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第二部
2-11「バックネット裏にて。(4)」
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「成り行き?」
「うん。あんだけ僕たちに関わってたら引くに引けなかったんじゃないかなって」
一星が〝マネージャーの仕事は野球の練習とは別の辛さがある〟ということに気づいたのは、ほんの数日前のこと。野球部に入って練習をする中で、早朝の練習時や毎日の練習後の片づけなどなど。とても、楽しいとは言えない時間が続いているはず。
そんな辛い毎日に引きずり込んでしまったという思いが募っての不安だったが「そんなことないよ!」と真奈美は手を大げさに振って否定した。
「寧ろ、毎日楽しい……かなぁ」
真奈美の意外な返答に「えっ、そうなの?」と一星は目を丸くする。
「うん。新しいことしてるって言うのもそうだけど、毎日考えながらやるのが楽しいんだぁ。〝次はこうしてみよう〟とか、観察して〝あ、今ケガした?〟とか。あと……この間の試合みたいに、みんなが活躍してるとこ見るの、凄い面白かったんだ」
「この間の試合って、春季大会?」
「そうそう! なんて言えばいいのかなぁ……コンサートに行ったみたいな感じかも」
「コンサート……?」
独特な表現に取りあえず「そ、そっか」と答えてから一星は「野球のことも好きになった?」と問いかける。
「うん。だんだんと、って感じだけどね。ルールも覚え始めたくらいだし」
「そっか。じゃ、今日の試合見ながら問題とか出してあげるよ」
「えぇ……い、いやぁ、止めとこうよ」
「間違っても罰ゲームとか無いしさ、まあ簡単なクイズだと思ってさ」
「……もっと気楽に見たかったなぁ」
突然の一星が出した提案に渋々ながら了承すると、真奈美は眼下にいる音葉と彗のペアを見ながら「ま、あの二人と隣にならなかっただけまだマシかぁ」と呟いた。
一星も真奈美の視線に沿うようにして、二人を見た。二人は早速ユニフォームに着替えており、戦闘態勢の状態で何やら口論を重ねている。離れているため内容はわからないが、議論は白熱しているらしい。
「……あの二人の隣だったら、マシンガンみたいに問題が飛んで来ただろうね」
真奈美と共に危機を回避したことを喜んでいると、球場アナウンスが響く。
『本日、先発が予定されています、両チームのラインナップ、並びに、審判と公式記録員をお知らせいたします。初めに、先行の阪神タイガース――』
※
今日の試合でスタメンで出る阪神の選手が紹介されると、レフトスタンドから歓声が沸いた。応援団がトランペットやバスドラム、笛などで追随し、熱をさらに煽る。
最高潮に達したタイミングで、場内アナウンスが再び流れた。
『変わりまして、本日の読売ジャイアンツのスターティングラインナップを発表いたします』
アナウンスを皮切りに、主力選手たちをメインに据えて作られたオープニング映像がバックスクリーンに映し出された。CGをふんだんに使用し、今にでも飛び出してきそうな迫力のある映像を眺めながら音葉は「決着の時だね」と鼻息を荒くしていた。
奇しくも、同じ高校で同じ球団ファン。最初は話が合っていた。しかし、今日のスターティングメンバーが誰になるかという話し合いから口論に発展。ベテランの活躍が見たい音葉と、若手中心の組み立てが見たい彗とで真っ二つに意見が割れた形だった。
「約束忘れてねーだろうな」
「もちろん。負けた方がコーラ奢りでしょ」
熱くメラメラと闘志を燃やす二人を他所に、スターティングメンバーが発表され始める。
一番から六番までは音葉と彗は同じ予想をしており、発表された選手も全く同じ。
ここから、若手かベテランか――固唾を飲んで見守っていると、ようやく七番の選手が発表される。
『七番。ライト、古岡将輝』
呼ばれたのは、去年ドラフト一位で指名された高卒一年目の若手有望株だった。
「よっしゃー!」と彗はガッツポーズを見せ「そっちかぁ……」と音葉は肩を落とす。
これでコーラは俺のもんだ、と彗が勝利宣言をしようとしたところで『八番。キャッチャー、小塚卓也』とアナウンスが続いた。
今度呼ばれたのはベテラン選手。彗が肩を落とし、音葉がガッツポーズをする真逆の展開となった。
「一勝一敗かぁ」
「あー……コーラ損した」
「お互い見る目が合ったってことでヨシとしよう」
「しかし、まさか小塚で来るとはねぇ」
「いやいや、このピッチャーをリードできるのはこの人しかいないでしょ」
鼻息荒く見守る音葉。その視線の先から出てきたのは、今日の先発が予定されているピッチャーだ。
特徴的なふわふわとした髪をなびかせながら、その選手はグラウンドに向かう。
その登場に少し遅れたのか、あるいは溜めたのかは定かでないが、ほんの少しの間が球場内に緊張感をもたらしていた。
若干遅れて、ようやくアナウンスが響く。
『九番。ピッチャー、アーサー・ウィルソン』
待ち望んだ〝怪物〟の出現に、ファンの声が沸き起こる。
爆発でもしたかのような歓声。
先ほどと同じように、ライトでは巨人の応援団が楽器を奏でているはずだが、聞こえないほどに歓声で溢れ返っていた。
試合開始前なのにもかかわらず、東京ドームが揺れている。何回も東京ドームに訪れている二人だが、東京ドームが揺れていると感じるほどの歓声はこれまで経験したことはなく。彗と音葉はただ、圧倒されるばかりだった。
