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第二部
2-33「敵に塩を貰いに行く(2)」
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一星は「ただのことわざだよ」と呟きながら食後のティータイムに勤しみつつ、先ほど自分が呟いたことわざの意味を噛み締めながら「……ま、僕が言えた義理じゃないか」と眉をひそめた。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥――この言葉は取り分け、前進するために一歩を踏み出すことが重要と言うことわざだ。つい先日まで、野球から目を背けて停滞するばかりの毎日を送っていた自分自身には、突き刺さる内容だった。
一人勝手に落ち込む一星を他所に、雄介は「しかし、どうしたもんかね」と首の後ろで両手を組み、大きく口を開けて欠伸を浮かべる。
「こう……連絡手段がないとなぁ」
「SNSとかやってたりしないか?」
「もう調べたけど、それっぽいのはなかった。八方塞がりだよ」
すっかり諦めムードの一星は口を尖らせる。つい手持無沙汰になり、一星は手元のコップに入っているウーロン茶をワインに見立ててくるくると回してみた。
ワインのように風味が立つわけでもなく、名探偵のように解決策がポンと湧いてくるわけでもなく。
ただただ、時間だけが過ぎていく――はずだったが、何かを思い出したように雄介が「あ」と呟いて静寂が打ち破られた。
「ん? どうしたの?」
「いや、思い出したんだけどよ。今日のアップの時間さ、お前が暴君の話題を出したろ? その流れで、春日部共平の生徒と帰りの電車が同じだったって話してた先輩がいたんだよ」
「へー」
「で、どうも野球部だったらしくてさ。嫌なこと思い出したって話しててよ……野球部ならそいつと接触して連絡先聞くこととかできるんじゃね?」
頭の中で光が輝いたかのような表情を見せる雄介にほくそ笑みながら一星は「それいいね」と指をパチンと鳴らした。
「だろ? 同じ野球部だったら連絡先も知ってるだろうし」
「いいね、その作戦で行こう!」
ようやく突破口が見えた。目指す先がはっきりしているのとモヤモヤしたまま藻掻くのとでは雲泥の差だ。一筋の光を見失わないように「で、誰がその話をしてたの?」と一星は話を進める――が、しかし。
「いや、誰が話してたのかは知らん」と語る雄介のせいで暗礁に乗り上げる。
「え、なんで? 話したんじゃないの?」
「俺が直接話したわけじゃねぇし、遠巻きに話を聞いてただけだからよ」
「そんなぁ……」と落胆しながらも、早速消えかかっている光を失わないように、一星は「推理して考えて見よう」と居直った。
「推理って言ってもよ」
「嫌なことを思い出したって話だよね?」
「あぁ。そのはず」
「となると、この間の試合でいい結果が出せなかった人とか、不幸なことがあった人かな」と言いながら、一星はざっと記憶を呼び起こしてみる。
どの先輩もヒットは放っているし、守備でいいプレーもあったため、これと言ってブレーキになったという先輩はいなかったはず。
この線じゃないな、と方向転換してみて、不幸なことがあった人に区切ってみると、真っ先に思いついたのは、骨折をして途中交代する羽目となった宗次郎だが、現在も治療中でありとても冗談を言えるような状態ではない。
該当者なしと言う結論に行きつくと、雄介も全く同じタイミングでその結論に辿り着いたのか、渋い顔をして「いねぇな」と呟いた。
「そもそもさ、思い出って言うくらいだから、この間の試合じゃないとかじゃない? ほら、去年先輩たち……負けたって話してたし」
「あぁ、その線もあるな。どれどれ……」
雄介は携帯を弄り、昨年の埼玉県秋季大会結果というページにアクセスした。ページには、試合結果の詳細が記載されているはず。
「……なるほど」と一人納得した雄介は、「こりゃ嫌な記憶にもなるわ」と一星にページを見せつけた。
試合は、11対0でサヨナラコールド負け。
その内、先発だった戸口新太の失点が三。四回から登板した上杉秀平の失点が八となっていた。
「……上杉先輩かもね」
「だな。どうする? その線で行ってみるか?」
「うん、そうだね」
一星が同意すると、雄介は「うし、そんじゃ取りあえずアイツにも伝えとくか」と意気揚々に、彗へメッセージを飛ばした。
※
「気を付けろよ」
携帯電話をキャッチしてくれたのは、一個上の先輩である秀平だった。
「すみません、助かりました」
彗は自分の携帯が無事だったことへの喜びが半分、放課後の練習終わりで誰も部員がいない中、よく思われていない先輩と二人っきりであるという緊張感半分な状態で恐る恐る携帯を受け取った。
「遅いな。自主練でもしてたか?」
「いえ、ちょっとコーチに聞きたいことあって」
「なるほどな」
冷たさで言えば翼と似た感じだな、と心の中で感じながら彗は「誰がこんなタイミングで……」と文句を零しながらメッセージを開いてみた。
差出人は、雄介。どうせ明日提出の課題見せてくれとかそんなことだろうな、と呆れながらメッセージを開いてやると、〝上杉先輩に話を聞け〟と雑な内容が顔を表した。
何をだよ、と返す間もなく雄介は〝帰りの電車で春日部共平の選手と同じ車両だったんだってよ〟と続けてくる。
