストレートいうサインを出した一星に頷くと、素早いクイックでボールを投げ込んだ。
「ようやくしっくりきた」
ボールは、アウトローギリギリ。正に吸い込まれるような軌道で、一星のミットに収まる。ワンテンポ遅れてやってきたパシッという音が気分を高揚させてくれた。
「……やっぱすごいな、あの人」
矢沢のコーチングにより、これまでの真上から投げ込むオーバースローから、少し腕を下げたサイドスロー気味のスリークォーターが、新太のニューピッチングフォーム。
理由は、コントロールが悪いとか球速が出ないとかではなく、腰の使い方がオーバースロー向きではないからという理由だった。
あまり聞かないフォームの理論に懐疑的だったが、実際に動画に撮って自分のフォームを客観的に見てみると、確かにほぼ地面と水平な軸で回転していることを確認し、承諾。
はじめは、これまで小学生の頃から続けていたフォームを大幅に変更するということで、違和感があったが、投げ込む度に指に上手くボールが引っかかったり、コントロールも球速も上がったように感じ、しっくりとき始めていた。
だからこそ、早く実戦で試したかったという中での練習試合。
――結果は二の次でいいから、まずは納得がいくボールを投げる。
そんな意識で新太は二球目を投げ込む。
「ほいっ!」
二球目、今度はインコースギリギリのストレート。腰を引くが、糸を引いたような水都レートに球審・祐介の右手は上がりストライク。
ボールを受け取り。一星のサインに頷き、セットポジションに入る。この間僅か五秒。打者に考える隙を与えず、リズムも生まれる。いいね、と呟きながらすぐに三球目を投げ込んだ。
一球目と同じアウトローにスライダー。腰の引けたバッターは遭わせることに精一杯で、ピッチャーゴロとなる。
「オーライ!」
打球をグラブに収めると、体をくるっと反転させて二塁へ転送しフォースアウト。更に二塁に入っていた文哉が一塁に転送し、ゲッツーが完成した。
「よっし!」
新太はマウンドでガッツポーズを無意識のうちに披露していた。
彗からヒットを打った選手を打ち取ったことと、競合相手に新しいフォームが通用することを確信したことが重なったのだろう。
試合中であるにも拘わらず、満面の笑みを浮かべる。
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