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第一部
1-66「vs春日部共平(11)」
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「心強いって言っても気を抜くなよ。下位打線から始まるんだから、なるべくアウト稼いで交代だ」
「へいへい、わかってますよ」
マウンド上で宗次郎と会話を交わしてから、試合が再開される。
先ほどのマウンド整備で、若干体力が回復したな、と体の軽さを感じながら新太はバッターボックスに入ろうとする八番バッターを見た。
しっかりとしたガタイに、鋭い振り。他の高校なら……というより、もし彩星にいたら間違いなくクリーンナップだろう。その証拠に、今日もヒットを一本とフォアボールを一つ出してしまっている。
油断は引き続きできない。
深く息を吐き出してから、ピッチングに専念する。
相手は右打者。
慎重に、と、初球はアウトローにストレートを投げ空振りを奪い、ストライク。
二球目、真ん中付近低めから逃げるようにして落ちるフォークを見逃され、ボール。
三球目、ボールゾーンからストライクゾーンギリギリに入ってくるアウトコースへのカーブで、見逃しストライク。
四球目、今度はまたインコースに、ボールになるスライダーを投げるも見逃されてボール。
五球目、アウトコースにツーシームを決め球として投げ込むも、ボール。
コースもストライクゾーンだけではなくボールゾーンまで利用し、変化球も使えるものは全て総動員してのピッチングで、フルカウントまで持ってきた。
――今日はこんなんばっかだ。
ほぼ毎回のようにフルカウントになった結果、球数は次の投球で一〇〇になる。いくら体力を強化したとはいっても、流石にキツイな――滴る汗を気にもせず、宗次郎の要求するカーブをインコースに投げ込んだ。
何とか空振り三振。よしっ、とガッツポーズをしてみるも、力がこもっていない情けないガッツポーズになっていた。
続いての九番は左打者。
――あーもう……やりにくい。
彩星高校と同じように左右が交互に並んでいる打線に、新太は苛立ちを覚えていた。
特に気にしないという人もいるようだが、右打席の選手と左打席の選手とでは攻め方が違ってくる。特に、新太のようなコントロールを売りにしている選手は、打者ひとり毎に目指す的が変わってくるため、余計に神経をすり減らされる。
去年から率いている真田監督が、就任した瞬間から提唱していたジグザグ打線。効果何てねーよなんて考えていた自分を説教してやりたいな、と当時のことを思い出しながら、二人目のバッターにも全部の球種を使いながら攻め立てた。
ボール、ストライク、ボール――やはりともいうべきだろうか。しっかりと見極められ、この打者にもフルカウント。
「いい加減、すんなり終わってくれ!」
情けない願いを込めながら投げたツーシーム。インコースに投げ込んだその球は、抉るようにして左打者のインコースに食い込む。
バットの根元に当たって、ぼてぼての内野ゴロ。セカンドの文哉が華麗に捌いてツーアウトまで漕ぎつけた。
「さ、ここからだ」
いくら協力とはいっても、下位打線は下位打線。ここから刃物は違うぞ、と気合を入れ直してから宗次郎のサインを待った。
――ずいぶん強気だなぁ……。
初球からインコースのストレート。これまでとは違う配球をしようという意図なのだろう。
リードは全部宗次郎任せな新太は「わかったよ」とグローブの中で囁くと、控えめに振りかぶった。
――これで仰け反っておけ!
インコースの厳しいボールゾーンに飛び込むストレート。ここなら打たれないだろう――数少ない右が続くこの打順。目線もズレない。
自信を持ってストレートを投げ込んだ。
抜群のコース。
しかし、そんなストレートを簡単にレフト前へはじき返してきた。
「かーっ、今の打たれるか……」
練習試合の時の彗だな、なんてことを考えながら次の左打者を見る。
これまた打ちそうな、ごつい体格の左打者。ホントに同学年かよ、と思いながら投げ込む。
アウトコースへのスライダー。これも完璧なコースに決まったはずだったが、まるで来ることが分かっていたかのように踏み込まれ、レフト前にヒットを打たれた。
これが、球が遅い新太の限界。
初見ではなかなか打ちにくい遅いストレートに、多種多様な変化球。最初は戸惑い打ちあぐねるが、目が慣れてしまえばただの遅いボール。近所のバッティングセンターと同レベルの球速しか出せないとなれば、滅多打ちは必至。
「ピッチャー交代!」
だから、この交代も想定内。
そう、想定内――。
交代を告げられて、ブルペンから走ってくる彗。
――羨ましいよ、お前が。
どうしたって、遅い球しか投げられない自分では限界がある。
プロという道も、大学で野球を続けるという道もほとんどあり得ない。
一方で、彗のように速いボールを投げられるというのは、それだけで才能だ。
敵のエース、兵頭風雅にしかり、怪物一年生、空野彗にしかり。彼らは、その先の景色も見ることができる。
――羨ましいよ。
