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第一部
1-48「リベンジと答え合わせ(3)」
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サインに納得した彗は、深く頷いて投球モーションに入る。
一星は、そんな彗に向けてミットを大きく開いて向けた。心配するなという言葉にならないメッセージが届いてくれたのか、彗は上等だと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべて、大きく振りかぶった。
「お……っしゃ!」
彗が全力で投げたストレートは、要求通りにボールゾーンへ。
あの時よりも不安のないリード。その心の余裕が彗にも伝わっているのだろう。棒球ではない、死んでいない強いストレート。
左打ちである新太だが、この間の嵐と同じように足を踏み込んでボールに食らいつくようにしてバットを出した。
きんっ、と甲高い音と共にレフト方向にボールが飛んで行く。
中学生の打球とは比べ物にならないほど力強い当たりが、鋭く三塁線上を襲っていく。一星は「大丈夫」と余裕を持ってボールの行方を追った。
ボールはフェアゾーンに落ちてヒットになりそうな軌道を描いているが、左打ちの特徴として打球を流し打ちすると、カットするように当たって反時計回りの回転がかかるため左に逸れることが多い。
その経験から来る予測の通り、打球は三塁側の白線のギリギリ外側に落下した。
三塁線の審判を務めている一年生が両手を広げて〝ファール〟のジェスチャーをしている。
「危ねー……」
マウンド上の彗は不敵な笑みから苦笑いに早変わり。ただ、このファールは一星にとって予想通り……と言うより、予定通りだった。
前回は中途半端に勝負しに行ったから若干甘くなってしまったが、今回は意思疎通を前日から重ねた上でのアウトコースのボール球。本来、ヒットを打つことが難しいボールゾーンに本気の直球が来れば早々打たれるということはない。見逃すことが普通だ。
そんな球をヒットになるギリギリのところに打つ新太は、流石は真司と新太を抑えて三番に座る三年生だなと感心しながら「さて、と」と審判を務める三年生からボールを受け取る。
――ここからが答え合わせだ。
一星は口の中で呟いてから、〝新太の足元〟を見ると、しっかり踏み込んだ右足の跡が、くっきりと残っていた。
どこに来るかわからないはずのストレートに対して、真っすぐ踏み込んで力強いバッティングをしている。
とても反射で出来るような芸当ではない。
ではなぜ踏み込んで打つことができたのか。
その答えは単純明快。
端的に言えば、リードが筒抜けだったということでもある。
初めての対戦、相手は先輩。
緊張まみれのこの場面で〝まずは様子を見ようとするだろう〟という予測に基づくと、まずインコースには投げることはない。
加えて、今は公式戦前の大事な時間。
インコースは避けて、怪我のしないようにアウトコース中心にならざるを得ないという条件であるにもかかわらず、セオリー通りのコースに緩い球と速い球を交互に続けるだけの単調なリードが重なれば、打たれることは必至だ。
なら、どうすればいいのか。
答えはやはり簡単。
予測してくるのならば、予測できないようなリードをすればいいだけのことだ。
昨日思いついた理論を基に一星は、続く二球目もストレートを要求した。
二球目のボールにバットは掠り、ファールボールになり、ストライク先行の理想的な形。
三球目は、ボール球も使えるし、一球外して様子を見る――というセオリーを破り、インコースのストレートを要求する。
ピリつく空気の中、彗が投げ込んだインコースのストレートは新太から見逃し三振を奪い取った。
結果として、ボロカスに打たれた二軍との練習試合からたったの二日で、一軍相手を三者凡退に抑えるという結果と成長を、野球部に知らしめることに成功した。
一星は、そんな彗に向けてミットを大きく開いて向けた。心配するなという言葉にならないメッセージが届いてくれたのか、彗は上等だと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべて、大きく振りかぶった。
「お……っしゃ!」
彗が全力で投げたストレートは、要求通りにボールゾーンへ。
あの時よりも不安のないリード。その心の余裕が彗にも伝わっているのだろう。棒球ではない、死んでいない強いストレート。
左打ちである新太だが、この間の嵐と同じように足を踏み込んでボールに食らいつくようにしてバットを出した。
きんっ、と甲高い音と共にレフト方向にボールが飛んで行く。
中学生の打球とは比べ物にならないほど力強い当たりが、鋭く三塁線上を襲っていく。一星は「大丈夫」と余裕を持ってボールの行方を追った。
ボールはフェアゾーンに落ちてヒットになりそうな軌道を描いているが、左打ちの特徴として打球を流し打ちすると、カットするように当たって反時計回りの回転がかかるため左に逸れることが多い。
その経験から来る予測の通り、打球は三塁側の白線のギリギリ外側に落下した。
三塁線の審判を務めている一年生が両手を広げて〝ファール〟のジェスチャーをしている。
「危ねー……」
マウンド上の彗は不敵な笑みから苦笑いに早変わり。ただ、このファールは一星にとって予想通り……と言うより、予定通りだった。
前回は中途半端に勝負しに行ったから若干甘くなってしまったが、今回は意思疎通を前日から重ねた上でのアウトコースのボール球。本来、ヒットを打つことが難しいボールゾーンに本気の直球が来れば早々打たれるということはない。見逃すことが普通だ。
そんな球をヒットになるギリギリのところに打つ新太は、流石は真司と新太を抑えて三番に座る三年生だなと感心しながら「さて、と」と審判を務める三年生からボールを受け取る。
――ここからが答え合わせだ。
一星は口の中で呟いてから、〝新太の足元〟を見ると、しっかり踏み込んだ右足の跡が、くっきりと残っていた。
どこに来るかわからないはずのストレートに対して、真っすぐ踏み込んで力強いバッティングをしている。
とても反射で出来るような芸当ではない。
ではなぜ踏み込んで打つことができたのか。
その答えは単純明快。
端的に言えば、リードが筒抜けだったということでもある。
初めての対戦、相手は先輩。
緊張まみれのこの場面で〝まずは様子を見ようとするだろう〟という予測に基づくと、まずインコースには投げることはない。
加えて、今は公式戦前の大事な時間。
インコースは避けて、怪我のしないようにアウトコース中心にならざるを得ないという条件であるにもかかわらず、セオリー通りのコースに緩い球と速い球を交互に続けるだけの単調なリードが重なれば、打たれることは必至だ。
なら、どうすればいいのか。
答えはやはり簡単。
予測してくるのならば、予測できないようなリードをすればいいだけのことだ。
昨日思いついた理論を基に一星は、続く二球目もストレートを要求した。
二球目のボールにバットは掠り、ファールボールになり、ストライク先行の理想的な形。
三球目は、ボール球も使えるし、一球外して様子を見る――というセオリーを破り、インコースのストレートを要求する。
ピリつく空気の中、彗が投げ込んだインコースのストレートは新太から見逃し三振を奪い取った。
結果として、ボロカスに打たれた二軍との練習試合からたったの二日で、一軍相手を三者凡退に抑えるという結果と成長を、野球部に知らしめることに成功した。
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