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第二部
2-44「vs桜海大葉山(3)」
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――コースを見誤った? いや、そうだとしても……。
先ほどの球は途中から見切ってしまったため、改めて目を凝らして三球目を待つ。
得意げな表情でマウンドに立つ彗。生意気な一年生が多いな、と口の中で呟いてから、泰明は再びバットを構える。
じっくりと、怪物の構えを観察しながら、それを待った。
バンッ、と小気味良い音が響き、ワンテンポ遅れてストライクコール。
――これ……いや、でも……。
うっすらと応えに辿りつつある泰明は、続く四球目もバットを振ることなくボールを見送る。
結果、見逃し三振。
首を傾げながら、ベンチに帰った。
「どうだった?」
身を乗り出していた監督の綾部正治がそわそわしながら問いかけてきた。
「ストレートだけですけど、想像以上ですね」
「へぇ。どうしてそう思った?」
「やつはきれいな回転というか……ホップの回転が強くて、浮き上がるような感じですね」
軌道をジェスチャーで説明しながら話をしていると「僕みたいなってことですか」と今日の先発ピッチャーである翼が突っかかってきた。
「いや、それとも違う気がするんだよ。なんつーかな……こう、キュッとくる感じ」
アバウトな説明に苛立ちを隠せない翼は、手元のボールをギュッと強く握りしめて「もう少し具体的に」と詰め寄ってくる。
「精々自分の打席で確かめるんだな」
突っかかってくる桜海大葉山の大物ルーキー、翼を突き放すように言い放つと「次の打席が楽しみだ」と呟きながら泰明は帽子を被り、守備の準備に入る。
「……応援しないんですか? 全球待てのサインは小野先輩だけですよね?」
一歩も引かず、寧ろ突っかかってくる――気に喰わないことにはとことん向き合うタイプなんだな、と新しいチームメイトの新しい一面を知りつつ、泰明は「先輩らにゃ悪いが、どうせ三者凡退だろうからな。中盤ならともかく、序盤は応援する価値なしだね」と応えてから視線を移す。
泰明の視線の先――マウンド上では、二つ目の三振を切って取った怪物・空野彗が跳ね上がるようにして喜びの感情を爆発させていた。
「勝負は三巡目からだな」
照準を定めて泰明がマウンドを見ていると、予想通りに二人目の打者を早々に三振に打ち取っていた。
※
「取りあえずは順調だね」
彗の初回は、三者連続三振。
完璧な出だしを見せた彗はマウンドで感情を爆発させていたように一星には映ったが、ベンチでは思いの他冷静な様子で「ま、取りあえず三つだな」とだけ呟いて帽子を置いた。
「だね」
これなら気を引き締めないでもいいだろう、そんなことを確信しながら、今日は〝三番〟に座る一星は早々と防具を外してあせあせとバットを握る。
本来であれば二番バッターとして出場予定だったのだが、四番の宗次郎が指の骨折で離脱中。空席となった四番の席には榎下嵐が座ることになり、そのまま繰り上がる形で三番が一星、二番が田名部真司。そして一番が、今年初スタメンとなるライトの岡崎鋼という二年生が務めていた。
これまであまり練習で存在感は出ていなかったが、外野のポジションではライト・センター・レフトそれぞれのポジションを無難に守っていたり、バント練習の際にはほとんど同じ場所にボールが集まっていたり、打撃練習では右に左に中央にとバランスよく打ち分けていたりなど、角刈りと分厚い唇が特徴的なバランスの良い職人肌な先輩だ。
――けど、なぁ。
そんな納涼区が高い先輩だが、今マウンドに上がっている風神・八神翼を打てるかと聞かれれば、答えは〝ノー〟だ。
中学生離れした綺麗なストレートに、正確無比ともいえるコントロール。キレのいい変化球に、使い減りのしないスタミナは全て一級品。世界大会でも安定した投球をしてくれており、決勝まで導いてくれた立役者の一人でもある。
その実力は間違いなく一級品。一度ボールを受けた一星だからこそ導き出せる結論だった。
その予想通り、鋼は初球のストレートを見送ると、二球目、ワンバウンドしたボール球のカーブを空振り。
――球見えてないかも……。
とても出塁の期待が持てない先輩を見ながら、一星は一番と二番を逆にした方が良いのではという考えに苛まれていた。
普段一番に座る真司は、出塁率が高く打撃も粘り強い。気を抜いたら彗のストレートでもホームランにできる力を持っている、言うなれば〝一番対戦したくない一番打者〟だ。
日ごろ一番で出て慣れているだろうし、いつも通り一番に据えたまま出塁を期待して、二番でバントなり進塁を――などと思いながら打席を見守っていると、そんな一星の考えを嘲笑うかのように鋼は三遊間に打球を放つ。
ギリギリでショートがキャッチするも、内野安打となった。
「……すみません」
一塁で無表情のままプロテクターを外している先輩に軽く会釈すると、一星はネクストバッターズサークルに入る。
初めてのクリーンナップ。
彗が抜群の投球を見せた。
初出場の先輩も結果をもぎ取ってる。
――今度は僕の番――。
自然とバットを握る手にも力が入る。
何とか二塁まで持ってってくれれば――そんな願いを込めて真司を見つめていると、その初球。
「あっ」
真司はセーフティバントを敢行。
意表を突かれたサードが前進、ピッチャーも三塁線に転がった打球を追う。
「切れる!」
打球に近寄った翼が吠えるが、その意気虚しく打球は線の上で動きを止めた。
結果、フェア。
二者連続内野安打で、ノーアウト一、二塁。
