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第一部
1-25「怪物との遭遇(1)」
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勉強は嫌いじゃない。
もちろん、意味の分からない暗記や、わけのわからない方程式を覚えるのは嫌いだ。ただ、勉強には必ず問題があって、その答えがある。もし仮に間違っても、それを糧にして次の機会に生かせばいい。
究極なことを言えば、答えという明確なゴールが存在しているのが、勉強だ。
――勉強みたいに答えがあったらなぁ。
数学の授業中、坂上雄介は、板書された因数分解の問題を解き終えると「どうすっかね」と呟いた。
数学の問題を解いたことで、雄介が今抱えている問題は〝怪物の事情を探れ〟という三年の先輩から直々に下った指令一つだけ。
別に強豪でもないし、野球部に入ったところで当たり障りのない高校生活を送れると思っていた矢先に押し付けられた面倒ごと。一学年八クラスあるのにもかかわらず同じクラスに配属された運命を呪っていると、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「あ、もう時間か」
問題を出してからずっと読書に耽っていた先生は、慌てて問題の答えと解を書き記し「じゃ、わからないところあったら質問に来るように」と言い残して教室を後にした。殴り書きされた答えと解き方をノートに書き留めると、雄介は視線を少しだけ上げてみると、丁度教卓の前に座る彗が視界に映る。
何度も頭をかきむしりながら、あーでもないこーでもないと問題に四苦八苦している姿がどこか殺気立っており、いつもある人だかりが今日はない。
タイミングは今しかない、と雄介は彗の元へ近づいた。
「どうしたん?」
名前が同じだけで別人だと思って接してきた友人だが、怪物だと認識して話しかけるとどこか照れくさく、視線は顔を見ずにノートへ固定して話しかけた。
「あー坂上か。いやさ、さっきの問題がしっくり来なくてよ……」
ノートには何度も文字を消した跡と、途中から面倒くさくなったのか間違った式の上からぐるぐるとストレスを吐き出した痕跡がある。
「数学苦手なんだ」
記事やニュースで取り上げられていたイメージの中の〝怪物〟とはまた違う一面。人間っぽさを感じながら「ここが間違ってるぜ」と今解いている式を指差した。
「んー、なんで?」
「ほら、ここ……たすき掛けしてないからダメなんだよ」
「……あーなるほど!」
「一応ここ、中学の範囲だぜ?」
「受験の時数学は捨ててたんだよ」
「よくそれで受かったな」
「英語は並、その他の文系科目はほぼ完璧だったからな」
「マジか! そりゃすげぇわ」
わざとらしくオーバーに伝えると、彗は気分が乗ってきたのか「国語とか社会はさ、物語があるからわかりやすいんだよ」と浮つく。
「逆に俺そっちの方ダメだぜ。ホントすげぇよ」
「へー」といたずらな笑顔を浮かべる彗。顎をこすりながら「じゃあさ、一つ提案なんだけど」と雄介の方に居直る。
「な。なに?」
「今日の放課後とか時間あったらさ、勉強教えてくれよ」
※
つい先週までは彗と一星を野球部に引き入れるという目的の元、奔走していた。それに比べれば、今日という日はたまらなく穏やかだった。
それも、金曜日にマネージャーとして入部するまでの期間限定な安寧を謳歌するため、音葉と真奈美はお決まりの中庭でジュースを飲んでいた。
「平和だねぇ」
真奈美が呟く。確かにね、と音葉も同調しながらオレンジジュースに舌鼓を打った。
もちろん、意味の分からない暗記や、わけのわからない方程式を覚えるのは嫌いだ。ただ、勉強には必ず問題があって、その答えがある。もし仮に間違っても、それを糧にして次の機会に生かせばいい。
究極なことを言えば、答えという明確なゴールが存在しているのが、勉強だ。
――勉強みたいに答えがあったらなぁ。
数学の授業中、坂上雄介は、板書された因数分解の問題を解き終えると「どうすっかね」と呟いた。
数学の問題を解いたことで、雄介が今抱えている問題は〝怪物の事情を探れ〟という三年の先輩から直々に下った指令一つだけ。
別に強豪でもないし、野球部に入ったところで当たり障りのない高校生活を送れると思っていた矢先に押し付けられた面倒ごと。一学年八クラスあるのにもかかわらず同じクラスに配属された運命を呪っていると、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「あ、もう時間か」
問題を出してからずっと読書に耽っていた先生は、慌てて問題の答えと解を書き記し「じゃ、わからないところあったら質問に来るように」と言い残して教室を後にした。殴り書きされた答えと解き方をノートに書き留めると、雄介は視線を少しだけ上げてみると、丁度教卓の前に座る彗が視界に映る。
何度も頭をかきむしりながら、あーでもないこーでもないと問題に四苦八苦している姿がどこか殺気立っており、いつもある人だかりが今日はない。
タイミングは今しかない、と雄介は彗の元へ近づいた。
「どうしたん?」
名前が同じだけで別人だと思って接してきた友人だが、怪物だと認識して話しかけるとどこか照れくさく、視線は顔を見ずにノートへ固定して話しかけた。
「あー坂上か。いやさ、さっきの問題がしっくり来なくてよ……」
ノートには何度も文字を消した跡と、途中から面倒くさくなったのか間違った式の上からぐるぐるとストレスを吐き出した痕跡がある。
「数学苦手なんだ」
記事やニュースで取り上げられていたイメージの中の〝怪物〟とはまた違う一面。人間っぽさを感じながら「ここが間違ってるぜ」と今解いている式を指差した。
「んー、なんで?」
「ほら、ここ……たすき掛けしてないからダメなんだよ」
「……あーなるほど!」
「一応ここ、中学の範囲だぜ?」
「受験の時数学は捨ててたんだよ」
「よくそれで受かったな」
「英語は並、その他の文系科目はほぼ完璧だったからな」
「マジか! そりゃすげぇわ」
わざとらしくオーバーに伝えると、彗は気分が乗ってきたのか「国語とか社会はさ、物語があるからわかりやすいんだよ」と浮つく。
「逆に俺そっちの方ダメだぜ。ホントすげぇよ」
「へー」といたずらな笑顔を浮かべる彗。顎をこすりながら「じゃあさ、一つ提案なんだけど」と雄介の方に居直る。
「な。なに?」
「今日の放課後とか時間あったらさ、勉強教えてくれよ」
※
つい先週までは彗と一星を野球部に引き入れるという目的の元、奔走していた。それに比べれば、今日という日はたまらなく穏やかだった。
それも、金曜日にマネージャーとして入部するまでの期間限定な安寧を謳歌するため、音葉と真奈美はお決まりの中庭でジュースを飲んでいた。
「平和だねぇ」
真奈美が呟く。確かにね、と音葉も同調しながらオレンジジュースに舌鼓を打った。
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