26 / 179
第一部
1-21「限りなく運命に近い偶然(3)」
しおりを挟む
「ま、今更高望みしてもしょうがないっすよ。強豪私立なら話は別っすけど、去年の夏は初戦敗退で――」とまで言い切ると、真司は水を一口だけ含んでから、オブラートに包まず「監督が変わったばっかっておまけ付きの弱小なのに」と付け加えた。
「お前みたいな掘り出し物がいるかもしれないだろう?」
「……出現率一パーセント以下ののレアガチャに期待してるようじゃ、ホント甲子園なんて夢のまた夢っすよ」
「ガチャってお前なぁ」と新太が呆れるも「ガチャじゃないっすか。スカウトとか無いんだし」と真司は被せ気味に凄み、続ける。
「しかも、当たったとしても難ありの外れガチャっすけどね。俺みたいに」
「……その話は良いだろう。さ、練習の準備だ」
真司の事情を知るのは監督と宗次郎、それに副主将の新太だけ。もしほかの部員に知られるようなことがあれば、来週の春季大会に何かしらの影響があるかもしれないな、と宗次郎は「もう少し考えて話すようにな」と真司に釘を刺す。
「うーい」
生返事の真司に一抹の不安を覚えながら、宗次郎と新太は部室を後にした。
※
放課後、音葉は「なんで私が……」と再び愚痴を零していた。
彼女が制服のまま来ているのは、学校から少し離れたスーパー。夕方、特売に合わせて来た主婦の波と戦い、も王彼女の戦意はゼロ。比較的人の少ないお菓子コーナーで休憩していると「……はー、ここにいたのか」と、生け花のように芸術的な詰め方をした野菜たちを抱えた彗が声をかけた。
「少しくらい休憩させてよ……」
事の始まりは、本日放課後の一幕。いつもいの一番に教室を出て帰宅する彗だが、今日はなぜか席に着いたまま、何かと睨めっこしていた。
何を見ているのかな、と興味本位で覗いてみると、見ていたのはスーパーの特売チラシ。何枚も値段を確認しながらあーでもないこーでもないと小言を呟いていた彗に〝どうしたの?〟と声をかけたのが運の尽き。
ちょうどいいや、と腕を引っ張られ連れてこられたのが、激安で有名なスペシャル・トグチというスーパーだった。
入店するや否や列に並ばされ、お一人様一個までの卵を購入したかと思えば、次はこっちと今度は牛乳を購入。次は――と参列を繰り返した結果、音葉の買い物かごには特売品のみの食材たちでいっぱいになっていた。
彗は音葉の買い物かごを見ると満足気に「いやー助かったわ」と満面の笑みを浮かべながらレジの方へ向かう。
「ちょ、待ってよ!」
「元マネージャーなら慣れたもんだろ?」
「だとしても女子に持たせていい重量じゃないと思うけどなぁ」
「周りの主婦さんも一応女子だぜ?」
その彗の一言で「あ」と思わず声を漏らした音葉は、周囲を恐る恐る見渡した。
言い様のない鋭い視線が向けられている。
「それによ、レジまでこれ崩しちゃ三百円じゃ収まんなくなるからさ……頼むわ、レジまでだけでいいからさ」
周りの視線を浴びながら断ることもできず「……はーい」と力弱い返事をした音葉は、なんとかレジまでたどり着いた。案の定、腰が痛い。
「……っと」
彗も崩さずに運ぶというミッションを達成し、ホッとしたのだろう。誇らしげな表情で「よっしゃ」と小さなガッツポーズをしていた。
「……いつもここで買ってるの?」
「ああ、一番安いからな。たださー、どうしてもお一人様のやつ買ってるといい野菜が無くなっちまうんだよ。だから、総合的に安くなる方か、いつものスーパーかって悩んでたんだ」
――……主婦だ。
音葉は彗に半ば尊敬のまなざしを送っていると、「いつもありがとうね」とレジのお兄さんが彗に話しかけた。
「お前みたいな掘り出し物がいるかもしれないだろう?」
「……出現率一パーセント以下ののレアガチャに期待してるようじゃ、ホント甲子園なんて夢のまた夢っすよ」
「ガチャってお前なぁ」と新太が呆れるも「ガチャじゃないっすか。スカウトとか無いんだし」と真司は被せ気味に凄み、続ける。
「しかも、当たったとしても難ありの外れガチャっすけどね。俺みたいに」
「……その話は良いだろう。さ、練習の準備だ」
真司の事情を知るのは監督と宗次郎、それに副主将の新太だけ。もしほかの部員に知られるようなことがあれば、来週の春季大会に何かしらの影響があるかもしれないな、と宗次郎は「もう少し考えて話すようにな」と真司に釘を刺す。
「うーい」
生返事の真司に一抹の不安を覚えながら、宗次郎と新太は部室を後にした。
※
放課後、音葉は「なんで私が……」と再び愚痴を零していた。
彼女が制服のまま来ているのは、学校から少し離れたスーパー。夕方、特売に合わせて来た主婦の波と戦い、も王彼女の戦意はゼロ。比較的人の少ないお菓子コーナーで休憩していると「……はー、ここにいたのか」と、生け花のように芸術的な詰め方をした野菜たちを抱えた彗が声をかけた。
「少しくらい休憩させてよ……」
事の始まりは、本日放課後の一幕。いつもいの一番に教室を出て帰宅する彗だが、今日はなぜか席に着いたまま、何かと睨めっこしていた。
何を見ているのかな、と興味本位で覗いてみると、見ていたのはスーパーの特売チラシ。何枚も値段を確認しながらあーでもないこーでもないと小言を呟いていた彗に〝どうしたの?〟と声をかけたのが運の尽き。
ちょうどいいや、と腕を引っ張られ連れてこられたのが、激安で有名なスペシャル・トグチというスーパーだった。
入店するや否や列に並ばされ、お一人様一個までの卵を購入したかと思えば、次はこっちと今度は牛乳を購入。次は――と参列を繰り返した結果、音葉の買い物かごには特売品のみの食材たちでいっぱいになっていた。
彗は音葉の買い物かごを見ると満足気に「いやー助かったわ」と満面の笑みを浮かべながらレジの方へ向かう。
「ちょ、待ってよ!」
「元マネージャーなら慣れたもんだろ?」
「だとしても女子に持たせていい重量じゃないと思うけどなぁ」
「周りの主婦さんも一応女子だぜ?」
その彗の一言で「あ」と思わず声を漏らした音葉は、周囲を恐る恐る見渡した。
言い様のない鋭い視線が向けられている。
「それによ、レジまでこれ崩しちゃ三百円じゃ収まんなくなるからさ……頼むわ、レジまでだけでいいからさ」
周りの視線を浴びながら断ることもできず「……はーい」と力弱い返事をした音葉は、なんとかレジまでたどり着いた。案の定、腰が痛い。
「……っと」
彗も崩さずに運ぶというミッションを達成し、ホッとしたのだろう。誇らしげな表情で「よっしゃ」と小さなガッツポーズをしていた。
「……いつもここで買ってるの?」
「ああ、一番安いからな。たださー、どうしてもお一人様のやつ買ってるといい野菜が無くなっちまうんだよ。だから、総合的に安くなる方か、いつものスーパーかって悩んでたんだ」
――……主婦だ。
音葉は彗に半ば尊敬のまなざしを送っていると、「いつもありがとうね」とレジのお兄さんが彗に話しかけた。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる