彗星と遭う

皆川大輔

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第一部

1-60「vs春日部共平(5)」

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「頼むぜキャプテン!」

 新太の声援を受けて宗次郎は、微かに頷いてからバッターボックスに入った。

「……去年の対戦成績はどうだったんですか?」

「宗次郎は四打数ノーヒット」と凛が苦虫を噛み潰したような表情で言うと「けちょんけちょんにされたなぁ」と新太が呟く。

「苦手なんすね……」

「宗次郎は配球読むタイプだからね。適度に荒れるあーいうタイプは苦手なんだよ」

 新太の言う通り、初級ストレートに豪快な空振りを見せる。タイミングはバッチリと合っており、新太の言う通りストレートが来るとは読んでいたようだ。

「やってくれるさ。アイツを打つために練習したようなもんなんだから」

 確信を持って見守る新太。
 続く二球目。
 セットポジションから繰り出されたのは、変わらずストレート。
 宗次郎は、初級と変わらぬフルスイングで、そのボールを捉えた。


       ※


 きんっ、と甲高い音が鳴り響く。
 決して舐めたわけではない。
 しっかりと確信を持って投げ込んだそのストレートは、左中間を奇麗に真っ二つしていく。
 打球を見送りながら風雅は「マジか!」と言いながらホームのベースカバーに走っていた。

 二塁ランナーの一年生は悠々と生還。一塁ランナーも俊足で、ホームに返球されるも間一髪のところでセーフ。

「くっそ……ん?」

 返球の行方を追いながら走っていたタイムリーを打った四番、宗次郎は果敢に三塁ベースに進もうとしているが、これまでの二人とは違って足はそこまで速くない。刺せる、と直感した時にはもう「サード!」と声を上げていた。

 追いタッチとなり体が反転している海斗は、その指示の通り、ボールはサード送る。

 タイミングはぎりぎりだったが、アンパイヤが右腕を上げて「アウト!」と宣言する。

 一連の流れがひと段落すると、彩星高校のベンチが沸き、春日部共平のベンチには暗いムードが漂っていた。

「ごめん海斗さん。甘くなった」

「いや、俺も要求するやつ間違えた」

 その受け答えをしながら、二人はバックスクリーンを見る。
 はっきりと、二点が彩星高校側についていた。

「……甘く見てたかもね」

「あぁ」

 今日は春季大会。あくまで夏への調整と、監督ともコーチとも話して決めた前哨戦。極端な話、負けてもシード権が無くなるだけで、大きな問題はない。
 ただ、夏に向けて対戦するチームに〝勝ったことのある〟という意識があるかどうかで、心にゆとりができ、余裕を持って試合に臨まれる可能性がある。
 だからこそ、圧倒的に勝って苦手意識を植え付ける必要がある。そのためのストレート中心な配球だったが、思いっきり裏目に出てしまった。

「久々だね、先行されるの」

「切り替えてけ。ツーアウトランナーなしだ」

「うん。変化球も増やしてこ。俺もギア上げてくから」

「あぁ。わかってる」

 簡単な会話をしてから、風雅は再びマウンドに戻った。

 ――タフな奴だよ。

 マウンドに再び立つ風雅を見て、海斗はそう感じていた。
 打たれたのにもかかわらず、自信満々と言うスタンスは崩していない。寧ろ、楽しんでいるかのような笑顔でサインを待っている。

 ――あんな顔で待たれちゃあな。

 変化球多めに行く、とは言ったものの、ストレートを投げないとは言っていない。
 サインを出してやると、風雅はにっこりと頷いて振りかぶった。

 ビュン――と風を切り裂く音を奏でて、完璧なコースに、完璧なストレートが投げ込まれた。
 今年に入ってから一番手ごたえのあったストレートに思わず「ナイスボール!」といいながら返球をする。
 ふと、バックスクリーンの球速表示が目に入る。

 154キロ。

 自己最速を、このタイミングで更新した風雅は、どうだ、と言わんばかりの表情で彩星の五番バッター、榎下嵐を見下していた。
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