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第一部
1-59「vs春日部共平(4)」
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――……速い。
それが、一球目のストレートを見送った一星の感想だった。
――空野とはまた違うな……。
普段受けている彗との違いを確かめるため、一星はタイムを要求してバッターボックスを外し、先ほどの光景を頭の中で再生してみた。
同じ〝ストレート〟でも、二人のボールは質が異なる。
彗のストレートは、一言で例えると〝大砲〟だ。バットに当たっても、なかなか振り切れずに押し返される、重いストレート。
一方で、この風雅のストレートは、光のように目の前を過ぎていく〝レーザー〟だ。気が付いたら見逃してミットの中に収まっている、キレのあるストレート。
スピードだけで言えば、彗の方が上。事実、バックスクリーンでは〝146キロ〟と表示されている。
ただ、風雅の独特なピッチングフォームが、ストレートの威力を何倍にも引き上げていた。
――あんな投げ方、初めて見た……。
大きく右足を踏み込み、左ひざが全て地面についてしまうほど沈むようにして投げ込んでくる。低いリリースポイントから放たれる快速球は、物理的にはあり得ない〝浮き上がってくる〟ような軌道で襲い掛かってくる。
初めて遭遇するストレートに対処法を見出せないまま、一星は再びバッターボックスに入った。
風雅が、再び振りかぶる。
――当てに行くか……いや、取り合えず、セオリー通り……!
頭の中で整理しながら一星は、先ほどよりもほんの少しだけ早く右足を上げた。
相手が速いボールを投げて振れないのならば、こちらも早く動けばいいという単純な結論。野球ができたころから言われているであろうこの理論を、忠実になぞった結果。
バットに上手くボールを当てることに成功――したは良いものの、当たったのはボールの下側。
ゆらゆらとボールは上空へ打ち上げられた。
「落ちろ!」
打球はショート頭上へ。間違いなくショートフライだが、風のいたずらと言うこともある――一縷の望みにかけて一塁へ全力疾走した。
「おっ……?」
マウンドで、打ち取ったことを確信していた風雅だったが、打球の行方を追ってその表情が曇った。
ゆらゆらと舞い上がったボールは、丁度ショートとセンターの間にポトリと落ちた。
高校初打席初安打。響きこそいいが、不格好なヒット。
なんか恥ずかしいな、そんなことを考えながらベンチの方を覗いてみる。
「えっ?」
ベンチにいる選手たちは、揃いも揃って拍手をしていた。
※
「アイツ、打ちやがった!」
先ほど凡退した真司が、両手をぶんぶんと一星に振る様子が印象的だった。切り替えの早さ、チームメイトへの気配り――どれも自分に足りないところだ、と考えながら彗は塁上の一星を見た。
どうやらベンチの様子が意外だったようで、ヒットを打ったのにもかかわらず喜ぶ仕草は一切なく、ひたすらに困惑している。
「今の、よく持ってったなー」と彗が呟くと「当てに行ったんじゃなくて、振り抜いた結果だな」と新太がヘルメットを被って答えた。
「今の、偶然じゃないの?」
スコアを付けながら不思議な表情をしている凛に「とんでもない!」と大げさに否定する。
「え? 今のはたまたまいいところに落ちてくれたお陰じゃない」
「いやいや、まったく違うよ。むしろ、落ちるべくして落ちたんだよ」とバットを持ち出すと、バットを短く持って「こんな風に、速いストレートに対峙するときはバットを短く持って当てに行きがちなんだ。三振したくないから」とジェスチャーを交えながら伝え始める。
「……よくバットを短く持ってコンパクトに、ってやつ?」
「そうそれ。だけど、実際にこれをやっちゃうと、ボールに当たっても力ない打球になっちゃうんだよ。もちろん、それが必要な場面もあるけど、今は当てに行くよりも振りに行くことが大事……それを意識してか無意識かはわからないが、実行したんだ」
一息に言い切ると、再び一星を見、次いで彗を見る。
「お前ら、良いバッテリーになるな」
そんなことを話している内に、三番に座る嵐がフォアボールを選び出塁。
四番に座るキャプテンに、絶好のタイミングで回ってきた。
「ナイセン!」