帰り際、雄介と一星が揃って校門を出ていったのを思い出した彗は、恐らく一星が暴君にアドバイスを請おうという話をしたんだろうなと察し、〝ちょうどいいから聞いてみるわ〟とメッセージを返した。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥――この言葉は取り分け、前進するために一歩を踏み出すことが重要と言うことわざだ。つい先日まで、野球から目を背けて停滞するばかりの毎日を送っていた自分自身には、突き刺さる内容だった。
一人勝手に落ち込む一星を他所に、雄介は「しかし、どうしたもんかね」と首の後ろで両手を組み、大きく口を開けて欠伸を浮かべる。
「こう……連絡手段がないとなぁ」
「SNSとかやってたりしないか?」
「もう調べたけど、それっぽいのはなかった。八方塞がりだよ」
すっかり諦めムードの一星は口を尖らせる。つい手持無沙汰になり、一星は手元のコップに入っているウーロン茶をワインに見立ててくるくると回してみた。
ワインのように風味が立つわけでもなく、名探偵のように解決策がポンと湧いてくるわけでもなく。
ただただ、時間だけが過ぎていく――はずだったが、何かを思い出したように雄介が「あ」と呟いて静寂が打ち破られた。
「ん? どうしたの?」
「いや、思い出したんだけどよ。今日のアップの時間さ、お前が暴君の話題を出したろ? その流れで、春日部共平の生徒と帰りの電車が同じだったって話してた先輩がいたんだよ」
「へー」
「で、どうも野球部だったらしくてさ。嫌なこと思い出したって話しててよ……野球部ならそいつと接触して連絡先聞くこととかできるんじゃね?」
頭の中で光が輝いたかのような表情を見せる雄介にほくそ笑みながら一星は「それいいね」と指をパチンと鳴らした。
「だろ? 同じ野球部だったら連絡先も知ってるだろうし」
「いいね、その作戦で行こう!」
ようやく突破口が見えた。目指す先がはっきりしているのとモヤモヤしたまま藻掻くのとでは雲泥の差だ。一筋の光を見失わないように「で、誰がその話をしてたの?」と一星は話を進める――が、しかし。
「いや、誰が話してたのかは知らん」と語る雄介のせいで暗礁に乗り上げる。
「え、なんで? 話したんじゃないの?」
「俺が直接話したわけじゃねぇし、遠巻きに話を聞いてただけだからよ」
「そんなぁ……」と落胆しながらも、早速消えかかっている光を失わないように、一星は「推理して考えて見よう」と居直った。
「推理って言ってもよ」
「嫌なことを思い出したって話だよね?」
「あぁ。そのはず」
「となると、この間の試合でいい結果が出せなかった人とか、不幸なことがあった人かな」と言いながら、一星はざっと記憶を呼び起こしてみる。
どの先輩もヒットは放っているし、守備でいいプレーもあったため、これと言ってブレーキになったという先輩はいなかったはず。
この線じゃないな、と方向転換してみて、不幸なことがあった人に区切ってみると、真っ先に思いついたのは、骨折をして途中交代する羽目となった宗次郎だが、現在も治療中でありとても冗談を言えるような状態ではない。
該当者なしと言う結論に行きつくと、雄介も全く同じタイミングでその結論に辿り着いたのか、渋い顔をして「いねぇな」と呟いた。
「そもそもさ、思い出って言うくらいだから、この間の試合じゃないとかじゃない? ほら、去年先輩たち……負けたって話してたし」
「あぁ、その線もあるな。どれどれ……」
雄介は携帯を弄り、昨年の埼玉県秋季大会結果というページにアクセスした。ページには、試合結果の詳細が記載されているはず。
「……なるほど」と一人納得した雄介は、「こりゃ嫌な記憶にもなるわ」と一星にページを見せつけた。
試合は、11対0でサヨナラコールド負け。
その内、先発だった戸口新太の失点が三。四回から登板した上杉秀平の失点が八となっていた。
「……上杉先輩かもね」
「だな。どうする? その線で行ってみるか?」
「うん、そうだね」
一星が同意すると、雄介は「うし、そんじゃ取りあえずアイツにも伝えとくか」と意気揚々に、彗へメッセージを飛ばした。
※
「気を付けろよ」
携帯電話をキャッチしてくれたのは、一個上の先輩である秀平だった。
「すみません、助かりました」
彗は自分の携帯が無事だったことへの喜びが半分、放課後の練習終わりで誰も部員がいない中、よく思われていない先輩と二人っきりであるという緊張感半分な状態で恐る恐る携帯を受け取った。
「遅いな。自主練でもしてたか?」
「いえ、ちょっとコーチに聞きたいことあって」
「なるほどな」
冷たさで言えば翼と似た感じだな、と心の中で感じながら彗は「誰がこんなタイミングで……」と文句を零しながらメッセージを開いてみた。
差出人は、雄介。どうせ明日提出の課題見せてくれとかそんなことだろうな、と呆れながらメッセージを開いてやると、〝上杉先輩に話を聞け〟と雑な内容が顔を表した。
何をだよ、と返す間もなく雄介は〝帰りの電車で春日部共平の選手と同じ車両だったんだってよ〟と続けてくる。
帰り際、雄介と一星が揃って校門を出ていったのを思い出した彗は、恐らく一星が暴君にアドバイスを請おうという話をしたんだろうなと察し、〝ちょうどいいから聞いてみるわ〟とメッセージを返した。
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