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第一部
1-21「限りなく運命に近い偶然(3)」
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「ま、今更高望みしてもしょうがないっすよ。強豪私立なら話は別っすけど、去年の夏は初戦敗退で――」とまで言い切ると、真司は水を一口だけ含んでから、オブラートに包まず「監督が変わったばっかっておまけ付きの弱小なのに」と付け加えた。
「お前みたいな掘り出し物がいるかもしれないだろう?」
「……出現率一パーセント以下ののレアガチャに期待してるようじゃ、ホント甲子園なんて夢のまた夢っすよ」
「ガチャってお前なぁ」と新太が呆れるも「ガチャじゃないっすか。スカウトとか無いんだし」と真司は被せ気味に凄み、続ける。
「しかも、当たったとしても難ありの外れガチャっすけどね。俺みたいに」
「……その話は良いだろう。さ、練習の準備だ」
真司の事情を知るのは監督と宗次郎、それに副主将の新太だけ。もしほかの部員に知られるようなことがあれば、来週の春季大会に何かしらの影響があるかもしれないな、と宗次郎は「もう少し考えて話すようにな」と真司に釘を刺す。
「うーい」
生返事の真司に一抹の不安を覚えながら、宗次郎と新太は部室を後にした。
※
放課後、音葉は「なんで私が……」と再び愚痴を零していた。
彼女が制服のまま来ているのは、学校から少し離れたスーパー。夕方、特売に合わせて来た主婦の波と戦い、も王彼女の戦意はゼロ。比較的人の少ないお菓子コーナーで休憩していると「……はー、ここにいたのか」と、生け花のように芸術的な詰め方をした野菜たちを抱えた彗が声をかけた。
「少しくらい休憩させてよ……」
事の始まりは、本日放課後の一幕。いつもいの一番に教室を出て帰宅する彗だが、今日はなぜか席に着いたまま、何かと睨めっこしていた。
何を見ているのかな、と興味本位で覗いてみると、見ていたのはスーパーの特売チラシ。何枚も値段を確認しながらあーでもないこーでもないと小言を呟いていた彗に〝どうしたの?〟と声をかけたのが運の尽き。
ちょうどいいや、と腕を引っ張られ連れてこられたのが、激安で有名なスペシャル・トグチというスーパーだった。
入店するや否や列に並ばされ、お一人様一個までの卵を購入したかと思えば、次はこっちと今度は牛乳を購入。次は――と参列を繰り返した結果、音葉の買い物かごには特売品のみの食材たちでいっぱいになっていた。
彗は音葉の買い物かごを見ると満足気に「いやー助かったわ」と満面の笑みを浮かべながらレジの方へ向かう。
「ちょ、待ってよ!」
「元マネージャーなら慣れたもんだろ?」
「だとしても女子に持たせていい重量じゃないと思うけどなぁ」
「周りの主婦さんも一応女子だぜ?」
その彗の一言で「あ」と思わず声を漏らした音葉は、周囲を恐る恐る見渡した。
言い様のない鋭い視線が向けられている。
「それによ、レジまでこれ崩しちゃ三百円じゃ収まんなくなるからさ……頼むわ、レジまでだけでいいからさ」
周りの視線を浴びながら断ることもできず「……はーい」と力弱い返事をした音葉は、なんとかレジまでたどり着いた。案の定、腰が痛い。
「……っと」
彗も崩さずに運ぶというミッションを達成し、ホッとしたのだろう。誇らしげな表情で「よっしゃ」と小さなガッツポーズをしていた。
「……いつもここで買ってるの?」
「ああ、一番安いからな。たださー、どうしてもお一人様のやつ買ってるといい野菜が無くなっちまうんだよ。だから、総合的に安くなる方か、いつものスーパーかって悩んでたんだ」
――……主婦だ。
音葉は彗に半ば尊敬のまなざしを送っていると、「いつもありがとうね」とレジのお兄さんが彗に話しかけた。
「お前みたいな掘り出し物がいるかもしれないだろう?」
「……出現率一パーセント以下ののレアガチャに期待してるようじゃ、ホント甲子園なんて夢のまた夢っすよ」
「ガチャってお前なぁ」と新太が呆れるも「ガチャじゃないっすか。スカウトとか無いんだし」と真司は被せ気味に凄み、続ける。
「しかも、当たったとしても難ありの外れガチャっすけどね。俺みたいに」
「……その話は良いだろう。さ、練習の準備だ」
真司の事情を知るのは監督と宗次郎、それに副主将の新太だけ。もしほかの部員に知られるようなことがあれば、来週の春季大会に何かしらの影響があるかもしれないな、と宗次郎は「もう少し考えて話すようにな」と真司に釘を刺す。
「うーい」
生返事の真司に一抹の不安を覚えながら、宗次郎と新太は部室を後にした。
※
放課後、音葉は「なんで私が……」と再び愚痴を零していた。
彼女が制服のまま来ているのは、学校から少し離れたスーパー。夕方、特売に合わせて来た主婦の波と戦い、も王彼女の戦意はゼロ。比較的人の少ないお菓子コーナーで休憩していると「……はー、ここにいたのか」と、生け花のように芸術的な詰め方をした野菜たちを抱えた彗が声をかけた。
「少しくらい休憩させてよ……」
事の始まりは、本日放課後の一幕。いつもいの一番に教室を出て帰宅する彗だが、今日はなぜか席に着いたまま、何かと睨めっこしていた。
何を見ているのかな、と興味本位で覗いてみると、見ていたのはスーパーの特売チラシ。何枚も値段を確認しながらあーでもないこーでもないと小言を呟いていた彗に〝どうしたの?〟と声をかけたのが運の尽き。
ちょうどいいや、と腕を引っ張られ連れてこられたのが、激安で有名なスペシャル・トグチというスーパーだった。
入店するや否や列に並ばされ、お一人様一個までの卵を購入したかと思えば、次はこっちと今度は牛乳を購入。次は――と参列を繰り返した結果、音葉の買い物かごには特売品のみの食材たちでいっぱいになっていた。
彗は音葉の買い物かごを見ると満足気に「いやー助かったわ」と満面の笑みを浮かべながらレジの方へ向かう。
「ちょ、待ってよ!」
「元マネージャーなら慣れたもんだろ?」
「だとしても女子に持たせていい重量じゃないと思うけどなぁ」
「周りの主婦さんも一応女子だぜ?」
その彗の一言で「あ」と思わず声を漏らした音葉は、周囲を恐る恐る見渡した。
言い様のない鋭い視線が向けられている。
「それによ、レジまでこれ崩しちゃ三百円じゃ収まんなくなるからさ……頼むわ、レジまでだけでいいからさ」
周りの視線を浴びながら断ることもできず「……はーい」と力弱い返事をした音葉は、なんとかレジまでたどり着いた。案の定、腰が痛い。
「……っと」
彗も崩さずに運ぶというミッションを達成し、ホッとしたのだろう。誇らしげな表情で「よっしゃ」と小さなガッツポーズをしていた。
「……いつもここで買ってるの?」
「ああ、一番安いからな。たださー、どうしてもお一人様のやつ買ってるといい野菜が無くなっちまうんだよ。だから、総合的に安くなる方か、いつものスーパーかって悩んでたんだ」
――……主婦だ。
音葉は彗に半ば尊敬のまなざしを送っていると、「いつもありがとうね」とレジのお兄さんが彗に話しかけた。
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