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第一部
1-58「vs春日部共平(3)」
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「監督のセオリー?」
「あぁ。ジグザグ打線さ」
そういいながら真田は今日の試合に出場しているメンバー表を彗に手渡した。見事なまでに、一番から九番まで右と左が交互に並んでいる。
「なるほど……」
控えの選手にいる左打ちの選手は二人いるが、いずれもピッチャーの先輩。今背番号を背負っている選手の中で上位打線を任せられるほどの打力がある左打ちの選手、という考えに一星が合致したことによる抜擢だろう。
一人彗が納得していると「今更何ですけど、質問いいですか?」と、凛が問いかけた。
「ん?」
「ジグザグに並べるのってどんな意味があるんですか? 私が調べたときは、あんまり意味無いって記事が出てきたんですけど……」
「はっ……まあ外から見ればそう考えるしかないだろうな」
そんな質問は想定内と言わんばかりに、凛の反応を待たないまま「これは、相手の監督へのメッセージなんだよ」と一息に言い切った。
「相手監督へのメッセージ?」
「あぁ。特に終盤になってくると効いてくるんだよ、毒みたいにさ」
そこまでいたところで、三人目のバッターがボールをきんっと打ち上げる。キャッチャーフライで、スリーアウトチェンジ。
去年夏に県大会予選優勝、秋季大会でも負けたあの春日部共平高校相手に順調なスタートを切ったナインは、意気揚々とベンチに帰ってきた。
「よっし!」
開口一番感情をあらわにする新太の頭を、宗次郎が小突いて「まだ一回が終わったばかりだ」とたしなめながら防具を外す。
「少しくらい喜んだっていいだろ、秋じゃ初回から失点したんだしよー」
口を尖らせた新太に「外野に大きいの飛ばされてますけどね」よ嵐が、次いで「良明先輩のファインプレーが無きゃ危なかったっすよねぇ」と真司が突いた。
そこまで言われると、流石に新太も意気消沈。少しだけ暗い顔をする背番号1に「ナイスピッチング!」と近寄り、スポーツドリンクを差し出す。
「お、ありがと!」と再び明るい顔で受け取ると「お前だけだよ……」と苦笑いしながらドリンクを飲み干した。
「後ろに自分が控えてるんで、飛ばしてください」
「ばかやろ、俺が最後まで投げるよ」
ともあれ、初回を三者凡退で抑えたのは大きい。このまま流れを持ってくるためには、先取点が必要になる。
さあ、勝つぞ――そんなムードが漂う彩星高校のベンチを、バァンとキャッチャーミットが立てる甲高い音が切り裂いた。
同じ左腕だからこそ、より球速が際立つ。
甲子園では150キロ超えを何度も記録した、左の本格派。変化球も、スライダーにカーブ、チェンジアップを使いこなし、持ち味のストレートを最大限活かすことのできる持ち球だ。
「ま、サクッと行きますか」
一番バッターの真司がそう呟くと、真っすぐバッターボックスへ向かう。二番に抜擢された一星も、ライトからようやく戻ってくると、話す暇なく即座にヘルメットと肘当てを付けてネクストバッターズサークルに向かった。
「慌ただしいな」と宗次郎が言うが、そのバッターボックスに向かう一星を見た凛が「けど、めちゃくちゃ笑顔だったよ」と不思議な様子で呟いた。
笑顔の理由に察しの付いていた彗は「嬉しいんすよ、多分」と言いながら、自分のグローブを手に持ち、パンッと右手をポケットに打ち付ける。
「嬉しい?」
「はい。なんせ、初スタメンで高校初打席ですからね」
先日の初戦では守備に就くだけで打席はナシだったため、次の打席が実質、高校野球初打席。やっぱり野球は試合に出てているときが一番面白い、そのことが分かっているからこその笑みだ。
――いいなー、くそっ。
自分はまだマウンドに立っただけで、試合の頭から出たわけではない。
先を越された、そんな感覚になっていた彗は、もう一度、グローブのポケットをバンッと叩いてから「よっしゃ、打ってけ!」と切り替えてベンチから声を張り上げた。
※
一番バッターの真司が、三球目のストレートを打つもライトフライ。帰り際に「チョー思いっきり振ってけ」と凡退した真司に背中を押された一星は「はいっ!」と返事を上げる。
ランナーなし、ワンアウトという状況で高校初打席を迎える一星は「お願いします!」と審判に礼をしてから、バッターボックスに入った。
マウンドに立つ、春日部共平のエース・兵頭風雅。
