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第一部
1-57「vs春日部共平(2)」
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言われた通りに、一星はもう一度空を見上げて深呼吸をしてみた。
やはり雲はない。太陽も弱め。それさえ確認すれば大丈夫、と思って見上げただけだった。
しかし、空を見上げることの本質は、先ほど良明が言ったように、落ち着くこと。深呼吸をしてから見たその空は、ただの青色だけではなく、微かな雲があったり鳥が飛んでいたりとバラエティ豊かだ。
そのことに気づけた一星は、落ち着きを取り戻したことで視野が広くなったんだ、と良明の方を見て「もう大丈夫です!」と声を張り上げた。
背中をこちらに向けたまま右手を掲げるその姿が、一星の目に格好よく見えていた。
※
「大丈夫ですかね」
ベンチで声を出していた彗は、大飛球の後空を確認する一星を見ながらそう呟く。
初スタメンで、初めての守備機会。そんな場面であわや衝突しかけたともあれば、どんな動揺が生まれてもおかしくない。
タイムを要求しようと真田が腰を上げた瞬間、ライトにいる一星が「もう大丈夫です!」とセンターの良明に声をかけたことを確認して「……大丈夫そうだな」とベンチに下がった。
その言葉通り、緊張がほぐれていることが遠目でもわかるくらいの動きを見せる一星にホッとしていると、マネージャーの中で唯一ベンチ三年のチーフマネージャー・綿引凛が「みんなリーダーシップ取るようになるなんてね」と感慨深く呟いた。
「え?」
「入学したときは、とっても誰かを引っ張っていけるような感じじゃなかったの」
「へぇ……しっかりしてそうですけどねー……」
新太にしても宗次郎にしても、気になったところを教えてくれたり、わざわざ練習に付き合ってくれたりと、短い付き合いではあるが全体を見ているなと言うイメージがあった。そんな一面があったんだ、と意外そうな表情をする彗を見て「そっか、一年生からはしっかりしてる風に見えるんだ」と嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ね、監督。去年来たときは酷かったでしょ」
そう真田に問いかけると「あぁ、そりゃあもう」というと、少し考えながら「An uncut gem does not sparkle……玉磨かざれば光なしってところだな」と英語教諭らしさを見せる。
玉磨かざれば光なし――どんなにいい素材であっても、磨かなければ輝きが出ないように、すばらしい才能をもっていても、修練を重ね、切磋琢磨しなければ優れた人物として大成しないという例えだ。
「正に原石だったよ。全く磨かれてない、鉱石まみれの真っ黒なもんだったがな。野球の実力も、心も」
「へぇ……」
感慨にふける二人に比べ、当時を知らないのに話題に付いていけるわけもなく、彗はなんとなく理解した様相を醸し出しながら「それにしても、なんで一星……武山をいきなりスタメンで使ったんですか?」と、真田に質問を投げかけた。
「あー、それな」
なんてことを話していると、二番打者の打ち返したボールが再び右中間方向へ飛んで行ったが、先ほどのような焦りはない。遠くだがはっきりと聞こえるくらいの「オーライ!」という一星の声が響き、難なくフライをキャッチした。
「簡単な話さ」
先ほど感じていた安心が確信に変わったところで、真田は「アイツが左バッターだからさ」と自信満々に語り始めた。
「左だから?」
野球のセオリーで言うと、左対左の勝負は基本的に打者が不利。そのセオリーを無視して使うからには、何か有利なデータでもあるのだろうと考えながら「あの兵動が左に弱い、とかって感じですか?」と推理を投げかけた。
「いーや、違うよ。野球のセオリーじゃなくて、俺のセオリーさ」と、自信満々に真田は答えて胸を張る。
やはり雲はない。太陽も弱め。それさえ確認すれば大丈夫、と思って見上げただけだった。
しかし、空を見上げることの本質は、先ほど良明が言ったように、落ち着くこと。深呼吸をしてから見たその空は、ただの青色だけではなく、微かな雲があったり鳥が飛んでいたりとバラエティ豊かだ。
そのことに気づけた一星は、落ち着きを取り戻したことで視野が広くなったんだ、と良明の方を見て「もう大丈夫です!」と声を張り上げた。
背中をこちらに向けたまま右手を掲げるその姿が、一星の目に格好よく見えていた。
※
「大丈夫ですかね」
ベンチで声を出していた彗は、大飛球の後空を確認する一星を見ながらそう呟く。
初スタメンで、初めての守備機会。そんな場面であわや衝突しかけたともあれば、どんな動揺が生まれてもおかしくない。
タイムを要求しようと真田が腰を上げた瞬間、ライトにいる一星が「もう大丈夫です!」とセンターの良明に声をかけたことを確認して「……大丈夫そうだな」とベンチに下がった。
その言葉通り、緊張がほぐれていることが遠目でもわかるくらいの動きを見せる一星にホッとしていると、マネージャーの中で唯一ベンチ三年のチーフマネージャー・綿引凛が「みんなリーダーシップ取るようになるなんてね」と感慨深く呟いた。
「え?」
「入学したときは、とっても誰かを引っ張っていけるような感じじゃなかったの」
「へぇ……しっかりしてそうですけどねー……」
新太にしても宗次郎にしても、気になったところを教えてくれたり、わざわざ練習に付き合ってくれたりと、短い付き合いではあるが全体を見ているなと言うイメージがあった。そんな一面があったんだ、と意外そうな表情をする彗を見て「そっか、一年生からはしっかりしてる風に見えるんだ」と嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ね、監督。去年来たときは酷かったでしょ」
そう真田に問いかけると「あぁ、そりゃあもう」というと、少し考えながら「An uncut gem does not sparkle……玉磨かざれば光なしってところだな」と英語教諭らしさを見せる。
玉磨かざれば光なし――どんなにいい素材であっても、磨かなければ輝きが出ないように、すばらしい才能をもっていても、修練を重ね、切磋琢磨しなければ優れた人物として大成しないという例えだ。
「正に原石だったよ。全く磨かれてない、鉱石まみれの真っ黒なもんだったがな。野球の実力も、心も」
「へぇ……」
感慨にふける二人に比べ、当時を知らないのに話題に付いていけるわけもなく、彗はなんとなく理解した様相を醸し出しながら「それにしても、なんで一星……武山をいきなりスタメンで使ったんですか?」と、真田に質問を投げかけた。
「あー、それな」
なんてことを話していると、二番打者の打ち返したボールが再び右中間方向へ飛んで行ったが、先ほどのような焦りはない。遠くだがはっきりと聞こえるくらいの「オーライ!」という一星の声が響き、難なくフライをキャッチした。
「簡単な話さ」
先ほど感じていた安心が確信に変わったところで、真田は「アイツが左バッターだからさ」と自信満々に語り始めた。
「左だから?」
野球のセオリーで言うと、左対左の勝負は基本的に打者が不利。そのセオリーを無視して使うからには、何か有利なデータでもあるのだろうと考えながら「あの兵動が左に弱い、とかって感じですか?」と推理を投げかけた。
「いーや、違うよ。野球のセオリーじゃなくて、俺のセオリーさ」と、自信満々に真田は答えて胸を張る。
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