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第二部
2-40「それ、重要か?(2)」
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落ち込む一星を他所に、彗は「そんな重要なことかねぇ」とメモ帳を手に取り、ひらひらと振り回してみる。まだ乾ききっていない筆ペンの墨が、ポトリと地面に落ちた。
「重要も何も、一番男心くすぐられるじゃん! 昔やらなかった? ゲームで相棒に名前つけたりさ」
「俺、格ゲーとかしかやらねーからなー……名前変えることほとんどねぇし」
「ロマンが無いなぁ……勿体ない。人生の半分は損してるよ」
「へいへい」
一星の様子を見て、名前が決まるまで家に帰ることが許されないということを察した彗は、改めて座り直してルーズリーフと睨めっこをする。
かといって、真剣に考えればすぐに出てくるわけもなく。
つい、手元の筆ペンをペン回ししながらライジングカットの文字を眺めていると「お待たせー」と真奈美が。次いで「遅くなっちゃった」と音葉が公園にやってきた。
「お疲れさん」
一時開放だ、と彗は視線をルーズリーフから二人に移し替えると、あらかじめ買っておいたお茶を二人にふわりと投げ渡した。
「ぬわっ⁉」
二人に向けて投げ渡したつもりだったが、少し引っかかってしまい二本とも音葉の目の前へ。
流石に取れないかと思うも一瞬、自慢の反射神経を活かして音葉は両手でペットボトルをキャッチすると「危ないって!」と声を荒げた。
「わりー、手が滑った」
「全く……」
呆れながら真奈美にペットボトルを手渡すと、自転車の籠にカバンを押し込むと「改めて二人ともスタメンおめでと」と呟きながらベンチに近寄ってくる。
終えっとボトルの蓋を開けてお茶でのどを潤しながら、音葉はルーズリーフを覗き込んだ。
「やっぱし名前つけるイベントやってたんだ」
「知ってたの?」
「練習の時からブツブツ呟いてたからさぁ。何か野球の用語かなって思って、音葉に相談したんだぁ」
「で、奇妙な単語と新球習得じゃ、名前つけるのかなって話しててね」
考察が全部当たっていることに「凄い推理力……」と舌を巻く一星。
彗も感心しながら「ちょうどいいや、その知恵貸してくれ」とベンチを女子二人に譲るべく立ち上がった。
「うむ、苦しゅーない」
鼻を高くしながら座る音葉と真奈美。
「いや、助かった。俺らじゃ……いや、コイツとじゃ上手くいく気がしなくてよ」
「空野も酷いんだよ? 僕が考えてきたやつ全部却下でさ……一生懸命考えたのに」
首を垂れる一星を見る音葉と真奈美の顔がどこかかわいそうな動物を見る憐みが籠っていることに気づいた彗は「ま、これ見てくれ」と二人にメモ帳を差し出した。
「これが候補?」
「どれどれぇ?」
二人は揃って中身を見ると、数秒後に言葉を失う。
「ま、まあ……好みは人それぞれって言うし」
真奈美が絞り出した一言が止めとなったようで、一星はすっかり意気消沈。公園の砂場でいじいじと砂に気持ちを擦り付け始めた。
音葉と真奈美、そして彗の三人で考えることとなった――が、彗は相変わらず思いつかず。音葉はブツブツと呟くだけ。真奈美からは〝バルーンボール〟や〝ハッピーボール〟などと言ったちんぷんかんぷんな案が出てくるだけで平行線を辿るばかり。
気が付けば、空も暗くなってきた。
そんなタイミングで「まあ……いいんじゃないかなぁ? 決めなくても」と、案を却下され続けて心が折れた真奈美が気持ちを吐露した。
「だよなぁ」
元からそのつもりだった彗が同意。
視界の端でショックを受けている一星を尻目に、いい加減切り上げようとする二人を「そんなこともないんじゃない?」と音葉が食い止めた。
「へ?」
予想外な人物からの援護射撃に彗と音葉は目を丸くする。
「海瀬さんもこっち側だったんだ!」
急に元気を取り戻した一星がずいっと近づいてくるのを抑えつつ「なんで?」と問いかけると、音葉は少し悩んだ後「えっと……視点を変えてみたらそう思って」と呟く。
「視点を変える?」
「うん。ほら、呼び方でその人となりとか見えてこない? 例えば俺って呼び方だと少しワイルドな感じがして、僕って呼び方だと大人しそうに見えるでしょ?」
「それは人だからじゃね?」
「物でも同じだよ。凄いボールでも気の抜けた名前じゃ上から見られるかもでしょ?」
「……確かに」
「だよねだよね!」
突然振って表れた味方にすっかり回復した一星だが「でも、ただカッコいい名前を付けたらいいもんじゃないから……」と音葉の呟きに突き放され背中を丸くした。
忙しいやつだな、と呆れていると「ま、無難なのは省くとかじゃない?」と音葉はバツ印を見ながら呟いた。
「それもう試したけどさ、しっくり来ねーんだよ」
「それは片方からだけ取ってるからでよ? こういうのはどうかな?」
そう言いながら音葉は彗から筆ペンを受け取ると、さらさらと文字をつぎはぎしていく。
ライジングカット、の文字から〝ラ〟と〝イ〟、そして〝ト〟の文字をそれぞれ丸で囲って下方向に書き出し、自らが〝ボール〟と付け足した。
「名付けて〝ライトボール〟! どう?」
自信満々に彗と一星、真奈美に見せつけてくる。
一星や真奈美が考えた案よりもすっきりしていて、且つ呼びやすい。
響きも気に入った彗は「いいじゃん」と乗り気で一星を見た。
渋々、と言った苦い表情で「まあ……空野がいいんなら」と口を尖らせる。
「よし、じゃあこれで決まり!」
賛成多数で可決。これで帰れる、と意気揚々と自転車に戻りかけた彗だったが「じゃあ、最後の議題だね」と真奈美が発した一言で硬直した。
「……まだなんかあんの?」
「重要も何も、一番男心くすぐられるじゃん! 昔やらなかった? ゲームで相棒に名前つけたりさ」
「俺、格ゲーとかしかやらねーからなー……名前変えることほとんどねぇし」
「ロマンが無いなぁ……勿体ない。人生の半分は損してるよ」
「へいへい」
一星の様子を見て、名前が決まるまで家に帰ることが許されないということを察した彗は、改めて座り直してルーズリーフと睨めっこをする。
かといって、真剣に考えればすぐに出てくるわけもなく。
つい、手元の筆ペンをペン回ししながらライジングカットの文字を眺めていると「お待たせー」と真奈美が。次いで「遅くなっちゃった」と音葉が公園にやってきた。
「お疲れさん」
一時開放だ、と彗は視線をルーズリーフから二人に移し替えると、あらかじめ買っておいたお茶を二人にふわりと投げ渡した。
「ぬわっ⁉」
二人に向けて投げ渡したつもりだったが、少し引っかかってしまい二本とも音葉の目の前へ。
流石に取れないかと思うも一瞬、自慢の反射神経を活かして音葉は両手でペットボトルをキャッチすると「危ないって!」と声を荒げた。
「わりー、手が滑った」
「全く……」
呆れながら真奈美にペットボトルを手渡すと、自転車の籠にカバンを押し込むと「改めて二人ともスタメンおめでと」と呟きながらベンチに近寄ってくる。
終えっとボトルの蓋を開けてお茶でのどを潤しながら、音葉はルーズリーフを覗き込んだ。
「やっぱし名前つけるイベントやってたんだ」
「知ってたの?」
「練習の時からブツブツ呟いてたからさぁ。何か野球の用語かなって思って、音葉に相談したんだぁ」
「で、奇妙な単語と新球習得じゃ、名前つけるのかなって話しててね」