絶好のチャンスで、チャンスが巡ってきた。
――ともかく……見せ場だ。
気持ちを確かに、一星はバッターボックスに入る。
先ほどの球は途中から見切ってしまったため、改めて目を凝らして三球目を待つ。
得意げな表情でマウンドに立つ彗。生意気な一年生が多いな、と口の中で呟いてから、泰明は再びバットを構える。
じっくりと、怪物の構えを観察しながら、それを待った。
バンッ、と小気味良い音が響き、ワンテンポ遅れてストライクコール。
――これ……いや、でも……。
うっすらと応えに辿りつつある泰明は、続く四球目もバットを振ることなくボールを見送る。
結果、見逃し三振。
首を傾げながら、ベンチに帰った。
「どうだった?」
身を乗り出していた監督の綾部正治がそわそわしながら問いかけてきた。
「ストレートだけですけど、想像以上ですね」
「へぇ。どうしてそう思った?」
「やつはきれいな回転というか……ホップの回転が強くて、浮き上がるような感じですね」
軌道をジェスチャーで説明しながら話をしていると「僕みたいなってことですか」と今日の先発ピッチャーである翼が突っかかってきた。
「いや、それとも違う気がするんだよ。なんつーかな……こう、キュッとくる感じ」
アバウトな説明に苛立ちを隠せない翼は、手元のボールをギュッと強く握りしめて「もう少し具体的に」と詰め寄ってくる。
「精々自分の打席で確かめるんだな」
突っかかってくる桜海大葉山の大物ルーキー、翼を突き放すように言い放つと「次の打席が楽しみだ」と呟きながら泰明は帽子を被り、守備の準備に入る。
「……応援しないんですか? 全球待てのサインは小野先輩だけですよね?」
一歩も引かず、寧ろ突っかかってくる――気に喰わないことにはとことん向き合うタイプなんだな、と新しいチームメイトの新しい一面を知りつつ、泰明は「先輩らにゃ悪いが、どうせ三者凡退だろうからな。中盤ならともかく、序盤は応援する価値なしだね」と応えてから視線を移す。
泰明の視線の先――マウンド上では、二つ目の三振を切って取った怪物・空野彗が跳ね上がるようにして喜びの感情を爆発させていた。
「勝負は三巡目からだな」
照準を定めて泰明がマウンドを見ていると、予想通りに二人目の打者を早々に三振に打ち取っていた。
※
「取りあえずは順調だね」
彗の初回は、三者連続三振。
完璧な出だしを見せた彗はマウンドで感情を爆発させていたように一星には映ったが、ベンチでは思いの他冷静な様子で「ま、取りあえず三つだな」とだけ呟いて帽子を置いた。
「だね」
これなら気を引き締めないでもいいだろう、そんなことを確信しながら、今日は〝三番〟に座る一星は早々と防具を外してあせあせとバットを握る。
本来であれば二番バッターとして出場予定だったのだが、四番の宗次郎が指の骨折で離脱中。空席となった四番の席には榎下嵐が座ることになり、そのまま繰り上がる形で三番が一星、二番が田名部真司。そして一番が、今年初スタメンとなるライトの岡崎鋼という二年生が務めていた。
これまであまり練習で存在感は出ていなかったが、外野のポジションではライト・センター・レフトそれぞれのポジションを無難に守っていたり、バント練習の際にはほとんど同じ場所にボールが集まっていたり、打撃練習では右に左に中央にとバランスよく打ち分けていたりなど、角刈りと分厚い唇が特徴的なバランスの良い職人肌な先輩だ。
――けど、なぁ。
そんな納涼区が高い先輩だが、今マウンドに上がっている風神・八神翼を打てるかと聞かれれば、答えは〝ノー〟だ。
中学生離れした綺麗なストレートに、正確無比ともいえるコントロール。キレのいい変化球に、使い減りのしないスタミナは全て一級品。世界大会でも安定した投球をしてくれており、決勝まで導いてくれた立役者の一人でもある。
その実力は間違いなく一級品。一度ボールを受けた一星だからこそ導き出せる結論だった。
その予想通り、鋼は初球のストレートを見送ると、二球目、ワンバウンドしたボール球のカーブを空振り。
――球見えてないかも……。
とても出塁の期待が持てない先輩を見ながら、一星は一番と二番を逆にした方が良いのではという考えに苛まれていた。
普段一番に座る真司は、出塁率が高く打撃も粘り強い。気を抜いたら彗のストレートでもホームランにできる力を持っている、言うなれば〝一番対戦したくない一番打者〟だ。
日ごろ一番で出て慣れているだろうし、いつも通り一番に据えたまま出塁を期待して、二番でバントなり進塁を――などと思いながら打席を見守っていると、そんな一星の考えを嘲笑うかのように鋼は三遊間に打球を放つ。
ギリギリでショートがキャッチするも、内野安打となった。
「……すみません」
一塁で無表情のままプロテクターを外している先輩に軽く会釈すると、一星はネクストバッターズサークルに入る。
初めてのクリーンナップ。
彗が抜群の投球を見せた。
初出場の先輩も結果をもぎ取ってる。
――今度は僕の番――。
自然とバットを握る手にも力が入る。
何とか二塁まで持ってってくれれば――そんな願いを込めて真司を見つめていると、その初球。
「あっ」
真司はセーフティバントを敢行。
意表を突かれたサードが前進、ピッチャーも三塁線に転がった打球を追う。
「切れる!」
打球に近寄った翼が吠えるが、その意気虚しく打球は線の上で動きを止めた。
結果、フェア。
二者連続内野安打で、ノーアウト一、二塁。
絶好のチャンスで、チャンスが巡ってきた。
――ともかく……見せ場だ。
気持ちを確かに、一星はバッターボックスに入る。
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