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第一部
1-19「限りなく運命に近い偶然(1)」
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「おはよ」
音葉は、すでに早朝トレーニングを終えた彗と一星に話しかけた。
「今日も来たのか」
「悪かった?」
「いや、物好きだなと思ってな」と、汗を拭きながら横目で見る。音葉は、いたずらをした子供のようにニタニタしながら自転車を停めていた。
「あ、おはよう」
「おはよ、武山くん。無事見つかったみたいで良かった」
二人の会話についていけず「どゆこと?」と疑問符を浮かべた彗に、音葉は「昨日の夜に武山くんからメッセージが来てさ」とメッセージ画面を見せる。
「あー……なるほどね」
その画面を見て、彗はすべての出来事に合点がいった。
場所はおろか、朝練をやっていることすら知っているのは彗の母と音葉と早朝の散歩コースにこの場所を選んでいる老人だけ。昨日今日初めて話した、友人と呼ぶことすら憚れる他人にそんな会話するわけがない。
そんな一星が、朝練の場所と時間を知っていたのは、至極単純。ただ、音葉からあらかじめ聞いていただけだ。
内容に目を凝らしていると、夜中の二時に最初のメッセージが送られていたことに気づいて「……もっと送る時間考えろよ」と彗は苦言を呈した。
「いやさ、昨日なんか気まずい感じで終わっちゃったからさ……どうやって話すか悩んじゃって」と頭をかきながら「ごめんね、海瀬さん」と頭を下げる。
「気にすることないよ」と、音葉は携帯を操作し、「空野くんも似たようなもんだったし」と彗に別の画面を見せつけた。
そこには、二日前、早朝トレーニングに誘った時のメッセージ画面が映し出されている。
「俺は一時だ。一緒にするなって」
「十二時に寝る私からしたらどっちも同じだよ」
口を尖らせる音葉を尻目に彗は「で、明日からどうする?」と一星に問いかけた。
「明日からって?」
「野球部の練習に参加するか、朝練するかってこと」
「あ、そういうことね」
「ブランクもなげーだろ?」
「去年の夏休み以来触ってなかったから、えっと……」
制服に着替え終えた一星は、指を折って空白の時間を数え「七か月くらいか」と呟いた。
「俺も似たようなもんでさ、どうせ入部するんなら完璧な状態で入りてーから、仮入部期間だけここで練習する予定なんだよ」
「なるほどね。じゃ、答えは一つだ」と、一星はキャッチャーミットの手入れをしながら「君の球を受けてる方がよっぽど練習になる」と笑った。
「……ずいぶんと前向きだね」と、耐えかねた音葉が苦笑いを浮かべる。
「……同感だ」
昨日の練習同様、まだすこし学校には早いが、歩いて行ったらちょうどいいくらいの時間。三人は自転車に乗らずに歩きながら、学校へ向かった。
※
「な、真司よ」
鉄仮面のように冷たい表情をした大柄の坊主の本橋宗次郎が、音楽を鳴らし鼻歌を歌う、茶髪でウェーブをかけた細身の田名部真司に話しかけた。
まだ、他の部員は来ていない。二人だけの空間だから聞けることだな、と思いながら「今年の一年、どう思う?」と続ける。
真司はお茶らけた様子で着替えを終えると「あーダメですね。全然ダメ」と両手を大げさに振ってバッテンを作った。
「挨拶の声も小さいし、指示されるまで動かないし……ま、その分しごき甲斐はありそうですけどね」
ジェスチャーの大きさやその風貌から、一見するとどこかふざけているように見えるが、一年の付き合いで人を見抜く目だけは信頼している後輩に「姿勢の話じゃない。実力の話だ」と宗次郎は凄んだ。
「あー……そっちも微妙ですね」と、真司はすでに入部届を出して練習に参加しているメンバーをまとめたメモ帳を宗次郎に見せる。
名前の横に出身高校と、ABCでランク付けがされている。
現状、入部予定者は二十四名。内、Bが三人、その他はCだ。
「お前、いつの間に……」
「ま、ショートレギュラーの観察眼ってやつですよ」
音葉は、すでに早朝トレーニングを終えた彗と一星に話しかけた。
「今日も来たのか」
「悪かった?」
「いや、物好きだなと思ってな」と、汗を拭きながら横目で見る。音葉は、いたずらをした子供のようにニタニタしながら自転車を停めていた。
「あ、おはよう」
「おはよ、武山くん。無事見つかったみたいで良かった」
二人の会話についていけず「どゆこと?」と疑問符を浮かべた彗に、音葉は「昨日の夜に武山くんからメッセージが来てさ」とメッセージ画面を見せる。
「あー……なるほどね」
その画面を見て、彗はすべての出来事に合点がいった。
場所はおろか、朝練をやっていることすら知っているのは彗の母と音葉と早朝の散歩コースにこの場所を選んでいる老人だけ。昨日今日初めて話した、友人と呼ぶことすら憚れる他人にそんな会話するわけがない。
そんな一星が、朝練の場所と時間を知っていたのは、至極単純。ただ、音葉からあらかじめ聞いていただけだ。
内容に目を凝らしていると、夜中の二時に最初のメッセージが送られていたことに気づいて「……もっと送る時間考えろよ」と彗は苦言を呈した。
「いやさ、昨日なんか気まずい感じで終わっちゃったからさ……どうやって話すか悩んじゃって」と頭をかきながら「ごめんね、海瀬さん」と頭を下げる。
「気にすることないよ」と、音葉は携帯を操作し、「空野くんも似たようなもんだったし」と彗に別の画面を見せつけた。
そこには、二日前、早朝トレーニングに誘った時のメッセージ画面が映し出されている。
「俺は一時だ。一緒にするなって」
「十二時に寝る私からしたらどっちも同じだよ」
口を尖らせる音葉を尻目に彗は「で、明日からどうする?」と一星に問いかけた。
「明日からって?」
「野球部の練習に参加するか、朝練するかってこと」
「あ、そういうことね」
「ブランクもなげーだろ?」
「去年の夏休み以来触ってなかったから、えっと……」
制服に着替え終えた一星は、指を折って空白の時間を数え「七か月くらいか」と呟いた。
「俺も似たようなもんでさ、どうせ入部するんなら完璧な状態で入りてーから、仮入部期間だけここで練習する予定なんだよ」
「なるほどね。じゃ、答えは一つだ」と、一星はキャッチャーミットの手入れをしながら「君の球を受けてる方がよっぽど練習になる」と笑った。
「……ずいぶんと前向きだね」と、耐えかねた音葉が苦笑いを浮かべる。
「……同感だ」
昨日の練習同様、まだすこし学校には早いが、歩いて行ったらちょうどいいくらいの時間。三人は自転車に乗らずに歩きながら、学校へ向かった。
※
「な、真司よ」
鉄仮面のように冷たい表情をした大柄の坊主の本橋宗次郎が、音楽を鳴らし鼻歌を歌う、茶髪でウェーブをかけた細身の田名部真司に話しかけた。
まだ、他の部員は来ていない。二人だけの空間だから聞けることだな、と思いながら「今年の一年、どう思う?」と続ける。
真司はお茶らけた様子で着替えを終えると「あーダメですね。全然ダメ」と両手を大げさに振ってバッテンを作った。
「挨拶の声も小さいし、指示されるまで動かないし……ま、その分しごき甲斐はありそうですけどね」
ジェスチャーの大きさやその風貌から、一見するとどこかふざけているように見えるが、一年の付き合いで人を見抜く目だけは信頼している後輩に「姿勢の話じゃない。実力の話だ」と宗次郎は凄んだ。
「あー……そっちも微妙ですね」と、真司はすでに入部届を出して練習に参加しているメンバーをまとめたメモ帳を宗次郎に見せる。
名前の横に出身高校と、ABCでランク付けがされている。
現状、入部予定者は二十四名。内、Bが三人、その他はCだ。
「お前、いつの間に……」
「ま、ショートレギュラーの観察眼ってやつですよ」
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