考察が全部当たっていることに「凄い推理力……」と舌を巻く一星。
彗も感心しながら「ちょうどいいや、その知恵貸してくれ」とベンチを女子二人に譲るべく立ち上がった。
「うむ、苦しゅーない」
鼻を高くしながら座る音葉と真奈美。
「いや、助かった。俺らじゃ……いや、コイツとじゃ上手くいく気がしなくてよ」
「空野も酷いんだよ? 僕が考えてきたやつ全部却下でさ……一生懸命考えたのに」
首を垂れる一星を見る音葉と真奈美の顔がどこかかわいそうな動物を見る憐みが籠っていることに気づいた彗は「ま、これ見てくれ」と二人にメモ帳を差し出した。
「これが候補?」
「どれどれぇ?」
二人は揃って中身を見ると、数秒後に言葉を失う。
「ま、まあ……好みは人それぞれって言うし」
真奈美が絞り出した一言が止めとなったようで、一星はすっかり意気消沈。公園の砂場でいじいじと砂に気持ちを擦り付け始めた。
音葉と真奈美、そして彗の三人で考えることとなった――が、彗は相変わらず思いつかず。音葉はブツブツと呟くだけ。真奈美からは〝バルーンボール〟や〝ハッピーボール〟などと言ったちんぷんかんぷんな案が出てくるだけで平行線を辿るばかり。
気が付けば、空も暗くなってきた。
そんなタイミングで「まあ……いいんじゃないかなぁ? 決めなくても」と、案を却下され続けて心が折れた真奈美が気持ちを吐露した。
「だよなぁ」
元からそのつもりだった彗が同意。
視界の端でショックを受けている一星を尻目に、いい加減切り上げようとする二人を「そんなこともないんじゃない?」と音葉が食い止めた。
「へ?」
予想外な人物からの援護射撃に彗と音葉は目を丸くする。
「海瀬さんもこっち側だったんだ!」
急に元気を取り戻した一星がずいっと近づいてくるのを抑えつつ「なんで?」と問いかけると、音葉は少し悩んだ後「えっと……視点を変えてみたらそう思って」と呟く。
「視点を変える?」
「うん。ほら、呼び方でその人となりとか見えてこない? 例えば俺って呼び方だと少しワイルドな感じがして、僕って呼び方だと大人しそうに見えるでしょ?」
「それは人だからじゃね?」
「物でも同じだよ。凄いボールでも気の抜けた名前じゃ上から見られるかもでしょ?」
「……確かに」
「だよねだよね!」
突然振って表れた味方にすっかり回復した一星だが「でも、ただカッコいい名前を付けたらいいもんじゃないから……」と音葉の呟きに突き放され背中を丸くした。
忙しいやつだな、と呆れていると「ま、無難なのは省くとかじゃない?」と音葉はバツ印を見ながら呟いた。
「それもう試したけどさ、しっくり来ねーんだよ」
「それは片方からだけ取ってるからでよ? こういうのはどうかな?」
そう言いながら音葉は彗から筆ペンを受け取ると、さらさらと文字をつぎはぎしていく。
ライジングカット、の文字から〝ラ〟と〝イ〟、そして〝ト〟の文字をそれぞれ丸で囲って下方向に書き出し、自らが〝ボール〟と付け足した。
「名付けて〝ライトボール〟! どう?」
自信満々に彗と一星、真奈美に見せつけてくる。
一星や真奈美が考えた案よりもすっきりしていて、且つ呼びやすい。
響きも気に入った彗は「いいじゃん」と乗り気で一星を見た。
渋々、と言った苦い表情で「まあ……空野がいいんなら」と口を尖らせる。
「よし、じゃあこれで決まり!」
賛成多数で可決。これで帰れる、と意気揚々と自転車に戻りかけた彗だったが「じゃあ、最後の議題だね」と真奈美が発した一言で硬直した。
「……まだなんかあんの?」
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