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第二部
2-57「vs桜海大葉山(16)」
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つまり、高めの吊り球として効果を発揮してもいないのに、空振りを取ることが出来たと言うことになる。
彗は、一つの結論に達し「なるほど」と呟いた。
※
三番で入っているが、彗たちの会話も気になる。
聞き耳を立てていた一星は、なるほどと呟いた彗の元に駆け寄って「どういうこと?」と質問を投げかけた。
「いや、高めのストレートが空振りを取れる理由がわかったんだよ」
「理由か。どんな?」
四回、ボールを受ける中で組み立てた仮説とすり合わせるための一言。どんな感覚で投げてくれているのかと目を輝かせていた一星だったが、そんな機体を打ち砕くように「なんかこう、ギュンッって感じなんだよ」と擬音で表現を始めた。
「ギュ、ギュン⁉」
「そう。ほら、ストレートだとギュッて感じじゃんか。慣れられたら空振り取れなくなるだろうなって思ってたんだけど、これが通用するなら安定して三振取れそうだなって」
うんうんと、一人で勝手に納得する相棒。置いてけぼりを食らった一星は「いやいやだから……もっと具体的に頼むよ」と困惑するばかり。
「具体的に?」
「抽象的過ぎてわからないってこと」
「あぁ……えっとだな。今のは〝直球〟じゃなくて〝変化球〟だったんだよ」
「変化球?」
「ほら、お前も感じてただろうけど、かなりバットとボール離れてただろ?」
思い返すと、四回のバッターは三人とも同じような空振りをしていた。
「確かに、ストレートの吊り球って反応よりも、スライダーとかフォークみたいな、大きく変化してストライクからボールになる変化球と似た反応だったね。決め球みたいな」
そこまで言うと、「そうそれ!」と彗は声を上げた。
「へ?」
「決め球だ! 高めのライトボールは〝吊り球〟じゃなくて〝決め球〟で使えるんだよ」
「ど、どういう――」
続きを問いただそうとしたところで、一星の背後で打球音が響く。
振り返ると、一番の鋼が放った打球が二遊間を襲っている瞬間だった。
抜けるか、と思うも、ショートの泰明が追いつくも、送球はできず。二打席連続ショートへの内野安打。
初回以来のヒットが生まれたことは素晴らしいが、ネクストバッターズサークルへ行かなければならないという状況になる。
タイミングの悪さを嘆きながら、一星はベンチを出た。
決め球。
三つ目のストライクを取るために投げ込み、勝利を決めるという背景から、ウイニングショットとも呼ばれるボールだ。
大抵の場合、ウイニングショットはマウンドに立つピッチャーが一番自信を持っているボールで、一番アウトを取る確率が高いボールとなる。
中日ドラゴンズの抑えとして名を馳せた岩瀬や、巨人のエースとして活躍した菅野、メジャーでも活躍をしたダルビッシュに代表されるスライダー。
ヤクルトスワローズをはじめ、様々な国で活躍をした高津のシンカー。
大魔神・佐々木の投げるフォークはまず捨てろなんてことも言われていたし、ソフトバンク千賀の鋭く変化するフォークは、お化けフォークだと言われることもある。
その他にも、特殊な変化をするハマの守護神・山崎のツーシームや、川上憲伸のカットボール、山本昌のスクリュー――などなど、名投手には必ずと言っていいほど代名詞のウイニングショットが存在している。
これら大投手たちのウイニングショットは、空振りを取るためのボールだから至極当然といえば当然なのだが、変化の方向こそ違えど、〝大きく変化する〟という共通点がある。
――けど、彗のボールにはそれほどの変化はない。
あるのは、浮き上がるという感覚だけ。実際の軌道は、重力に逆らうことはできず垂れてくるというのが正しい変化だが、この垂れてくるという現象がホップ回転によって緩和されているために起きる。有効なボールだが、変化としては少なく、決め球といわれると頭を捻るようなボールだ。
――それでも、決め球に使えるボールって断言するってことは……。
うっすら答えが見えてきたところで、二番に入った真司がセカンドへのゴロを放つ。バウンドが高く、二塁は間に合わないというタイミングで一塁に転送し、アウトランナーが一つ進み、得点圏のチャンスという場面になった。
結局整理しきれないままバッターボックスに入る。
打席では切り替えなくちゃ――頭では理解できているものの、やっぱりどうしても脳裏にちらつく。
一球目、二球目ともにストレートを空振り。
三球目、ストライクからボールになる、切り込んでくるスライダーを翼は投じてきた。
大きく曲がるそのボールを辛うじて見送る。
――これがウイニングショットだよね。
ストライクからボールになる。この時ようやく彗が話した〝ギュン〟という擬音の意味を理解してクスリと笑ってから四球目に臨んだ。
四球目は高めへの吊り球。バットは出かかったがギリギリのところでヘッドが返らず、ノースイングでボール。
――今のが普通の高めだよな……。
ただの高めのストレートである今のストレートは、高めに抜けていくような印象。彗のライトボールは、途中までストライクに見えて最後にぐいっと伸びあがってくるように見える。