未来ある年下の二人を思いながら、新太はまた一試合投げ切れなかったという現実と、自分の限界を痛感し、ボールをギュッと握りしめて悔しさを噛み締めた。
「へいへい、わかってますよ」
マウンド上で宗次郎と会話を交わしてから、試合が再開される。
先ほどのマウンド整備で、若干体力が回復したな、と体の軽さを感じながら新太はバッターボックスに入ろうとする八番バッターを見た。
しっかりとしたガタイに、鋭い振り。他の高校なら……というより、もし彩星にいたら間違いなくクリーンナップだろう。その証拠に、今日もヒットを一本とフォアボールを一つ出してしまっている。
油断は引き続きできない。
深く息を吐き出してから、ピッチングに専念する。
相手は右打者。
慎重に、と、初球はアウトローにストレートを投げ空振りを奪い、ストライク。
二球目、真ん中付近低めから逃げるようにして落ちるフォークを見逃され、ボール。
三球目、ボールゾーンからストライクゾーンギリギリに入ってくるアウトコースへのカーブで、見逃しストライク。
四球目、今度はまたインコースに、ボールになるスライダーを投げるも見逃されてボール。
五球目、アウトコースにツーシームを決め球として投げ込むも、ボール。
コースもストライクゾーンだけではなくボールゾーンまで利用し、変化球も使えるものは全て総動員してのピッチングで、フルカウントまで持ってきた。
――今日はこんなんばっかだ。
ほぼ毎回のようにフルカウントになった結果、球数は次の投球で一〇〇になる。いくら体力を強化したとはいっても、流石にキツイな――滴る汗を気にもせず、宗次郎の要求するカーブをインコースに投げ込んだ。
何とか空振り三振。よしっ、とガッツポーズをしてみるも、力がこもっていない情けないガッツポーズになっていた。
続いての九番は左打者。
――あーもう……やりにくい。
彩星高校と同じように左右が交互に並んでいる打線に、新太は苛立ちを覚えていた。
特に気にしないという人もいるようだが、右打席の選手と左打席の選手とでは攻め方が違ってくる。特に、新太のようなコントロールを売りにしている選手は、打者ひとり毎に目指す的が変わってくるため、余計に神経をすり減らされる。
去年から率いている真田監督が、就任した瞬間から提唱していたジグザグ打線。効果何てねーよなんて考えていた自分を説教してやりたいな、と当時のことを思い出しながら、二人目のバッターにも全部の球種を使いながら攻め立てた。
ボール、ストライク、ボール――やはりともいうべきだろうか。しっかりと見極められ、この打者にもフルカウント。
「いい加減、すんなり終わってくれ!」
情けない願いを込めながら投げたツーシーム。インコースに投げ込んだその球は、抉るようにして左打者のインコースに食い込む。
バットの根元に当たって、ぼてぼての内野ゴロ。セカンドの文哉が華麗に捌いてツーアウトまで漕ぎつけた。
「さ、ここからだ」
いくら協力とはいっても、下位打線は下位打線。ここから刃物は違うぞ、と気合を入れ直してから宗次郎のサインを待った。
――ずいぶん強気だなぁ……。
初球からインコースのストレート。これまでとは違う配球をしようという意図なのだろう。
リードは全部宗次郎任せな新太は「わかったよ」とグローブの中で囁くと、控えめに振りかぶった。
――これで仰け反っておけ!
インコースの厳しいボールゾーンに飛び込むストレート。ここなら打たれないだろう――数少ない右が続くこの打順。目線もズレない。
自信を持ってストレートを投げ込んだ。
抜群のコース。
しかし、そんなストレートを簡単にレフト前へはじき返してきた。
「かーっ、今の打たれるか……」
練習試合の時の彗だな、なんてことを考えながら次の左打者を見る。
これまた打ちそうな、ごつい体格の左打者。ホントに同学年かよ、と思いながら投げ込む。
アウトコースへのスライダー。これも完璧なコースに決まったはずだったが、まるで来ることが分かっていたかのように踏み込まれ、レフト前にヒットを打たれた。
これが、球が遅い新太の限界。
初見ではなかなか打ちにくい遅いストレートに、多種多様な変化球。最初は戸惑い打ちあぐねるが、目が慣れてしまえばただの遅いボール。近所のバッティングセンターと同レベルの球速しか出せないとなれば、滅多打ちは必至。
「ピッチャー交代!」
だから、この交代も想定内。
そう、想定内――。
交代を告げられて、ブルペンから走ってくる彗。
――羨ましいよ、お前が。
どうしたって、遅い球しか投げられない自分では限界がある。
プロという道も、大学で野球を続けるという道もほとんどあり得ない。
一方で、彗のように速いボールを投げられるというのは、それだけで才能だ。
敵のエース、兵頭風雅にしかり、怪物一年生、空野彗にしかり。彼らは、その先の景色も見ることができる。
――羨ましいよ。
未来ある年下の二人を思いながら、新太はまた一試合投げ切れなかったという現実と、自分の限界を痛感し、ボールをギュッと握りしめて悔しさを噛み締めた。
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