背こそ大きくないが、余裕たっぷりの表情で見下ろしてくるその雰囲気は、正にエースのそれだ。
「あぁ。ジグザグ打線さ」
そういいながら真田は今日の試合に出場しているメンバー表を彗に手渡した。見事なまでに、一番から九番まで右と左が交互に並んでいる。
「なるほど……」
控えの選手にいる左打ちの選手は二人いるが、いずれもピッチャーの先輩。今背番号を背負っている選手の中で上位打線を任せられるほどの打力がある左打ちの選手、という考えに一星が合致したことによる抜擢だろう。
一人彗が納得していると「今更何ですけど、質問いいですか?」と、凛が問いかけた。
「ん?」
「ジグザグに並べるのってどんな意味があるんですか? 私が調べたときは、あんまり意味無いって記事が出てきたんですけど……」
「はっ……まあ外から見ればそう考えるしかないだろうな」
そんな質問は想定内と言わんばかりに、凛の反応を待たないまま「これは、相手の監督へのメッセージなんだよ」と一息に言い切った。
「相手監督へのメッセージ?」
「あぁ。特に終盤になってくると効いてくるんだよ、毒みたいにさ」
そこまでいたところで、三人目のバッターがボールをきんっと打ち上げる。キャッチャーフライで、スリーアウトチェンジ。
去年夏に県大会予選優勝、秋季大会でも負けたあの春日部共平高校相手に順調なスタートを切ったナインは、意気揚々とベンチに帰ってきた。
「よっし!」
開口一番感情をあらわにする新太の頭を、宗次郎が小突いて「まだ一回が終わったばかりだ」とたしなめながら防具を外す。
「少しくらい喜んだっていいだろ、秋じゃ初回から失点したんだしよー」
口を尖らせた新太に「外野に大きいの飛ばされてますけどね」よ嵐が、次いで「良明先輩のファインプレーが無きゃ危なかったっすよねぇ」と真司が突いた。
そこまで言われると、流石に新太も意気消沈。少しだけ暗い顔をする背番号1に「ナイスピッチング!」と近寄り、スポーツドリンクを差し出す。
「お、ありがと!」と再び明るい顔で受け取ると「お前だけだよ……」と苦笑いしながらドリンクを飲み干した。
「後ろに自分が控えてるんで、飛ばしてください」
「ばかやろ、俺が最後まで投げるよ」
ともあれ、初回を三者凡退で抑えたのは大きい。このまま流れを持ってくるためには、先取点が必要になる。
さあ、勝つぞ――そんなムードが漂う彩星高校のベンチを、バァンとキャッチャーミットが立てる甲高い音が切り裂いた。
同じ左腕だからこそ、より球速が際立つ。
甲子園では150キロ超えを何度も記録した、左の本格派。変化球も、スライダーにカーブ、チェンジアップを使いこなし、持ち味のストレートを最大限活かすことのできる持ち球だ。
「ま、サクッと行きますか」
一番バッターの真司がそう呟くと、真っすぐバッターボックスへ向かう。二番に抜擢された一星も、ライトからようやく戻ってくると、話す暇なく即座にヘルメットと肘当てを付けてネクストバッターズサークルに向かった。
「慌ただしいな」と宗次郎が言うが、そのバッターボックスに向かう一星を見た凛が「けど、めちゃくちゃ笑顔だったよ」と不思議な様子で呟いた。
笑顔の理由に察しの付いていた彗は「嬉しいんすよ、多分」と言いながら、自分のグローブを手に持ち、パンッと右手をポケットに打ち付ける。
「嬉しい?」
「はい。なんせ、初スタメンで高校初打席ですからね」
先日の初戦では守備に就くだけで打席はナシだったため、次の打席が実質、高校野球初打席。やっぱり野球は試合に出てているときが一番面白い、そのことが分かっているからこその笑みだ。
――いいなー、くそっ。
自分はまだマウンドに立っただけで、試合の頭から出たわけではない。
先を越された、そんな感覚になっていた彗は、もう一度、グローブのポケットをバンッと叩いてから「よっしゃ、打ってけ!」と切り替えてベンチから声を張り上げた。
※
一番バッターの真司が、三球目のストレートを打つもライトフライ。帰り際に「チョー思いっきり振ってけ」と凡退した真司に背中を押された一星は「はいっ!」と返事を上げる。
ランナーなし、ワンアウトという状況で高校初打席を迎える一星は「お願いします!」と審判に礼をしてから、バッターボックスに入った。
マウンドに立つ、春日部共平のエース・兵頭風雅。
背こそ大きくないが、余裕たっぷりの表情で見下ろしてくるその雰囲気は、正にエースのそれだ。
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