――あっ。
五球目にもなげこんできた高めのストレートをファールにしたところで、一星は結論にたどり着いた。
彗は、一つの結論に達し「なるほど」と呟いた。
※
三番で入っているが、彗たちの会話も気になる。
聞き耳を立てていた一星は、なるほどと呟いた彗の元に駆け寄って「どういうこと?」と質問を投げかけた。
「いや、高めのストレートが空振りを取れる理由がわかったんだよ」
「理由か。どんな?」
四回、ボールを受ける中で組み立てた仮説とすり合わせるための一言。どんな感覚で投げてくれているのかと目を輝かせていた一星だったが、そんな機体を打ち砕くように「なんかこう、ギュンッって感じなんだよ」と擬音で表現を始めた。
「ギュ、ギュン⁉」
「そう。ほら、ストレートだとギュッて感じじゃんか。慣れられたら空振り取れなくなるだろうなって思ってたんだけど、これが通用するなら安定して三振取れそうだなって」
うんうんと、一人で勝手に納得する相棒。置いてけぼりを食らった一星は「いやいやだから……もっと具体的に頼むよ」と困惑するばかり。
「具体的に?」
「抽象的過ぎてわからないってこと」
「あぁ……えっとだな。今のは〝直球〟じゃなくて〝変化球〟だったんだよ」
「変化球?」
「ほら、お前も感じてただろうけど、かなりバットとボール離れてただろ?」
思い返すと、四回のバッターは三人とも同じような空振りをしていた。
「確かに、ストレートの吊り球って反応よりも、スライダーとかフォークみたいな、大きく変化してストライクからボールになる変化球と似た反応だったね。決め球みたいな」
そこまで言うと、「そうそれ!」と彗は声を上げた。
「へ?」
「決め球だ! 高めのライトボールは〝吊り球〟じゃなくて〝決め球〟で使えるんだよ」
「ど、どういう――」
続きを問いただそうとしたところで、一星の背後で打球音が響く。
振り返ると、一番の鋼が放った打球が二遊間を襲っている瞬間だった。
抜けるか、と思うも、ショートの泰明が追いつくも、送球はできず。二打席連続ショートへの内野安打。
初回以来のヒットが生まれたことは素晴らしいが、ネクストバッターズサークルへ行かなければならないという状況になる。
タイミングの悪さを嘆きながら、一星はベンチを出た。
決め球。
三つ目のストライクを取るために投げ込み、勝利を決めるという背景から、ウイニングショットとも呼ばれるボールだ。
大抵の場合、ウイニングショットはマウンドに立つピッチャーが一番自信を持っているボールで、一番アウトを取る確率が高いボールとなる。
中日ドラゴンズの抑えとして名を馳せた岩瀬や、巨人のエースとして活躍した菅野、メジャーでも活躍をしたダルビッシュに代表されるスライダー。
ヤクルトスワローズをはじめ、様々な国で活躍をした高津のシンカー。
大魔神・佐々木の投げるフォークはまず捨てろなんてことも言われていたし、ソフトバンク千賀の鋭く変化するフォークは、お化けフォークだと言われることもある。
その他にも、特殊な変化をするハマの守護神・山崎のツーシームや、川上憲伸のカットボール、山本昌のスクリュー――などなど、名投手には必ずと言っていいほど代名詞のウイニングショットが存在している。
これら大投手たちのウイニングショットは、空振りを取るためのボールだから至極当然といえば当然なのだが、変化の方向こそ違えど、〝大きく変化する〟という共通点がある。
――けど、彗のボールにはそれほどの変化はない。
あるのは、浮き上がるという感覚だけ。実際の軌道は、重力に逆らうことはできず垂れてくるというのが正しい変化だが、この垂れてくるという現象がホップ回転によって緩和されているために起きる。有効なボールだが、変化としては少なく、決め球といわれると頭を捻るようなボールだ。
――それでも、決め球に使えるボールって断言するってことは……。
うっすら答えが見えてきたところで、二番に入った真司がセカンドへのゴロを放つ。バウンドが高く、二塁は間に合わないというタイミングで一塁に転送し、アウトランナーが一つ進み、得点圏のチャンスという場面になった。
結局整理しきれないままバッターボックスに入る。
打席では切り替えなくちゃ――頭では理解できているものの、やっぱりどうしても脳裏にちらつく。
一球目、二球目ともにストレートを空振り。
三球目、ストライクからボールになる、切り込んでくるスライダーを翼は投じてきた。
大きく曲がるそのボールを辛うじて見送る。
――これがウイニングショットだよね。
ストライクからボールになる。この時ようやく彗が話した〝ギュン〟という擬音の意味を理解してクスリと笑ってから四球目に臨んだ。
四球目は高めへの吊り球。バットは出かかったがギリギリのところでヘッドが返らず、ノースイングでボール。
――今のが普通の高めだよな……。
ただの高めのストレートである今のストレートは、高めに抜けていくような印象。彗のライトボールは、途中までストライクに見えて最後にぐいっと伸びあがってくるように見える。
――あっ。
五球目にもなげこんできた高めのストレートをファールにしたところで、一星は結論にたどり着いた。
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