彗星と遭う

皆川大輔

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第一部

1-53「オレンジジュースでもいかが?(1)」

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 彗、一星、音葉、真奈美の四人組は、先週の金曜日に行った体力テストの結果を見せ合うために中庭に集っていた。

「じゃ、行きますか」

 昼食を早々に済ませて片づけた机の上に、音葉と真奈美は体力テストの結果を書いた記録用紙をバンッとそれぞれ叩きつける。

「どれどれ」

 彗が覗き込むと、音葉の記録用紙がすぐ目に入った。ここを見て、と言わんばかりに赤丸で強調された部分に、順位が書かれている。
 校内順位は四位。一年に限れば、一位。紛うことないトップクラスだ。

 この結果を自慢したかったのだろう、音葉はどうだと言わんばかりに胸を張りながら鼻高々に「へへーん」と満面の笑みを浮かべていた。

 野球部の中には負けている部員もいるんじゃないかと思うほどの好成績に、彗とは「ほー……」と唸る。

「校内一位取れなかったのは残念だけどね」

 形だけの謙遜に皮肉を言える隙は無く「上等だ」と形だけ褒めて彗は内容を見てみると、やはり元野球少年と言うべきだろうか。ソフトボール投げでは32メートルという記録で校内一位を記録していた。その他の競技も軒並み高水準で、最高得点にないのは持久走くらいだ。

「これだけやれるんならなんかほかの部活に行ってもよかったんじゃねーか?」

 思わず口から零れた本音に音葉は「野球以外興味ないから」とムッと頬を膨らませた。

 触ったら破裂しそうで、ハリセンボンみたいだなとほくそ笑んでいると「木原さんも凄いね!」と一星が声を上げた。

「そ、そうかなぁ」

「見せて見せて!」

 話が逸れた途端に音葉は頬を萎ませて、彗と共に紙を覗き込んだ。
 先ほどの音葉に比べたら見劣りしてしまうが、学年での順位は23位。約150人いる彩星高校女子の中で上位15パーセントに位置していた。

「凄いね! やっぱりスポーツ何かやってた?」

「みんなみたいにがっつりはやってないよ。その時その時でやりたいものをかじって、長続きしなくてまた次……みたいな感じかな」

 少し苦い顔をした真奈美を他所に音葉が「じゃあ元々運動神経が良いんだ。凄いね!」と褒め、一星が「僕は野球以外はテンでダメだから羨ましいよ」と羨望の眼差しを向けていた。虚を突かれた真奈美はキョトンとしながら「大したことじゃないよ」と謙遜を見せる。首を振ってから下を向いたが、その頬が赤らんでいることは三人からは丸わかりだった。

「まー、前哨戦はここまでだ」

 ひとしきりニヤニヤし終え、彗と一星は先ほどの音葉のようにバンッと記録用紙を裏側で叩きつけた。
 二人とも睨み合いながら指にかけ、ひっくり返す準備が整うと「せーの!」という掛け声で同時にひっくり返す。
 どうだ、と互いが互いの記録用紙を手に取り、目を凝らした。

「……ん?」

 彗が目を丸くしながら、再度確認してみた。
 何度確認しても内容が変わるわけなく。
 どういうこと、と一星を見ると、同時に一星も違和感に気づいていたようで目をぱちくりとさせていた。

「……こんなことあるんだね」

「あー、絶対勝ってたと思ったのによ」

 二人が投げ捨てた用紙を、今度は音葉と真奈美が覗き込んだ。

「……こんなとこまで仲良しとは」

「……不思議なこともあるんだねぇ」

 結果、まったく同じの同ポイント。
 一年生は同率で一位。全校生徒含めての順位では、同率四位という結果だった。

「足は僕の方が速い」

「遠投じゃ俺の勝ち」

「握力は僕の方が上」

「持久走は俺の方が上だ」

 細かい項目を見ても、どれも接戦で優劣は付け難い結果。それでも何とか勝ち負けを決めようとする二人に「二人とも勝ちでいいんじゃない?」と音葉が提案するも「男には」と彗が言い、一星が「負けられない戦いがあるんだよ」と続いた。

「……漫才みたい」

 真奈美が呟いてからも、やり合いは続く。
 その結果、昼休みの半分を使って、視力の良かった一星の勝ちという結論で落ち着いた。

「なんで俺が買わなくちゃいけねーんだよ」

 ブツブツと呟きながら彗は自動販売機でオレンジジュース購入する。

「負けられない戦い、ねぇ」

「そりゃ勝ちたいワケだ」

 小さい争いに、女子組二人は呆れ返った。
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