「うん。あんだけ僕たちに関わってたら引くに引けなかったんじゃないかなって」
一星が〝マネージャーの仕事は野球の練習とは別の辛さがある〟ということに気づいたのは、ほんの数日前のこと。野球部に入って練習をする中で、早朝の練習時や毎日の練習後の片づけなどなど。とても、楽しいとは言えない時間が続いているはず。
そんな辛い毎日に引きずり込んでしまったという思いが募っての不安だったが「そんなことないよ!」と真奈美は手を大げさに振って否定した。
「寧ろ、毎日楽しい……かなぁ」
真奈美の意外な返答に「えっ、そうなの?」と一星は目を丸くする。
「うん。新しいことしてるって言うのもそうだけど、毎日考えながらやるのが楽しいんだぁ。〝次はこうしてみよう〟とか、観察して〝あ、今ケガした?〟とか。あと……この間の試合みたいに、みんなが活躍してるとこ見るの、凄い面白かったんだ」
「この間の試合って、春季大会?」
「そうそう! なんて言えばいいのかなぁ……コンサートに行ったみたいな感じかも」
「コンサート……?」
独特な表現に取りあえず「そ、そっか」と答えてから一星は「野球のことも好きになった?」と問いかける。
「うん。だんだんと、って感じだけどね。ルールも覚え始めたくらいだし」
「そっか。じゃ、今日の試合見ながら問題とか出してあげるよ」
「えぇ……い、いやぁ、止めとこうよ」
「間違っても罰ゲームとか無いしさ、まあ簡単なクイズだと思ってさ」
「……もっと気楽に見たかったなぁ」
突然の一星が出した提案に渋々ながら了承すると、真奈美は眼下にいる音葉と彗のペアを見ながら「ま、あの二人と隣にならなかっただけまだマシかぁ」と呟いた。
一星も真奈美の視線に沿うようにして、二人を見た。二人は早速ユニフォームに着替えており、戦闘態勢の状態で何やら口論を重ねている。離れているため内容はわからないが、議論は白熱しているらしい。
「……あの二人の隣だったら、マシンガンみたいに問題が飛んで来ただろうね」
真奈美と共に危機を回避したことを喜んでいると、球場アナウンスが響く。
『本日、先発が予定されています、両チームのラインナップ、並びに、審判と公式記録員をお知らせいたします。初めに、先行の阪神タイガース――』
※
今日の試合でスタメンで出る阪神の選手が紹介されると、レフトスタンドから歓声が沸いた。応援団がトランペットやバスドラム、笛などで追随し、熱をさらに煽る。
最高潮に達したタイミングで、場内アナウンスが再び流れた。
『変わりまして、本日の読売ジャイアンツのスターティングラインナップを発表いたします』
アナウンスを皮切りに、主力選手たちをメインに据えて作られたオープニング映像がバックスクリーンに映し出された。CGをふんだんに使用し、今にでも飛び出してきそうな迫力のある映像を眺めながら音葉は「決着の時だね」と鼻息を荒くしていた。
奇しくも、同じ高校で同じ球団ファン。最初は話が合っていた。しかし、今日のスターティングメンバーが誰になるかという話し合いから口論に発展。ベテランの活躍が見たい音葉と、若手中心の組み立てが見たい彗とで真っ二つに意見が割れた形だった。
「約束忘れてねーだろうな」
「もちろん。負けた方がコーラ奢りでしょ」
熱くメラメラと闘志を燃やす二人を他所に、スターティングメンバーが発表され始める。
一番から六番までは音葉と彗は同じ予想をしており、発表された選手も全く同じ。
ここから、若手かベテランか――固唾を飲んで見守っていると、ようやく七番の選手が発表される。
『七番。ライト、古岡将輝』
呼ばれたのは、去年ドラフト一位で指名された高卒一年目の若手有望株だった。
「よっしゃー!」と彗はガッツポーズを見せ「そっちかぁ……」と音葉は肩を落とす。
これでコーラは俺のもんだ、と彗が勝利宣言をしようとしたところで『八番。キャッチャー、小塚卓也』とアナウンスが続いた。
今度呼ばれたのはベテラン選手。彗が肩を落とし、音葉がガッツポーズをする真逆の展開となった。
「一勝一敗かぁ」
「あー……コーラ損した」
「お互い見る目が合ったってことでヨシとしよう」
「しかし、まさか小塚で来るとはねぇ」
「いやいや、このピッチャーをリードできるのはこの人しかいないでしょ」
鼻息荒く見守る音葉。その視線の先から出てきたのは、今日の先発が予定されているピッチャーだ。
特徴的なふわふわとした髪をなびかせながら、その選手はグラウンドに向かう。
その登場に少し遅れたのか、あるいは溜めたのかは定かでないが、ほんの少しの間が球場内に緊張感をもたらしていた。
若干遅れて、ようやくアナウンスが響く。
『九番。ピッチャー、アーサー・ウィルソン』
待ち望んだ〝怪物〟の出現に、ファンの声が沸き起こる。
爆発でもしたかのような歓声。
先ほどと同じように、ライトでは巨人の応援団が楽器を奏でているはずだが、聞こえないほどに歓声で溢れ返っていた。
試合開始前なのにもかかわらず、東京ドームが揺れている。何回も東京ドームに訪れている二人だが、東京ドームが揺れていると感じるほどの歓声はこれまで経験したことはなく。彗と音葉はただ、圧倒されるばかりだった。
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