新太は、ベンチから声を飛ばす彗の頭をポンポンと叩いて「俺らもうかうかしてらんねぇな」と言ってバッターボックスへ向かった。
それが、一球目のストレートを見送った一星の感想だった。
――空野とはまた違うな……。
普段受けている彗との違いを確かめるため、一星はタイムを要求してバッターボックスを外し、先ほどの光景を頭の中で再生してみた。
同じ〝ストレート〟でも、二人のボールは質が異なる。
彗のストレートは、一言で例えると〝大砲〟だ。バットに当たっても、なかなか振り切れずに押し返される、重いストレート。
一方で、この風雅のストレートは、光のように目の前を過ぎていく〝レーザー〟だ。気が付いたら見逃してミットの中に収まっている、キレのあるストレート。
スピードだけで言えば、彗の方が上。事実、バックスクリーンでは〝146キロ〟と表示されている。
ただ、風雅の独特なピッチングフォームが、ストレートの威力を何倍にも引き上げていた。
――あんな投げ方、初めて見た……。
大きく右足を踏み込み、左ひざが全て地面についてしまうほど沈むようにして投げ込んでくる。低いリリースポイントから放たれる快速球は、物理的にはあり得ない〝浮き上がってくる〟ような軌道で襲い掛かってくる。
初めて遭遇するストレートに対処法を見出せないまま、一星は再びバッターボックスに入った。
風雅が、再び振りかぶる。
――当てに行くか……いや、取り合えず、セオリー通り……!
頭の中で整理しながら一星は、先ほどよりもほんの少しだけ早く右足を上げた。
相手が速いボールを投げて振れないのならば、こちらも早く動けばいいという単純な結論。野球ができたころから言われているであろうこの理論を、忠実になぞった結果。
バットに上手くボールを当てることに成功――したは良いものの、当たったのはボールの下側。
ゆらゆらとボールは上空へ打ち上げられた。
「落ちろ!」
打球はショート頭上へ。間違いなくショートフライだが、風のいたずらと言うこともある――一縷の望みにかけて一塁へ全力疾走した。
「おっ……?」
マウンドで、打ち取ったことを確信していた風雅だったが、打球の行方を追ってその表情が曇った。
ゆらゆらと舞い上がったボールは、丁度ショートとセンターの間にポトリと落ちた。
高校初打席初安打。響きこそいいが、不格好なヒット。
なんか恥ずかしいな、そんなことを考えながらベンチの方を覗いてみる。
「えっ?」
ベンチにいる選手たちは、揃いも揃って拍手をしていた。
※
「アイツ、打ちやがった!」
先ほど凡退した真司が、両手をぶんぶんと一星に振る様子が印象的だった。切り替えの早さ、チームメイトへの気配り――どれも自分に足りないところだ、と考えながら彗は塁上の一星を見た。
どうやらベンチの様子が意外だったようで、ヒットを打ったのにもかかわらず喜ぶ仕草は一切なく、ひたすらに困惑している。
「今の、よく持ってったなー」と彗が呟くと「当てに行ったんじゃなくて、振り抜いた結果だな」と新太がヘルメットを被って答えた。
「今の、偶然じゃないの?」
スコアを付けながら不思議な表情をしている凛に「とんでもない!」と大げさに否定する。
「え? 今のはたまたまいいところに落ちてくれたお陰じゃない」
「いやいや、まったく違うよ。むしろ、落ちるべくして落ちたんだよ」とバットを持ち出すと、バットを短く持って「こんな風に、速いストレートに対峙するときはバットを短く持って当てに行きがちなんだ。三振したくないから」とジェスチャーを交えながら伝え始める。
「……よくバットを短く持ってコンパクトに、ってやつ?」
「そうそれ。だけど、実際にこれをやっちゃうと、ボールに当たっても力ない打球になっちゃうんだよ。もちろん、それが必要な場面もあるけど、今は当てに行くよりも振りに行くことが大事……それを意識してか無意識かはわからないが、実行したんだ」
一息に言い切ると、再び一星を見、次いで彗を見る。
「お前ら、良いバッテリーになるな」
そんなことを話している内に、三番に座る嵐がフォアボールを選び出塁。
四番に座るキャプテンに、絶好のタイミングで回ってきた。
「ナイセン!」
新太は、ベンチから声を飛ばす彗の頭をポンポンと叩いて「俺らもうかうかしてらんねぇな」と言ってバッターボックスへ向かった。
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